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阜蒙県における落花生作付面積の拡大と支援策の役割

これまで全国の油糧種子の生産動向および支援策の動向で見たように,油糧種子の生産を 増やし植物油の自給率を高めるうえで,まずあげられていたのは作付面積を拡大することで あった。また,各時期に示された拡大目標は大豆を中心に達成されていないことを見た。

しかし,本章で取り上げる遼寧省は作付面積を拡大し続けており,阜蒙県は一つの県とし てはその中で最大の産地である。序章では先行研究の整理を踏まえて,落花生の作付面積の 拡大の原因として考えられる価格上昇と政策支援の関係について,農家の就農動向や土地利 用上競合すると思われるトウモロコシの収益との比較などを通じて明らかして土地利用構 造の変化を促進した原因と,政府の支援策の役割を明らかにすることを課題として示した。

以下では,2013年から2015年に県政府機関と老土河郷L村の農家30戸等を対象として 行った調査結果に基づき,落花生の作付面積拡大のための阜蒙県政府の取り組みと,それが 農家の土地利用構造の調整に結果した原因について分析していく。

1節 阜蒙県における土地利用の変化

2006 年から 2010 年までの阜蒙県の農作物作付面積の推移をみると,総作付面積が拡大 し,2010年の作付面積が2006年の1.7倍の28万9,547haとなっている(表4-1)。同じ時期 に,糧食作物の面積は36%増えて18万5,310haになったが,唯一,トウモロコシと大豆が面積 を拡大し,水稲以外の畑作穀物もすべて面積を減らしている。

他方で油糧作物は約4倍の8万9,930haまで急増し,中でも落花生のみが拡大している。

169,785 192,890 230,603 254,942 289,547 1.71 135,828 150,454 161,422 183,558 185,310 1.36

水稲 235 219 226 177 217 0.92

小麦 267 245 223 70 59 0.22

トウモロコシ 75,233 91,933 105,467 128,312 138,263 1.84

19,327 18,967 17,467 17,541 13,955 0.72

高粱 16,367 15,133 14,400 15,377 12,115 0.74

その他 4,173 4,077 3,933 3,796 2,291 0.55

大豆 9,040 8,800 9,000 9,660 11,586 1.28

緑豆 6,673 6,807 6,540 4,842 3,530 0.53

紅小豆 2,233 2,013 1,940 1,848 1,583 0.71

その他 1,251 1,253 1,240 1,128 1,023 0.82

1,028 1,007 987 807 688 0.67

22,762 30,723 56,119 60,293 89,930 3.95

19,700 27,900 53,967 58,480 88,655 4.50

1,007 893 652 446 269 0.27

1,897 1,780 1,393 1,243 944 0.50

159 150 107 124 62 0.39

11,195 11,712 13,062 11,091 14,307 1.28

出所:阜蒙県統計局提供の統計データにより作成。

表4-1 阜蒙県における食糧作物の作付面積の変化 (単位:ha,倍)

ゴマ ひまわり その他

イモ類 合計 落花生

2010年 対2006年比率

総作付面積

2010年

その他作物

2006年 2007年 2008年 2009年

合計

48 このように2006年から2010年までの変化の中で,トウモロコシと大豆および落花生が拡 大し,それらに特化する方向に進んできた。改めて土地利用構造の変化を表 4-2 で見る と,2006 年 時 点 では 糧食 作 物 80%,油 糧 作物 14%,そ の 他 の 作物 6%とい う 状 況 から 64%,31%,5%と油糧作物の割合が飛躍的に伸びた。作付け割合で見るとトウモロコシの割合

は3%程度伸びたにとどまり,落花生は11%から30%に増え,土地利用構造の変化は落花生の

拡大という方向で起きたことが分かる。

こうした変化の結果,2010年には阜蒙県の糧食作物の生産量が 151 万トンに達し,農業部 から糧食作物生産の先進県として表彰され,同時に落花生生産量の全国第一位の県としても 認知されるようになった。

こうした落花生の作付け拡大を中心とした土地利用構造の変化の一因として考えられる のは,市場価格の変化であろう。例えば,馮華(2014)は,甘粛省定西市における 2003 年から 2011 年の変化を例に市場価格が農家の土地利用へ与えた影響を分析している。そこでは, 糧食作物の小麦,トウモロコシ,イモ類と経済作物とされる油糧作物,野菜,漢方薬材を作付面 積の変化を分析し,第一に糧食作物のうち商品化率の低い作物は価格の影響を受けないが, 飼料作物として商品化率の高いトウモロコシは価格変動の影響を受けていること,第二に経 済作物はすべて価格変動の影響を受けていることを明らかにしている。そして,耕地面積の 変動が無い状況の下で,前年に価格の上昇した作物は作付けが拡大し,価格が下落した作物 は作付けが縮小していることを明らかにした。

