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通過儀礼と新粉細工

ドキュメント内 中国・陜西省の新粉細工の伝統と発展 (ページ 64-83)

第4章 渭南市における新粉細工の種類と用途

第2節 通過儀礼と新粉細工

陝西省の農村部で、新粉細工は単なる年中行事の際や日常生活に用いられるばかりでは なく、1 人の村人の人生の節々に欠くことのできない存在である。陝西省の東府では、人 の生命が始まるまでにはもう、様々な祈願の儀礼がそのために行われ、特に女の子が生ま れたら、赤ちゃんが健康に成長できるよう願う以外にも、赤ちゃんが将来自分の子供を順 調に生み育てられる等の事も同時に願われる。新粉細工は陝西省に於いては、人の各通過 儀礼に間接的であるか、直接的であるかにはかかわらず、祝福の役割を果している。さら に、新粉細工は生きている人が彼岸の人への思いを伝える媒体のような存在であると考え られる。この節では、通過儀礼の順序に従い、筆者自身が行った現地調査を中心に、調査 地における新粉細工それぞれの特徴や用いる所及び、果している役割を論述していく。

(1)生命の始まり

①誕生への期待

陝西省の東府では、妊娠した女性が子供を産む約1ヶ月前、産婦の母親は新粉細工「角 形包子」を作り、産婦の夫の家へ贈る。夫の母親はまた贈られた「角形包子」を親戚と近 所の人に贈り、息子の妻がしばらくして出産をすることを知らせる。華県の新粉細工製作 者は「角形包子」の形が女性の生殖器官の形と似ていると説明した。それは産婦が安産で きるようにという願いが含まれているといわれる。

「角形包子」の中には中身がある。華県と合陽県のあたりのでは、「角形包子」の中身 は野菜、肉等の具である。しかし、合陽県のしきたりにより、産婦は母親にも「角形包子」

を贈る。その場合に贈られる「角形包子」の中身は具ではなく、赤砂糖(黒砂糖のことで ある)になる。

写真 51 「角形包」

出所:筆者が華県の新粉細工製作者の説明により描いた「角形包子」(2013 年 筆者撮 影)

②赤ちゃんを迎える

2013 年春に史氏の話によると、陝西省の東府の農村部では、赤ちゃんが生まれてから 3 日目の日に、産婦の家族と一番親しい親友が産婦の見舞いをする風習がある。合陽県のし きたりでは、見舞いをする時、産婦の母親は産婦に新粉細工を贈る。その時の新粉細工は 主に魚や羊の形をした小型のものである。産婦はそれを食べたら、赤ちゃんが邪気にかか ることはなくなるといわれる。

③「満月」のお祝い

中国語では、赤ちゃんが生まれて満 1 ヶ月になることを「満月」という。陝西省の人の 考えによると、「満月」になることは赤ちゃん及び赤ちゃんの家族全員にとって、非常に 大事なめでたいことである。特に、東府の農村部の人は赤ちゃんの「満月」を祝うため、

爆竹を鳴らしたり、酒宴を張ったりすることは一般的であり、中国語では「過満月」とい う。「満月」の定め方は特別であるので、「過満月」の時期も赤ちゃんの男女別により違 う。赤ちゃんが男性であれば、「過満月」は「満月」の前日に、或いは、「満月」の前の 数字の「3」か、「6」か、「9」の数字が付いている日に行う。赤ちゃんが女性である場 合は、「満月」の当日に「過満月」をする。

東府域内は渭水を境界線にしてみれば、「過満月」のしきたりは南側と北側での情況が 異なる。華県と合陽県のしきたりは南側と北側の代表であると考えられる。

華県では、「過満月」の時、赤ちゃんの母方の祖母は洋服等以外に、必ず新粉細工「谷 巻」を贈る。「谷巻」とは、虎の頭の形にした頭部、龍の躯体の形にした身体、及び魚の 尾か鳳凰の形にした部分を尾とし、組み合わせた新粉細工である。また、「谷巻」の胴の 部分には新粉細工の龍や人が挿されてあり、赤ちゃんの人生に対する良い願いをあらわす のである。母親側の親戚は赤ちゃんに「谷巻」を贈らないのが一般的であるが、贈る人も いるといわれる。一方、近所の人と親友達はお祝いを述べるため、新粉細工「雲雲饃」を 贈って来る。この場合に用いられる「雲雲饃」は一般的に「道喜雲雲」(中国語の言葉「道 喜」はお祝いを述べる意味である)と呼ばれ、魚や龍や「文房四宝」の形のものが多い。

写真 52 1 対になる「谷巻」

出所:華県の新粉細工の製作者鄭氏の家(2013 年 筆者撮影)

筆者は史氏と製作者たちの話をまとめて、その概要を説明していく。

合陽県及びその周辺のしきたりでは、赤ちゃんの母方の祖母が 4 つの大型の新粉細工を 贈る。その 4 つの新粉細工は次のようになる。

母親は娘夫婦 1 人づつに、1 対になる「挿花餛飩」を贈る。甘井鎮と和家庄鎮の村では、

この際の「挿花餛飩」を「眉眼餛飩」と呼ぶ村人もいる。「眉眼餛飩」の底にあたる中心 部分に挿されるのは虎形か、獅子形か、鹿形か、牛形かの新粉細工の装飾、或いは、猫、

