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賃金減額・不支給と女性差別の成否について

ドキュメント内 EU 性差別禁止法の展開 (ページ 100-191)

この点が、まず、1998年Boyle 先決裁定337で問題となった。同事件では、出産手当につ いて、産前産後休暇後に復職しない場合には法定額を超える額の返還をすることを同手当 の支給条件とする一方、他の一般疾病休暇手当の場合には復職しない場合でも返還義務が ないということが、女性差別か否かが争われた。先決裁定は、1996年Gillespie先決裁定な どによる性差別の定義を示したうえで[para.39]、妊娠・出産と疾病とは比較可能ではなく

[para.40]、労働者一般の疾病手当と異なっていても、出産手当について復職しない場合に は法定額を超える金額の返還を義務づける特別のルールの適用は、性差別ではないとした

[para.42]。妊娠・出産休業女性を一般疾病休業男性より不利益に取扱っても性差別ではな いという、この珍妙とも思える結論は、比較可能性差別モデルを妊娠・出産領域へ適用す ることの欠陥を露呈したものであろう。

これに対して、1998年Pederson先決裁定338は、上記Boyle先決裁定を事実上覆す判断を 示した。同先決裁定は、使用者が、妊娠・出産起因疾病による労働不能に対して社会保障 給付の受給を促して賃金を減額ないし不支給とした事案について、構成国法上は疾病によ る労働不能時には賃金全額支払いが義務づけられていることから、女性差別であると判示 した[paras.33-35]。

さらに、2005年McKenna先決裁定339により、このPederson先決裁定を補強する判断が示

された。同事件340では、妊娠に起因する疾病による産前休暇より前の欠勤について、他の 疾病による欠勤と同様に賃金を減額したことが、EC 条約旧 119条および1975年男女同一 賃金指令に違反するか否かが問題となった。先決裁定は、賃金減額は、妊娠以外の疾病に よる男性の欠勤の場合と同じ方法で取り扱われたものであり、また、支払い額が妊娠労働 者保護という目的を侵害するほど低いものでない場合には違法ではないと判示した

[para.50]。そして、妊娠・出産を理由とする解雇に関する対応と結論を異にする理由につ いて、解雇は使用者の解雇権を否定することによてしか対応できないが、賃金の場合は、

満額支払いが適応しうる唯一の方法ではなく、賃金減額という制度においても適応しうる と説明している[paras.57-62]。妊娠・出産休業者の処遇基準として、疾病休業男性の処遇 より不利益となることなく妊娠出産保護目的の侵害とならないという下限を設定したうえ で、使用者に課すべき妊娠・出産休業女性への配慮の範囲について、使用者の負担や社会

337 Case C-411/96, Boyle [1998] ECR I-6401.

338 Case C-66/96, Pedersen [1998] ECR I-7327.

339 Case C-191/03, McKenna [2005] ECR I-7631.

340 2005年McKenna先決裁定では適用法令も争点の一つで、裁判所は、病気欠勤中の賃金継続

支払いは「賃金」に該当し、1976年男女平等待遇指令ではなく、EC条約前141条・1975年男 女同一賃金指令が適用されると判示した。

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保障等も考慮して判断するという論理枠組みと考えられる。

さらに2010年Parviainen先決裁定341は、2005年McKenna先決裁定の判断枠組みを基礎と

しながら、より綿密な検討を求め、妊娠・出産保護時の賃金に関する減額の可否や程度は、

当該保護措置の性格や内容ならびに当該賃金の種類や性格を具体的に検討して、それに基 づき判断されなければならない旨を示した。この事件では、妊娠者の危険有害業務禁止に よる職種変更中の賃金減額が、母性保護指令に違反するか否かが問われた(なお、母性保 護指令に違反する行為は性差別に該当する。男女平等統合指令2条2項c号)。同先決裁定 は、同指令11条3項による「十分な手当の支払い」の保護は、転換前の全報酬の支払いを 保障するものではないが342、妊娠労働者の安全衛生保護という目的を侵害することは許さ れず、また、妊娠労働者が使用者に委ねられた労働と職務を現に遂行し続けている事実を 無視することは許されないとした。具体的には、ⅰ当該職務の前任者への支払い額より低 額とはできない、ⅱ職業的地位に関連する手当(例えば、年功や勤続・職業資格に対する 手当)を受ける権利は継続し、他方で、特定の職務の遂行に対する手当の支払いは義務づ けられないと判示した[paras.30-61]。

そして、上記Parviainen先決裁定と同日に同一裁判部により判示されたGassmayr先決裁 定343では、上記の手当の種類・性質により不支給の可否を判断するという考え方を、産前 産後休暇取得者の場合にも適用した。すなわち、妊娠による産前産後休暇中は不支給とな ったオンコール出勤手当については、支払われる総額が母性保護指令の規定する最低保障 を上回っているならば、不支給は許されると判断した[paras.77-91]。

