この章では調味料はどのように料理名に反映されているかについて考 察する。中華料理の味付けにはネギ、生姜、ニンニクなどの薬味もよく 使われるため、この章ではこれらも塩、お酢などと同様に調味料として 扱うことにしておきたい。1 つの料理を作るには様々な調味料を使うが、
料理名にはそのもっとも代表的なものだけが明記されるのが一般的で、
この手法でネーミングする料理はとても多い。
4 − 1.主要食材の前に置くケース
調味料を料理の主要食材の前に入れて明記する例を見てみよう。
(1)「盐」(塩)
調味料の塩は料理名に記される。例えば、「台湾盐酥鸡」は、鶏もも肉 のから揚げである。醤油、塩などの調味料を使っているが、塩だけを料 理名に記している。「椒盐排骨」、「金陵盐水鸭」も同じである。「椒盐排 骨」は塩味付けのスペアリブである。「金陵盐水鸭」はアヒル肉の塩味付 けの煮込みである。
(2)「辣」(辛味、唐辛子)
「辣」は一般的に「辣椒」のことを表わし、時にはマスタードの辛味を 表すことがある。唐辛子やマスタードで味付けをした料理の命名によく 使われる。例えば、「酸辣黄瓜丁」は、胡瓜のピリ辛甘酢漬けである。醤 油、塩なども使っているが、料理名には主要な酸味、辛味だけを記して いる。「芥辣黑木耳」、「香辣豆干」、「甜辣鳕鱼片」も辛味の「辣」を明記 している。「芥辣黑木耳」は、キクラゲのマスタード和え、「香辣豆干」 は、押し豆腐のピリ辛炒め、「甜辣鳕鱼片」は、タラのあま辛炒めである。
(3)「醋」(お酢)
「醋」はもっともよく使われる調味料の 1 つであるが、ときどき料理名 にも明記される。例えば、「酱醋萝卜」は、大根のお酢醤油漬けである が、主要調味料のお酢、醤油を料理名に記している。「香脂醋牛肉卷」、
「香葱醋鱼」、「糖醋排骨」も同様で、お酢を明記している。「香脂醋牛肉 卷」は牛肉のすっぱい辛巻き、「香葱醋鱼」はフナのネギお酢炒め、「糖 醋排骨」はスペアリブの甘酢あんかけである。
(4)「糖」(砂糖)
「枫糖三文鱼」は、焼きサーモンの甘味あんかけである。複数の調味料 が使われているが、サーモンを焼く前に表面に味噌、お酢と「枫糖」の 合わせ調味料をつけるため、甘味が印象的に残る料理になる。「冰糖湘 莲」は蓮の実の砂糖煮、「红枣糖藕」はレンコンと棗の砂糖煮、「桂花糖栗」 は栗の砂糖炒めである。
(5)「油」(あぶら)
「响油海螺」は、サザエ肉の薄切りネギ油かけである。仕上げにネギの 香りをつけた熱い油をかける料理である。複数の調味料が使われている が、油だけは強調され、料理名に記している。下記の料理も、油が強調 され、料理名に明記している。「香菇大虾油饭」はシイタケとクルマ海老 の炊き上げご飯、「响油丝瓜」はヘチマの油和え、「鸡油葱花饼」はネギ のみじん切りを小麦粉生地に練り鶏の脂肪から取った油で焼いたクレー プ状のものである。
(6)「酒」(料理酒)
紹興酒、ワイン、ビールなども調味料として使われる。料理名にはこ れらの酒類を明記する例が多く見られる。例えば、「黃酒鸡蛋羹」、「紅酒
鸡翅」、「闽南啤酒鸭」がそれである。「黃酒鸡蛋羹」は紹興酒入りの蒸し 卵、 「紅酒鸡翅」は鶏手羽のワイン煮つけ、「闽南啤酒鸭」はアヒル肉の ビール炒めである。
(7)「酱」(味噌)
「黑椒酱鸡肉丸」は、鶏むね肉団子の黒胡椒味噌の味付けの料理であ る。「京酱肉丝」はヒレ肉の豆板醬炒め、「爽脆酱黄瓜丁」は鶏肉とキュ ウリの辛味噌炒め、「豆豉酱牛肉」は牛肉のトウチ味噌煮込みである。
