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第三章 結果と考察

3.4 触媒固定法による生成

ゼオライトを用いたシリコンウエハ上での生成

Fig. 3.31に900 ℃,15分間エタノール蒸気中で加熱したSEM像を示す.シリコンウエハ上に 点在したゼオライト粒子から単層カーボンナノチューブのバンドルが放射状に成長している様子 が良く分かる.このSEM像から判断してバンドルは数 µmの長さに達している.

より高倍率で観察したSEM像をFig. 3.32に示す.約600 nm離れた二つのゼオライトの間を1 本のバンドルが繋いでいるのが分かる.バンドルには白くはっきりSEM 像に写っているものと,

薄いコントラストで写っているものの2種類がある.はっきり写っているものは,ゼオライト上 またはゼオライトに支えられており,基板であるシリコンウエハと接していない.ゼオライトは

Fig. 3.31 SEM image of SWNTs generated from Fe/Co supported with zeolite particles located on Si wafer at 900 ºC.

Fig. 3.32 SEM image of the SWNTs bundle between two zeolite particles at 900 ºC.

絶縁物質であるので,これらのバンドルはSEM観察中に電子が帯電し,その結果白く強いコント ラストで現れている.一方,薄いコントラストのものはシリコンウエハ上を這うように生成して いるものである.これらのバンドルはファンデルワールス力により,シリコンウエハに引きつけ られ,その為電子が帯電しにくく薄いコントラストで見えると考える.

生成温度を700,800 ℃と変化させて生成し,それらのSEM 像をFig. 3.33,Fig.3.34に示す.

いずれの温度でもゼオライト粒子から単層カーボンナノチューブのバンドルが放射状に生成して いることが分かる.温度の低下で単層カーボンナノチューブの量が減少しているが,900 ℃で生 成したものと同様に隣接するゼオライトを繋ぐバンドルやシリコンウエハ上を這うバンドルが見 られる.

Fig. 3.33 SEM image of SWNTs generated from zeolite particles at 800 ºC.

Fig. 3.34 SEM image of SWNTs generated from zeolite particles at 700 ºC.

これらのサンプルのラマン散乱測定をした結果をFig.3.35に示す.シリコンの521 cm-1付近の ピークの他に,単層カーボンナノチューブの特徴を持つG-bandのピーク及びD-bandのピークが 現れている.低温になるにつれ,シリコンのピークに対してG-bandの相対高さが低くなっている のは,単層カーボンナノチューブの生成量の減少を意味している.

900 ℃で生成したサンプルのAFM測定を行った結果をFig. 3.36に示す.ゼオライト粒子の直

500 1000 1500

Intensity(arb.units)

Raman Shift (cm–1) (A) 700°C

(B) 800°C

(C) 900 °C

Fig. 3.35 Raman scattering of SWNTs generated from zeolites located on the silicon wafer. The mark ♦ indicates the peak from silicon. Generation temperature ranges from 700~900 °C.

Fig. 3.36 AFM image of zeolite particles and SWNT bundles running on the silicon wafer.

径が約500 nmと大きいのに対し,単層カーボンナノチューブのバンドル直径は数10 nmと細い.

従って,ゼオライト粒子と単層カーボンナノチューブの高低差が非常に大きく,AFMによる走査 が困難な為ゼオライト粒子から少し離れた部分で測定を行った.AFM像の右上及び右下の白くな っている部分がゼオライト粒子である.ゼオライト粒子から単層カーボンナノチューブのバンド ルがシリコンウエハ表面を這って伸びている様子が良く分かる.バンドルの直径は数 nm 程度の ものが多く,絡み合って存在していた.Fig. 3.37 にAFM像の断面図を示す.

