第 5 章 転炉スラグを用いた土壌 pH 改良による被
第 2 節 隔離床試験による発病抑制効果の確認
転炉スラグを用いた土壌 pH改良によるキュウリホモ プシス根腐病に対する発病抑制効果の確認試験を実施し た.ここでは,ポット試験よりも長期間の観察が可能な,
ガラス温室内における隔離床試験により,本病発病抑制 効果およびキュウリ生育に与える影響を検討することと した.
材料および方法
試験は,岩手県農業研究センターのガラス温室で実施 した.大きさ1.4 m×1 m×0.25 m,容量約250 Lの隔離床 4 つにそれぞれキュウリホモプシス根腐病汚染土壌を
220 L充填した.汚染土壌は,本病が自然発病する岩手 県農業研究センター内キュウリ圃場より採取したものを 用いた.供試土壌の土壌分類は,腐植質普通非アロフェ ン質黒ボク土である.転炉スラグは処理量を隔離床 220 Lあたり,それぞれ7 kg,14 kg,28 kgと無処理の4段 階に設定し,よく混和した.転炉スラグ処理の 14 日後 に3.5葉期まで育苗した接ぎ木キュウリ苗を移植した.
供試キュウリ品種は‘夏ばやし’とし,台木は慣行の‘パワ ーZ2’または本病抵抗性の強い(第4章第1節)‘黒ダネ 南瓜’とした.試験は 4 段階の転炉スラグ処理量,2 種 類の供試台木の組み合わせにより1区4株反復無しとし て8処理区を設けた(表38).
土壌 pH の測定は,転炉スラグ処理14 日後に各隔離 床の対角線上5カ所から地表面下0~10 cm層位で各約 30 gずつ採取して実施した.採種土壌をよく混和した後,
5 mm目合いの篩にかけ,100 gを秤量してから,250 ml の脱イオン水と混合し,140 rpm で 10 分振盪したのち にpHメータで測定した.土壌中のMgO含量,CaO含 量は常法により分析した 26).また,移植1日後から 52 日後まで随時各試験区の萎凋株の発生状況を調査し,本 葉 4 枚以上が萎凋した株を萎凋株と判定した.移植 31 日後に各区全株について最大葉身長,最大葉身幅を測定 し,平均値を算出した.移植 54 日後には各区全株の主 茎長を測定し,平均値を算出した.地際部より上部の茎
葉は,60℃で 72 時間通風乾燥後,地上部乾物重を測定 し,平均値を算出した.各試験区の根部は丁寧に抜根し,
洗浄後,根部発病状況について第4章第2節と同様に平 均発病指数を算出した.
最大葉身長,最大葉身幅,主茎長,地上部乾物重につ
いてはTukey-KramerのHSD検定を,根部発病指数の多
重比較検定については,Kruskal-Wallis検定の後に
Steel-Dwass法を用い統計処理を行った.
結 果
隔離床に転炉スラグを土壌 220 Lあたり, 7 kg,14
kg,28 kg処理し,14日後の各区の土壌pHは,転炉ス
ラグ7 kg処理区ではpH7.2,同14 kg区ではpH7.7,同
28 kg では pH8.1 であり,無処理区は pH5.8 であった
(表38).
本試験で供試した土壌中の MgO 含量は無処理区
(pH5.3)で 36 mg/100 g,pH7.2 区で 38 mg/100 g, pH7.7区で41 mg/100 g,pH8.1区で35 mg/100 gとほぼ 同等であった.一方で,CaO 含量は無処理区(pH5.3) で329 mg/100 g,pH7.2区で860 mg/100 g,pH7.7区で 1,116 mg/100 g,pH8.1区で1,475 mg/100 gと転炉スラグ 処理量が多い区ほど高かった.
隔離床試験におけるホモプシス根腐病の発生推移を図 60,表 38 に示した.‘パワーZ2’台木区および ‘黒ダネ 南瓜’台木区のいずれも転炉スラグの処理量が多く土壌 pH が高い区ほど萎凋症状の発生が少なかった.また,
転炉スラグの処理量が少なく土壌pH が低い区ほど萎凋 症状の発生確認時期が早かった(図 60). ‘パワーZ2’
台木区では,土壌pH8.1の場合に最終調査の移植52 日 後まで萎凋株の発生が見られなかった.また, ‘黒ダネ 南瓜’台木区では,土壌 pH7.7および pH8.1 の両区にお いて萎凋株の発生が見られなかった(図 60,図 61,表 38).
