• 検索結果がありません。

行為計算否認規定及びみなし贈与の規定の検証

ドキュメント内 第2節 相続税の根拠 (ページ 82-107)

第3章 中小企業者に関する課税の公平を期する措置

第3節 行為計算否認規定及びみなし贈与の規定の検証

前節では、同族会社にみられる税負担回避の主な事例等をみてきた。その中で、実勢価 額と評価通達による評価額との乖離が原因と思われるような事例については、現行規定の 下でも一定の対応が図られているものの、より納税者の予測可能性を高める観点からは、

当該乖離が大きなものについて、随時、評価方法の適切な見直しを試みることが重要であ ることを一般論として示した。

他方で、①行為計算否認規定については、前記浦和地裁昭和56年2月25日判決(以下

「債務免除事件」という。)で被相続人の単独行為が当該規定の適用対象外とされたことは この規定の趣旨にそぐはないのではないか、②みなし贈与の規定については、法形式上同 族会社から同族会社へ贈与した場合における個人株主から個人株主へのみなし贈与の適用 が判然としないこと、の2点を論点として提起した。そこで本節では、これらの論点につ いて検証を行うこととする。

1 行為計算否認規定

(1) 債務免除事件でみられた問題点

債務免除事件では、地裁により被相続人の単独行為は「同族会社の行為」に含まれない ことから行為計算否認規定の適用は認められないと判示されたものである。当該事件にお

308 相続税法基本通達9-1では、「法9条に規定する『利益を受けた』とは、おおむね利益を受けた者の 財産の増加又は債務の減少があった場合等」をいうとされている。

76

いては、被相続人から株主である相続人に対するみなし贈与の規定の適用も考えられると ころ、当該会社が債務超過の場合などは贈与税の課税がされない可能性もあり309、また、

欠損金額が生じている場合には法人税も課されないこととなる。したがって、本判決に従 うと税負担の不当減少が同族会社以外の者の単独行為に起因するものである場合には、株 主に対して相続税あるいは贈与税が課されないのみならず、その同族会社に対しても法人 税が課されない課税の空白が生じる可能性もある。

(2) 否認される行為の主体

行為計算否認規定は①「同族会社の.....

行為又は計算」と②「これを容認した場合には株主..

等.

の相続税等の負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるとき」の要件

310があり、否認される行為又は計算の主体(同族会社)と更正又は決定される主体(株主 等)が別人格とされている。このこともあり否認の対象は同族会社「の」行為なのか、同 族会社を当事者とする取引(=取引相手である納税者の行為)なのか、経済合理性が求められ るのは会社なのか取引(あるいは納税者)なのか議論がされている311。この点は所得税の 行為計算否認規定(所得税法157条)と共通するものもあり312、そこでの議論は相続税に ついても相当程度妥当するものと思われる313ため、下記で適宜参照し検討することとする。

① 「同族会社の行為」に係る従来の見解

否認対象が同族会社の行為とされている点を説明しうる見解として、本規定が「『同族

309 相続税法基本通達9-3 等。

310 武田昌輔「相続税における同族会社の否認規定」武田昌輔ほか『同族会社の行為計算の否認規定の再 検討 : 租税回避行為との関係を含めて』16頁(財経詳報社、2007)。

311 田中・前掲注(269)143頁。

312 昭和25年に創設された本規定は、既に存在していた所得税の同族会社の行為計算否認規定(昭和25 年改正前)を引き写した構文となっている。

・現行の所得税法157条1項「税務署長は、次に掲げる法人の行為又は計算で、これを容認した場合に はその株主等である居住者又はこれと政令で定める特殊の関係のある居住者(…)の所得税の負担を不 当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、その居住者の所得税に係る更正又は決定に 際し、その行為又は計算にかかわらず、税務署長の認めるところにより、その居住者の各年分の第百二 十条第一項第一号若しくは第三号から第八号まで…に掲げる金額を計算することができる。 一 法人 税法第二条第十号 (定義)に規定する同族会社(以下略)」

・現行の相続税法641項「同族会社等の行為又は計算で、これを容認した場合においてはその株主若 しくは社員又はその親族その他これらの者と政令で定める特別の関係がある者の相続税又は贈与税の 負担を不当に減少させる結果となると認められるものがあるときは、税務署長は、相続税又は贈与税に ついての更正又は決定に際し、その行為又は計算にかかわらず、その認めるところにより、課税価格を 計算することができる。」

313 この点、法人税における同族会社の行為計算否認規定(法人税法132条1項)は行為計算の主体と更正 決定の主体は基本的に同じであり、相続税等の行為計算否認規定と異なる。(なお、同法132条の2(組 織再編成に係る行為又は計算の否認)については、東京高裁平成26115日判決(ヤフー・IDCF 事件)において「行為又は計算の主体である法人と法人税につき更正又は決定を受ける法人とは異なり 得る」と判示されたが、同条の規定は法人税法132条1項と条文構造が異なり、また相続税等のそれ とも異なる。)

