広島県薬剤師会誌第206号(平成18年11月)において貧血の分類についてご紹介いたしましたが、今 回はその続きとして、貧血の診断に用いられる赤血球系の一般検査値についてまとめてみました。
検査項目
基準値 概 要 異常値を示す疾患例
赤血球数
(RBC)
男性:430〜570万/μL 女性:380〜500万/μL
・貧血や多血症の診断に用いられる。
・Hb、Htとともに、赤血球数からMCV、MCHCなどの赤血球 恒数を算出し、貧血の病態分類を行う。
・一般に男子は女子よりも高い。
特に生殖年齢に達する女子では月経のため男子よりも低く なる。
・新生児は約550万/μL程度で、その後徐々に減少して幼児期 には成人並みの値となる。
・高齢者ではさらに低値となり、70歳以降は男女とも平均410 万/μL程度の報告がある。個人差も大きい。
・採血部位差では耳垂など末梢血で10%高くなることがある。
動静脈間の差はあまり問題とならない。
・採血時に抗凝固剤EDTAとの混和が不十分であると、検体 が凝固してしまうばかりでなく、測定不能や著しく低い値 をもたらすため、充分な攪拌が必要である。
高 値
脱 水 状 態 、 二 次 性 多 血 症
(高地居住者、慢性呼吸器 疾 患 な ど )、 真 性 多 血 症 、 ストレス多血症
低 値
すべての貧血
ヘモグロビン
(Hb)
男性:13.5〜17.5g/dL 女性:11.5〜15.0g/dL
・赤血球中の血色素であり、グロビンとヘムが結合した複合 蛋白体。
・酸素の運搬を担う。
・一般的に、朝食後に最高値を示し、夜間睡眠中は最低値に なる。
・高地住民や長く高地に滞在した者は、平地住民に比べて血 色素量は増加する。
・新生児は19.5±5g/dLで、その後急速に低下し生後6カ月ご ろで12.0g/dL前後となる。
・5歳位まではこの値で推移し、15歳位まで徐々に増加し、
成人とほぼ同じ値になる。(男女差が生ずるようになる)
・男子は21〜25歳くらいが最も高く、以後年をとるごとに低 下してくる
・女子では大きな年齢的差異は認められず、一般に男子より やや低値を示す。
・高齢者では男女とも低値傾向を示す。
高 値
脱水、二次性多血症、真性 多血症、良性多血症、スト レス多血症、高地居住者
低 値
すべての貧血
ヘマトクリット値
(Ht)
男性:39.7〜52.4%
女性:34.8〜45.0%
・血液中に占める赤血球の全容積をパーセントで表現した値 である。
・HtとHbの比は3:1である。
・貧血症例でHtは低値となるが、RBCとHbおよびHtは必ずし も並行せず、病態によって異なる動きを示す。
したがって、Htと赤血球数からMCVを算出し、正球性・小 球性・大球性貧血の鑑別を行う。(中高年以上で原因不明の 正〜小球性貧血の場合は、消化管等の悪性腫瘍他を疑い、
精査を行うべきである。)
・採血時に充分量がとれずEDTAと混和する血液量が少ない 場合、赤血球は萎縮してHt値はみかけ上、低い値を示す。
高 値
脱水、二次性多血症、真性 多血症、新生児
低 値
すべての貧血
平均赤血球容積
(MCV)
85〜102fL
・赤血球の大きさの指標となる。
(小球性、正球性、大球性の判定)
MCV=Ht(%)×10/RBC(106/μL) 高 値
[大球性貧血(MCV高値)]
巨赤芽球性貧血(悪性貧血、
葉酸欠乏性貧血)、肝障害
低 値
[小球性貧血(MCV低値)]
鉄欠乏性貧血、鉄芽球性貧 血、サラセミア、無トラン スフェリン血症
[正球性貧血(MCV正常)]
溶血性貧血、急性出血、二 次性貧血(腎性貧血、内分 泌疾患)、骨髄低形成(再 生不良性貧血、赤芽球癆)、 骨髄異形成症候群、白血病
血清鉄
(Fe)
男性:50〜200μg/dL 女性:40〜180μg/dL
・貧血の病態把握のための基本的検査。
・鉄は赤血球のHbを構成する元素で、欠乏すると小球性貧血 をきたす。
高 値
再生不良性貧血、巨赤芽球 性 貧 血 ( 赤 芽 球 造 血 の 低 下)、鉄芽球性貧血(ポル フィリン環形成不全)ヘモ ク ロ マ ト ー シ ス 、 肝 硬 変
(貯蔵鉄量の著増)
低 値
鉄欠乏性貧血(体内総鉄量 の減少)、真性多血症(赤 芽球過形成:需要の増大〉、 症候性貧血〈悪性腫瘍、感 染症、膠原病など:鉄の体 内分布異常〉
貧血検査と血清フェリチンによる貧血の診断
Hb:ヘモグロビン N:正常 (臨床検査ガイド1999-2000より)
Hb量 平均赤血球
容積(MCV)フェリチン値 疾 患
↓ ↓ ↓ 鉄欠乏性貧血
↓ ↓ ↑
慢性疾患の貧血(慢性関節リウマ チなどの膠原病、結核などの慢性 炎症、悪性腫瘍など)
↓ N N 急性出血による貧血、溶血性貧血
↓ N ↓ 発作性夜間ヘモグロビン尿症
↓ N ↑ 再生不良性貧血などの頻回輸血時
