本節では無理数wの範囲に制限はしない.無理数w で定まる格 子Λ(w, c)の近似格子点を生成していくアルゴリズムをヒントとし て,wの近似既約分数を生成するアルゴリズムが考えられる.
■ファレイ対
これまでのように既約分数の分母は正とする.このとき任意の有理 数は一意的に既約分数の形に表すことができる.ただし整数の分母 は1とする.
二つの有理数r1, r2 (r2 < r1)がある.r1, r2を既約分数の形に表
13.4. 近似分数の生成アルゴリズム 55
しそれを
r1 = a
b, r2 = c d
とする.ad−bc = 1となるとき,有理数の順序対(r2, r1)をファ
レイ対(Farey pair) と言うことにする.ただしこれは一般に使わ
れている用語ではない.またファレイ対(r2, r1)と無理数wがあり r2< w < r1となるとき,(r2, r1)をwを挟むファレイ対という.
ファレイ対(r2, r1)よりつくられる有理数M(r2, r1)を次のよう定 める.すなわち
M(r2, r1) = a+c b+d
と定め,これをファレイ対(r2, r1)の中間数(mediant)という.
a(b+d)−b(a+c) = 1よりa+c
b+dもまた既約分数である.
r2< M(r2, r1)< r1 であり,
(r2, M(r2, r1)), (M(r2, r1), r1) はともにファレイ対となる.
■無理数の近似分数列を作る.
無理数wに対して
α0 = [w], α1= [w]−1
とおく.(α1,α0)はwを挟むファレイ対である.次に α2 =M(α1,α0)
とおく.ファレイ対(α1,α0)のα0またはα1をα2で置き換えて新 たなwを挟むファレイ対を作る.この新たなファレイ対の中間数を
56 第13章 四つの連分数 α3とおく.このα3を最後に作ったファレイ対の両端のどちらかに 置きかえて,さらに区間の幅の狭いwを挟むファレイ対を作る.
以下同様にして有理数の列
α0,α1,α2,· · ·
ができるが,これがwの近似分数全体となる.実際,第8章定義 8.1でΛ(w, c) の近似格子点の列
Y0, Y1, Y2, · · ·
を定義したが,このYiに対応する近似分数がαiである.
なおαiは右端のファレイ対の数と入れ換え,αi+1は左端の数と 入れ換える,というように入れかえる数の左右が変わるとき,αiは 主近似分数である.したがって順に作られていくwを挟むファレ イ対の右端あるいは左端の少なくとも一方は主近似分数である.即 ち順に作られていくファレイ対の両端を既約分数で表したとき,分 母が小さい方はwの主近似分数である.最初に考えたファレイ対 (α1,α0)の分母は共に1で,小さいほうは無いがこのときはα= [w]
が0次の主近似分数である.
■無理数を挟む任意のファレイ対 無理数wを挟むファレイ対³c
d,a b
´があったとする.d > bのとき
c−a d−b < c
d < a b であるが,
µc−a d−b,a
b
¶
はまたwを挟むファレイ対である.同様に d < bのときは
µc d,a−c
b−d
¶
がwを挟むファレイ対である.このよ うにwを挟むファレイ対から始めて,その区間の幅を拡げて新たな ファレイ対を作っていくことができる.これは前項で考えたファレ
13.4. 近似分数の生成アルゴリズム 57
イ対の区間の幅を狭めていくアルゴリズムの丁度逆となっている.
この区間の幅を拡げる操作を行っていくと,いつかはファレイ対の 両端の既約分数の分母がともに1となり,それは([w]−1,[w])と いうファレイ対になる.よって無理数wを挟む任意のファレイ対
³c d,a
b
´は,前項で考えた近似既約分数を作っていくアルゴリズム の途中に出てくるファレイ対である.したがって c
d,a
b はwの近似 既約分数であり,少なくとも一方は(分母の小さい方は) wの主近 似既約分数である.
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関連図書
[1] 中村滋著 フィボナッチ数の小宇宙/フィボナッチ数,リュカ数, 黄金分割(改訂版) 日本評論社 2008
[2] 中村滋著 数学の花束 岩波書店2008 [3] 原 襄著 植物形態学 朝倉書店1994
[4] 前原 潤,桑田孝泰著 数学のかんどころ3 知っておきたい幾 何の定理 共立出版 2011
[5] キース・ボール著 佐藤かおり・佐藤宏樹訳 フィボナッチのウサ ギ 青土社 2006
[6] 高木貞治著 初等整数論講義(第2版35刷)共立出版 2004 [7] Paul Erd˝os, J´anos Sur´anyi, Topics in the Theory of Numbers
2nd edition, Springer, 2000
[8] 訳・解説 中村幸四郎,寺阪秀孝,伊東俊太郎,池田美恵 ユー クリッド原論(追補版) 共立出版 2011
[9] 熊沢正夫箸 植物器官学 裳華房1979
[10] B.グッドウィン著 中村運訳 DNAだけで生命は解けない
シュプリンガー・フェアラーク東京1998