第 3 章 サブルーチン 36
3.4 間接アドレスを用いたルーチン間におけるデータの受け渡し
ルーチン間のつながりをもう少し詳しく考えてみましょう.各ルーチンは基本的にプログラム領域と データ領域から構成されています.プログラム領域とは文字通りプログラム命令が記録されている領域 のことであり,データ領域とは変数や配列のために用意されたメモリ領域のことです.プログラム的に は,変数や配列の宣言文がデータ領域の指定を意味しています.
program stest1 implicit none real x,y x = 5.0 y = 100.0 call subr1 print *,x,y end program stest1
subroutine subr1 implicit none real x,y x = 10.0 y = 25.0
end subroutine subr1 プログラム領域
データ領域 x 5.0 y 100.0
プログラム領域
データ領域 x 10.0 y 25.0
メインプログラム サブルーチン
参照 参照
参照できない
図3.2 プログラム領域とデータ領域
変数や配列が各ルーチンごとに宣言されなければならないのは,データ領域が各ルーチンそれぞれに 付属しているからです.このため,図3.2のように異なるルーチンで同じ名前の変数を宣言しても,そ れらは別のデータ領域に所属しています.これがローカル変数です.ローカル変数は,そのルーチン内 部からしか参照することができません.
このため,あるルーチンで計算した数値を別のルーチンで使うには特別な手続きが必要になります.
これが引数です.引数を使えば,コール側のルーチンとサブルーチンの間でデータをやりとりすること ができます.では,具体的にどうやってデータの受け渡しをしているのでしょう.
の例では5.0と100.0)が,サブルーチンの引数として宣言された変数,aとbに代入されています.こ の方式は,引数の値を直接渡して呼び出す,という意味で“ call by value ”と呼ばれています.“ call by
value ”は,コール側からサブルーチン側への値の引渡しについては問題ありません.C言語はこの方式
を採用しています.
program stest2 implicit none real x,y x = 5.0 y = 100.0
call subr2(x,y) print *,x,y end program stest2
subroutine subr2(a,b) implicit none
real a,b print *,a,b b = a+25.0
end subroutine subr2 プログラム領域
データ領域 x 5.0 y 100.0
プログラム領域
データ領域 a 5.0 b 100.0
メインプログラム サブルーチン
call by value では 数値を直接代入する
送り返せない こちらへ代入
図3.3 “ call by value ”を使ったデータ渡しでは値を送り返せない
しかし,この方式では,サブルーチン側で作成したデータをコール側に戻すことはできません.サブ ルーチンは,コール側から送られてきた“値”はわかるのですが,それ以上の情報がないので,コール 側のどこにデータを代入すればいいかわからないからです.図3.3のように,サブルーチン中の代入文,
b=a+25.0,でサブルーチンの変数bに30.0という値を代入しても,サブルーチンのデータ領域のbに 代入されるだけで,メインプログラムのデータ領域には影響がありません.
この問題を解決するために,Fortranは“ call by value ”ではなく,“ call by reference ”という方式を 採用しています.“ call by reference ”とは,変数の内容ではなく,変数の存在場所(メモリアドレス)を サブルーチンに伝えて呼び出す方式です.
コンピュータのメモリには,“番地”と呼ばれる通し番号がついています.メモリアドレス(あるいは 単にアドレス)とはこの番地のことです.プログラムの実行中に,あるメモリのデータを読み書きする ときは,そのメモリのアドレスを指定して行います.例えば,簡単な代入文,
a = 1500.0 b = a
を考えてみましょう.この結果,bのメモリに1500.0という値が書き込まれますが,代入式b=aにおい て,a(アドレスを[103]とする)という変数からデータを取って来てbに代入するという流れは,
aのアドレス指定 → [103]番地のメモリ内のデータ(1500.0)の呼び出し
→ bに代入
となります.流れを図に描けば図3.4のようになります.このような指定したアドレスのメモリに入っ ているデータを読み書きする方式を“直接アドレス”といいます.
これに対し,あるアドレス(AD1)のメモリに入っているのが別のメモリのアドレス(AD2)で,アド レスAD1を指定して,アドレスAD2のメモリに入っているデータを読み書きする方式を“間接アドレ ス”といいます.Fortranでは,“ call by reference ”でサブルーチンを呼び出すので,引数にはコール側 ルーチンのメモリアドレスが入っています.このため,サブルーチン内で引数の値を読み書きするとき
101:
102:
103:
104:
105:
1500.0
a:103 b
データ領域
....
図3.4 直接アドレスによるメモリ参照 は間接アドレスを使います11.例えば,
program stest3 implicit none real a
a = 1500.0 call subr(a) end program stest3 subroutine subr(s)
implicit none real b,s b = s
end subroutine subr
というプログラムを考えてみましょう.サブルーチンsubrの中の代入文b=sによって,変数bのメモ
リの値は1500.0になりますが,引数変数sにはaの内容である1500.0ではなく,メインプログラムの
変数aのアドレス(103)が入っています.このため, b=sという代入文で,変数s (メモリアドレスを [106]とする)からデータを取ってきて変数bに代入する流れは,
sのアドレス指定 → [106]番地にあるメモリアドレスデータ(103)の呼び出し
→ [103]番地にあるデータ(1500.0)の呼び出し
→ bに代入
となります.図示すれば図3.5のようになります.
101:
102:
103:
104:
105:
106:
107:
1500.0
103
a:103 b
s:106
....
データ領域
図3.5 間接アドレスによるメモリ参照
間接アドレスによる読み書きは直接アドレスよりも時間がかかります.よって,b=sの代入文におい て,代入する値を保持している右辺の変数sが間接アドレス指定の場合にはメリットがありません.し かし,代入される左辺の変数bが間接アドレス指定の場合には,この仕組みを利用することで,コール 側ルーチンの変数にサブルーチン側のデータを代入することができます.
program stest2 implicit none real x,y x = 5.0
call subr2(x,y) print *,x,y end program stest2
subroutine subr2(a,b) implicit none
real a,b print *,a,b b = a+25.0
end subroutine subr2 プログラム領域
データ領域 x 5.0 y 30.0
プログラム領域
データ領域 a xのアドレス b yのアドレス
メインプログラム サブルーチン
call by reference では 変数 x,y のアドレスを送る
間接アドレスで送る
参照
図3.6 Fortranでは“ call by reference ”によりデータを送り返すことができる
例えば,図3.6のようなプログラムを考えます.サブルーチンの引数変数bにa+25.0の結果である 30.0を代入すると,bにはメインプログラムの変数yのアドレスが入っているので,間接アドレス指定 によりyに30.0が代入されます.
戻り値を利用するときは,対応する引数にコール側変数のアドレスを与えなければなりません.これ が変数または配列を指定しなければならない理由です.戻り値指定の引数に定数や計算式を与えると実 行時エラーになります.