4-1 ECM シャーレ上における遠心培養が靭帯細胞に与える影響
本研究では、0.1mg/mlと1.0mg/mlの二種類の濃度のElastinA を用いてECMシ ャーレを作製した。これらのシャーレ Non-coat のシャーレ上に靭帯細胞をコンフル エントなるまで(7日間)静置培養し、その後12時間の遠心培養を行った。遠心後、
骨分化の指標としてアルカリフォスファターゼ(ALP)活性の測定を行った。ALP は、
本実験で靭帯細胞として用いたヒト歯周靭帯線維芽細胞(HPdLF)が骨芽細胞様 に分化する時に初期の段階で高い発現が確認されるため、骨分化の指標として用 いた32)。
ほかの骨分化の指標としてⅠ型コラーゲンを用いた。骨芽細胞が骨を形成する時 に、大量に分泌するのがⅠ型コラーゲンであり、骨芽細胞は自身の分泌した基質 に埋もれて骨細胞となり、骨を形成する。そのため、骨分化の程度を測るために靭 帯細胞の産生したⅠ型コラーゲンを測定した。
また、HPdLF に機械的な刺激を加えると、破骨細胞活性化因子である RANKL
(receptor activator of NFκB ligand)が発現し、骨吸収を助けて骨のリモデリングを 促進するという報告がある 34-37)。生体内では、骨のリモデリングは骨が破骨細胞に よって吸収した後に、骨芽細胞が骨形成を行う。骨形成と骨吸収の詳細なメカニズ ムはいまだ不明だが、骨のリモデリングを再現するためには、RANKL の発現も必 要であると考え、靭帯細胞の骨分化の指標として用いた。
以上より、本実験は ALP 活性とⅠ型コラーゲン産生、RANKL の発現により靭帯 細胞の骨分化の程度を判断する。
まずは、ALP活性定量の結果の考察を行う。コーティングしたエラスチンの濃度に 注目すると、図3-1のALP活性の結果はコーティングしたエラスチンの濃度が高い ほど活性が高くなった。Non-coat とElastinA 0.1mg/ml の間でALP活性がほぼ同 じであったのは、この二種のシャーレの表面特性がほぼ同じであったことが考えら れる。以下に、ECM シャーレの表面を評価する時に行った接触角測定の結果を示 す(図4-1)。
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接触角測定の結果、Non-coatのシャーレとElastin 0.1mg/mlのシャーレの接触角 はほぼ 同じ に なり、二 枚の シャーレ の表面特 性に違い が無い こ とがわ かる 。
ElastinA 1.0mg/ml についても、他の二種のシャーレに比べて著しく活性が高いわ
けではない。エラスチンには細胞と結合する特異的な領域が存在する。本実験で 使用した二種類のエラスチン溶液は濃度が低いため、この特異的な領域があまり 含まれておらず、エラスチンの効果を十分に得ることができなかったと考えられる。
静置培養よりも加圧培養の方が活性が高くなったことについて考察する。静置に 比べると加圧を行うと活性が高くなる傾向が得られた。この結果は、多くの論文で示 された結果と同じになった 32,33)。しかし、静置と加圧培養に顕著な差は無い。本研 究で用いた遠心培養機の回転数は933r.p.m.であり、回転数や回転半径からシャー レにかかる力は21.3 g pressure/cm2 of cellsであり圧力換算すると0.2MPaであっ た。ヒト歯周靭帯細胞を機械的刺激によって骨分化誘導を行う時には、歯列矯正運 動の時にかかる力に近い33.5 g pressure/cm2 of cells(約0.3MPa)が使われること が多い31)。このことを考慮すると、骨分化誘導を行うにはかける圧力が足らなかった のではないかと考えられる。
以上の二点は、図 3-2~3-7 についてもあてはまることである。しかし、図 3-7 の
RANKL を持つ細胞の割合では、ElastinA をコーティングして加圧培養を行ったも
のが発現が高くなった。これについては、エラスチン・機械的刺激・RANKL の三つ
0 10 20 30 40 50 60 70
水 ela A 0.1 ela A 1.0
接 触 角
(
°
)
接触角
図4-1 接触角測定の結果
Non-coat ElastinA 0.1mg/ml ElastinA 1.0mg/ml
42
の影響を同時に観察している論文は無く、それぞれの関係性は不明である。しかし ながら、機械的刺激とRANKL発現には以下の様な関係がある(図4-2)。
圧縮力を歯周靭帯細胞に加えると、IL-1β が発現し、オートクリン作用により分泌
されたIL-1βがIL-1βレセプターを通り、RANKLの発現に関与する。また直接は関
係ないが、IL-1β は生体内でエラスチンの合成に関与するという報告もある38)。エラ
スチンと IL-1β との間にはまだ別の相互作用があるかもしれない。本実験では調査
していないが、IL-1βに注目すれば、エラスチン・機械的刺激・RANKLの関係性が 見えてくる可能性がある。
次に、加圧培養が靭帯細胞のⅠ型コラーゲンの産生に与える影響について考察 する。三種類のコーティング条件で静置・加圧培養を行ったが、加圧培養の方が若 干活性が高い傾向がでたが、差はほとんど出なかった。骨芽細胞の分化はⅠ型コ ラーゲンや ALP が先行して発現するという報告がある 28,32)。そのため、差があまり 無かったのは、靭帯細胞が十分にⅠ型コラーゲンを産生できる状態ではなかったと 考えられる。原因として考えられる事は、先に考察した力の大きさと、細胞の培養状 態が関係しているのではないかと考えられる。生体内で細胞は ECM に包まれた状 態で存在し、本実験のように組織に固有のECMをコーティングしたシャーレ上に存
