特になし。
III. 研究開発成果について 1. 事業全体の成果
本事業の目標は、臨床的に実用的なBNCT療法のための熱・熱外中性子源としての病院内設置が可能 な加速器原型機の開発と、あわせて治療効率を高めるための新しいホウ素キャリアとしてのDDS製剤 の開発、および中性子捕捉現象を利用した抗がん剤のコントロールリリースの技術を開発し、これによ り正常組織への影響を極力抑えがん細胞選択的な効率の良い悪性腫瘍治療システムを開発することで ある。
病院内設置型、中性子発生用加速器の開発理念はFFAG-ERIT型(固定磁場強収束・エミッタンス回 復型内部標的方式)にあり、それは以下のようである。
がん治療における BNCT 療法では、原子炉に替わる病院設置型の高線量の熱・熱外中性子源が求め られている。加速器型中性子源として現在数 MeVから数十 MeV のライナックあるいはサイクロトロ ンの利用が研究されているが、求められる高強度の治療用中性子線を得るためには大きなビーム強度あ るいはビームパワーが必要とされ、加速器の加速性能の問題あるいは大きなビームパワーによる標的で の発熱および周辺での高い放射化負担の問題が大きく、解決されていない。
こうした問題を克服する方法として、本プロジェクトではこれまでの加速器型中性子源と概念を異に したFFAG 加速器と中性子発生用内部標的を組み合わせたFFAG-ERIT 方式を提案し、開発研究を行 っている。これは、10 MeV程度のエネルギーの陽子を貯蔵リング(FFAG加速器)に蓄積し、軌道上 に中性子発生用内部標的を置く。これにより蓄積リングを周回する陽子ビームは周回毎に必ず標的を通 過し、中性子線を発生する。標的で失われるビームのエネルギーは高周波加速装置で再加速を行い補う。
リングを周回する電流は同じ陽子が周回しているので、例えばリングを周回する電流が50 mAとした 時、ビームの寿命となる周回数がいま1,000ターンと仮定すれば、このために必要なライナックからの 平均の入射電流はこの1,000分の一の50 μAとなる。これは既存の技術により達成可能である。
一方において標的の厚さは、十分な中性子発生強度が得られる範囲内で標的におけるビームのエネル ギー損失を小さくする観点から出来るだけ薄いものが選ばれ、この結果標的での熱負荷はきわめて小さ くなり(~kW程度)、冷却は輻射冷却で十分できるものとなっている。
一方、陽子ビームは標的内での原子核との衝突による多重散乱でそのエミッタンスが増大する。増大 はビームの縦(進行方向)と横(ビームの進行と直角の方向)の両方向で起こるが、このうち横方向で は標的での多重散乱による増大とイオン化冷却効果による縮小とが平衡してある安定した大きさに収 束する。しかし、縦方向エミッタンスではこのような収束の機能がなくエミッタンスは増大しそのまま ではやがて加速条件から外れ失われる。これは標的にウェッジ構造を持たせることにより解決される。
すなわち、エネルギーの高い陽子はその周回軌道がリングの外周側にシフトするが、これに見合って標 的の厚さを軌道内周側から外周側にかけて次第に厚くする。標的の厚さが大きい部分では平均のエネル ギー損失が大きくなり反対に薄い所(内周側)では小さくなり、これにより陽子ビームのエネルギー分 布の幅が縮小する。この結果縦方向のエミッタンス増大が抑制される。ERIT(エミッタンス回復型内 部標的)方式によるビームエミッタンス増大の抑制の一方で、通常のリング加速器にはないFFAGリン グの大きなアクセプタンスの組み合わせによるFFAG-ERIT方式は、中性子源加速器として最も適した システムである。
以上の開発理念の基に現在加速器の設計、製作を行っている。加速器の概要は、リングの平均軌道半
径は2.35 m、目標陽子周回数は1,000回、陽子エネルギーは11 MeV、ビーム電流は50~70 mA、電
磁石はラディアル型8セル、他にエネルギー回復用高周波加速装置1機から成る。入射器は、イオン源
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と線型加速器(高周波四重極型とドリフトチューブ型)から成り負水素イオンビームを11 MeVまで加 速し、FFAGリングへ荷電変換入射を行う。中性子を生成するための標的は5ないし10 μm厚さのベ リリウムを用い、この標的をモデレータの中心部に設置する方式とする。モデレータは標的から生成さ れる多方向の中性子を取り込むような球形モデレータとする。入射器の長さは7.5 m、機器全体の所要
面積は約100 m2である。平成18年度中に、各機器の製作を行い、あるいは一次加工まで行い、19年
