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調査研究事項

ドキュメント内 第1章 調査研究の概要 (ページ 120-142)

自動運航船( MASS )の国際的動向について

(公社)日本海難防止協会 企画国際部国際室長

黒原 雅央

1 IMOでの動き

海事の世界においても技術は日々進歩しており、近年、自動運航船舶(Maritime Autonomous Surface Ship : MASS)の研究及び実験が実用化を見据えて進められている。

この動きは、19 世紀中ごろに帆船から汽船へと技術革新が行われた様に、海事関係者にと って一つの大きな変革になるものである。

2017年6月に開催されたIMO第98 回海上安全委員会(MSC98)では、日本を含む9 カ国から、現行の安全に関する国際ルールは自動運航船を念頭においたものではなく、その まま適用することは適当でないとして、規則の改正の要否、新たに必要となる基準等につい て IMO で検討(スコーピング・エクササイズ)すべきとの提案がなされた。審議の結果、

2018年~2019年の2ヵ年計画に含めること及び目標完了年を2020年とすることが合意さ れ、MSCの議題として取り扱われることとなった。

これを受けて、2018年5月に開催されたMSC99では、スコーピング・エクササイズを 目的として、暫定的ではあるもののMASSの定義が合意された。

MASS全体の定義としては、「自動運航船(MASS)は、様々な程度で、人間の相互作用 から独立して操作できる船舶」と定義され、自律化のレベルが考慮される内容となった。

また、自動化のレベルについても次の4つが定義された。

<IMOにおける自動化のレベル(暫定)>

〇 自動化プロセス及び意思決定支援船

幾つかの作業は自動的に行われることもあるが、搭載されたシステムや機能を操作 又は制御するために船員が乗船している

〇 遠隔操縦船(船員の乗船あり)

船員は乗船しているが、船の制御や操作は別の場所から行われる 〇 遠隔操縦船(船員の乗船なし)

船員は乗船しておらず、船の制御や操作は別の場所から行われる 〇 完全自動化船

船のオペレーティング・システムにより判断と行動決定が可能

用される可能性についても注目された。これは、出入港の際には人が操作し、沿岸では遠隔 操縦、外洋では完全自動化といった複数のレベルでの運用が考えられるためである。

MSC99の後、これらのレベルに応じた規制について検討するため、通信部会(コレスポ

ンディング・グループ)が設定され、メールベースでの検討が進められた。

2018年12月に開催されたMSC100ではこの通信部会の報告を元に、具体的なスコーピ ング・エクササイズの手法について議論が行われた。その結果、第一段階として2019年9 月頃を目処に、自動運航船の運航を妨げる、若しくは修正・確認が必要となり得る現行IMO 規則の特定を行ない、その後、第二段階として2020年5月に開催予定のMSC102までに、

それら規則の改正、新規作成等の具体的な方策を検討することが合意された。

2 MASSの開発動向

現在各国、特に欧州で活発に自動運航船に関する研究・開発が行われている。2018年 6 月にはアムステルダムにおいて、これら各国の造船企業や海事研究機関、機器メーカー等が 参加した自動運航船に関するシンポジウム(Autonomous Ship Technology Symposium 2018)が開催された。

シンポジウムでは世界中の専門家から最新の研究・開発成果が発表されるとともに、パネ ルディスカッションが行われた。本稿ではこのシンポジウムで発表された内容も含め、紹介 をさせて頂く。

(1) AAWA-Advanced Autonomous Waterborne Applications Initiative

AAWAは2015年3月に開始されたMASSに関する産学協同のプロジェクトである。

ロールス・ロイスが主導し、トゥルク大学、インマルサット、フェリー会社等が参画し、

商業的な遠隔操縦船の技術開発を目的として進められている。フィンランドの公的機関 Finish Funding Agency for Innovation の基金支援を受けており、総予算規模は約650 万ユーロである。

研究分野としては、センサー類や遠隔操縦装置といった技術面、遠隔操縦オペレータ ーへの負荷といった新たなリスクの評価を含めた安全対策といった MASS 自体の研究 を行なう一方で、実際に自動運航船が登場した際の法律面での問題や海事分野全体に与 える影響といった、MASSの登場による社会やビジネスモデルモデルの変化についても 研究を行っている。

(2) MAXCMAS - MAchine eXecutable Colregs for Marine Autonomous Systems

MAXCMASは2015年から2017年にかけてAAWAと同じく、ロールス・ロイスが主 導して実施されたプロジェクトである。英国政府の資金援助機関であるInnovate UKか