鶏の形にした新粉細工の装飾である。

娘にはもう 1 つの新粉細工「挿花圓糕」が贈られ、村人はそれを「圧心糕」(「圧心」

は民間で使われる言葉であり、人を慰め、心を楽しませる意味がする)と呼ぶ。

赤ちゃんには新粉細工「魚変娃」或いは「坐娃娃」が贈られる。「魚変娃」の全体的な 形は人間の身体と魚の尾を組み合わせたような形であり、字麺通りに魚が子供に変わって くるような状態を表現する。村人はそれが人間の成長の状態を表現するのであると言い、

陰陽21への崇拝のあらわしにもなると考えられる。一方、「坐娃娃」はその呼び方の通り に、座っている子供の形になり、赤ちゃんが健康で、大きくなれることの象徴である。

21陰陽:中国古代の思想で、天地間にあり、互いに対立し依存し合いながら、万物を形成している陰・

陽二種の気である。日・春・南等は陽であり、月・秋・北・女等は陰にあたると言われる。

写真 53 左側は立っている状態の「魚変娃」

出所:新粉細工の展覧会での録画を一部切り取って、作った写真(2013 年 筆者撮影)

「過満月」の宴会が終わった後、産婦の家族や親友が各自の家に帰ったら、産婦は赤ち ゃんと一緒に実家に行き、実家で 10 日間ほど過ごす。出かける前、産婦の夫の母親は自 ら作った魚形の小型の新粉細工を赤ちゃんの肩においてから、産婦を出かけさせる。つい でに、産婦の実家の人への贈り物として、「餛飩」と「包子」を産婦に持たせて行く。10 日間が経過後、産婦は夫のもとへ戻る。戻る前、産婦の実家の母親は自ら作った虎形の小 型の新粉細工を赤い糸に通し、赤ちゃんの肩に掛けてから、産婦を戻させる。しかし、こ の場合について、合陽県あたりの風習は少し異なる。産婦が夫のもとへ戻る前に、産婦の 母親が孫の首に掛けるのは、幾つかの子供の形の新粉細工を赤い糸に通したネックレスの ようなものである。

④満 1 歳の際における儀礼

子供が満 1 歳になる誕生日は、渭南地区の各地でしきたりは違うが、子供の家族は親戚 と親友にご馳走をすることが多い。誕生日の宴会に出る人は服や食べ物と新粉細工を持っ てくる。

華県のしきたりでは、子供の母親側の祖母が 1 対になる虎形の「挿花餛飩」(村人はそ の新粉細工を「麺老虎」とも言う)或いは「谷巻」を孫に贈るが、合陽県の情況は、牛形 の「挿花餛飩」或いは魚形の「挿花餛飩」を贈る。それに、男の子に贈られる「挿花餛飩」

は牛形のほうになり、女の子に贈られるのが魚形の「挿花餛飩」である。これらの示す意

味は男の子が牛のように体が丈夫になり、女の子が将来幸せな結婚生活を持てるようにな るというものである。

子供は 1 つ目の春節を迎える時に両親に連れられ、親友の家を訪れ、また親戚回りをし たりする。その際、子供は「棗山花饃」を贈られる。その「棗山花饃」の数が多ければ多 いほど、子供が貰ってくる祝福は実現できるといわれる。家と家との交際が広いかどうか もこの際に一番分かりやすいと言われる。

(2)子供の成長――「完灯」

「昔、陝西省の東府の農村部では、子供、特に男の子が 12 歳になってから、成人にな るという言い方がある。」(史氏談 2012 年春)また、中国の伝統的な習慣において、

元宵節の際に、子供の母親の兄弟はその子供に提灯を贈る。したがって、東府の村人は子 供が 12 歳になる年の元宵節の間に、母親の兄弟から提灯をもらうことを「完灯」といい、

子供の成人式にあたる儀式と思われる。

「完灯」という儀式は普通元宵節の前に、「3」、「6」、「9」の数字が付いている日 に行われる。華県あたりの村では、子供の母親の兄弟から提灯をもらうこと以外に、母方 の女性の親戚から「谷巻」或いは、虎形か獅子形の「挿花餛飩」を贈られないと、「完灯」

はできていないと考えられている。一方、合陽県では、「完灯」を行うほか、子持ちの家 庭はご馳走をし、さらに子供はその時、新粉細工を貰える。

(3)一家を構える――結婚についての儀礼

中国人の伝統的な観念では、人が結婚し、一家を構えることは人生の一番大事なことで ある。特に農村部において、結婚することに関わる儀礼は大事にしなければならない。新 粉細工はその儀礼の一環であり、欠くことのできないものである。筆者は 2011 年と 2013 年春華県文化局の李氏の話と製作者鄭氏にインタビューしたものをまとめた結果と 2012 年春、2013 年春、2014 年夏に合陽県での調査の結果をもとに、整理し、以下のように、

婚約をすることから紹介し、結婚式の全過程及び、新婚一年目のしきたりについて、論述 していく。

ドキュメント内 中国・陜西省の新粉細工の伝統と発展 (ページ 64-83)

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