このことを踏まえて,遼寧省の落花生の作付面積と市場価格の変化の関係を見てみよう(図 4-1参照)。まず,市場価格は2003年から2010年まで上下変動を繰り返している。作付面積 が前年の価格に影響されるとすれば,まず,2004年と2005年は前年より価格が上昇したのに 2005年と2006年の作付面積はいずれも減少しており,2009年の価格は前年より下落したの に 2010 年の作付面積は増大している。むしろ,作付面積は 2006 年までは一貫して減少 し,2007 年以降は拡大を続けており,落花生の作付面積の変化には価格以外の要因が強く影 響していることが考えられる。

2006年 2007年 2008年 2009年 2010年

糧食作物 80.0% 78.0% 70.0% 72.0% 64.0%

うち穀物 68.1% 67.7% 61.5% 64.8% 57.6%

トウモロコシ 44.3% 47.7% 45.7% 50.3% 47.8%

うち豆類 11.3% 9.8% 8.1% 6.9% 6.1%

油糧作物 13.4% 15.9% 24.3% 23.6% 31.1%

落花生 11.6% 14.5% 23.4% 22.9% 30.6%

その他作物 6.6% 6.1% 5.7% 4.4% 4.9%

出所:阜蒙県統計局提供の統計データにより作成。

表4-2 阜蒙県における農作物の作付割合の推移 (単位:%)

49 この状況から考えられることは,落花生の作付面積の変化は,単純に落花生の価格変動だけ ではなく,農家が作付けている他の作物との相対的な収益性の変化や農家経済における農業 への労働などの生産要素の投入構造の変化も影響しており,その原因を明らかにする必要が あるということである。つまり,落花生価格が下落しても,落花生栽培がトウモロコシのよう な他の作物より収益性が高ければ落花生の作付けを継続する可能性がある。次節では県政府 の支援策の影響を含めてこの点を検討することとする。

第2節 阜蒙県政府の落花生作付拡大に向けた支援策

本節では価格変動以外に落花生の作付面積拡大に寄与した要因と,それの県政府の行った 作付拡大に向けた支援策との関係について検討する。

まず阜蒙県の落花生発展計画と計画達成のためにとられた支援策について触れておこう。

阜蒙県農業局でのヒアリングによると,阜蒙県は糧食作物中心の土地利用であったが中央 政府と省政府が支援策を開始し,阜蒙県が落花生生産の適地であることを踏まえて,県政府 は落花生作付拡大を決定したという。2007年に県政府が策定した土地利用計画は,糧食作物 の作付面積を19.1万haとし,油糧作物を9.6万ha,野菜などの他の作物と果樹栽培に3.2万

haを配分し,全体として6:3:1の比率に土地利用構造を変化させようというものであった。

つまり,糧食作物を優先するという点では変わりはないが,油糧作物の作付けも一定拡大す るという計画が立てられたのである。

こうした土地利用計画を踏まえて,県内の35の郷(鎮)のすべてで落花生を拡大するのでは なく,その中から落花生拡大を重点とする 15 の郷(鎮)とトウモロコシを重点とする他の 20

図4-1 遼寧省におけるせ落花生の作付面積と市場価格の推移

出所:作付面積は遼寧省統計局『遼寧省統計年鑑』2014年版13-16、中国統計出版社による、

価格は李明陽・陳迪(2014)より作成。

0.00 2.00 4.00 6.00 8.00 10.00 12.00

0.00 5.00 10.00 15.00 20.00 25.00 30.00 35.00

2003 2004 2005 2006 2007 2008 2009 2010 作付面積(万ha) 年平均価格(右目盛)(元/kg)

50 の郷(鎮)に区分し,各地域に作目毎の面積を割り振り,落花生産地となる郷(鎮)を育成するこ ととした。その際に基準としたのが,農業局の技術普及ステーションが作成した二つの郷に おける落花生とトウモロコシの単位面積当たりの収益計算結果である(表4-3参照)。

表4-3は落花生とトウモロコシについて1ha当たりで12,300元の利潤を得るために必要 な単位面積当たり収量を算出したものである。同じ収益を上げるために必要な単収は,落花 生では,3,300kg/haで,トウモロコシでは9,450kg/haとなっている。県政府はこの基準をも とに,この落花生の単収を実現する産地として県の南部に位置している老河土郷,大巴鎮な ど15の郷(鎮)を指定した。これらの地域は耕土層が薄く,養分量が少なく,保水力が低く水は けの良い砂質土壌の多いという点で共通している。県の技術普及ステーションによると,こ れら郷(鎮)の耕地の80%はトウモロコシを作付けても収量が低く,6,000kg/ha程度にしか達 しないという。

