第 4 部 :多元的ガバナンスの枠組みにおける
8. 調査結果のまとめ
都市や自治体が担うエネルギーヴェンデ(エネルギー大転換)の鍵としての役割は、将来 的にこれまでにないほどが大きくなってゆく。自治体は、自身の都市公社があれば、地域の エネルギー供給を環境や気候にやさしい形に変えていくための大きな交渉力を得ることが出 来る。そのため現在のエネルギー業界では都市公社新設ブームが特徴となっている。ドイツ 全体で
2005
年以降に電力分野で約70
の都市公社・村公社が設立された。2014年までに新 たに50
の都市公社が設立される見込みであると自治体企業連合(VKU
)はそのウェブサイ トで述べている。ヴッパータール研究所の評価によれば、再公有化を行う理由となっている 最も重要な目標は、エネルギーヴェンデの進展と共にすべて到達可能となる。この調査には、内容的に
2
つの重点がある。1点目は、2005年以降に新設された都市公 社の実態調査で、2点目は、再公有化における10
の最重要目標が、どの程度に到達可能で あるのかについてである。実態調査では、ヴッパータール研究所は合計
72
件の都市公社新設を調査した。多くの場 合、自治体はエネルギー経済的な転換プロセスおよびに経済的な付加価値創出プロセスへの 影響力を強めることを目的に、都市公社や村公社を設立している。そこでは、しばしば既存 の配電網営業会社に対する不満が大きな役割を果たしている。長年に渡り、元の配電網営業 会社の(全く不十分な保守、維持管理、更新作業により)ボロボロになった地域配電網によ って自治体が苦しめられてきた事例が見られる。報告された事例において最もよく見られた都市公社新設の契機は、配電網営業権契約の終 了である。今後も
2016
年までに多くの地域配電網・ガス供給系統の営業権契約が終了する ため、ヴッパータール研究所は、今後も2
年間にわたり都市公社設立の波は続くと見ている。地図に示されるように、ここ数年の都市公社新設には地域的な偏りが見られる。特にバー デン・ヴュルテンベルク州、とりわけ黒い森地域、シュトゥットガルト都市圏、ボーデン湖 周辺の3つの地域(クラスター)の都市と自治体が目立って活発である。
図29:都市公社新設の動きの地理的分布(クラスター)
これに、ノルトライン・ヴェストファーレン州とニーダーザクセン州の自治体が続く。
ドイツ全土の地図を見れば、都市公社の新設には明らかに東西格差があることが一目瞭然で ある。判明している設立のほとんどが、旧西ドイツ地域内に集中している。旧東ドイツ地域 では、1992年の「電力和解」102を契機として
20
年前に大規模な都市公社設立と再公有化の 動きがあった。地域的な偏り、クラスターの成立から、以下のことが言えそうだ。周辺自治 体の成功経験と隣接地域の都市公社設立と再公有化の成功例が、ポジティブな波及効果を生 み、多くの都市や周辺自治体でこの事業に積極的に参入するための態勢を整えた。しかし多くの自治体で、自身の手で成功裏に都市公社を設立し、配電網を買い戻した後に、
小売り部門の構築と末端顧客の獲得については、以前の配電網営業会社の攻勢によって苦戦 している。なぜなら、以前の配電網営業会社は頻繁に、配電網営業権を失った地域では電力 を近郊自治体と比べて明らかに安い価格で販売するなど、新しい都市公社の販売部門を値下 げ攻勢で狙い撃ちしているからだ。連邦裁判所は、このような新設の都市公社の販売部門を 狙った値下げ攻勢を、すでに
2010
年に公正取引に違反しているという判決を下している。2
つ目の重点である目標の到達可能性の評価において、ヴッパータール研究所は、エネル ギー分野の再公有化における10
の最も重要な目標を検証した。そして全ての目標が到達可 能であると判断した。自治体は自ら都市公社を所有することで、電力と熱分野における地場 の省エネのポテンシャルをもっと活用し、自治体内の再エネ利用を強化し、分散型のコージ ェネレーション設備の建設を迅速に進めていくチャンスを得られる。また、これに紐付けら れる自治体の経済的、財政的な目標も到達可能である。ヴッパータール研究所のこの評価は、科学・実践領域において専門的実績を持つ
6
人の専門家の評価によって裏付けされている。そのため、このスコーピングスタディは都市と自治体に対して以下の点を推奨する:
1.