以上より,金属を担持させたゼオライトをシリコンウエハ上に置くことで,単層カーボンナノ チューブをシリコン上に生成することが出来た.シリコンウエハ上でのゼオライトの位置を制御 することで,単層カーボンナノチューブの生成位置の制御をすることが出来る.更にFig. 3.32に あったようなゼオライト同士を繋ぐように単層カーボンナノチューブを生成する技術は,トラン ジスタなどの単層カーボンナノチューブを利用したナノデバイスを可能にする.更に,炭素源と してアルコールを用いているため低温度での単層カーボンナノチューブ生成が出来る.このこと は,既に配線のあるシリコン基盤の上に,その配線へダメージを与えずに単層カーボンナノチュ ーブを生成し,単層カーボンナノチューブデバイスを設計することが可能であると考える.

Fig. 3.38 SEM image of MWNTs generated from iron particles directly located on the silicon wafer at 650

°C.

4 nm 40 nm

4 nm 40 nm

Fig. 3.37 Cross section diagram of SWNT bundles generated on the silicon wafer.

シリコンウエハ上への直接生成

硝酸鉄エタノール溶液(約0.2 %)を滴下し,

乾燥させると,シリコン表面には硝酸鉄の結晶 が成長し,その大きさは数 nm程度のものから 数100 nmのものまで幅広く存在していた.そ の後,650 ℃に加熱しエタノール蒸気を流した 結果のSEM像をFig. 3.38に示す.シリコン表 面は大小の硝酸鉄の粒子で覆われており,所々 に単層カーボンナノチューブのような構造を 持つ物質が存在していることが分かった.それ らの倍率を上げて観察したSEM像がFig. 3.39 である.一見単層カーボンナノチューブのバン ドルのようであり,絡み合った構造をしている.

しかし,SEM 像で半透明に見えること,枝分 かれが無いこと,曲がりくねっていることなど から多層カーボンナノチューブである可能性 が高いと言える.

このサンプルのラマンスペクトルをFig. 3.40に示す.このスペクトルにはG-bandとD-bandが 現れている.しかし,G/D 比が2~3 程度で低く,G-band にゾーンホールディングによる割れ目 もない.従ってこのチューブ状の物質は多層カーボンナノチューブであると考える.

同様の実験の生成温度を変化させ行い,その結果のラマンスペクトルを Fig. 3.41 に示す.600

~800 ℃の範囲のスペクトルでG-band及びD-bandが現れており,多層カーボンナノチューブが シリコンウエハ上に生成された.900 ℃ではシリコンのピークしか現れなく,多層カーボンナノ

Fig. 3.39 SEM image of MWNTs generated from iron particles at 650 °C.

500 1000 1500

Raman Shift (cm–1)

Intensity (arb. units)

Fig. 3.40 Raman scattering of MWNTs directly generated on the silicon wafer.

チューブだけでなく他の炭素物質もシリコン上に生成されていない.このことは,高温度領域で は硝酸鉄の結晶から生じた鉄粒子のエタノールに対する触媒効果が消えてしまうことを意味する.

650 ℃で最も G/D 比が良く,最も多層カーボンナノチューブが生成される温度であると言える.

もちろんこのG-bandが少量存在する単層カーボンナノチューブによる可能性もあるが,断定は出 来ない.更に温度を下げた600 ℃ではG/D比とラマン散乱強度が下がり,生成量は減少していた.

以上から,シリコンウエハ上の硝酸鉄を触媒としエタノール蒸気を炭素源として多層カーボン ナノチューブが生成されることが分かった.温度は800 ℃を上限として,650 ℃が最も生成され る温度であると言える.単層カーボンナノチューブが生成されなかった理由として,硝酸鉄から 生じた鉄微粒子が単層カーボンナノチューブの触媒となるには大きすぎると考える.先のゼオラ

Fig. 3.42 SEM image of Fe/Co-ac particles and MWNTs.

500 1000 1500

Intensity(arb.units)

Raman Shift (cm–1) 900 °C 800 °C 700 °C 650 °C 600 °C

Fig. 3.41 Raman scattering of MWNTs generated at 600~800 °C.