度の各機器の各特性試験と相互の組み合わせ調整、イオン源から中性子取出しまでの全体の構造・加速 器システムの大きさ等の検証へ備える。
DDS 関連研究において、まずホウ素試薬の細胞集積性として得られた値は、不活化センダイウイル ス(HVJ-E)を用いたBSHの投与後、培養1時間のホウ素濃度として、マウス扁平上皮がん細胞の場合、
0.78 μg/107 cellsが得られている。さらにHVJ-リポソーム(BSH)投与後、マウス大腸がん細胞の場合、
1.54 μg/107 cellsに、またマウス骨肉腫細胞株の場合、2.26 μg/107 cellsに相当する。 これらはBSH 単独投与の場合の6ないし 12 倍であった。HVJ-リポソームでは目標値に達している。このように
HVJ-Eの場合はBSH単独よりも高値であるが、目標値に達しなかったのは封入率が低いためと考えら
れるので、今後ホウ素ポルフィリン(封入率はBSHの5倍以上)を用いて測定する。同じくホウ素集 積性に対する到達目標として、基本計画では、「治療部位であるがん細胞に40 ppm の細胞内ホウ素濃 度」を設定している。 これに関しては、ホウ素ポルフィリン単独では扁平上皮がん細胞に対して、新 規に開発したホウ素ポルフィリン投与によるホウ素濃度は、4ないし30 ppm であった。一方HVJ-E にBSHを封入した群は細胞濃度で18ないし35 ppmと溶液に比較して高濃度であった。HVJ-リポソ ームは、周囲のBSHを除いた状態で2種類のがん細胞に添加し、40 ppm を超えるホウ素濃度を検出 した。分子量約 1,000 の新規ホウ素ポルフィリンを用いると、その HVJ-E への封入効率は約5%で、
マウス骨肉腫細胞内濃度は50 ppmまで上昇した。また、腫瘍内のホウ素濃度/血液中のホウ素濃度の 比(T/B比)については、18年度中間目標として、3倍以上、基本計画の到達目標は10である。これ に関しては以下の結果を得た。すなわち骨肉腫細胞を肝臓に転移させたマウスに、カチオン化ゼラチン
-HVJ-Eを心腔内に投与すると肝臓への集積は投与量の13.9%であり、血液中には検出限界以下であっ
た。なお、腫瘍を転移させていない正常肝臓への集積は投与量の 4.3%であり、腫瘍への集積は正常部 位の2倍以上と推定された。蛍光試薬Qdotの取り込みではT/B比は最終目標値の10を超えている。
抗がん剤のコントロールリリースについては、ホウ酸溶液中では熱中性子照射されたリノール酸、ス テアリン酸を含むホスファチジルコリン、コレステロールから成るリポソームからのモデル抗がん剤放
出は100%であった。一方、細胞毒性については中性子照射しなければ 24 時間培養液中に放置しても
封入物質の漏出は3%程度であるので、非照射の場合に正常細胞に与える影響をなくす条件を見出すこ とは可能であると考えている。
アジュバント型細胞融合ナノ粒子に開発においては、、「抗腫瘍免疫の増強により中性子捕捉療法を施
行した 50%以上のマウスにおいて再接種後の腫瘍の完全拒絶を実現する」としている。新規に開発し
たホウ素PEGリポソームを坦がんマウスに投与し、その中性子捕捉治療効果を検討した。がんモデル は、マウスの大腸がんcolon26細胞をマウスの左足に移植し、ホウ素PEGリポソーム(5 mg10B/kg)
の濃度で投与し、24時間後中性子照射(30分)を行った。その結果、坦がんマウス4匹中2匹で約1 週間後にがんが萎縮し始め、2週間後には完全に消失した。HVJ-Eによる治療効果は単独投与で4匹中 1匹に腫瘍消失が見られた。
治療計画システム・線量測定システムの開発では、これまで開発した原子炉線源でのBNCT用に開発 した線量評価システム“JCDS”を基盤に、加速器線源にも対応できる治療計画システムの開発を行い、
汎用治療計画システムの開発に必要な仕様をまとめ、システムのコーディングを実施している。現在日 本で実施されているBNCTの線量評価方法は、事前のPET(陽電子放射線断層撮影法)測定によって 得られたホウ素分布情報を基に、腫瘍内と正常組織内(もしくは血管内)のホウ素濃度の比を求めて線 量評価を行っている。これを踏まえ、従来のシステムでは線量評価のための患者3次元モデルの作成に CT(コンピュータ断層撮影)とMRI(核磁気共鳴画像法)データを利用していたが、これに加えてPET 画像データを直接読み込み、PET値に基づいた線量評価技術を開発した。この技術により① PET値の ホウ素の集積情報に基づいて腫瘍範囲を設定することが可能となり、さらに、② ホウ素濃度分布に従 った詳細な吸収線量分布を導出する技術を確立することも可能となる。最初のアプローチとして、①の PETを使って適切な腫瘍領域を抽出する技術を開発してJCDSに導入した。