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――G1-G10『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』への付曲

第4章では、ヴォルフが選択して付曲した小説『修業時代』に含まれる詩とその音楽に ついて考察する。第2章第3節で示した本論における区分にて、G1-G8を「『ヴィルヘル ム・マイスター』より」、G9-G13を「バラード」としているが、G9とG10 の詩は小説

『修業時代』に含まれるものであるため、一括して考察する。なお、この章は、詩集とし てのフレームワークを形成する部分であり、かつ、先述の通り、詩集において重要な作品 を配列したと考えられる冒頭部分への考察となる。

第1節:『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』に含まれる詩 第1項:『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の概要 1.『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』成立

『修業時代』は、1796 年に全8巻からなる教養小説として完成したが、この小説は、

1777 年 に 着 手 し た 『 ヴ ィ ル ヘ ル ム ・ マ イ ス タ ー の 演 劇 的 使 命 Wilhelm Meisters

theatralische Sendung』(以下、『演劇的使命』)が初稿となっている。『演劇的使命』は、

演劇の世界に身を投ずる市民階級出身の青年ヴィルヘルムを主人公とし、彼の幼少期から 俳優として舞台を踏むまでの演劇的体験を物語る内容として構想された。しかし、1785 年に第6巻まで書きあげたところで、執筆は中断された1。これは、ゲーテのイタリア旅行 が原因であると言われている。1794年、ゲーテは執筆を再開したが、初稿の内容は、主人 公が教養を積み人間形成の過程をたどる教養小説へと変化した。既成の『演劇的使命』の 全8巻は、『修業時代』の第1-4巻へ圧縮され書き直され、更に第5-8巻が書き加えら れた。こうして『修業時代』は、初稿着手から約20年もの年月を要して完成された。

2.『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の構成

全8巻。各巻は章から構成されている。各巻の主な登場人物と出来事は概ね次の表の通 りとなる。尚、表では、ヴォルフが付曲した詩に関連する内容を中心に記している。劇中

1 『演劇的使命』中断の年については研究者によって見解が異なるが、本論においては1786年にイタリ ア旅行に出発したことを勘案し、清水(1996: 104)の説を採用する。尚、第一次イタリア旅行は1786

-88年、第二次イタリア旅行は1790年であり、『修業時代』の執筆を再開したのは、帰国してから何年 もたってからのことである。これは、旅行以外に、1789年のフランス革命勃発の影響による出陣や、1790 年に脱稿した『植物変態論』、同年に着手した『色彩論』にみられるように自然科学の研究に没頭したこ とによる。

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2の表記はヴォルフの歌曲の番号を適用し、小説中に出てくる順番に依拠している。

【表10】『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の概要

巻・章 主要な登場人物 主要な出来事 劇中詩

第1巻 全17章

ヴィルヘルム 女優マリアーネ3

ヴ ィ ル ヘ ル ム と マ リ ア ー ネ の 恋 愛 と 破 局。

第2巻 全14章

ヴィルヘルム ミニヨン フィリーネ 竪琴弾き

ヴィルヘルムは商用の旅に出る。

ヴィルヘルムと、ミニヨン、フィリーネ、

竪琴弾きとの出会い。

G10、G3、G1

第3巻 全12章

ヴィルヘルム ミニヨン 竪琴弾き フィリーネ

ヴィルヘルム、ミニヨン、竪琴弾きは劇 団メリーナ一座4に同行。

ヴィルヘルムは戯曲を作成し、その上演 は成功を収める。

G9、G4

第4巻 全20章

ヴィルヘルム ミニヨン 竪琴弾き フィリーネ

メリーナ一座が強盗に襲撃される。 G6

第5巻 全16章

ヴィルヘルム ミニヨン 竪琴弾き フィリーネ

ヴィルヘルムは『ハムレット』を上演。

ヴィルヘルムの家の失火事件。

竪琴弾きに狂気の兆候。

フィリーネがゼルロ一座5から消え去る。

G8、G2、G5

第6巻 ― 「美しき魂の告白」

ゲ ー テ の 母 の 友 人 ク レ ッ テ ン ベ ル ク 夫 人の手記であるといわれる挿話。ある女 性 の 教 養 と 宗 教 的 な 体 験 が 語 ら れ て い る。

第7巻 全9章

ヴィルヘルム ミニヨン 竪琴弾き フィリーネ

マリアーネの死亡の知らせ。

ヴ ィ ル ヘ ル ム は 知 り 合 い の 婦 人 に 病 気 のミニヨンを預ける。

ヴィルヘルムは演劇界と別離し、「塔の 結社6」にて「修業証書7」を受理して結 社の一員となる。

第8巻 全10章

ヴィルヘルム ミニヨン 竪琴弾き

ミニヨンが天使の衣装を身にまとう。

ヴィルヘルムとミニヨンの再会。

ミニヨンの心臓発作による死。

竪琴弾きの自殺。

ヴィルヘルムとナターリエ8の結婚。

G7

(筆者による作表)

