―JGSS と NFRJ による意識構造・規定要因の比較―
田中慶子
1.問題設定
1990 年代以降に顕著となったわが国の未婚化・晩婚化の要因についての議論は数多くあ るが,そのひとつとして,本稿では家族意識に注目する.2000 年代に入り,いくつかの大 規模調査から,若年層(20-30 歳代)のとりわけ女性において,性別役割分業を肯定し,「家 族の個人化」に否定的であるといった,それまでの趨勢とは異なる,家族意識の「保守化」
傾向がみられることが注目される(たとえば松田 2005;国立社会保障・人口問題研究所 2006 など).
このような現象は,現代の若者(未婚者)の,現状肯定的で,生活環境の変化を望まな いという態度や,将来の実現可能な生殖家族の生活とのギャップをあらかじめ予測したう えで,理想や期待の表明であるなど,さまざまな解釈ができる.いずれにせよ若年層にお いて,意識の上で家族形成に対する「高いハードル」が設定されているひとつの証左であ るとも捉えられる.
一般に性別役割分業に対して否定的な態度(ここでは「革新的」とする)となる,若年 層,女性において,そのような変化がみられることは,若者論としてだけでなく,家族変 動論の観点から重要である.彼女らは,戦後の民主化教育を受けた両親とその「子ども」
という組み合わせが大半を占める,「家族の戦後体制」を子どもの頃から体現したコーホー ト(主に 1970 年代後半出生コーホート)である.いわば初の「真の戦後家族」において,
核家族のサイクルが一巡する 1990 年代に,そして「戦後第 2 世代」の家族形成において,
どのような変化がみられるのかに,戦後家族の民主化が実証されることになるからである
(山根 1974).
しかし,同時にこのコーホートは,周知のように教育や労働,人口学的な位座という点 でも,それ以前のコーホートとは大きく異なっている.高学歴化(特に 4 年制大学進学率 の上昇),若年労働市場の非正規雇用化・不安定化,未婚期における離家経験率の増加,大 都市出身者が多いなど,従来ならば「革新的」な意識・態度となると予測される社会経済 的な特徴をもつ者が多い.はたして若年層において家族意識の「保守化」という趨勢は,
たしかに確認できるのであろうか.家族意識を規定する要因が変化し,従来の社会経済的 な特性との関連が弱まった結果,上記の動向となっているのではないかという疑問も残る.
本稿では 1990 年代以降の家族意識の変化,とりわけ若年層における家族(ジェンダー)
意識の保守化という現象を,2 つの全国サンプルの標本データを用いて,実証的に確認す ることを目的とする.家族意識の構造の変化,および社会経済的属性と家族意識との関連
を検討し,属性を統制した上でも,たしかな趨勢として若年層の家族意識の「保守化」は みられるのか検証をおこなう.
2.先行研究―家族意識研究の方法と問題点―
わが国の代表的な家族社会学者である森岡清美によれば,家族変動の観察は,家族形態 の変化(家族変形)と家族規範の変化(家族変質)に区分できる(森岡 1993).家族意識 についての研究は,家族変質を捉える視点として,学術研究だけではなく,戦後から今日 まで続くわが国の代表的な世論・社会意識調査の中でも常に一定の位置を占めてきた.
家族意識とは,「家族という社会関係について個人および人びとがもつ,価値づけと規範 および家族行動に対する態度」(石原 1982: 122)と定義され,「自身の家族生活について 抱く期待にとどまらず,一般的な家族について抱くイメージも含むという点では,個人が 内面化している家族についての規範に近接した概念」(西野 2006: 139)であり,家族意識 は家族に関する社会規範,家族関係に関する態度と対応すると考えられる(熊谷 2001).
一般に家族意識研究とは,家族生活や,家族内の人間関係,結婚・パートナー関係などに ついて,「家」対「民主的・平等な家族」,そして「近代家族」対ポスト近代家族・非近代 家族という対立軸が設定され,ある時期や,カテゴリーによる「座標」をめぐって議論さ れる.1980 年代までは,世代間扶養や継承,先祖祭祀など「家」意識の残存と民主的家族
(近代家族)の浸透が主眼であったが,近年では後者の対立軸,とりわけ夫妻の性別分業 やジェンダーについての意識が注目されている.
1980 年代までの家族意識研究を整理した松成恵(1991)によれば,家族変動を家族意識 の側面からあきらかにしようとする試みは,3 つの系譜に整理することができる.第 1 に,
特定の地域を選んで,その地域の対象者の家族意識について調査したもの.第 2 に,全国 規模の世論調査の結果を資料として,戦後の家族意識の変化を明らかにしようとしたもの.
