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本調査研究では、市区町村又は保健所単位で地域協議会を組織し、ジェネリック医 薬品の使用促進に取り組んでいる3地域(千葉県野田市、兵庫県篠山市、福岡県福岡 市)を対象に、ジェネリック医薬品の使用促進策の内容、その効果等に関するヒアリ ング調査を実施した。

各地域とも、地域の医師会や歯科医師会、薬剤師会、基幹病院の薬剤部、薬局等の 医療関係者によって会議体が組成され、ジェネリック医薬品の使用促進に係る具体的 な課題を共有しながら、その解決策を検討していた。

このような地域レベルでの協議会のメリットとして挙げられるのが、病院薬剤部と 調剤薬局との薬薬連携をはじめとして、医師や歯科医師、薬剤師等の職能を超えた「顔 と顔の見える関係」が構築される点にある。

そもそも、いずれの地域も、医師、歯科医師、薬剤師等の医療関係者が合同して何 らかのテーマについて協議する場はあまりなく、処方側の医師・歯科医師と調剤側の 薬剤師が日常業務以上にコミュニケーションを図ることも少なかったと考えられる。

このことは、病院の薬剤師と薬局の薬剤師との間でも同様であった。また、そもそも ジェネリック医薬品に限らず、医薬品をテーマとした研修会等は薬剤師会が単独で開 催されているものが多く(テーマについては、製薬メーカー協賛のもとでの新製品に 関する情報提供等も多い)、医師や歯科医師が参加してそれぞれの職能の立場からジェ ネリック医薬品について意見を述べ合う機会はなかった。

そのため、今般の地域協議会は、行政(市区町村)が国の医療関連施策や制度改革 の動向をはじめとして、国民健康保険の財政状況等、国民医療費の状況やジェネリッ ク医薬品の使用促進のために実施している施策(差額通知事業、各種広報事業)につ いて、現場の医療関係者に直接説明できる場となり、医療関係者側では、従来から感 じているジェネリック医薬品に対する不安・不信感や、薬局のジェネリック医薬品の 在庫管理の負担感が表明される場となり、さらには、医療機関におけるジェネリック 医薬品の採用基準等に関する情報共有を行うことのできる貴重な場となった。

また、地域協議会の具体的な取組として、地域の医療関係者へのアンケートやシンポ ジウムの開催、住民へのアンケート等が行われており、地域協議会の枠を超えた地域 の医療従事者間での認識共有や、地域住民への情報発信並びに意識啓発が図られてい る。

さらに、これらの課題認識の共有を通じて医療関係者間の関係性が強化され、「ジェ ネリック医薬品の使用促進」というテーマから進んで、地域医療の様々な課題(例え ば、地域包括ケアシステム構築のための多職種連携、病院薬剤部と薬局との薬薬連携 等)を検討するための会議体が別に組成されるなどの試みも展開されている。

また、福岡県福岡市で作成された基幹病院採用ジェネリック医薬品リストの共有は、

医療機関及び薬局がジェネリック医薬品の採用銘柄を選定するにあたって貴重な資料 となっており、将来的な採用銘柄の集約化・統一化、それによる薬局の在庫管理の負 担軽減の可能性も考えられる取組となっている。

このような地域単位での採用医薬品リストの作成といった試みは、まさに市区町村 又は保健所単位の地域協議会が旗振り役となることで実施可能となるものであり、今 後、全国各地で同様の取組が進むことが望まれる。

本調査研究で対象にした3地域は、いずれの地域もジェネリック医薬品の使用促進 が進んでおり、その使用割合の数値も着実に上昇している。これが全て地域協議会の 取組の効果とはいえないものの、医療関係者間の「顔と顔の見える関係」の構築を起 点とする様々な取組は、ジェネリック医薬品の使用促進をはじめとした地域医療の課 題解決のための検討を始める契機となっているといえよう。

一方、本調査研究の中において指摘されたように、国がジェネリック医薬品の使用 割合を平成29(2017)年央に70%以上、平成30(2018)年度から平成32(2020)年 度末までの間のなるべく早い時期に80%以上とすることを目標に掲げた現在、直接的 な政策誘導策を持たない地方自治体(都道府県、市区町村)は、患者や医療関係者の ジェネリック医薬品の使用に対する抵抗感を和らげ、使用促進に向けた意識啓発を行 うほかない。

しかしながら、ジェネリック医薬品の使用割合70%以上の目標達成のために残され た期間は僅か2年程度しかなく、前述のような地域協議会の取組のみでは短期間に確 実な目標達成が見込めないことも懸念されている。また、年間に数回程度しか開催し ない会議体であることから、地域レベルの具体的な課題が表明され、認識が共有され るに至るためには相当な工夫が必要になる。

そのため、より踏み込んだ議論を、スピード感を持って行い、地域の具体的な課題 を関係者間で共有して効率的かつ効果的な解決策を検討するためにも、地域協議会の 事務局である自治体(市区町村)は、診療報酬明細書データをはじめとする様々な医 療関連データを解析し、住民のジェネリック医薬品の使用状況や使用促進の阻害要因 等に関する地域の特性をエビデンスデータとして示し、関係者がより具体的な課題を 認識しやすくするよう、支援することが求められる。

また、そのデータ解析を通じてジェネリック医薬品の使用が進まない住民層や地域 を特定してターゲットを設定した上で、効率的・集中的な取組を実施することが必要 である。

さらに、これらの事務局業務を地域の市区町村や保健所が単独で担うことは負担も 大きく、その点、都道府県は後発医薬品安心使用促進協議会の運営や事業実施のノウ ハウ、過去に開催した地域協議会の情報やノウハウを有していることから、より積極 的に介入支援を行うことが求められる。また、都道府県側にあっても、今後の医療費

適正化計画の見直し等も視野に入れ、医療・医薬品行政担当部局と国民健康保険担当 部局との緊密な連携が求められるところである。

また、このことは、ジェネリック医薬品の使用促進について大きな役割を担う市区 町村の地域薬剤師会についても、都道府県薬剤師会と積極的に情報共有を行い、より 広範囲な地域の動向を踏まえながら、薬剤師としての職能発揮に努めることが望まれ るといえよう。

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