鉄代謝からみた鉄欠乏性貧血と症候性貧血との鑑別
(臨床検査ガイド1999-2000より)
貯蔵鉄値
(フェリチン) 血清鉄値 TIBC トランスフェリ ン鉄飽和率(%)
鉄欠乏性貧血 著減〜欠失 著減 著増 5 症候性貧血 正常〜増加 減少〜著減 減少 15
正常 正常 正常 正常 35
鉄欠乏状態の重症度に対応する血清フェリチン、血清鉄、
総鉄結合能などの変化
男性:18.6〜261ng/dL 女性:4.0〜64.2ng/dL
可溶性蛋白。トランスフェリンとの間で鉄のやり取りを行 なって、血清鉄の値を適切に維持する。
・鉄の貯蔵状態を反映し、各種血液疾患の病態把握に有用。
・血中フェリチン濃度低下の原因でもっとも一般的なのは鉄 欠乏である。
正常成人の鉄貯蔵量はおおよそ1000mgであるが、貯蔵鉄の 減少と共にフェリチンも減少する。逆に鉄過剰状態でフェ リチンは増加し、フェリチン鉄が凝集して不溶性のヘモジ デリンを形成する。
・フェリチンは慢性炎症性疾患などにみられる網内系への鉄 貯留や、肝炎などの細胞破壊による血中への逸脱などによ り上昇する。
・悪性腫瘍などでフェリチン産生亢進がみられることがある が、腫瘍マーカーとしての感度、特異度は低い。
・女性は月経により鉄を失うため貯蔵鉄が少なく、フェリチ ン値は男性より有意に低い。(加齢により上昇する傾向があ り、閉経後は男性の値に近づく。)
・輸血や鉄剤投与はフェリチン値を上昇させるので留意する 必要がある。
高 値
ジデローシス(貯蔵鉄の増 加)、炎症性疾患、悪性腫 瘍、ストレス、肝炎、心筋 梗塞、薬剤など(組織の崩 壊)
低 値
鉄欠乏性貧血(慢性消化管 出血、子宮筋腫、痔、妊娠、
思春期など:貯蔵鉄減少)、
消化管病変(潰瘍、腫瘍な ど:低蛋白血症)、真性多 血症(赤芽球過形成)
トランスフェリン
(Tf)
190〜320mg/dL
・主に肝臓で産生され、鉄を運搬する血漿蛋白。
・血清中では鉄と結合して生体内の種々の組織へ鉄を輸送す る役割を持つ。
・血清での鉄はすべてTfと結合している。
貯蔵にはヘモジデリンとフェリチンが関与している。
・1分子のTfはFe3+2原子と結合し得る。
正常ではTf1分子の約1/3が鉄と結合しているため、さら に血清鉄濃度の2倍量と結合し得る能力(不飽和鉄結合能)
を保有している。
・Tfは貯蔵する鉄が減少するに従い増加する。
妊娠時には貯蔵鉄の枯渇により、その値は単純な鉄欠乏性 貧血以上に高値となる。逆に貯蔵鉄が増加した場合(ヘモ クロマトーシスなど)、Tfは低下する。
また各種の悪性疾患、炎症、造血能低下状態、肝硬変症な どでは肝での産生低下のため減少し、ネフローゼ症候群や 蛋白漏出性胃腸症では体外への喪失に伴い低下する。
・Tfは主に肝臓で合成されるので、慢性肝疾患では減少し、
尿中等への喪失でも減少する。(これに伴いTIBCやUIBCも 低下する。)
・γ-GTPよりも長期間のアルコール多量摂取のマーカーとし て注目されている。アルコール依存症患者の血中には、糖 鎖末端にシアル酸、ガラクトース、GlcNAcなどを欠いたTf の比率が高く、糖鎖欠損Tfと呼ばれる。
高 値
鉄欠乏性貧血(Tfの反応性 増加?)、真性多血症、急 性肝炎(肝細胞からの逸脱 による)、妊娠中期・後期
低 値
肝硬変、慢性骨髄性白血病、
ネフローゼ症候群(尿中へ の喪失による)、悪性腫瘍、
無トランスフェリン血症
総鉄結合能
(TIBC)
男性:270〜425μg/dL 女性:270〜440μg/dL
・Tfの全結合能を示す。
・赤血球ヘモグロビンの原材料である鉄の血中総運搬能がわ かる。TIBC=Fe+UIBC
・TIBCは血中Tf量とよく相関する。
鉄欠乏性貧血では増加するが、その他の原因で増加するこ とは少ない。
Tfの体外への喪失や合成低下のみられる病態(ネフローゼ 症候群、蛋白漏出性胃腸症、肝障害、低栄養状態などでは 低値になる。
・特発性ヘモクロマトーシス(鉄の吸収過剰で、全身臓器に 鉄が沈着する)では、鉄結合能は飽和状態となりTIBCが低 下し、UIBCは0に近くなる。
時にはTf飽和度は100%を超える値をとり、これは血清中の Tfがすでに鉄で飽和しているのみならずTfに結合していな いフリーな鉄が血清中に存在することを意味する。
・TIBCや血清鉄の値が異常の場合には貯蔵鉄の指標であるフ ェリチンの測定が有用である。
TIBCが高値でフェリチンが低値の場合は鉄欠乏性貧血を、
血清鉄、フェリチンが共に高値の場合は鉄過剰症を示す。
高 値
鉄欠乏性貧血、真性多血症、
潜在的鉄欠乏状態
低 値
肝疾患、低栄養状態(Tf生 合 成 低 下 )、 症 候 性 貧 血
(悪性腫瘍、感染症、膠原 病 な ど : T f の 体 内 分 布 異 常 )、 ネ フ ロ ー ゼ 症 候 群
(Tfの体外喪失)