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本研究の目的は、就任初期の看護師長の看護管理能力を高めるために経験学習を促進す るプログラムを開発し実施することであった。そして、開発した経験学習を基盤とした看 護管理能力開発プログラムが看護師長の経験学習の促進、経験学習の知識の向上、上司の 支援の促進、看護管理能力の向上、および、SOC の向上に与える影響を記述し、プログラ ムの有効性と有用性を検討することであった。経験学習を基盤とした看護管理能力開発プ ログラムに参加した就任初期の看護師長を対象に、事前事後テストで評価した結果、経験 学習、経験学習の知識、看護管理能力にて有意な上昇がみられた。この結果、本研究の仮 説1、仮説3、仮説4が支持された。一方で、職場用ソーシャル・サポート尺度は有意な変 化がなく、SOC尺度は有意に低下し、仮説2、仮説5は支持されなかった。

また、変数間の関連性を検証した結果、有意な因果関係を示したものは、「経験学習」か ら「看護管理能力」、「経験学習」から「SOC」、「上司の支援」から「経験学習」への関係 であった。「経験学習の知識」から「経験学習」には有意な関係を認めなかった.

本研究の結果にもとづき、プログラムの有効性と有用性について検討する。

Ⅰ.対象の特徴

対象者が所属する施設が有する病床数の内訳は、200 床以下 8.0% (2 施設)、201~400 床20.0% (5施設)、401~600床48.0% (12施設)、601~800床16.0% (4施設)、801~1000

床0% (0施設)、1001床以上8.0% (2施設) であった。わが国の病床の規模別の施設数割

合 (厚生労働省, 2015) と比較すると、本研究で対象者が所属する施設は中規模から大規模 の病院に集中していた。

経験学習を基盤とした看護管理能力開発プログラム参加前の看護師長の経験学習尺度の 下位尺度の得点平均値は、「具体的経験」は3.66±0.59、「内省的観察」は3.40±0.70、「抽 象的概念化」は3.63±0.49、「能動的実験」は3.37±0.49であり、木村 (2012) がビジネス パーソンを対象に実施した調査の平均値 (具体的経験:3.41±0.72、内省的観察:3.35±0.89、

抽象的概念化:3.49±0.78、能動的実験:3.42±0.82) と比較すると、「能動的実験」を除き、

やや高い傾向であった。本研究の対象者は、プログラム実施前からビジネスパーソンと比 較し、より頻繁に経験学習を行っていたといえる。これは、看護実践の中には、看護記録 を記述して自分が提供した看護について振り返ることや、申し送りやカンファレンスで他 者と実践知を共有するという経験学習の要素が埋め込まれており、おのずと看護師が経験

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学習を行っているためと考えられる。経験学習を行う頻度について、専門職である看護職 とビジネスパーソンとでは、異なることが示唆された。

また、職場用ソーシャル・サポート尺度の平均得点は、56.73±10.42 であり、小牧、田 中 (1993) が、管理職を対象とした上司サポート調査の50.91±12.34点より高い傾向であ った。これは、本研究において対象者が、自ら共にプログラムに参加してほしい上司を選 択していることから、関係性のよいペアが参加していたと考えられ、プログラム実施前か ら上司より多くのサポートを得ていたことが予測される。一方、下位尺度に着目すると、

尺度全体、また、下位尺度「情緒的サポート」と比較して、「道具的サポート」の得点が低 かった。下位尺度「道具的サポート」の各項目の得点をみると、「9.上司からは、手持ち のお金がなくなった時など気兼ねなく借りられる」の平均得点のみ1.66±0.99と低値であ り、項目 9 の得点の低さが下位尺度「道具的サポート」の得点に影響したと考えられる。

看護師長が上司からお金を借りる場面は多くないことが推測され、項目 9 は、本研究にお いて上司の道具的サポートを測定する項目として適切でなかった可能性が示唆された。

管理者の基本的能力尺度の平均得点は、160.99±29.07であり、山下 (2013) が、A看護 協会の認定看護管理者教育課程セカンドレベルに参加した看護師 (看護師長経験年数は不 明) を対象に受講前に実施した調査の 162.92±16.86 点と比較するとやや低い傾向であっ た。本研究の参加者は、看護師長就任から3年以内であることが関係していると考えた。

最後に、SOC 尺度の得点は、57.17±10.28 点で、戸ケ里ら (2014a) が日本人男女を対 象に実施した調査の女性の平均得点58.9±12.5点よりやや低い傾向であった。下位尺度の 平均得点は、「把握可能感」は20.38±4.57、「処理可能感」は16.17±4.03、「有意味感」は

19.84±3.79 であり、戸ケ里ら (2014b) が日本人男女を対象に実施した調査の女性の平均

得点 (把握可能感:22.0±5.8、処理可能感17.2±4.8、有意味感:19.7±4.2) と比較すると、

有意味感を除きやや低い傾向であった。しかし、看護師長175名を対象とした先行研究 (上 村,2015) では、尺度全体の平均得点は 55.06±9.85であり、本研究に参加した看護師長の 平均得点のほうがやや高い傾向であった。このことから、一般女性と比べて、看護師長の SOCは低い傾向にあることが示唆された。

以上より、本研究の対象者は、看護師長に就任後平均1.4年と看護管理者としての経験は 短く、看護管理能力やSOCはやや低い傾向にあるが、企業で働く人と比較して上司からの サポートを得ており、経験学習を行っていることが示唆された。

