• 検索結果がありません。

5

.輸出促進対策

前の各章において指摘のようにわが国では、現在農産物(林水産物含む⋯⋯以下略)の輸出促 進が経済成長、とりわけ農林水産業・地域の活性化にとって重要な戦略的課題として位置 付けられているが、その推進には多くの課題が横たわっている。それだけに、今後輸出を 促進していくためにはこれら課題を早急かつ着実に打開し、改革・改善する諸対策の実行 が急務となっている。なかでも、当面の重点対策として次のような対策が求められている。

(

1

)国別・品目別輸出目標の設定とアクションプランの具体化

まず、基本的な対策としてわが国の農業及び食品産業

(

アグリビジネス

)

の振興・活性化に 寄与する実現可能で具体的な目標や計画の策定が求められている。

わが国において農産物の輸出促進が戦略的課題として位置づけられたのは、「日本再興戦

略」

(2013

6

月閣議決定

)

及び「農林水産業・地域の活力創造プラン」

(

同年

12

)

におい

てである。これまでは、どの国に誰が何をどのようにして輸出するかという明確な戦略の 策定が不十分であり、輸出対策はもっぱら事業者への輸出機会の提供等が中心を占めてい た。それ故、輸出の重点国や重点品目の設定も曖昧であった。

そこで、政府

(

農林水産省

)

は、

2013

8

月「国別・品目別輸出戦略」を策定し、公表した

(

図表

5-1

参照

)

図表5-1 農林水産物の輸出額の実績と目標額 (単位:億円)

品目 2012年実績 2016年目標 2020年目標 主な対象地域・国 戦略の概要 水産物 1,700 2,600 3,500

EU、ロシア、

東南アジア、

アフリカ

ブランディング、迅速な衛生証明書の発給 体制の整備など

加工食品 1,299 2,300 5,000

EU、ロシア、中東、

東南アジア、中国、

ブラジル、インド

2020年目標額の5,000億円の内訳は、

調味料類1,600億円、菓子類・清涼飲料水 1,400億円、レトルト食品等2,000億円で ある

コメ・コメ加工品 130 280 600台湾、豪州、EU、

ロシア

現地での精米や外食への販売、コメ加工品

(日本酒等)の重点化

林産物 123 190 250 中国、韓国 日本式構法住宅普及を通じた日本産木材の

輸出など

花き 83 135 150EU、ロシア、

カナダ、シンガポール

輸出の歴史が浅い、鉢ものや切り花の産地 間連携を通じたジャパン・ブランドの育成

青果物 80 170 250EU、ロシア、中東、

東南アジア

産地間連携等により、日本産青果物の多品 目周年供給の確立

牛肉 51 113 250

EU、米国、香港、

シンガポール、

タイ、カナダ、UAE

多様な部位の販売促進や高度な衛生条件を 満たす輸出認定施設の整備等の推進

51 100 150 EU、ロシア、米国 健康性のPRや、日本食・食文化の組み合

わせによる発信

(その他農林水産物

・食品の輸出品目を含む) 約4,500 7,000 10,000 -

-資料:農林水産省「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略(2013年8月29日公表)」を基に作成。

図表5-1 農林水産物の輸出額の実績と目標額 単位:億円

資料:農林水産省「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略(2013 年 8 月 29 日公表)」

を基に作成。

図表5-1 農林水産物の輸出額の実績と目標額 単位:億円

資料:農林水産省「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略(2013 年 8 月 29 日公表)」

を基に作成。

そして、重点

8

品目(水産物、加工食品、コメ・コメ加工品、林産物、花き、青果物、牛 肉、茶)毎に輸出の現状と直近の目標、そして

2020

年目標と対応方向について取りまとめて いる。これは、これまでの対策から見ると大きな前進である。とりわけ、重点輸出対象国 と品目を明確化したことは、国別・品目別の輸出対策を具体化していくうえで評価できる。

しかし、政府の提示した対策は

2020

年に農林水産物輸出額全体で

1

兆円規模という数値 目標が先行しており、これまでの実績や国内農林水産業の現状等から見て実現性や具体性 において懸念も大きい。特に、

2020

年目標額に対する牛肉

2012

年比

4.9

倍、コメ・コメ加 工品同

4.6

倍、加工食品同

3.8

倍、青果物同

3.1

倍等極めて高い目標を設定している14

国内農林水産業の振興・活性化の重点方策として農産物輸出が位置づけられる限り、そ の輸出戦略や目標はこれまで以上に注目されるが、実績や国内農林水産業の実態に即した ものであることが原則である。

同時に、実現可能な目標に沿った具体的な事業者支援、輸出環境整備等の対策が不可欠 である。言い換えれば、輸出促進のための具体的なアクションプランの策定が求められて いる

(

この内容は

(2)

以下で詳しく述べる

)

。とくに重点として位置付けた地域・国、品目別に どのような対策をどのように実施していくか、各対策の実施順序、重点のかけ方等をどう するのか等について実効性のあるきめの細かいプランの策定が求められている。

