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自律型多読指導と統制型多読指導との 比較検証のための実験

本章においては,前章で検証した「自律型多読指導法」を受ける被験者を「統 制群J,読後活動を伴う「統制型多読指導法Jを受ける被験者を「実験群」とし,

その有効性に関する比較検証を行うことを目的とする。

1

節 仮 説

第 1章 第2節および第2章 第3節の先行研究による示唆から

r

自律型多 読指導法」と「統制型多読指導法」との比較に関する実験を行うにあたり,次 の仮説を立てることにする。

読後活動を伴う「統制型多読指導法Jは「自律型多読指導法」よりも読 解力(リーディングスピード・内容把握力)の向上を促進する。

r

統制型多読指導法』での読後活動および評価は,情意フィルターの上 昇には直接的な影響を及ぼさない。

2

節 実 験 方 法

前節の仮説を検証するために, 2008年4月から 2009年 1月までの 10カ月 間にわたり,

r

自律型多読指導群」は「自律型多読指導法Jを授業外活動として,

「統制型多読指導群」は「統制型多読指導法」を授業内活動として実施した。

「統制型多読指導群」においては, 50分の授業を 10カ月間で 30回行い,合 計で25時間をこの指導にあてた。

第 1

項 被 験 者

本実験は,ある共学の私立高等学校 1年生2クラス 77名を対象に実施され

た。被験者全員が四年制大学への進学を希望しており,英語に対する学習意欲 は総じて高い。英語力に関しては,高校入学前に実用英語技能検定3級をほぼ 全員が取得しており,被験者全体では中学校卒業程度の基本的な学習内容は身 についていると思われる。

被験者は所属するクラスによって

r

自律型多読指導群」と「統制型多読指 導群」の2群に分けられた。「自律型多読指導群Jは男子 19名,女子 20名の 計39名で構成され,

r

統制型多読指導群Jは男子 18名 女子20名の計38名 で、あった。被験者が所属する 2クラスは高校入試の結果をもとに,学習到達度 の平均がほぼ均一になるように編成されたクラスで、あったため,各群の高校入 学段階,つまり,実験開始前の総合的な学力レベルはほぼ同じで、あったと考え

られる。

被験者はすべて週に 7時間の英語の授業を受けた。その内

r

統制型多読指 導群」においては週に 1時間が授業内での「統制型多読指導Jにあてられた。

一方,その時間に「自律型多読指導群」はネイティブ・スビーカーによる教科 書を用いたオーラル・コミュニケーション 1

( o c

I)の授業を受けた。上記の 1 時間以外の授業内容,進度,および,多読に関する課題以外は,各群にすべて 共通のもので、あった。詳細については,表12の通りである。

内容 朝テスト

英語 1(4単位) OC 1 (2単位) OCI (1単位) 課題

多読用教材

12 自律型多読指導群と統制型多読指導群の指導内容】

自律型多読指導群 統制型多読指導群

単語テスト・暗唱文テスト(共通問題) 教科書を用いた指導(共通) 教科書を用いた指導(共通) 教科書を用いたネイティブ・

スビーカーによる指導 週に 1冊英語の本を読む

統制型多読指導 要約・書評のリライト

Leveled Readers Graded Readers 

ジャパンタイムズ週刊ST

39 

第 2 項 教 材

「自律型多読指導群」の教材は,第 3章 第 2節 第 2項で述べた Graded Readers(GR)と英語を第一言語とする児童用の学習絵本や英語の読み書きを学 ぶための LeveledReaders(LR)を使用した。この中から,総語数がほぼ同じ 50 冊を週に 1回教室に持って行き,被験者はその教材内で,自分の興味のある本

を選び,借りていくことができるようにした。

「統制型多読指導群」で使用する教材は,表13の通りである。

「統制型多読指導群j においては 第 1回から第 25固までは LRを使用し た。これは,英語で書かれた本を読むことができたという達成感を与えると同 時に,豊富な挿絵から未知語をできるだけ類推することを奨励するためである。

