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耐性菌への総合戦略〜Stop!耐性菌〜医療だけでは出来ない!市民,企業,行政からの視点と取り組み 司会のことば

大阪大学医学部附属病院 感染制御部1,国立病院機構東京医療センター 統括診療部2

朝野和典

1

,岩田 敏

2

薬剤耐性菌はなぜ増えるのでしょうか?耐性菌の増加は抑制できないのでしょうか?耐性菌は増加する一方だ と思っていたら,幸いなことに,現在,わが国の耐性菌の比率は一部の細菌を除き,一定かむしろ減少傾向に あります。それでは,それは何が有効だったのでしょうか?この質問に明確に答えることは,おそらく困難で しょう。家畜などの飼料に含まれる抗菌物質をはじめとして,それは医療だけの問題ではなく,社会の問題で もあるからです。1980 年代に市民の側から耐性菌である MRSA による院内感染がクローズアップされ,感染症 医療が研究者と医療者と製薬メーカーだけの問題から,市民の問題としてもとらえられるようになってきまし た。しかし,そのとらえられ方は,現実に起こっている耐性菌による院内感染の問題であり,そもそもなぜ耐 性菌が生まれ,増加するのかについては市民やマスコミの関心は高まりませんでした。その間にも,私たちは,

「有用で強力な抗菌薬だから,この感染症にはこれを使おう!」と言ってこなかったでしょうか?しかし,その 結果として新たに耐性菌が生まれてきたことには眼をつぶりました。医療の側も増え続ける耐性菌に対し,新 しい抗菌薬で対応するという発想から抜け出すこともできませんでした。一方で,1990 年代の後半くらいから,

医療は,具体的な努力を積み重ねてきたのもまた事実です。院内感染の公表,院内感染対策の制度化,ガイド ラインによる抗菌薬使用の適正化など,華々しいスポットライトではなく,むしろ規制側として,あるいは批 判される側として耐性菌の問題に取り組んできました。そのような痛みを伴いながら,例えば,呼吸器学会の ガイドラインは,エビデンスよりもいかに耐性菌を制御するかという視点に立って書かれ,院内感染において は大学病院を中心にアウトブレイクの公表も目にするようになりました。院内感染の公表についてのマスコミ の論調も,冷静な受け止めが見られるようになってきました。それによって,さまざまな院内感染の事例を共 通の経験とすることで安全な医療の質の向上に寄与してきています。行政も医療法等により,院内感染対策の 実施を制度化してきました。特に平成 19 年の医療法改正は画期的なものだったといえます。このような時期に,

これまで医療としてだけの内輪の耐性菌対策から,社会としての耐性菌対策へ踏み出すべきときであるとの山 口会長の強い思いから,本シンポジウムを企画するに至りました。本シンポジウムでは,市民,医療,行政の それぞれの視点から日本の耐性菌対策の今後のあり方について意見を述べていただき,会員のみなさんととも に活発な議論を進め,これからの感染症・化学療法の進路について議論を深めたいと考えています。いまこそ,

患者の立場に立脚した国民医療としての感染症医療,耐性菌対策を市民,行政,医療,企業が手を携えてさら に推進するときと考えます。そのためには情報の共有化と責任の明確化が必要です。市民は常に無辜であると は限りません。不必要な抗菌薬を処方しない,要望しない,それだけでも一歩進めると思います。耐性菌を恐 れることはありません,ただし,いつかもっといい薬が出るだろうと,耐性菌の恐ろしさを知らずに抗菌薬を 使い続けるのはもうやめたいと思うのです。

耐性菌への総合戦略〜Stop!耐性菌〜医療だけでは出来ない!市民,企業,行政からの視点と取り組み 1.研究者の立場から

東邦大学 医学部 微生物・感染症学講座

石井良和

抗菌薬耐性菌は,抗菌薬使用によって新たに出現し,その使用量の増加とともに蔓延するとの考えがある。

ベンジルペニシリンはその発見から 10 年以上の後,1942 年に最初のβラクタム系薬として実用化された。しか し,1940 年にペニシリンを不活化する酵素であるβラクタマーゼを産生する細菌が存在することが報告されて いる。このことから全てとは言えないものの,薬剤耐性因子は抗菌薬の使用とは関係なく存在していることが 理解できる。私は,抗菌薬使用の耐性菌選択に果たす役割は大きいが,耐性因子を作り出すとの直接的な関連 性はないと考えている。ヒトの感染症治療を目的される抗菌薬の適正使用は,治療効果向上や院内感染防止の ためには有効な手段である。抗菌性物質の使用量は,ヒトを対象に使用するものと比較して,家畜などの動物 あるいは環境に使用されるものの方が遥かに多い。原則としてヒト用の抗菌薬と同一構造を有する化合物を家 畜に使用することは好ましくないといわれている。しかし,類似構造を有する抗菌薬や同一構造の抗菌薬が家 畜用として使用されていることも事実である。また,最近では健常人が耐性菌のリザーバとなっている可能性 や耐性菌による市中感染発生などが報告されている。このような背景から,ヒト用抗菌薬の適正使用のみでは 耐性菌の市中における拡散あるいは蔓延を防止することは困難であると考えている。米国では市販鶏肉の 44%

