デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
e ビジネス本部テクノロジー戦略部 兼 テクノロジー営業部 スーパーバイザー 菅沼 道彦
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社 e ビジネス本部テクノロジー営業部 スーパーバイザー
宮川 大佑
要旨
メディアとは情報の伝達手段である。メディアは我々人間のためにコミュニケーションの理想の 実現手段として存在している。我々がどのようなコミュニケーションを10年後実現したいかという ことは10年後のメディア環境に大きく影響される。本論では以下 2 点を伝えたい。
1 、情報の利用者が増えること、すなわちインターネットの恩恵を受けている人々が増えることで 我々の「コミュニケーションスタイル」が変化していくこと
2 、デジタルテクノロジーの技術発展や無料サービス化の動きはその「コミュニケーションスタイ ル」の変化を加速化させ、我々に新しい世界をもたらしうるということ
以下具体的には開発途上国に焦点をあてながら、開発途上国に住む人々が多くの情報に接触可能 となることにより住環境、地域性などのハンディキャップが是正されていくことと、その結果とし て競争の平等が保全される世界について述べてゆきたい。
序章 はじめに
1 章 開発途上国の状況
1 ‑ 1 デジタルテクノロジーの進化により変化したライフスタイル 1 ‑ 2 開発途上国の特徴
1 ‑ 3 今後の発展の方向性
2 章 インターネットにおける社会貢献 2 ‑ 1 開発途上国のインターネット環境 2 ‑ 2 e ラーニングの活用
2 ‑ 3 開発途上国の人々のビジネスチャンス 3 章 目覚ましく発展するデジタルテクノロジー 3 ‑ 1 変化する情報
3 ‑ 2 多くのサービスが無料なインターネット 3 ‑ 3 世界中の人々を繋ぐコミュニティーサイト 4 章 これからのコミュニケーションとライフスタイル 4 ‑ 1 検索の問題点と新しい情報取得
4 ‑ 2 フリーアクセス
4 ‑ 3 コミュニケーションの進化 終章 終わりに
入 賞
開発途上国に未来をもたらすデジタルテクノロジー
序章 はじめに
メディアを介しての情報の受け手は、おそらく10年 後、100年後の未来も人間である。としたとき当然メ ディア環境は情報の受け手である人間がどのような環境 で、どのような手法で、どのような情報を求めているの か思い浮かべる必要がある。また人々が求める情報の質 や用途によってどのようなコミュニケーションが実現さ れるのであろうか。
人が情報伝達を行う際、以下 3 つの要素がある。
1 、伝達される情報の量、質、範囲 2 、情報を伝達する手段
3 、情報の発信者と受信者
上記 3 者はそれぞれ相互に関連している。例えば情報 伝達手段としてのインターネットの発展は、それまで限 定的であった情報の発信者を個人レベルにまで拡大した ことにより伝達可能な情報の量、質、範囲を飛躍的に拡 大させた。これによりインターネット普及以前と比較し 我々が接触可能な情報量が劇的に変化したことは周知の とおりである。
また入手可能な情報量の拡大は、人々のライフスタイ ルに大きな変化をもたらした。一方、世界のインター ネット利用者はわずか世界人口の 3 割の14億6000万人に すぎないと言われており、いまだ世界人口の約 7 割以上 の人々がインターネットの恩恵を受けていないという現 状がある。
今後、インターネットの恩恵を受けている人々、すな わち情報の利用者が増えることで我々のコミュニケー ションの世界は変化していくであろう。以下、開発途上 国に住む人々が多くの情報に接触可能となることで、生 まれた時点での住環境、地域性など不平等が是正され、
競争の平等が保全される世界が構築される可能性につい て述べてゆきたい。
1 章 開発途上国の状況
1‑1 デジタルテクノロジーの進化により変化したラ イフスタイル
メディア環境における情報伝達手段を取り上げる際、
近年のインターネットを中心とするデジタルテクノロ ジーの発展とその技術革新による我々のライフスタイル の変化は目覚ましい。International Telecommunication Union (2008年)のデータによれば今日先進国のイン ターネットの普及率は 7 割弱に達している。我々先進国 の人間にとってはインターネットを介し、自らが情報を 取得したいと思うとき情報をより早く手軽に取得可能な 環境というものが日々整備されつつある。だが前述の通 り世界規模で考えた場合には全世界の多くの人々は未だ インターネットの恩恵を受けられていないのが実態であ る。インターネットを活用するには、大きく分けて以下 3 つの条件が満たされている必要があると考えている。
1 、インターネットが利用可能な環境が整備されてい ること
2 、情報を取得できる技術があること
3 、情報を検索取得可能な時間的なゆとりがあること
回線やパソコンの普及などのインフラが整備されてい るということは自明の条件だが、それ以外にも情報を取 得できる技術すなわち技術を活用するための教育、文 字、言葉、知識を保有していることが必要である。また その技術を獲得するための時間が存在することも重要な 要素である。例えば、開発途上国の中でも最貧国(後発 開発途上国)と分類される国々では依然として子供を含 んだ家族全体が労働力であり、しかも日々の暮らしの糧 を得るのに精一杯で情報を取得し活用していく時間的な ゆとりがない人々が存在している。
1 ‑ 2 開発途上国の特徴