図 4-2 圧縮力と RANKL の関係36)
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250 µm
細胞増殖率
0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8
non-coat coll elaA elaE
72時間後の増殖率 (vs non-coat)
ela A ela E
250 µm
細胞増殖率
0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8
non-coat coll elaA elaE
72時間後の増殖率 (vs non-coat)
ela A ela E
250 µm
細胞増殖率
0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8
non-coat coll elaA elaE
72時間後の増殖率 (vs non-coat)
ela A ela E
250 µm
細胞増殖率
0.4 0.6 0.8 1 1.2 1.4 1.6 1.8
non-coat coll elaA elaE
72時間後の増殖率 (vs non-coat)
ela A ela E
在しているわけではない。最近、ECM が硬いシャーレ上に固定化されている状態 で培養していたことで、生体中に無かった細胞の性質が誘起されたり、逆に生体中 で発揮していた能力の低下が生じるということが明らかにされつつある26)。そのため、
靭帯細胞を分化の方向に向かわせるためには、二次元培養ではなく、三次元培養 を行う必要性がある。
4-2 ECM ペレット内における加圧培養が靭帯細胞に与える影響
本実験では、エラスチンとコラーゲンで作製した ECM ペレットの中で靭帯細胞を 様々な期間を培養し、その後水圧による加圧培養を行った。実験は、①加圧前の 静置期間を変化させたもの②加圧時間を変化させたもの③エラスチンペレットとコラ ーゲンペレットの比較の三種類を行った。骨分化の指標としては ECM シャーレの 時と同様にALP活性とRANKLの発現を観察した。
まずは①加圧前の静置培養期間を変化させた実験について考察する。エラスチ ンペレットにおいて静置培養期間を 3,7,10,14,21 日間と変化させた。ALP 活性 の結果は図3-17に示した通りである。3,7日間の静置培養では、加圧を行っても行 わなくても ALP 活性に差はほとんど出なかった。その後時間が経過するにつれて 加圧培養と静置培養の差が開き、また、加圧を行わなくても ALP 活性が上昇した。
この現象の理由の一つとして、ElastinAは細胞の接着率が悪い事が考えられる。以 前の研究で、ElastinA は細胞の接着率が悪く、増殖しにくいという報告がある 17)。 ペレットはすべて ElastinAで作製しているため、3,7日間では細胞が十分に接着・
増殖できていなく、エラスチン・加圧の影響が受けにくかったと考えられる。その後 は、ペレット内で細胞が十分に接着・増殖して、エラスチンと加圧の効果が十分に 出る結果となった。
②加圧時間を変化させた実験について考察する。エラスチンペレットにおいて静 置期間 14 日間で加圧時間を 3,6,12,24時間と変化させた。ALP 活性の結果は 図 3-18 に示した通りである。時間に依存して ALP 活性が高くなった、これは、エラ スチンの効果よりも、加圧の効果が強いと考えられる。
加圧時間については色々な報告がある。靭帯細胞を最大12 時間で様々な時間 遠心培養するとALPやⅠ型コラーゲンなどの骨形成マーカーのmRNAが遠心12 時間で最大になるという報告32)、30分間遠心して24時間インキュベートするとALP 活性が上昇するという報告 33)、そして60 分間遠心した後、インキュベートして 4 時 間後にⅠ型コラーゲンのmRNAが最大になり、その後は減尐していくという報告39)
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などである。これらの実験で用いられた力の大きさはそれぞれ異なる。骨形成マー カーの発現には、加圧時間と大きさの関係が大切であり、力の大きさを変えて実験 していく必要がある。本実験では、24 時間 0.8MPa の大きさで加圧することが一番 良い条件となった。
ここで、エラスチンと加圧の関係性について考察する。エラスチンは靭帯細胞の 骨分化に関与するという報告 11)があるが、その詳細は不明のままである。機械的な 刺激を 細胞内に伝える 機械受容体には、イ ンテグリン 40,41)、stretch activated
channel(SA チャネル)27)、などが代表的である。インテグリンについては、歯周靭帯
細胞に圧縮力を加えるとインテグリンを介してオステオポンチン 42)の発現が上昇し たり、遠心力を加えるとⅠ型コラーゲン 39)の発現が上昇するのではないかという報 告がある。また、骨芽細胞では遠心力を加えるとインテグリンが機械受容体として働 き、フィブロネクチンやオステオポンチン、Ⅰ型コラーゲンの mRNM 発現を増加さ せるという報告もある 40)。これらの報告から、エラスチンと加圧にはインテグリンが関 与しているのではないかと考えられる。
エラスチンレセプターについては未知な事が多い。しかし、エラスチンレセプター を通って、動脈の平滑筋細胞の増殖を促進するという報告 43)もあり、靭帯細胞にも 何らかの影響を与えているのではないかと考えられる(図4-3)。
図4-3 エラスチンと加圧刺激41)