にカンピロバクター属菌の混入が認められ,その内の 10% がフルオロキノロン系薬耐性菌であった。この事実 を重く見た FDA は,2000 年にフルオロキノロン系薬の家禽への使用禁止の検討を始め,2005 年にはエンロフ ロキサシンの使用を禁止した。その結果,2007 年にフルオロキノロン系薬耐性カンピロバクターの蔓延を抑制 することに成功したと Nelson らは報告している。さらに,FDA は 2008 年 10 月から家畜へのセフェム系薬の 使用制限を強化しており,米国におけるβラクタム系薬耐性菌の動向が注目される。今回の発表では,本邦に おいて私どもを取り巻く環境と臨床材料から分離される薬剤耐性菌の関係についてのデータを示す。その上で,

耐性菌制御に向けた対策について私見を交えて述べたい。

耐性菌への総合戦略〜Stop!耐性菌〜医療だけでは出来ない!市民,企業,行政からの視点と取り組み 2.報道・市民の立場からみた耐性菌問題

朝日新聞大阪本社 編集局

中村通子

朝日新聞の見出しに「耐性菌」という言葉が登場したのは 1956 年 12 月 10 日だ。「怖い赤痢の 耐性菌 」と ある。新しい抗菌薬が登場すると,その数年後には耐性菌が登場する。厳しいいたちごっこの中で,耐性菌に よる院内感染が社会問題化するようになり,細菌感染症は「撲滅」する対象ではなく「上手に付き合っていく」

ことが重要であることが明らかになってきた。そんな現代社会に生きる我々市民は,どのように耐性菌問題に 向き合えばいいのか。報道の現場から考えてみたい。

耐性菌への総合戦略〜Stop!耐性菌〜医療だけでは出来ない!市民,企業,行政からの視点と取り組み 3.耐性菌増加を抑制するための企業の取り組みと今後の課題に

ついて

第一三共株式会社 学術調査部

山口広貴

抗菌薬の適正使用には,原因菌の抗菌薬に対する感受性を確認し,適切な抗菌薬を選択することが重要である が,菌を分離・培養し,感受性検査結果を得るには 2 日間程度の時間を要す。また,細菌感染症の急性病態は 進行が早く,早期に治療を開始する必要があるため,実地医療ではエンピリック・セラピーに頼らざる得ない ケースも多い。従って,抗菌薬メーカーとして当該製品の最新の耐性菌動向を把握し,その結果をいち早く医 療機関に情報提供することは,適正使用を普及する観点から重要な使命であると考えている。弊社では,1992 年より隔年毎にレボフロキサシン(LVFX)の主な適応菌種に対する大規模感受性サーベイランスを継続実施し てきた。本サーベイランスは東邦大学医学部 山口惠三教授を総世話人として,全国の大学・大病院を中心に 延べ 92 施設に参加いただき,73,000 株を超える貴重な臨床分離株の耐性動向を検討した研究である。その結果,

LVFX は上気道・下気道感染症の主要原因菌である肺炎球菌,インフルエンザ菌,モラクセラ・カタラーリス,

A 群連鎖球菌に対して 98〜100% の高い感受性を保持していることが確認されている。一方,淋菌が急激に耐 性化したことや,大腸菌の LVFX 耐性率が,発売時の 1994 年から 2007 年の間に 2% から 25% と経年的に上昇 していることも明らかとなった。また,本サーベイランスでは,今後の耐性動向を予測するために,キノロン 耐性遺伝子変異と LVFX の MIC 値の関係を検討してきた。肺炎球菌を例にとると,2004 年株の結果では,

LVFX 感性株である MIC が 1µg!mL の肺炎球菌の約 1 割に 1 点変異株が認められ,MIC が 2µg!mL の株では 約 7 割に変異が認められており,この傾向は 2007 年株でも同様であった。MIC 値から感性と判定される菌株で もこれら変異を有する菌株が蓄積されることが,将来における耐性菌の急激な増加につながる可能性が危惧さ れる。このような環境の中,2005 年 3 月に日本化学療法学会から厚生労働大臣宛に,『抗菌薬の適正使用法の確 立に関する協力依頼―治療効果の向上と耐性菌抑制を目指す用法用量の変更について―』が出され,日本化学 療法学会ならびに規制当局の指導のもと,科学的根拠に基づいた適正な用法・用量への見直し,関連学会,規 制当局と連動した社会への貢献を企図した開発,優れた医薬品を長期にわたり有効に使用することを目的とし た LVFX500mg1 日 1 回投与への用法・用量の変更の検討を開始し,2007 年 11 月に製造販売承認申請を行っ た。LVFX の用法・用量変更後の耐性菌動向を把握していくことは最優先の課題と考えるが,本シンポジウム では耐性菌の増加を抑制するためにこれまで実施してきた自社の取り組みを紹介するとともに,今後の課題に ついて考察したい。

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