(8)「蒜」(ニンニク)
ニンニクはよく味付けに用いられ、調味料の一種であると考えてい る。料理名に反映する場合もある。例えば、「香蒜腊肠鸡」は、鶏肉と ソーセージのニンニク炒めである。「蒜香红米苋」は赤ヒユのニンニク炒 め、「蒜香辣味虾」は海老のニンニク辛味噌炒め、「麻辣蒜香排骨」はス ペアリブのニンニク山椒炒めである。
(9)「葱」(ネギ)
ネギは味付けの材料としてよく使われ、料理名に明記されたりする。
例えば、「脆皮葱香小土豆」は、ジャガイモのネギ炒めである。「虾皮葱 蛋烙饼」は乾燥小エビとネギ入り卵の焼きクレープ、「姜葱鱼片」は魚の ネギ生姜炒め、「葱香花卷」はネギ入り中華蒸しパンである。
(10)「姜」(生姜)
生姜も料理名に記される。例えば、「沙姜猪蹄」は、蒸し豚足の生姜あ んかけである。「汉方姜母鸭」はアヒルの生姜煮込み、「葱姜蛏子」は上 げ巻貝の生姜炒め、「泡姜肚丝」は豚胃袋の生姜ネギ炒めである。
(11)「酱油」(醤油)
醤油はもっともよく使われている調味料で、料理名にも反映される。
使う頻度に比べて明記する比率が高くない。次の料理は「酱油」を明記 している。「酱油鸡腿」は、鶏もも肉の醤油煮つけ、「酱油鸡」は鶏肉の 醤油煮、「酱油萝卜咸菜」は大根の醤油漬け、「酱香酱油猪蹄」は豚足の 醤油味噌煮込みである。
(12)「糟」(酒粕)
酒粕も調味料として使われる。次の料理は酒粕を使っているばかりで なく、料理名にも「糟」を明記している。「香糟北极虾」は海老の酒粕の 煮つけ、「香糟毛豆」は枝豆の酒粕汁漬け、「红糟排骨」はスペアリブの 酒粕醤油煮つけ、「香糟鸡翅尖」は揚げ手羽先の酒粕漬けである。
4 − 2.料理法を表す動詞の前に加えるケース
調味料は調理法の動詞の前に置いて明記する例を見てみよう。
(1)「油」(あぶら)
油は多くの料理に使うもっとも基本的な調味料であるが、調理法動詞 の前に入れて明記するのがむしろ少数である。例えば、「家常油焖大虾」
(海老の蒸し焼き)、「核桃油炒茭白」(マコモのクルミ油炒め)、「香油浸小龙 虾」(オリーブオイル漬けザリガニの焙り)の料理名には「油」が明記されて いる。
(2)「酱油」(醤油)
醤油を使う料理がきわめて多い。しかし、調理法動詞の前に入れて明 記するのはそれほど多くない。例えば、「酱油烹鸡蛋」(卵の醤油炒め)、「鸡 蛋酱油炒饭」(卵入り醤油チャーハン)などは、調理法動詞の前に「酱油」
を明記している。
(3)「酱」(味噌)
「南瓜酱焗娃娃菜」(白菜のカボチャ味噌味蒸し焼き)、「酱烧排骨」(スペア リブの甘みそ炒め)、「香菇酱炒饭」(シイタケ入り味噌チャーハン)、「东北酱 焖脊骨」(スペアリブの東北風味噌煮)が示しているように、調理法動詞の 前に「酱」を入れている。
(4)「盐」(塩)
次の料理名では調理法動詞の前に調味料の「盐」を明記している。「青 椒盐煎肉」は豚肉とピーマンの塩炒め、「盐水煮海锥」はスルガバイの塩 煮、「家常盐焗蟹」はカニの家庭風塩煮である。
(5)「辣」(辛味、唐辛子)
四川料理は唐辛子を味付けに使う料理が非常に多い。「辣」を料理法動 詞の前に入れて料理名に明記する例もたくさんある。例えば、「辣炒鱿 鱼」(イカの唐辛子炒め)、「川辣红烧牛肉」(四川風牛肉辛醤油煮)、「酸辣凉 拌豆角」(インゲン豆の酸っぱい辛和え)などがこの種の料理である。