(3) 産前産後休暇取得と昇格要件としての勤続期間の算定方法

2004年Sass先決裁定344は、構成国法が母性保護指令の規定(14週)を上回る産前産後休 暇期間を定めている場合、休暇が強制か任意かを問わず、指令の規定を上回る休暇期間に ついて、それを昇格要件である勤務期間日数に算入しないことは、男女平等待遇指令違反 の性差別となると判示した[paras.32-59]。また、2006年Herrero先決裁定345も、有期公務 員が期間の定めのない職に登用されたが産前産後休暇取得のため実際の着任は遅れた事案 で、期間の定めのない職の勤続年数算定にあたり、産前産後休暇期間の不算入は、男女平 等待遇指令違反の性差別にあたるとした[paras.37-47]。

(4) 産前産後休暇取得と他の休暇取得との関係

2004年Gómez先決裁定346では、産前産後休暇期間と年次有給休暇取得可能期間が重なっ

た場合の取扱いが争点となった。先決裁定は、年次有給休暇を現実に取得しうることが重

341 Case C-471/08, Parviainen [2010] ECR I-6533.

342 先決裁定は、減額が可能な理由として、ⅰ同指令11条1項は “the pay”でなく“a pay”の 継続を規定、ⅱ同指令11条1項・4項で国内法に手当受給資格等の取扱いを委ねている、ⅲ先 例が職務の性質・労働環境を賃金格差の正当化要素としたこと、を挙げている[paras.50-52]。

343 Case C-194/08, Gassmayr [2010] ECR I-6281.

344 Case C-284/02, Sass [2004] ECR I-11143.

345 Case C-294/04, Herrero [2006] ECR I-1513.

346 Case C-342/01, Gómez [2004] ECR I-2605.

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要であること、上記両休暇は目的が違うこと、妊娠・出産に関する女性の配慮(保護)規 定が女性の労働条件に関して不利益な取り扱いを生じさせえないことを指摘し、1993 年労 働時間指令7条1項347、母性保護指令11条2項a号、男女平等待遇指令5条1項により、

労働者は、出産休暇以外の期間に年次有給休暇を取得できると判示した[paras.28-41]。

また、2003年Busch先決裁定および2005年Com. v Luxembourg判決では348、いずれも子 の両親休暇中に次子を妊娠ないし産前産後休暇が開始する場合の取扱いが問題となった。

前者は、使用者が、次子を妊娠し産前産後休暇開始が予定されること理由に前子の両親休 暇の短縮・職場復帰許可を撤回することは、妊娠を理由とする直接性差別であり男女平等 待遇指令2条1項に違反するとした[paras.39-44]。また、後者では、次子の産前産後休暇 開始を理由として前子の両親休暇を当然終了させ短縮分の延長を認めない構成国法につい

て、前記Gómez先決裁定を引用しながら、両親休暇と産前産後休暇は目的を異にし、両親

育児休暇指令に反すると判示した[paras.32-34]。

第3節 EU法における妊娠・出産に関する直接性差別禁止法理の特徴 1 妊娠・出産に関する直接性差別禁止法理の到達点

(1) 規範内容に関する到達点の概要

以上に述べてきたように、EU法は、妊娠・出産に関する不利益取扱いを直接性差別とす る法理を生成した。この法理について、2005年McKenna先決裁定は、それまでの判例法理 をつぎのように整理している[paras.41-62]。

ⅰ 妊娠・出産に関して、男女平等に関するEU法ルールは、出産前後の女性の保護をその 目的とする。

ⅱ 妊娠・出産起因疾病およびそれに基づく就労不能は、妊娠に内在するリスクであり、

妊娠の具体的特徴の一つである。

ⅲ 妊娠から出産休暇の終了までは特別の保護ルールが適用され、出産期間終了後は一般ル ールが適用される。

ⅳ 妊娠から出産休暇の終了まで、妊娠・出産(妊娠・出産起因疾病)による不就労を理 由とする解雇は、直接性差別である、

ⅳ 妊娠・出産による不就労時の賃金は、男性の疾病による不就労と同じ方法で取り扱わ れ、また、支払額が妊娠労働者の保護という法目的を侵害するほど低くない限り、賃金 を減額しても性差別にはならない。

このMcKenna先決裁定の整理は、現在に至る妊娠・出産差別法理の基本的規範内容の到

達点を示すものである(なお、その後の先決裁定でより判断が緻密化されていることは前 述した)。その整理に沿って、若干の補足を加えつつ、妊娠・出産差別法理の到達点を確 認しておこう。

347 労働時間指令(93/104/EC)において年次有給休暇付与を保障した規定。

348 Case C-320/01, Busch [2003] ECR I-2041; Case C-519/03, Com.v Luxembourg [2005] I-3067.

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