第 3 に,因子分析による家族意識の構造分析である.
第 1 のアプローチからは,(局所的なデータに依拠する知見が多いという限界があるもの の)社会経済的属性と家族意識との関連があきらかになっている.総体として社会経済的 地位が,家族意識を左右すると予測し,年齢,学歴(教育年数),配偶関係,就業状態,出 身地,居住地,妻の就業形態などの要因を指摘している(竹ノ下・西村 2005: 早瀬 2005).
概して高齢,ある程度高学歴,有配偶,農村出身,非都市在住,妻専業主婦の者が「保守 的」であることが知られている.データの蓄積はあるものの,一部をのぞいて基本的な分 析にとどまっており,結局,誰がどのような家族意識をもつのかという全体像が十分に把 握されているわけではない.また,家族意識の内容によって,属性要因の影響は異なるこ とを指摘しているが,それぞれの家族意識を規定するメカニズムやその関連が十分にあき らかになっているわけではない.
第 2 のアプローチでは,継続調査によって変化の趨勢が示されている.1990 年代以降の
趨勢に注目すると,家族の「個人化」や「多様化」に該当する項目での変化―それらを許 容する傾向―は多くの調査で確認されている(石原 2004).しかし性別役割分業に関する 項目(「男/夫は仕事,女/妻は家庭」)では,異なる知見が示され,議論の焦点となってい る.
一方では,若年層の性別役割分業,家族意識の「保守化」が指摘されている.具体的に みてみよう.内閣府の「男女共同参画社会に関する世論調査」では,性別役割意識は,全 体として分業否定的な方向に変化しているものの,1980 年代以降(1997 年までは),男女 差が広がり「進んだ女性 遅れた男性」という構図がみられた(尾嶋 2000).しかし先述 のように近年,若年女性においては,性別役割を肯定的に評価する傾向がみられ,性別役 割意識が「再評価」され,また 30 代では男女の差がほぼなくなってきているという(松田 2005).また国立社会保障・人口問題研究所の「出生動向調査」でも,それまでは,性別役 割分業否定の方向に推移していたものの,最新調査(2005 年)では,未婚女性ではその趨 勢が鈍化していること,有配偶では逆転して分業肯定が増加している.独身者においては 家族・結婚を支持する動きに復調がみられるなど,若年未婚女性における「保守化」が確 認された.有配偶女性を対象とした同研究所の「第 3 回家庭動向調査」(2003 年)では,
全体的には分業肯定が過半数を割り,伝統的価値観を否定する趨勢がみられるものの,20 歳代,主婦層では比率の変化が小さい.このように性別分業についての意識は,2000 年代 に入り,(他の年齢層の趨勢とは異なり)若年層では性別分業を肯定する者が増加している
「保守化」傾向が示された.
他方で,若年層の変化は認められず,むしろ高齢層での変化を強調する知見もある.日 本家族社会学会による「家族についての全国調査」(NFRJ)の分析をおこなった西野(2006)
は,1999 年と 2004 年の比較では,全体として分業否定的な方向に推移しているものの,
そのパターンは男女で異なるとしている.女性では 50 代以上の高齢層で分業否定的な方向 への変化し,また 1950-60 年代コーホートで性別役割意識の「革新化」が進んでいること から,コーホート効果と解釈している.男性ではいずれの年齢層でも「革新化」しており,
分業規範の弱体化による時代効果と考えられる.同様に西野(2006)は国立社会保障・人 口問題研究所による「家庭動向調査」の第 1 回(1993 年)と第 2 回(1998 年)を比較し,
女性は 60 歳以上で「革新化」が認められることを指摘している.
つまり,どの年齢層(コーホート)で性別役割分業に対する意識の「変化」が認められ るのか,「変化」を捉える基準―分業肯定と否定の比率,前回調査との値の比較,年度間の 比率の増減量―も異なっており,家族意識の変化の趨勢について,必ずしも一定の知見が 得られているわけではない.第 2 のアプローチでは,基本的に性・年齢・本人就業などに よって比率(得点)の違いによって観察をおこなっているが,第 1 のアプローチから示さ れているように,社会経済的属性によって態度は異なっており,家族意識の変化が時代効 果によるのか,コーホート効果によるのか,コーホート内の属性要因を統制したうえで,