第5章 幼児の自由な関わりに基づくコンピュータ利用の特性
第4節 小括
既存の保育環境の中に,新たにコンピュータを取り入れることで,幼児の知的発達の促 進や,自由遊びの拡大を企図する幼稚園は,全国的に見ても決して少なくないのではない
第5章 幼児の自由な関わりに基づくコンピュータ利用の特性
だろうか・、幼児が自由にコンピュータと関わることのできる時間や環革を整備し,それに よってコンピュータと慣れ親しむことで,操作・活用能力を身に付けることができる. Y 幼稚園やM幼稚園の実践は,まさにこうした教育的意図に基づくものであり,そこに身を 置いた筆者は,そのような保育者の思いを十分に感じることができた.両園におけるコン
ピュータの位置付けや,そこで展開される嘩育活動は,その意味において,典型的実蹄の 一つであると捉えられよう.
本章で軌幼児の自由な関わりに基づくコンピュータ利用の特性について描出した.そ こで示された知見について,改めて整理しておきたい.第一に, 「コーナー保育」の場面 (Y幼稚園)や,自由遊びの場面(Y幼稚園・M幼稚園)におけるコンピュータ利用のも とでは,教育ソフトの中の個性的なキャラクターの働きかけに応じて,幼児の蔑み書きの 修得や,問題解決能力の育成を可能にすることから,確かにコンピュータは, ・保育者にと って心強い教具・教材となり得る要素を秘めているように思われる.しかしながら,知的 発達を促進するはずのコンピュータは,幼児の好奇心を刺激する高性能のアクティビティ で構成されるあまり,そこでの保育者の役割を希薄化し,保育の中に導入するだけで十全 であるかのような印象を与える恐れも有していた.
第二に,幼児にとってコンピュータは,既存の遊具とは異なる魅力的特性を備えること から,幼児同士でマウスの争奪が繰り広げられたり,それによって幼児が葛藤を抱レ)たり するなど,様々なトラブルをもたらす状況が頻繁に見受けられた.とは言え,こうした状 況に対して幼児は,円滑にコンピュータを利用するために,様々な工夫や交渉を行ってお り,遊具としてのコンピュータは,幼児の直接的コミュニケ‑シノヨンや,社会的相互作用
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を促す契機にもなり得ていた.また,コンピュータでは必ずしもマウスを操作しなくとも, 複数の幼児が楽しさを共有することができるため,そうした特性がトラブル回避に寄与す る場合もあった.
第三に,コンピュータと積極的に関わる幼児とは対照的に,保育者の関わりは極めて少 なかった.特に周辺機器の紛失'破損などのマシン・トラブルは,保育者に決定的な不安 を抱かせており,こうした事象わ背後には,コンピュータに対する適切な対応が保育者文 化の中に十分形成されていないことが考えられる.
夢四に,コンピュータを利用した保育実践tt,幼児の社会的孤立を助長するという保育 関係者の懸念に対して,両園の括動は,むしろそれを棄却するものであり,幼児同士の活 発な相互交流が展開されていた.
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第五に、,幼稚園の中にコンピュータを導入することで生起する様々な問題に対して保育 者は,それをできるだけ従来の保育の枠組の中で処理しようとしており,学校教育分野と
は異なり,幼児の自由な活動を主体とする保育・幼児教育分野においては,そうした伝統 的保育観‑のコンピュータの同化を容易にする側面を有していた.
ところで米国では今日,コンピュータの利用に関する保育者研修を充実することの重要 性が指摘されている(e.g.papert, 1993; Dublin, Pressman, Barnett & Woldman, 1994).本章に 示された幾つかの潜在的問題を鑑みるとき,日本においても,保育者がコンピュータに慣 れ親しむための実践的研修の機会や,従来の保育活動にコンピュータがどのように寄与す ることができるのかを学ぶことめできる機会など,保育者の専門性を支援するための試み を模索することが,課題の一つとなるのではないだろうか.