しかし,移植 31 日後に土壌 pH8.1-‘パワーZ2’台木区 において生理障害の発生が確認され,症状は,葉全体の 小型化(表38),葉脈間の退緑(図63)であった.
移植 52 日後に根部を調査したところ,根部の発病は いずれの試験区も同等であったが,根量は土壌pHが高 い区ほど多かった(表38,図62).地上部生育について も同様に土壌pHが高い区ほど,主茎長,地上部乾物重 ともに大きかった(表 38).この傾向は ‘パワーZ2’台 木区および, ‘黒ダネ南瓜’台木区いずれも同様で特に 差はなかった(表38).
考 察
キュウリホモプシス根腐病に完全抵抗性を示す台木品 種はこれまで報告されていないが 66),クロダネカボチ ャは一定の抵抗性を示すとされる11;13;第4章第1節).そこ で,本病抵抗性の強い台木‘黒ダネ南瓜’と慣行台木‘パワ ーZ2’を接ぎ木したキュウリを用い,転炉スラグを用い た土壌pH 改良による本病発病抑制効果について隔離床 試験により検討した.その結果,両品種とも転炉スラグ の処理量が多く土壌pHが高くなると萎凋症状の発生が 抑制された(図 60,図 61,表 38).また,本病抵抗性 の差異も認められ,本病抵抗性の強い‘黒ダネ南瓜’台木 では,土壌pH7.7以上で萎凋株の発生が認められなかっ た一方で,‘パワーZ2’台木では,土壌pH7.7でも最終的 に全株が萎凋し,土壌pH8.1とした場合のみ萎凋症状の 発生が見られなかった.なお,根部発病調査では,いず れの試験区もほぼ同等であったが,転炉スラグ処理量が 多く土壌pH が高い区ほど根量が多くなる傾向がみられ た(表38,図62).これらのことから,転炉スラグ処理 により,pH を上昇させることで本病の発病を抑制でき るが,その発病抑制効果は,本病抵抗性の強い‘黒ダネ 南瓜’台木との併用とすることでより高まることが明ら かになった.
キュウリ生育についてみると,両品種ともに土壌 pH が高い区ほど生育量が大きかった(表 38).しかしなが
ら,土壌pH8.1- ‘パワーZ2’台木区では,移植31日後の
時点で葉全体の小型化および葉脈間の退緑症状が観察さ れた(図 63).アブラナ科根こぶ病対策として転炉スラ グを多量施用した場合,マグネシウム欠乏症が発生しや すいとされ,マグネシウム欠乏症を回避する目的で,転 炉スラグ処理と同時に苦土肥料も施用することが推奨さ れている 9).本試験で供試した土壌中の MgO 含量はい ずれの試験区も約40 mg/100 gと同等であったのに対し,
CaO 含量は転炉スラグ処理量が多い区ほど高く,pH8.1
区では1,475 mg/100 gに達した.また,マグネシウム欠
乏症はカリウムあるいはカルシウム含量の著しく高い土 壌で発生しやすいとされる 65).これらのことから,‘パ ワーZ2’ 台木-土壌 pH8.1 区で確認された葉脈間の退緑 症状は,高土壌pH 条件下での石灰分との拮抗作用によ るマグネシウム欠乏症と推定された.転炉スラグは微量 要素を豊富に含むとされるが,その中ではマグネシウム 含量が比較的低いことから 9),キュウリホモプシス根腐 病対策として転炉スラグを圃場に処理する場合は,転炉 スラグ処理と同時に苦土肥料の補給も必要と考えられた.
本試験での結果や,岩手県における野菜・花き畑土壌の 維 持 管 理 基 準 25)を 考 慮 し た 場 合 ,MgO 含 量 が 40
mg/100g 以下の圃場では,水酸化マグネシウム(目安
100 kg/10 a 9))を施用する必要があると考えられた.
以上から,転炉スラグの投入量を多くして土壌pH を 高めるほど本病抑制効果が高まると考えられたが,高土 壌pH 条件下では,今回確認されたようにマグネシウム 欠乏症等の発生リスクが高まるので,目標改良土壌 pH は7.5程度が適当と考えられた.アブラナ科根こぶ病対 策としての転炉スラグ投入量についても改良目標pHは 7.5 とされていることから 9),当面の目標改良土壌 pH を7.5程度とすることは,妥当な水準と考えられた.
第3節 現地圃場試験による発病抑制効果の確認