第Ⅴ節で行った分析は、企業部門の資金循 環データに基づいたものである。これに対し、
通貨危機の原因として企業の負債比率の高さ が重要であったという認識(注80)から、企 業のバランスシートデータを用いた資金調達 構造の分析が行われるようになった(注81)。
このアプローチも社債市場の分析との関連で 重要なものと考えられ、ここで簡単に説明す 図表45 各国の外貨建て資産の外貨建て負債に
対する比率
(資料)��� [����]
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中国 インドネシア
韓国 マレーシアフィリピ
ン シンガポール
タイ
ベトナム東アジア
����年 ����年
(倍)
る。
一般に、企業の資金調達構造の分析は、調 達手段ごとにエージェンシー・コスト(注
82)に差があり、それらが何らかの制度的要
因によって変化することにより企業の資金調 達方法が変化する(相対的にコストが低下し た調達手段の利用が増える)という考え方に 基づいている。ただし、このような分析では一般的に被説 明変数は負債比率であり、「負債=銀行借り 入れ」という形で単純化されている場合が多 い。この点は、アジア諸国に関する研究にお いても同様である。したがって、この分析を 社債の研究に応用する場合には、負債項目を 細分化する必要がある。三重野[2006a]は、
アジア諸国の場合、企業間信用(企業グルー プ内での信用はしばしば内部資本市場と呼ば れる)のウェイトが高いため、少なくともこ れを分離すべきであると指摘している。
アジア諸国に関する研究において、エー ジェンシー・コストに影響する要因として重 視されているのは、企業の所有構造である。
所有の集中度や企業の種類(上場企業、外資 系企業、財閥系企業など)により、資金調達 方法に特徴があるという結論が導き出されて いる。このようなタイプの研究はまだ多くは ないが、今後、「どうすれば社債の発行体を 増やせるか」という問題への回答を得ること に応用出来る可能性もあろう(注83)。
三重野[2006b]は、アジア諸国では企業
間信用が重要な役割を果たしており、また外 資系企業の場合は内部留保に依存する割合が 高いため、社債の発行が拡大し、それを生産 的な投資に充当することは難しいのではない かと指摘する。その上で、社債の発行拡大の 可能性を探るためには、発行体の候補である 大手民間企業、すなわち地場企業グループや 外資系企業の資金調達方法の特徴を詳細に把 握することが必要であるとしている。これは、
一般的な市場育成の枠組みに加えて、以上の ような踏み込んだ分析が必要であることを主 張するものである(注84)。
(注80) 通貨危機が近づくにつれて企業の負債比率が上昇し ていたことを指摘する先行研究が多くみられる。
(注81) 以下の記述は、三重野[2006a]に基づく。
(注82) 経済活動に関する行為が依頼人(principal)から代 理人(agent)に委託されていると考えた場合に、代理 人が依頼人の利益に合致しない行動をとることから発 生するコストをエージェンシー・コストと呼ぶ。企業の資 金調達においてエージェンシー・コストが低いものが優 先的に選択されると考えれば、内部留保→負債ファイ ナンス→株式ファイナンスという順序が想定出来るが、
この考え方をペッキング・オーダー仮説という。
(注83) 永野[2005](「第4章 東アジア企業の社債発行」)
は、将来の返済能力の確実性が社債発行と密接に関 連するという仮説に基づき、インドネシア、マレーシア、フィ リピン、タイ、韓国の社債発行の決定要因に関する実
証分析(プロビットモデルによる)を行った。分析の結果、
総資産規模、株式公開後の経過年数、ROAの変動率 などの説明力が高く、仮説が裏付けられたとしている。 企業の種類に関する要因は考慮されていないが、アジ ア諸国の社債発行の決定要因に関する先駆的な業績 であり、情報の非対称性が小さく、また倒産確率の低 い企業が社債を発行している事実を計量的に裏付け た意義は大きい。
(注84) 三重野・半田[2006]は、このような分析の前段階として、
社債市場の拡大の可能性と日系企業の資金調達方法 を分析することを目的に、タイとマレーシアの上場企業お よび未上場企業のバランスシートデータを整理した。そ の結果として、いくつかの重要な事実が指摘されてい る。①これらの国では主要企業が上場していないこと が多く、上場企業のみの分析からは誤った結果を得る 可能性がある。②未上場企業は企業間信用などの内
部資本市場に依存する割合が高い。③2カ国の経済 活動における外資系企業、特に日系企業の比重が非 常に高い。そして、日系企業は負債比率が低く、また、
親会社からの資本・負債調達(増資、親子ローンなど)
や企業グループ内信用に依存する割合が高い。
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