2 本論においては、小説中に用いられる詩を示す。

3 良家出身であるが一家の没落により、旅芝居の一座で女優となる。不自由なく育った環境が原因で、

自立心を欠き他者依存で生きている。経済的にはパトロンに支えられている。

4 裁判官の息子で俳優をしていたメリーナは、ヴィルヘルムの助力も得て、駆け落ちした娘と結婚する。

後にこの夫妻が立ちあげたのがメリーナ一座である。

5 強盗に襲撃され破綻したメリーナ一座は、ヴィルヘルムの友人ゼルロが主宰するゼルロ一座に雇われ るようになっていた。

6 この結社は理性を重視し、青少年の成長を見守り、影から支援するという社会的、教育的な活動を行 っている。

7 結社の一員として充分な教養を身につけた人物であることを証明し、かつ真の教養人とし ての有り方 を説くものもの。

8 ヴィルヘルムの知人で塔の結社の一員であるロターリオの妹。

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3.『ヴィルヘルム・マイスターの修業時代』の登場人物

『修業時代』では、主人公ヴィルヘルムに関わる多くの人物が登場するが、本論では、

ヴォルフの選んだ詩における登場人物について、その出生や特徴を確認する。

3-1.竪琴弾き

G1-G3 及び G10 に関連する竪琴弾きの老人はイタリアの貴族の出身であるが、かつ

て幼くして生き分かれた妹と知らずに愛し合い、子供が出来た。その子供がミニヨンであ る。近親相姦の罪の意識にさいなまれた彼は、竪琴弾きとして放浪の旅に出るが、やがて ヴィルヘルムとミニヨンに出会い親しくなる。彼の悲哀に満ちた歌がヴィルヘルムの心を つかみ、その後は、ヴィルヘルムやミニヨンと行動を共にするようになる。しかし、竪琴 弾きは、ミニヨンが自分の子供であることを知らぬまま生きていく。いつしか狂気に陥り 運命に翻弄された彼は、自らの命を絶つ。

3-2.ミニヨン

G5-G7 及び G9 に関連するミニヨンは、幼少の頃人さらいにさらわれた後、軽業一座

の一員となった少女である。座長に虐待を受けていたところをヴィルヘルムに救われ、そ れ以降は彼と旅をする。12、13歳くらいで、男女の判別がしがたいが、人目をひく神秘的 な美しさを具えた子供として描かれている。恩人のヴィルヘルムを父親のように慕う彼女 の気持ちは、いつしか恋愛感情へと変化する。だが、病弱なミニヨンは、自分の出生もわ からないままに、若くして死んでしまう。

3-3.フィリーネ

G8 の歌に関連するフィリーネは、旅芝居の一座の女優で、享楽のためにはお金を惜し まず、常に新しい刺激と楽しみを求める女性として描かれている。ヴィルヘルムにも想い を寄せるが、最後にはヴィルヘルムの友人と結ばれ子を身ごもる。否定的に評価される刹 那的、享楽的な生き方の一方、フィリーネは、無私無欲であり施すことをいとわない人物 であるという側面も持ち合せる。ヴィルヘルムへの想いは、このようなフィリーネの与え る愛であった。文学理論家で哲学者であるジェルジ・ルカーチ György Lukács(1885-

1971)は「フィリーネはこの小説の中で自発的な、自然なままの人間性と人間的な調和を もった唯一の人物である。ゲーテは深いリアリズムによって、彼女に平民的な狡さ、如才 なさ、適応能力といったものを与えている。しかし、この楽天的な狡猾さはフィリーネの

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場合にはいつも飾り気の無い、確かな、人間的な本能と結びついている。」(清水 1996: 53)

と特徴づけている。

第2項:ヴォルフの選んだ詩について

『修業時代』には、いくつかの劇中詩が用いられており、ヴォルフの他、多くの作曲家 達がこれらの詩に付曲した。以下は、ヴォルフの選んだ詩の一覧をゲーテの詩集 Goethe

1875, 1における順番とヴォルフの歌曲集における順番を対比して示した表である。

【表11】《ゲーテ詩集》G1-G10の楽曲の配列

曲のタイトル 語り手

Goethe 1875,1における有 無(○=有り、×=無)

Goethe 1875,1におけるタ イトル区分

Goethe 1875,1

における

記載順

小説における記 載箇所(巻と章)

小説における記載順

G1 竪琴弾きの歌I 竪琴弾き ”Aus Wilhelm Meister” 4 第2巻第13章 3

G2 竪琴弾きの歌Ⅱ 竪琴弾き ”Aus Wilhelm Meister” 5 第5巻第14章 8

G3 竪琴弾きの歌Ⅲ 竪琴弾き ”Aus Wilhelm Meister” 6 第2巻第13章 2

G4 当てこすりの歌 不明 × ― 第3巻第9章

G5 ミニヨンの歌Ⅰ ミニヨン ”Aus Wilhelm Meister” 1 第5巻第16章 9

G6 ミニヨンの歌Ⅱ ミニヨン ”Aus Wilhelm Meister” 2 第4巻第11章 6

G7 ミニヨンの歌Ⅲ ミニヨン ”Aus Wilhelm Meister” 3 第8巻第2章 10

G8 フィリーネ フィリーネ ”Aus Wilhelm Meister” 7 第5巻第10章 7

G9 ミニヨン ミニヨン ”Balladen” 8 第3巻第1章 4

G10 うたびと 竪琴弾き ”Balladen” 9 第2巻第11章 1

(筆者による作表)

表からも分かるように、小説における詩の配列とGoethe 1875, 1の配列は一致しない。

Goethe 1875, 1の配列は、本論第2章第2節で既述の通り、ゲーテ自身によるものである。

曲の配列は、語り手別にみた詩集における配列と関連している。すなわち、G1〈竪琴弾 きの歌Ⅰ〉、G2〈竪琴弾きの歌Ⅱ〉、G3〈竪琴弾きの歌Ⅲ〉は、詩集における順番が歌曲

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