しかも、目標とアクションプランは策定して終わりではなく実行、実行成果や問題点の 検証、それを踏まえた目標・プランの改訂・見直し、再実行

(

いわゆる

PDCA

サイクル

)

の継 続が必要である。

以上が、輸出促進を確実に進める第

1

歩である。

(

2

)輸出推進のオールジャパン体制の確立

これまでのわが国の農産物輸出は、国家的戦略が欠落したままもっぱら産地や都道府県 単位で行われ、しかも輸出国は輸出しやすく商流が既に確立している国に集中する状況が 一般的であった。これを抜本的に変革する必要がある。今後は、「県・産地から地域

(

ブロッ ク

)

へ、地域からオールジャパンへ」を基本方向にすべきである。

現在の農産物輸出をめぐる国際的情勢や各国の対応から見ても、国内の各産地がバラバ ラに対応することはもはや許されない。早急にオールジャパン体制を確立することが強く 求められている。

そのためにも、「農林水産物等輸出促進全国協議会」と地域別輸出促進協議会等の拡充が 必要である。「農林水産物等輸出促進全国協議会」は

2005

年農林水産団体、食品産業・流 通関係団体、外食・観光団体、経済団体、

47

都道府県知事、関係省庁等が結集して設立さ れ、以後日本食海外普及功労者表彰、講演会、ニッポンの食親善大使任命等の活動を展開 しているが、その活動は十全とはいえない。また、各地域別の輸出促進協議会も相次いで 設立されているものの、その内実は関係諸団体の名前が揃っているだけで活動実績は今一 つの実態になっている。それだけに、オールジャパン体制の核づくりが急がれているが、

14 本田伸彰『農産物輸出の現状と課題』国立国会図書館、2014年を参照。

図表5-1 農林水産物の輸出額の実績と目標額 単位:億円

資料:農林水産省「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略(2013 年 8 月 29 日公表)」

を基に作成。

図表5-1 農林水産物の輸出額の実績と目標額 単位:億円

資料:農林水産省「農林水産物・食品の国別・品目別輸出戦略(2013 年 8 月 29 日公表)」

を基に作成。

やはり核として機能すべきは農産物の生産を担う農業関係機関・団体と加工・流通を担う 食品産業・流通関係団体の両者であり、この両者のコラボレーションが極めて重要になっ ている。

また、オールジャパン体制を構築していくためには、フランス食品振興会

(SOPEXA)

、米 国食肉輸出連合会

(USMEF)

、ノルウェー水産物審議会

(NSC)

のような品目別に輸出促進の司 令塔・マーケティングを行う品目別輸出団体の育成・支援が必要である。わが国において は重点

8

品目全てにおいて品目別輸出団体の構築が急務である。

(

3

)ジャパンブランドの構築とブラッシュアップ

オールジャパン体制の確立と並行してジャパンブランドの構築とブラッシュアップも重 要である。これまで、各県や各産地がバラバラに対応してきたため総体としてわが国が有 する社会的・経済的・文化的・歴史的優位性と輸出農産物とが連動していない場合が多く、

ジャパンブランドの確立は大幅に遅れている。それだけに、わが国の農産物が、社会経済 的のみならず日本文化、とくに食文化・生活文化の素晴らしさと連動し、裏打ちされてい るものであることを海外の人々に広く啓発し、共通認識にしていくことが大切である。お 茶に例をとると、単品としてのお茶の魅力だけでなく、お茶が日本の食文化・生活文化と 深くかかわっており、日本文化・日本の心を体現する農産物であることを啓発していく必 要がある。

このブランド化について、リンゴ、和牛、コメ、日本酒等はすでに素晴らしい日本産品 として一定の評価が確立しているのであえてジャパンブランドを追求する必要がないとい う指摘が一部であるが、こうした認識は一面的である。むしろ、これら品目こそまさに日 本の食文化・生活文化を代表するものであり、これら品目を核にして日本の食文化が形成 されていること、さらに栄養・医学的にも評価されている食生活が築かれていることを積 極的に打ち出していくべきであろう。

上記のことを踏まえたうえで地域ブランドの確立にも努めるべきである。わが国の豊か な歴史・文化、多彩で美しい自然、そのもとで培われてきた人情・もてなしの心はジャパ ンブランド一本では体現できない。地域の個性を活かした地域ブランドの出番であり、そ の役割は大きい。そのためにも、地域由来の農産物が地域ブランドとして通用するよう

EU

に倣って国が農産物・食品の「地理的表示」を保護するとともに、輸出先で模倣品が出回 らないようにしていく対策を講じていく必要がある。

また、わが国の農業技術力の高さ、とりわけ肥培管理や製品管理の先進性についても積 極的にアピールしていくべきである。

(

4

)輸出向け生産体制の構築~輸出対応型産地の形成~

農産物輸出を余剰農産物処理などというニッチな輸出ではなく、今後の農業振興・活性 化の戦略的課題として位置付ける以上、それに対応した生産体制の構築が不可避である。

農産物に限定するとコメ、青果物、花き、牛肉、茶といった重点品目毎に輸出対応型の産 地再編と形成を図り、持続性のある生産体制を構築していく必要がある。

関連したドキュメント