第5章 複雑地形上でのMM5の風況計算精度と超高解像度化に関する研究
5.5 考察
ここでは,5.4節で示されたMM5の風況計算精度と風力発電システム導入に関して一般的に 求められる精度との関係について考察し,その計算精度の中で更なる高精度化の必要性の有無 に関して検討する.
4章で用いた新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の風況計算精度・誤差評価手法8) に基づいて求めた,解像度333mでのMM5の風況計算精度を表5.3に示す.各観測点の値をまとめ
ると,平均風速の比は0.983〜1.137,変動係数の比は0.996〜0.999,相関係数は0.953〜0.960
という結果になった.NEDOの上式による各統計値の許容範囲は,平均風速の比と変動係数の比 が0.85〜1.15,相関係数が0.8以上であることから,解像度333mでの計算精度は,全観測点でこ のNEDOの基準を満たしていることがわかる.また,表5.2で示したように,通常用いられる相 関係数においても解像度333mでの相関係数はすべての観測点で0.8を上回っている.これらより, 少なくとも今回対象とした地点においては,MM5による解像度333mの風況計算は,工学モデルを 使うまでもなく,既に風況調査に十分な精度を有していると言える.
表5.3 NEDOの評価法に基づく風速の計算精度
美里① 美里② 芸濃① 芸濃② 平均風速の比 0.983 1.016 1.023 1.137 変動係数の比 0.998 0.996 0.999 0.970
相関係数 0.960 0.960 0.953 0.956
こうした状況を踏まえ,最後に,計算コストについて考察する.風況シミュレーションでは, 大領域から対象領域まで,ネスティングを用いて複数領域の同時計算を行うため,膨大な計算 時間が必要になる.図5.12は,同時計算を行う領域数によって計算時間がどの程度増えるかを 示したものである.テストに用いた計算機はXeon2.4GHz,1CPUのPC‑Linuxであり,ここでは1
日分の計算にかかる所要時間を比較している.図より,3kmの1領域計算では1日分の計算に2時 間,3kmと1kmの2領域同時計算では7.5時間を必要とすることがわかる.本研究で行った3km,1km および333mの3領域同時計算では1日分の計算に29時間を必要とした.つまり,同時計算をする 領域を1領域増やす毎に,約3〜4倍の計算時間が必要になる.そこで,MM5を用いて更に111mま で高解像度化した場合,1日分の計算には単純に考えて3〜4日の計算時間が必要になる.
5.4節の検討結果から,111mまで解像度を上げた場合に期待できることは,バイアスの改善 だけである.RMS誤差,相関係数には333mの段階で既に頭打ちの傾向が見られており,これ以上
の大幅な改善は期待できない.また前述のように,333mの計算精度は,風況シミュレーション
78 第5章 複雑地形上での仙5の風況計算精度と超高解像度化に関する研究
で求められる一般的な精度を十分に上回るレベルにある.さらに,111mまで解像度を上げた場 合,計算には実時間の3〜4倍の時間が必要となる.以上のことから考えて,111mの解像度で年 間計算を行うには明らかに費用対効果が低過ぎる.よって,MM5による風況計算においては,333m 程度の解像度が高解像度化の実質的な上限であると結論付けられる.
30
20
10
(L⊃○〓)匡普♯姦
1domain 2domains 3domains
領域数
図5.12 領域数に対する1日にあたりの計算時間
5.6
結語
本章では,本研究では,複雑地形上でのMM5の風況計算精度と高解像度化の限界に関する検 討を目的として,三重県山岳部を対象とした計算精度検証を行なった.得られた結論を以下に 列記し,本研究の結語とする.
1.MM5では地表面および大気境界層内の熱力学過程に起因する小スケールの気象現象を再現す ることが可能である.
2.年平均風速分布に見られる高解像度化の効果は,領域全体の平均風速が一定に保たれつつ, 微地形に対応した風速コントラストが明確になることである.
3.解像度3kmから333mへの高解像度化に伴い,風況計算精度は全ての統計値において向上す る傾向がある.
4.解像度333mの計算精度は,NEDOの定める精度基準を十分に上回るレベルにある.
5.解像度を1kmから333mへ上げる段階で,RMS誤差と相関係数については計算精度に頭打ち の傾向が見られる.
6.MM5による風況計算では,計算精度,計算コストの両面から,333m程度が超高解像度化の実 質的な上限である.
1)I)udhia,J.(1989):Numericalstudyofconvectionobservedduringthewintermonsoon
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2)I)udhia,J.(1996):Amulti‑1ayersoiltemperaturemodelforMM5,SixthAnnualPSU/NCAR
Mesoscale ModelUser's workshop,Boulder,CO,pp.49‑50.
3)Zhang,D.‑L.and R.A.Anthes(1982):A high‑reSOlution modelof the planetary boundarylayer‑SenSitivitytestsandcomparisonswithSESAME‑79Data,J.Appl.Meteor.,
Vol.21,pp.1594‑1609.
4)Burk,S.D.,andY.T.Thotnpson(1989):Averticallynestedregionalnumericalweather
prediction modelwith second‑Order closure physics,Mon.Wea.Rev.,Vol.117, pp.2305‑2324.
5)Janjic,Z.Ⅰ.(1990):The step‑mOuntain coordinate model:Physicalpackage,Mon.
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6)Hong,S.‑Y.andH.L.Pan(1996):Nonlocalboundarylayer verticaldiffusionin a medium‑range forecast model,Mon.Wea.Rev.,Vol.124,pp.2322‑2339.
7)Ballard,S.P.,B.Y.Golding,andR.N.B.Smith(1991):Mesoscalemodelexperimental
forecasts of the Haar of northeast Scotland,Mon.Wea.Rev.,Vol.119,pp.2107‑2123.
8)新エネルギー・産業技術総合開発機構(2003),「風力発電システム導入のための風況予 測手法に関する検討」(公開用)報告書,NEDO技術情報データベース,108p.