また,第2章 第3節で述べたように, LRはシリーズ化された本が多いため,

最低5回は同じシリーズの教材を使用し,その内容やテキストタイプに親しま せることによって,直読直解で概要を把握することが容易になると考えたから である。さらに,様々なテキストタイプの背景知識の育成を図ることができる ように,第 1回から第20固までは物語文を,第21回から第25固までは説明 文(伝記)を,第26回から第30固までは評論文(新聞記事)を使用した。被 験者は同一シリーズの教材内で,ランダムに与えられた教材のすべて,もしく

は一部を読むように指示された。

「自律型多読指導群jおよび「統制型多読指導群」で使用される GRおよび LRの教材にはすべて,英語多読完全ブックガイド改訂第 2版(古川他, 2005) 

に基づいて,読みやすさレベル,ジャンル,シリーズ名,総語数などの基本情 報を示したラベルを貼り,読書後にその情報を読書記録ノートに記入するよう すべての被験者に指示した。

13 統制型多読指導群の使用教材】

│ 

教 材

1 IBath time for Biscuit  2

I

Biscuit and the baby  3

I

Biscuit wants  play 4

I

Biscuit'Day at the Farm  .5

I

Biscuit'Big Friend 

6

I

Curious George and the birthday surprise  7

I

Curious George and the dump truc k  8

I

Curious George and the firefighters  9

I

Curious George and the hot air balloon  10

I

Curious George and the puppies  11

I

Curious George at the parade  第 四 回

I

Curious George feeds the animals  13

I

Curious George goes to a costume party  14

I

Curious George goes to a movie 

15

I

Curious George in the big city  16

I

Days with Frog and Toad  17

I

Frog and Toad all year  18

I

Frog and Toad are friends  第 四 回

I

Frog and Toad together  20

I

Grasshopper on the road  21 IWhwas Albert Einstein?  22 IWhwas Helen Keller?  23

I

Whwas John F. Kennedy? 

24

I

Whwas Louis Armstrong? 

25

I

Whwas Wolfgang Amadeus Mozart? 

26 27

シリーズ・ジャンル・レベル・語数

ICRO, H W, 0.40.6, 149  ICRO, H W, 0.30 .4 157  ICRO, H W, 0.40.6, 117  ICRO, H W, 0.30 .4 144  ICRO, H W, 0.30.5, 138  Curious G, AN, 0.60.8, 569  Curious G, AN, 0.60.8574 Curious G, AN, 0.60.6780 Curious G, AN, 0.71.0, 700  Curious G, AN, 0.71.0666 Curious G, AN, 0.71.0670 Curious G, AN, 0.71.0730 Curious G, AN, 0.71.0628 Curious G, AN, 0.71.0703 Curious G, AN, 0.91.2810 ICR2, H W, 1.21.62074 ICR2, H W, 1.21.61722 ICR2, H W, 1.21.6, 2275  ICR2, H W, 1.21.6, 1968  ICR2, CO, 1.41.81980  Whwas?, BI, 2.03.08873 Whwas?, BI, 3.03.58611 Whwas?, BI, 2.53.0, 9142  Whwas?, BI, 2.53.0, 8243  Whwas?, BI, 2.53.07502

Z二士二ご1ArticlesomST

28回 │ │学習者が選んだ記事

用 山 山 ハ ハンタイムズの英語学習新聞,週刊ST 29

30

41 

第 3 項 手 順

「自律型多読指導群」の被験者には, 1週間で 1冊の本を読むことをノルマ として課した。しかし,本実験においては,

r

統制型多読指導群」とのインプッ ト量をできるだけ等しくするために,週に 1回教師が用意したほぼ語数が同じ だ於レベルが異なる様々な本の中から,自分の能力や好みに応じて好きな本を 選び,授業外の課題として自分の好きな時に,好きな場所で読むように指示し た。また,第3章での実験と同様に,読後活動として,読書記録ノートをつけ,

各本のラベルに記載されているタイトル名,著者名,シリーズ名,総語数のよ うな基本情報のほか, 2"'3行程度の感想を日本語で書くよう指導した。

すべての被験者は指導前に,以上のような到達目標,本の選定方法,読書記 録ノートの記入方法に関する多読のオリエンテーションを受けたが,スキャニ ング(scanning),スキミング(skimming),フレーズ・リーディング、(phrase reading),パラグラフ・リーディング、(paragraphreading)などの読解ストラテ

ジーに関する指導は第3章と同様に行わなかった。

「統制型多読指導群」は,週に 1回 (50分X30回),授業内活動として「統 制型多読指導」受けた。その30回分の指導概要は表 14の通りである。

14 統制型多読指導の概要】

多読指導の目標 アウトプット活動の概要 100‑150語程度の易しいレベル

本文の語を用いて, 13文であら の絵本を読み,英語の本を最後ま

1回 第5 で読めたという達成感を与え,多 すじゃ自分の感想を英語で書き'L 読に対するモティベーションの向 それをまだその本を読んでいな!