前項では、インターネット活用の条件を述べたが開発 途上国の現状はどのようになっているのだろうか。主に インフラストラクチャー(以下インフラ)を中心とした
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インターネット環境における開発途上国に共通する特徴 としては、第一に通信回線サービスの国家・企業独占、
第二に高い携帯電話の普及率、第三にマイクロウェーブ という無線方式によるインターネット接続が主流という 特徴があげられる。先進国のように、有線回線とデスク トップ PC によるインターネット利用から次第に回線高 速化、無線・移動共存化へと進んだ発展方式とは異なっ ている。
前述の通り先進国のパソコンやインターネット技術自 体の発展の背景には通信インフラの整備があった。また 通信技術の発展と企業の経済活動とは密接に関連してき た。開発途上国の場合、その他の分野でも見られるとお り、段階的な発展を踏まず、技術発展と経済発展が連動 せず、突然完成された技術が導入される場合があるため このような違いが生まれると考える。このようなある種 トップダウン的な技術導入は政府主導により実施される ことが多かった。これにより急速な経済発展を可能とす る場合もある。
また開発途上国と先進国ではインターネット普及率を 見てみても大きい格差がある。2008年 2 月、国連貿易開 発会議(UNCTAD)で発表された世界における情報通 信技術(ICT)の普及状況調査結果によると、開発途上 国における ICT の利用は伸びつつある。しかしその伸 び率は先進国と開発途上国では 6 倍の開きがあるとのこ とであった。
インターネットの普及率やインフラ環境の整備の他に 開発途上国の人々がインターネットを活用するための技 術教育を十分受けているか否かが鍵である。インター ネットの普及率は就学率や識字率が一定のバロメータに なると考える。そのためインターネットを活用するため の文字や技術を理解する教育を受けられる時間的・経済 的な余裕が必要となる。しかるに現状をみると少し古い データになるが、総務省統計局発行「世界の統計2006」
によると世界の成人の識字率は86%であった。だがアフ リカのチャドでは32%しかないなど各国間で差がある。
また多くの開発途上国では、法律で義務教育とされて いる小学校、中学校における就学率が、平均して小学校 で85%、中学校で49. 5 %と低くなっており十分な教育が なされているとはいえない状況である。
1 ‑ 3 今後の発展の方向性
これまで述べてきたように開発途上国にインターネッ トが普及するにはまだまだ条件を満たしきれているとは いえない。そのボトルネックをたどるとインフラの整備 への投資、国民の識字率・就学率の向上など経済的な要 因(貧困)に起因することが多い。一方、台湾のように 政府が主導となり、経済的な要因を克服している国家は インターネットの活用が比較的スムースに行われている といえる。International Telecommunication Union (2008
年)のデータによれば台湾のインターネット普及率は 65%に達している。またインターネットを活用すること でビジネスチャンスは拡大する。インターネットを活用 している国家と活用していない国家における経済発展に は格差が生じるであろう。なるべく早い段階で多くの開 発途上国が国家によらず経済的な困難を克服する必要が ある。そして、開発途上国の人々がインターネットを活 用していくために国家以外が行う経済的な支援活動がす でに活動として存在しているのも事実である。
2 章 インターネットにおける社会貢献
世界人口の 3 分の 1 はまだ貧困の中で生きていると言 われる中、貧困を解決していこうという動きは世界的に 存在している。少し前にはなるが、世界第 2 位の大富豪 ウォーレン・バフェットが、資産の85%(約400億ド ル)を寄付すること、またこの400億ドルのうち 5/6 は ビルゲイツ財団に寄付するということを発表した。こう した社会貢献への関心の高まりは他にも存在し、社会貢 献は政府による公的援助の失敗を資本主義の下でも補正 しているという点で注目されている。以下の章では実際 にどのような手段で開発途上国の貧困を解決してゆくの か。またインターネットならではの社会事業化の動きが 見え始めていることなど以下、具体例をあげながら述べ てゆきたい。
2 ‑ 1 開発途上国のインターネット環境
まずインターネットを活用できる環境というものが存 在しないことには、その恩恵をうけることができない。
国際電気通信連合(ITU)では、ICT 化促進のため、中 古パソコンを寄贈者から集め、開発途上国に寄贈するプ ロジェクトを進展させている。このように多くの人々に インターネット環境を提供していこうという社会事業の 動きがある。また過分に希望的観測の側面が強くなる が、今後、ビルゲイツが IBM のホストコンピュータを 完璧に淘汰したような手法を、ビルゲイツ財団を通して 応用し、貧困層のインターネット利用率の拡大に貢献し ていくことが期待される。
2 ‑ 2 e ラーニングの活用
インターネットが利用可能なインフラが用意された後 はそれを活用していくための教育ということに焦点があ たる。教育という行為が実行されるには、場所(学校)、
時間、人(教師)、お金(授業料や施設の運用費用な ど)が必要となる。そこでその全てを解決できはしない が、インターネットを活用した e ラーニングの可能性が 注目されている。
開発途上国の人々は高価な教材を購入することができ ないために、高等教育を受ける機会を逃してしまうこと