この基準によって郷(鎮)が区分されたが,落花生を重点とする郷の老河土郷とトウモロコ シを重点とする郷の佛寺鎮における落花生とトウモロコシの1ha 当たり収益データを示し たのが表4-4である。

表からわかるように二つの郷(鎮)の各作物の生産費用は差がないが,各地で実現可能な 最高の単収により粗収益を算出した際に,落花生産地に指定された老河土郷では落花生の利 潤が高く,トウモロコシの産地に指定された佛寺鎮ではトウモロコシの利潤が高く示されて いる。県農業技術普及ステージによると,表 4-4は平年の降雨量が確保できた場合の収量で あり,もし旱魃になると,老河土郷のトウモロコシの単収は表に示したものより8割ほど減少   生産費用(元) 単収(kg/ha) 価格(元/kg) 粗収益(元) 利潤(元)

落花生 7,500 3,300 6.0 19,800 12,300

トウモロコシ 6,600 9,450 2.0 18,900 12,300

2)価格は阜蒙県の2007年の落花生市場最高価格である。

注:1)農業技術普及ステーションの責任者が県統計局のデータを用いて作成し,各郷への落花生普 及訓練班の講義資料として使用しているものである。

出所:阜蒙県農業技術普及ステーションでの調査による。

表4-3 1ha当たり利潤12,300元を得るのに必要な落花生・トウモロコシの 単収比較

生産費用(元) 単収(kg/ha) 価格(元/kg) 粗収益(元) 利潤(元)

7,520 3,500 6.0 21,000 13,480

6,600 9,110 2.0 18,220 11,620

7,400 3,250 6.0 19,500 12,100

6,600 10,400 2.0 20,800 14,200

表4- 4 老河土郷と佛寺鎮郷の落花生・トウモロコシの1ha当たりの収益性比較

注:1)本表のデータは農業技術普及ステーションの責任者が作成し,各郷への落花生普及訓練班の講義資料とし て使用しているものである。

2)単収は適切な栽培技術が採用されたことを想定した高い数値を用いている。実際の単収は,落花生とトウモロ コシとも30%低い。

佛寺鎮 落花生 トウモロコシ

出所:阜蒙県農業技術普及ステーションでの調査による。

老河土郷 落花生

3)価格は阜蒙県の2007年の落花生市場最高価格である。

トウモロコシ

51 するという。こうした土地利用計画の策定により,落花生の産地は県東南部に集中すること になった(図4-2参照)。

産地区分を行ったうえで,県政府はまず,農家を対象に「科学技術訓練班」という講習会を 開催して,落花生栽培のメリットを説明した。さらに,落花生産地の郷(鎮)政府の職員を現場 に派遣し,播種期における灌水,落花生専用除草剤の散布,落花生専用肥料の使用,播種機での 播種等のセット技術の普及を行った。同時に県水利局は水利施設整備資金を配分して,各郷 に溜池や井戸の整備事業を行い,また優良品種の種子の補助金付きで配布した。

第3節 調査農家の落花生作付面積の拡大とその原因

農家調査を行った老河土郷は阜蒙県の中でも落花生作付面積の拡大が順調に進展した地 域であるが,郷政府と調査農家 30戸でのヒアリングをもとに,作付面積拡大の原因について 検討しよう。

老河土郷の郷長によると,落花生は当地において旱魃対策の作物として位置づけられてい るという。落花生の作付面積の拡大が始まったのは,降水不足が1999 年から 4年間連続し てトウモロコシと高粱といった穀物の収量が下がり,農家が落花生栽培に転換し始めたこと が契機であった。特に 2002 年の干ばつの影響は深刻で,トウモロコシはほぼ全滅であった が,落花生は 10%から 30%の減産で済んだため,落花生の作付面積がさらに拡大したという。

2005年の作付面積は3,100ha,2006年は4,000haであった。

2007 年に阜蒙県政府と郷政府の支援策が開始されたのちには,2007 年に 5,000ha,2008

年に6,600haあまりに拡大し,2009年と2010年もその規模を維持し,2012年には8,333ha

となった。

図4-2 トウモロコシ産地を落花生産地の分布

出所:阜蒙県農業局へ聞取り調査により作成(2015年5月)。