イトに金属を担持させた場合は,加熱をしても 金属微粒子同士が焼結し大きく成長すること はないが,シリコンウエハ上の金属微粒子は容 易にお互いが集まり大きく成長してしまう.更 に,硝酸鉄エタノール溶液の滴下,乾燥後に生 じる硝酸鉄の結晶自体の大きさも単層カーボ ンナノチューブの触媒としては大きすぎると 言える.また,高温で何も生成されなかった理 由として,シリコンと鉄粒子が反応し鉄シリサ イドを形成してしまった可能性がある.シリコ ン表面は自然酸化膜である二酸化ケイ素で覆 われた状態であるが,800~900 ℃という高温 条件では,その酸化膜と鉄との反応が起き,エ タノール蒸気に対する触媒効果が下がってし まったと考える.

同様の実験を酢酸鉄・酢酸コバルトエタノール溶液(各 0.4 %,0.5 %)について行った.酢 酸鉄,酢酸コバルトの組み合わせは,先のゼオライトに金属を担持させたときに用いたものであ る.この酢酸鉄・酢酸コバルトエタノール溶液を1 µlシリコンウエハに滴下し乾燥させエタノー ル蒸気中650 ℃で加熱したものをSEMで観察した.Fig. 3.42にあるSEM像を見ると,鉄,コバ ルトの結晶から生じたと思われるたくさんの鉄,コバルトの大小の粒子があることが分かる.こ れらの中に,Fig. 3.43 にあるような多層カーボンナノチューブが見つかった.硝酸鉄を用いた場 合よりはその生成量が少ないと言えるが,同じように多層カーボンナノチューブが生成されてい ると言える.このサンプルのラマンスペクトルを測定すると,Fig. 3.44のようなものが得られた.

Fig. 3.43 SEM image of MWNTs generated from Fe/Co particles directly located on the silicon wafer.

500 1000 1500

Raman Shift (cm–1)

Intensity (arb. units)

Fig. 3.44 Raman scattering of MWNTs generated from Fe/Co particles.

ラマンスペクトルから考えてやはり,シリコン ウエハ上に生成されたのは単層カーボンナノ チューブではなく,多層カーボンナノチューブ であると考える.

また,酢酸鉄エタノール溶液(0.5 %)につ いても同様に実験を行った.800 ℃で加熱した 状態でエタノール蒸気を流したサンプルを SEMで観察した結果をFig. 3.45に示す.中央 に見えるのが酢酸鉄から生じた鉄粒子であり,

その周りにチューブ状の物質が伸びシリコン ウエハ上を這っている様子が分かる.SEM 像 で見る限りその太さは細く,所々枝分かれがあ るようにも見え,単層カーボンナノチューブの

バンドルである可能性もある.しかし,残念ながら生成量が少なく,このサンプルのラマンスペ クトルを測定することが出来なかったため断定は出来ない.

シリコン表面にはFig. 3.45にあるような大きな鉄粒子だけでなく,非常に小さいものも存在し ている.このサンプルをAFMで測定した結果をFig. 3.46に示す.シリコン表面に小さな微粒子 が存在していることが分かり,そのサイズは直径で50 nm程度,高さは数 nmであった.AFMの 測定では,高さ方向の分解能は非常に高いが,AFMプローブ先端の曲率が20 nm程度ある為この ような小さな構造の横方向の測定値は正確にならず大きめに現れる.このことを考慮すると,シ リコン表面にあるこれらの微粒子は単層カーボンナノチューブの触媒として十分小さいサイズで あり,これらの微粒子が触媒として働けばシリコンウエハ上に直接単層カーボンナノチューブが 生成されることになる.

以上の結果より,シリコンウエハ上に酢酸鉄や硝酸鉄などの金属塩を分散させ加熱し生じた金 Fig. 3.45 SEM image of NTs from Fe-ac particle on the silicon wafer at 800 °C.

500 nm 500 nm

Fig. 3.46 AFM image of Fe particles on the silicon surface.