第 4 章 解析及び考察 28
4.2 ピンニングパラメータ
4.2.3 解析に用いたピンニング・パラメータ
ピンの力の大きさを表すAmの値は超伝導層の厚さに依存せずに低磁界における臨界電 流密度の値の関係とAm の大小が一致していることが分かる。ピン力の分布を表すσ2 は 超伝導層の厚い試料ほど大きい値をとる傾向があり、超伝導層の劣化が原因であると考え られる。磁界依存性γ、温度依存性m は各試料間でほぼ同一の値になった。ピン力の強 い超伝導層の試料ほど臨界電流密度が高いという実験結果が分かる。しかし、3次元ピン ニング状態であると考えられる超伝導層の厚い試料においても高温・高磁界領域ではU0∗ が減少していることが分かった。これはσ2 が超伝導層の厚い試料ほど大きく、高温・高 磁界でJc の値が小さくなったことが原因であると考えられる。
第 5 章
まとめ
本研究では、TFA-MOD法で作製されたYGdBCOコート線材の超伝導層厚が臨界電 流特性、特に緩和特性について与える影響についてSQUID磁力計を用い測定・調査を 行った。さらに得られた実験結果について、クリープ・フローモデルを用いて解析を行い 実験結果と解析結果の比較を行った。その結果以下のようなことが分かった。
• 低磁界領域におけるJc の値は薄い試料ほど高い結果となった。これはAmの値が 薄い試料ほど高いことからも理解できる。低磁界領域ではJc の磁界依存性に関し て超伝導層厚の影響は見られず、同傾向の磁界依存性となっており、試料間のJc の違いは超伝導層の厚い試料において、厚膜化の過程で超伝導層の構造が劣化した 事が原因だと考えられる。
• 高磁界領域におけるJc の値は、高磁界になるほど薄い試料でのJc の劣化が大き く、結果的に厚い試料のJc が最も高い結果となった。また、パラメータにおいて 温度依存性を示すmの値と磁界依存性を示すγ の値は超伝導層厚によらず、ほぼ 一定の値となっていることがわかった。これより、高磁界領域におけるJc は超伝 導層厚に依存し、磁束ピンニング機構の違いによる影響が大きいと考えられる。し たがって、高温・高磁界領域の場合は超伝導層厚の厚い線材が有利になると考えら れる。
• 20KのU0∗ の磁界依存性について、低磁界領域では薄い試料のU0∗ がJc の寄与か ら大きな値となっており、超伝導層厚の薄い順でU0∗ が高い結果となった。高磁界 領域では各試料はクリープの影響をあまり受けずにU0∗ の減少が小さく、さらに高 磁界で減少が顕著になってくるものと思われる。
40KのU0∗ の磁界依存性について、2T以上の磁界領域で全試料ともU0∗ が単調に 減少しており、磁界依存性に関して厚さの影響は見られない。このことに関して、
ピンニングの次元性から説明はできない。
• これらの結果から、高温・高磁界領域では磁束クリープに対して有利である超伝導 層厚の厚い線材の利用が有利であり、低温・低磁界領域ではJc の高い薄い試料の 利用が有利であると言える。また、高温・高磁界領域でより磁束クリープの影響を 小さくすることが重要であり、超伝導層の厚膜化をAm の減少、σ2の増加を伴わ ず実現できればさらなる特性向上が見込まれる。
謝辞
本研究を行なうにあたり、多大なご指導と助言をして頂いた松下照男教授に深く感謝い たします。また小田部荘司教授、木内勝准教授には実験や論文作成にあたって様々な御協 力を頂き深く感謝いたします。試料を提供してくださったISTEC-SRLに深く感謝いた します。最後に、公私共々お世話になりました松下・小田部・木内研究室の皆様に感謝い たします。