77

会社』という主体に着目して定められて」おり、「その構成メンバーからいって、意思決定 が経済的合理性に欠けることがあることを考慮した制度」と理解されていることから同族 会社自体の意思決定の介在が必要であるとする見解314や、所得税の行為計算否認規定にお いて「置き換えるべき行為計算の客観性、合理性を担保するため求められる経済合理性は、

会社にしか強制しえ」ず、「法は、個人の行為や計算について経済合理性を求めているもの ではない」ことから、規律の対象は会社とされる必要があるとする見解315、また「相続税 についても、同族会社の経済的合理性を欠いた行為または計算によって、税負担が減少す ることがありうる」ために本措置が講じられ、「否認が認められるためには、同族会社の行 為(単独行為でも契約でもよい)が必要」との指摘316、さらに、同族会社の行為というた めには「同族会社の主導的なファクターが必要」であるとし、例えば同族会社に対する贈 与の場合の主たる行為者は贈与者である株主であって同族会社でないとする指摘317など がある。これらの見解はいずれも、経済合理性を求める対象を同族会社としていると考え られる。

他方で、否認対象である「同族会社の行為」を「同族会社を当事者とする取引」と解釈 する見解としては、所得税の行為計算否認規定に関し「所得税法157条が、同族会社とい う形式を利用して所得税負担が減少させられるのを防ぐための規定だと解釈したことから、

ここにいう同族会社の行為・計算とは、同族会社と株主等との間の取引行為等を全体とし て指し、その両者間の取引行為が客観的に見て―すなわち、取引当事者のどちらの立場か ら見ても―合理性を有しているか、という形で判断され、不合理だとされる場合には、こ の両者間の取引行為が全体として否認され、合理的な行為に引き直した課税を受けるもの、

と解するのが相当」318とする。また、この見解と類似するものとして「課税の対象者が個 人であって同族会社は課税されないが、個人と同族会社間における行為・計算が不自然・

不合理という異常性があるかどうかが判断の対象となるのであり、個人と法人間の全体の 取引行為が異常性があるかどうかが問題となる。役員等個人が純経済人かどうかで判断す

314 碓井・前掲注(275) 159頁。

315 田中治「租税回避否認の意義と要件」岡村忠生ほか『租税回避研究の展開と課題』55頁(ミネルヴ ァ書房, 2015)。

316 金子・前掲注(9)396頁。

317 武田・前掲注(310) 17頁。

318 佐藤英明「所得税法157条(同族会社の行為・計算否認規定)の適用について」税務事例研究21 57頁(1994)。個人から法人への無利息貸付につき雑所得として認定利息課税を行った平和事件(東京 高裁平成11531日判決)においても「本件規定にいう同族会社の行為又は計算とは、同族会社と 株主等との間の取引行為を全体として指し、その両者間の取引行為が客観的にみて経済的合理性を有し ているか否かという見地から判断すべき」とされた。

78

るのではない」とする見解がある319。これらの見解は、経済合理性を求める対象を「同族 会社を当事者とする取引」に求めるものである。このような経済合理性の対象と同族会社の 行為の捉え方は、同族会社の取引相手である個人が行う所得あるいは財産の減少行為(こ の場合、通常、会社の所得・財産は増加するため会社の行為自体は合理的と捉えられうる。)

に対して、その不合理性を根拠に本規定により否認することを可能にするものであると思 われる。

図表4-7 経済合理性を求める対象と否認の対象となる「同族会社の行為」の解釈

経済合理性を求める対象 否認対象となる「同族会社の行為」の解釈

同族会社 同族会社の.

行為 取 引 同族会社を当事者とする取引

これら従来の見解を踏まえ、経済合理性を求める主体について前節で掲げた事例をあて はめると、地上権設定事件(大阪地裁平成12年5月12日判決)は「取引」に、不動産高 額買取事件(大阪地裁平成18年10月25日判決)及び賃貸用建物取得事件(平成27年1 月6日大阪国税不服審判所裁決)は「取引」と「個人」に経済合理性を求めており、同族 会社の行為を、同族会社を当事者とする取引と解していると思われる。他方、債務免除事 件については経済合理性に係る判断はされていないが、地裁が同族会社の行為を同族会社 とかかわりのある行為と解釈すべきとする課税庁の主張を退け、否認の範囲は同族会社関 係者の行為に及んでいない旨を判示している点を踏まえると、否認の対象は個人や取引で なく「同族会社の行為」であり、経済合理性を求める主体を同族会社と解釈していると考 えるのが自然と思われる320(図表4-8参照)。

319 松沢智『租税実体法:法人税法解釈の基本原理(補正第2版)』49頁(中央経済社、2003)、占部裕典「同 族会社の行為計算の否認と所得税」水野忠恒ほか『租税判例百選(第5版)』別冊ジュリ47590 頁(2011)。

320 田中・前掲注(315)56頁。

ドキュメント内 第2節 相続税の根拠 (ページ 82-107)