本論文では,可変構造に用いられる基礎式を導出するにあたり,一般的な有限要素法と の違いを明確化するために,有限要素法に用いられる記述形式や考え方を基に定式化を行 っていく.このような定式化は,節点外力に関する任意性を排除することや,境界条件の 与え方を考察する意味あいをもつ.また,どの積分レベルで変位-歪関係式と釣合式の間
36
で,反傾関係が成立しているか,ということを提示することになる.
以下に,有限要素法との違いの概要を述べる.
a) 要素毎の積分和により領域全体の大域的な近似解を与える有限要素法と比較して,本論 文では,支配方程式やその要素毎の積分を連立して解くことで,局所的な近似解を与え る.この場合,与えられる連立方程式が長方行列となるので,ムーア・ペンローズ一般 逆行列の利用が前提とされている.このように,有限要素法の重ねあわせの概念と比較 し,部分領域に分けて離散化方程式を連立することは貼りあわせの概念とも呼ばれてい る[27].また,解析事例によっては要素毎の積分和を用いる場合もあるが,これは,該 当する領域に対して,全長一定,表面積一定といった事象を扱うこととなり,この定義 は,有限要素法において定義されている要素毎の積分和の考え方とは異なる.
b) 本論文で対象としている物質を構成方程式に表すと,応力が圧力や平均応力の独立変数 として表される.応力を変位や歪の関数で表すことが困難となり,仮想仕事の原理等の 変分原理に基づく定式化ができない.したがって,流体問題の有限要素法で用いられる 重み付き残差法を用いて,離散化のための基礎式を導出する.むしろ,本論文で扱う物 質の構成方程式が流体に近いものとなるため,自然な適用と捉える.構成方程式につい ては,本章4.6節にて後述する.
c) 本論文では,支配方程式の離散化にあたり,重み関数の補間関数として,形状関数を用 いた重み付き残差法を用いる.一般的な有限要素法では,重み付き残差法や変分原理を 用いることで,適当な補間関数を用いて離散化の手段を与えることと,2階微分を1階 微分に変更する弱形式化を導くこと,さらに表面力に関する境界条件を与えられるとい う3つの重要な意味がある.
本論文では,応力が独立変数となるため,変位に関する2階微分の支配方程式とはな らない.また,要素毎の積分和で表さず,各要素を連立することから,重み付き残差法 は,要素毎で適用する.この場合,重み付き残差法は,離散化のための手段を与えるこ とに意味があり,同時に,外力に境界条件の表面力を与えられることに意味がある.
重み付き残差法による基礎式の導出については,本章4.7節にて詳細に示す.
d) 本論文では,基礎式から導出される離散化方程式は正方の連立方程式とはならない.こ れは,ムーア・ペンローズ一般逆行列を用いることで解が得られるが,この場合,物質 の現象を正確に捉えるためには,変位-歪(あるいは体積歪)関係式と釣合式の間に反傾 関係が成立していることと解の存在条件を満たしている必要がある.
e) 本論文で扱う要素は,一次元要素や二次元要素を三次元空間に配する問題を扱う.この 場合,要素座標と全体座標の次元数が一致しないため,なんらかの幾何学的処理を行う 必要がある.一般的には,曲面論やテンソルの概念を必要とする[28].本論文では,微 分連鎖則による座標変換を提案し,ここでもムーア・ペンローズ一般逆行列を用いてい る.基礎式の座標変換については,本章 4.10 節で示し,形状関数の座標変換について
37 は,本章4.12節で示す.
f) 構造問題に関する有限要素法では変位に関する境界条件を与えることで,変位の解が得 られ,未知の反力が求められることになるが,ムーア・ペンローズ一般逆行列を用いれ ば,境界条件を与えることなく,解を得ることができる.一方で,変位を拘束する場合 は,変位-歪関係行列から該当する自由度の列ベクトルを削除することになる.この場 合,反傾原理から,未知の反力に対応する行ベクトルが消えることになる.このように 境界条件を考慮する.
以上の点を踏まえ,基礎式や離散化方程式を導出する.
まずは,物体の変位―歪関係式と釣合方程式を与える.本論文では,連続体力学で用い られる支配方程式の記述から説明を行う.以下,総和規約を用いて表式を行う.
要素座標𝑟𝑖,変位ベクトル𝑢𝑖,微小歪テンソル𝜀𝑖𝑗として,変位-歪関係式は以下となる[2,3].
1 2 (
𝜕𝑢𝑖
𝜕𝑟𝑗+𝜕𝑢𝑗
𝜕𝑟𝑖)= 𝜀𝑖𝑗 (4-1)
また,応力テンソル𝜎𝑖𝑗,物体力ベクトル𝑏𝑖,釣合式は以下となる.
𝜕𝜎𝑖𝑗
𝜕𝑟𝑗 + 𝑏𝑖= 0 (4-2)
上式は,Cauchyの運動方程式から加速度項を除いた静的な状態を想定している.
4.5 境界条件
境界条件には,以下の関係を用いる[2,3].各要素の境界領域を𝛤𝑘とする.変位𝑢𝑖とし,変 位境界条件𝑢̃𝑖として,変位境界領域を𝛤𝑘𝑢とする.
𝑢𝑖= 𝑢̃𝑖 𝑜𝑛 𝛤𝑘𝑢 (4-3)
上式を幾何学的境界条件と呼ぶ.
また,表面力𝑡𝑖とし,荷重境界条件𝑡 ̃𝑖として,荷重境界領域を𝛤𝑘𝜎とする.
𝑡𝑖 = 𝑡 ̃𝑖 𝑜𝑛 𝛤𝑘𝜎 (4-4)
上式を力学的境界条件と呼ぶ.
本論文では,必要に応じて,変位に関する境界条件として,以下を想定する.
𝑢𝑖 = 𝑢̃𝑖 = 0 𝑜𝑛 𝛤𝑘𝑢 (4-5)
なお,変位境界条件の与え方については,後述する離散化方程式の𝐵マトリクス関連の中で,
上式を満たすように操作をする.荷重境界条件は,本論文の数値解析事例の中には,想定 されないが,荷重条件を導入できるように定式化を進める.
また,一般逆行列理論による形態解析手法の特徴は,境界条件を与えることなく解を得 られる点にある.後述する本章の数値解析事例のすべてにおいて,変位に関する境界条件 が十分に与えられていない問題である.
38