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自発的な援助行動としての可能性

  これまで, 個体の適応価上昇やその表現型のひとつである文化を可能にして きたヒトの極めて高い協力傾向 (cooperative tendency) の初期発達は, 主に乳児 期で見られる援助行動 (helping behavior) を手がかりに検討されてきた (Piliavin

& Charng, 1990; Fehr & Rockenbach, 2004; Stevens & Hauser, 2004; Warneken &

Tomasello, 2006)。より具体的に, 結果的に他者の利益となる社会的な行動の発達

的起源に関しては, これまで主に「道具的援助行動」(instrumental helping) とい うカテゴリーで検討されてきた。道具的援助行動は, 他者の届かないものを他者 にとってあげたり, 他者がものの場所を知らない時にその他者に場所を教えて あげたりする他者の行動ベースの目標 (action-based goal) の実現を手伝う援助 行動と言われている (Liszkowski, Carpenter, Striano, & Tomasello, 2006; Warneken

& Tomasello, 2007)。このプロセスには, 他者の行動の目標を理解していることが

前提条件として考えられる (Woodward, 1998)。つまり, 他者の「実現させようと する状態」(i.e., 目標) と「現在の状態」とを理解して, それらのギャップから生

じる「他者のニーズ」(i.e., 他者を援助する必要性) を推測しなければならない。

これまでの実験的研究は, 生後 12 ヶ月ごろから乳児が自発的に他者に対して 道具的援助行動を行うことがあることを明らかにしている。一方, 最近のアイト ラッキング研究によれば, 他者のニーズに対する理解が, 生後 9 ヶ月児にすで に見られる。このアイトラッキング研究では, 9̶18 ヶ月児が, 援助が必要であ るキャラクター (障害で自らの目標に届かない) と, 援助が必要のないキャラ クター (自らの目標に届く) とを観察した。第三者 (援助者) が行動を始発する 際に, 9 ヶ月児でもその第三者が困っているキャラクターを援助することを期 待した (予測注視と期待違反法)。他者のニーズを理解する月齢と, 実際に他者 を手伝う月齢との不一致が, 援助行動のメカニズムを理解する上でヒントを提 供するかもしれない (Köster, Ohmer, Nguyen, & Kärtner, 2016)。

  トマセロらは, 実証的な検討をとおして, 生後 2 年目から乳児は他者が必要 とする情報をその他者に提供する場合があることをあきらかにした。例えば先 行研究では, 12 ヶ月児は, 対象物の場所を知りながらその対象物を探している 人と比べ, 対象物の場所を知らないために探している人のほうに対してより高 頻度に対象物の場所を指さすことがわかっている。実験設定の文脈から考えら れば, 乳児のその選択的な指さし行動は, 「ものを探している人」に「ものの場 所」を「教える」ための行動として考えられる (Liszkowski, Carpenter, Striano, &

Tomasello, 2006; Liszkowski, Carpenter, & Tomasello, 2008)。このような, 他者に必 要とされる知識をその他者に提供する行動形式が一種の「情報的援助行動」 (i.e.,

informative helping) として考えることができるのではないでしょうか。情報的援

助行動のプロセスでは, 他者に見られる何らかの情報の欠如によってニーズが

生じ, 援助者がそのニーズを理解した上でその他者の知識・注意状態を補完する。

言語をとおして他者に情報を伝達するプロセスのように, 必ずしも具体的な対 象物に対する操作 (e.g., ものを拾う) を含まない。

  「情報的援助行動」の考え方と, 第 3 章で提示された (第 3 章における乳児 の選択的な指さしが基づく) 情報提供の動機の可能性とを総合的に考えれば, 本研究で見られる他者の「知らないもの」に対する乳児の自発的な指さしは, 自 他の知識・注意の状態の不一致を検出した上での他者に対する自発的な情報提 供̶一種の自発的な情報的援助行動として扱うことができるのかもしれない。

少なくとも, この行動によって結果的には自他の注意状態もしくは知識状態の ギャップが補完され, 他者が特定の情報を獲得することになる。つまり, 他者が この行動を通して情報的利益を得ることになる。

  発達早期で考えられる情報的援助行動が, ヒトにおける教示行為の進化の必 然性を反映しているのかもしれない (Trivers, 1971; Nowak & Sigmund, 1998;

Thornton & Raihani, 2008)。また, その延長線に, 心の理論や実行機能, 言語能力

などの発達に基づいたよりマキャベリアン (Machiavellian) の戦略的な情報提供 (情報操作; 例えば嘘, 情報の独占) が考えられるかもしれない (Humphrey, 1976; Chandler, Fritz, & Hala, 1989; Dunbar, 1998; Talwar & Lee, 2008; Moriguchi, Okanda, & Itakura, 2008)。

Figure 7. Typical altruistic behaviors infants show in the second year (i.e. instrumental helping7 and informative helping8).

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