を行なった。

MAXCMASはその研究の中で、COLREGを準拠するための課題をいくつか挙げてい

る。第一に COLREG がそもそも有人船を前提に策定されたものであり、プログラム化 や自動化が容易でないとしている。また、主観的に策定されているという点である。例 えば、避航動作について、ためらわず、明確に、余裕のある時期(positive, obvious, good time)にといった内容があるが、その程度については人によって多様な解釈が可能であ り、一様なプログラムにすることが困難である。更には所謂、船員の常務(グッド・シ ーマンシップ)が強調されているが、グッド・シーマンシップには定義が無く、曖昧で あるという点も指摘している。

もう一つの問題は、海上で遭遇する全ての船が、グッド・シーマンというわけではな

く、COLREGに従わない行動を行う船も現実には存在し、ルールのみに縛られていては

適切に衝突を回避できない場合があるという点である。

マキシマスの研究成果として、H-MOPSO と呼ばれる衝突回避アルゴリズムを開発 している。これは船や障害物といったターゲットに優先順位をつけて処理することで、

視界制限状態や複数の船舶間における責任の競合にも対応するものである。

また、必要に応じてルール、COLREGからの逸脱も可能としており、仮に避航船が適 切な行動をとっていなくても、保持船という立場を逸脱し衝突を回避することが可能で ある。

(3) YARA Birkeland

具体的な商用利用に向けて、開発を進めているのが、ノルウェーで行われているヤラ・

ビルケランである。ノルウェーの大手肥料メーカー、Yara Internationalが2017年に開 始した世界初の商用MASSかつ、完全電動化のコンテナ船プロジェクトである。開発は 同じくノルウェーのKongsbergが行い、建造費は約2,500万ドルであり、そのうち1,590 万ドルはノルウェー政府による支援によるものである。

現在Yara Internationalは、工場から輸出港までの製品輸送をトラック輸送で行って いるが、慢性的な渋滞の解消や排出ガスの削減するため、本船へと輸送手段を移行させ る予定にしており、MASSのみならずゼロ・エミッション化をコンセプトとしたプロジ ェクトとしても、開発が進められている。運航ルートはノルウェー南部沿岸の領海内で、

3港間の計37マイルを結ぶ予定としている。また、船舶の運航だけでなく、コンテナの 搭載や着岸も自動で行うべく開発を進めている。

YARA Birkelandは、全長約80m、載貨重量3,200t、積載量120TEUのコンテナ船 であり、完全電動化のMASSとなる予定である。7-9MWhの搭載バッテリーからの動力 供給で2基のアジマス・ポッドを使用して航行する。

れた後、2020年にYara Internationalに引き渡され、徐々に人が乗船しての運用から完 全自動化へと移行していく予定となっている。

(4) ONE SEA - Autonomous Maritime Ecosystem

MASSの運用については、海上の船体自体のシステムだけでなく、物流管理や港湾シ ステムの開発、更にはAI やIoTといった技術の応用も見込まれており、その影響は海 運業界全体に及ぶものである。

2016 年から開始された ONE SEA プロジェクトでは、ロールス・ロイス、ABB、 WÄRTSILÄ といった多くの企業が参加し、2025 年までにMASS に適したビジネス環 境、所謂エコシステムの構築を目指して研究を進めている。

研究のタイムラインとしては、2020年までに完全な遠隔操縦船を開発し、2023年か ら段階的な自律船を経て、2025年にMASSの商業交通を開始するという計画を立てて いる。また、MASS関連技術を検証するためのテスト海域をフィンランド沿岸に設定し ており、このエリアはMASSを研究する企業の実証試験向けに開放されているとのこと である。

ONE SEAの参加企業であるWÄRTSILÄ社は2018年1月から4月にかけて、ノル ウェーのフェリー会社協力の下、世界で初めてフェリーの自動着桟試験を成功させてい る。この試験は、全長85mのフェリーを用いて、埠頭から約2,000m離れた位置でシス テムを起動した後、自動で減速し着桟を行うものであり、着桟後は、同様に離桟も自動 で行うというものであった。

また、2017年8月には、アメリカのサンディエゴに設置されたコントロールセンター

から、約 8,000km離れたイギリスのアバディーン沖を航行する貨物船の遠隔操縦試験

にも成功している。この際、遠隔操縦のコマンドは衛星回線を利用して送信され、4時間 に渡り操縦試験が行われた。

(5) Re-Volt

ノルウェーとドイツの合併船級協会であるDNV-GLは、陸上輸送の渋滞やコスト削減 のため、海上輸送へシフトしていくことを目指し、2013年から無人かつ排出ガスのない ゼロ・エミッションの研究プロジェクトとしてRe-Voltを進めている。

Re-Voltのデザインとしては、ヤラ・ビルケランと同じく、バッテリー供給によるアジ

ポットでの推進としており、輸送量は100TEU、オスロとトロンハイム間の8港を結ぶ 計画としている。2015年からは20分の1スケールモデルを用いて、自律機能のテスト を3年掛けて実施中である。

ドキュメント内 第1章 調査研究の概要 (ページ 120-142)