(6)「醋」(お酢)
「醋」を料理法動詞の前に入れて料理名に明記する例もたくさん見られ る。例えば、「香辣醋泡凤爪」(鶏足の辛酸っぱい漬け)、「黑醋香草腌蘑菇」
(シイタケのハーブ黒酢漬け)、「丁香醋焖黄鱼」(フウセイの丁子酢漬け)、「葡 萄醋拌茼蒿」(春菊のブドウ酢和え)が示しているように、調理法動詞の前 に「醋」を入れている。
(7)「糖」(砂糖)
砂糖は江蘇料理などによく使われる調味料である。「糖」を調理法動詞 の前に入れている料理名には「糖焖芋头」(小芋の甘煮)、「桂花糖烤栗子」
(金木犀花風味の甘栗)、「糖炒栗子」(天津の甘栗)などがある。
(8)「酒」(お酒)
「酒」は料理名に使われる時、酒名や種類を明記したりする。例えば、
「白酒烤羊排」(焼酎かけ羊肉のステーキ)、「杨梅酒烧排骨」(スペアリブのヤ マモモ酒煮付け)、「花雕酒焖鸡翅」(手羽の紹興酒煮)、「糯米酒煮鸡蛋」(卵 の甘酒煮)の料理名が示しているように、「白酒」「杨梅酒」「花雕酒」「糯 米酒」が明記されている。
(9)「蒜」(ニンニク)
「蒜」を調理法動詞の前に入れてネーミングする料理には、「腊八蒜烧 肥肠」(酢漬けニンニクと腸の炒め)、「腊八蒜爆猪肝」(豚キモと酢漬けニンニ ク炒め)、「蒜烧香菇鱼」(シイタケと魚のニンニク炒め)などがある。
(10)「葱」(ネギ)
「葱」の使い方はいろいろある。熱した油で炒めてネギの香りを油に移 してから食材を炒める場合は、ネギは少量でいいものが多いが、煮込み 過程に水や調味料と一緒に煮る場合は、ネギの量が多くなるケースが多 い。例えば、「孜然葱爆羊肉」(ラム肉のクミン炒め)は、まず油でネギを 炒めるので、ネギの量が少なくてよい。「葱烧带鱼」(タチウオのネギ煮)、
「葱焖鲫鱼」(フナのネギ煮)、「葱炖猪蹄」(豚足のネギ煮込み)は、煮る段階 にネギを加えるので、ネギを多めに入れることが多い。
(11)「姜」(生姜)
生姜は、肉類の臭みを消すためによく使う調味用の野菜であるが、よ く料理名にも記される。例えば、「可乐姜焖鸡翅」(手羽の生姜コーラ煮)、
「姜爆回锅排骨」(スペアリブの生姜炒め)、「姜炒鱼块」(魚の生姜炒め)、「姜 烧猪肉」(豚肉の生姜炒め)は、調理法動詞の前に「姜」が明記されている。
(12)「糟」(酒粕)
酒粕を調味料として使っている料理はたくさんある。例えば、「糟卤鸡 胗」(砂ずりの酒粕煮込み)、「糟炒厚鱼片」(魚の酒粕炒め)、「糟焖猪蹄」(豚 足の酒粕煮)、「糟溜三白」(魚身、鶏肉、竹の子の薄切り酒粕炒め)などの料 理は調理法の前に「糟」を入れている。
(13)「茶」
お茶は調味料としても使われる。例えば、「普洱茶焖肉」(豚肉のプーアー ル茶煮)、「茶烧猪脚」(豚足のお茶煮込み)、「茶卤猪肉」(豚肉のお茶煮込み)、
「茶煨白菜」(白菜のお茶煮)などがこの種の料理である。いずれも調理法 動詞の前に「茶」を入れている。
4 − 3.料理法を表す動詞の前に色の言葉を加えるケース
調理法動詞の前に調味料ではなく、料理が出来上がった時の色を表す 言葉を入れてネーミングする場合がある。
(1)「清」(清、あっさり)
調理法動詞の前に「清」を置いてある料理は、味が脂っこくなく、あっ さりしていて、食材本来の色合いを保っている。基本的に調理する時に 油を使わないか少量使うことになる。醤油、黒酢などのような色合いの 強い調味料も使わないか少量使うことになる。例えば、「清蒸刀鱼」(タチ