再公有化によって、自治体内で多くのエネルギー経済、地域経済にとっての機会が生 まれる。都市や自治体は、これを地域のエネルギーヴェンデ(エネルギー大転換)の アドバンテージや地域社会への貢献として活用すべきである。2.
エネルギーの高効率利用、再エネ、分散型コージェネレーション分野における技術発展が、原発と石炭に頼らない地域エネルギー供給のための多くの新しい経済的オプシ ョンを可能にする。
3.
自治体政策の意思決定者は、再公有化に反対する人々やそれに否定的な専門家の意見 を受けて拙速に諦めるべきではなく、それよりもむしろ、辛抱強く、一貫して取り組 むべきである。4.
同時に、再公有化の複雑性を考慮して、周到で綿密に準備を整え、(法または電力事 業に詳しい)外部の専門家を引き入れる必要がある。5.
構想的な計画策定と、地域のエネルギーヴェンデや横断的な環境・気候保全目標に見 合った企業戦略によって、都市公社・村公社はエネルギー供給の戦略的な新規構築の 原動力の役割を担うことができる。その他にも、ここでは既存の配電網営業会社の配電網営業権契約終了後の策略行為を挙げ てきた。そして、それに対する自治体政策の実務にとって有用な多くの対策の提案を取りま とめた。
ヴッパータール研究所は、このスコーピングスタディを、何よりも自治体レベルの政策決 定者に向けた助言や支援であると考えている。そのためこの調査結果は、現時点の客観的な 情勢について情報を提供し、意思決定者に示唆をもたらし、賛否両論の再公有化についての 議論を客観的に俯瞰することに貢献するはずだ。
102 訳注:1992年12月22日連邦憲法裁判所は旧東ドイツの自治体に電力事業に従事する都市公社の設立と営
業活動を認める内容の判断を示した
日本の政策決定者、自治体の行政、企業や
NGO
に対して、この調査はドイツの再公有化 の波が、2005
年以降どのように推移してきたのかを説明している。さらに、ドイツのエネ ルギーヴェンデ(エネルギー大転換)の文脈の中で、再公有化によってどのようなチャンス とリスクがあるのかを示した。これが、日本のステークホルダーにとって刺激や、モチベー ション、力添えとなり、自国において成功する都市公社設立を計画して頂ければ幸いである。この調査の執筆者は、将来的には日本の都市公社もまた、より持続可能でリスクの少ないエ ネルギー供給への構造転換を推進する中心的存在になり得ると確信している。いずれにせよ 都市公社は、ノーベル賞受賞者の故エリノール・オストロム氏も盛んに訴えてきたように、
(多中心的な)多元的ガバナンスという文脈における民主化と自治体の地方自治の強化に貢 献するものである。自治体による再生可能エネルギーの強力な拡張のための戦略、そして地 場でのエネルギー利用の高効率化や分散型コージェネレーションの設置拡張のプロジェクト によって、地域の気候保全政策も促進される。これは「地球規模で考え、地域レベルで行動 する」という成功のための処方箋に通じる。加えてこれらの対策の推進により自治体と地域 の経済循環が強化され、その結果として地域の収益と雇用の向上に貢献する。つまり再公有 化戦略は、都市に対して多様なレベルで同時にウィン=ウィンとなる状況を実現するための 大きな機会をもたらす。これらすべてにおいて、日本であれドイツであれ、継続的な改革・
変化のプロセスを通じてエネルギー供給の状況を更に発展させるために、昔から定評のある 日本の「カイゼン」の知恵が有効である。