上を図る。 いクラスメートに紹介する。

500800語の易しいレベルの絵 5‑10文で読んだ本のあらすじを 6回 第 15 本を読み,絵や文脈から未知語を 英語で書き,それをまだその本を l

類推する力の育成を図る。 読んでいないクラスメートに紹 介する。

2000語レベルの易しい児童書を 15文程度で読んだ本に対する書 16 20 読み,英文を直読直解し,概要を 評を英語で書き,それをまだその│

把握することができる力の育成を 本を読んでいないクラスメート

図る。 に紹介する。

8000語レベルの児童向けの偉人 グループ内で、章ごとに分担し, 20 21回 第25 の伝記を読み,説明文におけるテ 文程度で説明文の要約を英語で

キストタイプの背景知識の育成を 行い,クラスメートにその偉人の

図る。 業績を紹介する。

500語レベルの評論文を通して, 30文程度で新聞記事の要約,およ 26回 第30 そのテキストタイプの北且知識の び,それに対する自分の意見を英 育成を図る。 円 爪 語でまとめ,紙面ディベートおよ

び口頭デ、イベートを行う。

ま た , 毎 時 間 の 指 導 手 順 は 表15の通りである。

15 統制型多読指導の手順】

授業展開 時間 活動形態 活動内容

導入 3 全体 本の紹介・読後活動の提示

15 個人 持続的黙読 10 個人 要約・書評の作成 展開

15 個人・グループ 口頭発表(書評の紹介)

5 個人 自己評価

まとめ 2 全体 活動に対する教師の評価

課 題 個人 要約・書評の書き直し

43 

まず,導入として,その回で読む教材の紹介をし,配布した。また,読後活 動の内容も合わせて紹介し,読書に対する意識付けを行った。次に, 15分間の

「持続的黙読の時間j を与えた。その際,大意を把握することを目標とし,で きるだけ挿絵や文脈を利用して未知語の意味を類推するように指示した。しか し,辞書の使用は禁止せず,文脈上意味が分からなければ大意の把握に支障が 生じるような場合や,読後に意味が知りたいと記憶に残っているような語につ いては,辞書を使用して確認してもよいこととした。その後, 10分間の要約・

書評等を書く時間を与えた。その際,本文中の文章の書き抜きにならないよう に,本文中の単語は使用してもよいが,文章をそのまま使用することは禁止し た。次に,その要約や書評をクラスメートに口頭で伝えるという活動を行った。

口頭発表後には,必ずクラスメートから理解できたかどうかのコメントをもら うよう指示し,課題で要約や書評を書きなおす際の参考にするよう指導した。

また,読後活動後には,読書記録ノートに読んだ教材の基本情報および感想を 日本語で数行書くように指示すると同時に,自己評価シートに今回の教材,お よび,読後活動の状況に対する自己評価を行わせた。また,授業の終わりには,

教師が読後活動に対するコメントを行うと同時に,授業内で書いた要約や書評 の書き直しを課題として提示した。

「統制型多読指導群」の被験者はすべて,上記のような指導開始前に,到達 目標,読書記録ノートの記入方法,要約や書評の書き方に関するオリエンテー ションを受けたが

r

自律型多読指導群」と同様に,スキャニング(scanning),  スキミング(skimming),フレーズ・リーディング(phrasereading),パラグラ フ・リーディング(paragraph reading)などの読解ストラテジーに関する指導は 行わなかった。

第 4 項 分 析 方 法

10ヶ月間それぞれの群に「自律型多読指導」と「統制型多読指導」を実施し,

リーデイングスピード,および,内容把握力の向上を検証するために,実験前 後で読解テストを実施した。この読解テストは,問題の難易度の差によって誤 差が生じるのを防ぐため,同一の問題を使用した。また,実験後のデータを有

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