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Ⅱ.就任初期の看護師長を対象とする経験学習を基盤とした看護管理能力開発プログラム の有効性

1.経験学習促進への影響

1)看護師長の経験学習促進への効果

本研究の経験学習尺度得点平均値は、尺度全体と下位尺度「内省的観察」、「抽象的概念 化」、「能動的実験」において、事前テストと比べて事後テストで有意な上昇がみられた。

これまでも看護師長の経験学習の促進を意図したプログラム (Cathcart & Greenspan,

2013; 西向, 2011) は存在していたが、プログラムの経験学習促進への効果は検証されてこ

なかった。本プログラムは、①経験学習に関する情報提供、②経験学習記録の記述、③上 司からの支援、④リマインドメールによる経験学習記録の記述の促進の 4 つの要素で構成 しており、これらの要素が看護師長の経験学習促進の効果をもたらしたと考える。

下位尺度ごとにみていくと、「内省的観察」について、先行研究では「思考の可視化」と

「思考の共有化」によって促進されることが示されてきた (出口ら, 2007)。本プログラムで、

看護師長が経験学習記録の記述をすることは、看護師長の思考の可視化を促すこと、また、

上司から支援を得ることは看護師長の思考の共有化を促すことを意図していたが、結果と して「内省的観察」に有意な上昇がみられたことから、先行研究 (出口ら, 2007) と同様に 内省の促進に効果的であったと考える。また、「抽象的概念化」について、日本看護協会認 定看護管理者教育課程を修了した受講者を対象とした研究から、概念化能力の向上は認め られなかった (草信ら, 2013; 吉田ら, 2010) とする報告があることから、本プログラムは、

概念化能力の向上において日本看護協会認定看護管理者教育課程にはない効果を持つとい える。現行の日本看護協会認定看護管理者教育課程での教育方法は、知識教授を目的とし た講義形式が主体であるため、抽象概念化や論理的思考を促すためには身近な管理問題を 切り口とした情報の整理や統合をするような演習を取り入れることの必要性が指摘されて いた (草信ら, 2013)。本プログラムで、看護師長は、自分自身の経験をもとに上司の支援を 得ながら学びを言語化するプロセスを繰り返すことによって、「抽象的概念化」が促された と考える。さらに、「能動的実験」については、前段階の「抽象的概念化」によって経験か ら得た知識やスキルが明確となったことと、プログラム期間が 4 か月で実際に知識やスキ ルを試す機会を得られたことによって促進されたと考える。一方で、「具体的経験」は、プ ログラム参加前後で変化がなかった。このことから、本プログラムが、看護師長に対して、

新たな課題に挑戦することを促進させる効果を持たないことが示唆された。本研究に参加

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した看護師長の看護師長としての平均経験年数は1.4年と短く、管理者としての役割遂行に 不慣れであることが推察され、新たな課題に挑戦する余裕が十分になかったことが理由と して考えられる。しかし、「具体的経験」は経験学習の第一段階に位置付けられ、学びの契 機となる重要な段階である。看護師長が新たな課題に挑戦することをより促す仕組みをプ ログラムに取り入れる必要性が示唆された。

2)看護師長が実践した経験学習の内容

経験学習ノートの記述内容の分析結果から、看護師長は、経験学習の「挑戦的な課題へ の取り組み」、「内省」、「知識およびスキルの獲得」、「異なる状況への試行」の各段階を実 践していることが示された。これまで行われてきた経験学習の研究は、研究対象者に自身 のキャリアに影響を与えた出来事とそこから得た教訓や能力を回想して示してもらうとい う後ろ向きの手法をとってきた。本研究は、看護師長がプログラム参加期間中に取り組む 挑戦的な課題に焦点を当て、前向きなアプローチによって経験学習の各段階の内容を明ら かにした。

「挑戦的な課題への取り組み」の内容について、平均経験年数8.4年の看護師長を対象と した予備研究の結果 (倉岡,2016b) と比較すると共通性がみられた。以下、本研究でのカテ ゴリーを【 】で、予備研究のカテゴリーを< >で示す。本研究の【部下育成】は、<

部下を育成した経験>と、【新しい部署での部下との関係構築】は、<管理部署の変化の経 験>と、【新たな取り組みの導入】は、<変革を成し遂げた経験>と、【安全管理の問題へ の対応】は、<窮地に立った経験>と共通性がみられた。このことは、上記4つの課題は、

看護師長としての経験年数を問わず、また、後ろ向きか前向きかといった経験の抽出方法 に関わらず、看護師長が学びを得て自己を変化させうる経験といえる。一方、予備研究 (倉 岡, 2016b) ではみられなかった経験として、【複雑な課題を持つ患者・家族への直接介入】、

【患者受け入れのための他部署との調整】、【看護師長自身の能力開発のための計画】が抽 出された。これらの経験は、卓越した実践ができる看護師長にとっては日常に出会い容易 に対応できる事柄かもしれないが、管理者としての役割遂行に不慣れであると予測される 就任初期の看護師長にとっては、対応が困難な挑戦的な課題になるものと考えられる。

「内省」の内容について、先行研究では、異なった観点からの情報収集 (Holtham et al., 2011) をした後に、自分の行動の分析 (Kolb & Baker, 2007) や意味づけ (Reynolds, 2009) をすることと指摘されていた。本研究で看護師長が記述した「内省」において、看護師長 は自分が関係した患者・家族や部下、他職種の反応を観察することで、自分自身の取り組

ドキュメント内 2016 年度聖路加国際大学大学院博士論文 (ページ 130-149)

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