第6章 評価実験
6.3. 考察
実際に試作したシステムを用いて会話を行い,その使用感や臨場感についてアンケートを取っ た.
1. HMD の映像ははっきり見えたか
被験者の視力は森と同じく全員 1.0 前後であり,「はっきり見える」,「物体を識別できる程度 には見える」という意見が多かった.使用した HMD は森の目に合わせて試作したが,被験者 全員が同じような視力であったため,同じ曲率半径のハーフミラーディスプレイを適用出来 た.しかし,マイナスの意見として「画質が悪い」,「暗幕の方を見ないと見難い」という意 見があった.まず,画質について.試作した HMD では CCD カメラの映像を LCD に表示し,ハ ーフミラーで反射させることでユーザは映像を眺めることが出来る.従ってカメラの解像度 の影響を大きく受けるため,より高画質のカメラを使用する必要がある.また,使用したハ ーフミラーディスプレイの曲率半径は計算で求めた数値とは異なる.使用しているミラーの 曲率半径は縦横共に 20cm であるが,算出した曲率半径は横が 24.24cm,縦が 18.186cm である.
今後はミラーを熱加工し曲率半径を算出したものに一致させることで,ユーザはよりはっき りした映像を眺めることが可能となると考えられる.HMD の画質については,カメラの画質を 向上させ,ディスプレイの曲率を最適化した上で更に詳しい評価が必要である.次に,暗幕 について.使用しているハーフミラーフィルムは可視光透過率が 73%,可視光反射率が 11%の ものである.可視光反射率が低いため,明るい空間では映像は見辛い.透過率を下げれば映 像も見易くなるが,相手から装着者の目が見えなくなってしまうという問題がある.そのた め,多層コートのような可視光反射率が高く,且つ可視光透過率も高いフィルムの検討が必 要である.マイナスの意見として,「寄り目をしなければ見えない」という意見もあった.試 作した HMD はディスプレイの曲率半径や位置は全て固定されているため,誰もが適切に使用 できるわけではない.装着者の視力や目の位置によってハーフミラーの曲率や位置を調整出 来るようにする必要性がある.
2. 相手の視線を把握することが出来たか
「まぁまぁ出来た」,「辛うじて出来た」という意見が多かった.目の位置や瞬きは把握でき たが,白目黒目の判断や視線移動については分からなかったという人が多かった.視線が把 握できたという意見もあったが,これは視線を頭部の動きから推測していた.このような結 果となった原因の1つとしてディスプレイや映像の画質が悪かったことが挙げられる.その ため,「1.HMD の映像ははっきり見えたか」で述べたような高画質化をした上で再評価する必 要がある.
3. 相手の目は見えたほうが良いか
意見が割れ,「見えたほうが良い」,「見えなくて良い」という意見が同数あった.「見えたほ うが良い」という意見では,より臨場感,リアルさを追求するなら見えるべきという理由で あった.逆に「見えなくて良い」という意見では,見えなくてもそれ以外の表情で相手の気 持ちは分かるという理由や顔だけ見えれば良いという理由であった.今回の実験では映像の
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画質が悪く,被験者が満足に相手の視線を把握できなかったため,カメラをより高画質にし て視線をしっかり把握出来るようにした上で再び評価してもらう必要があると感じた.
4. 相手側の雰囲気の伝わりやすさ
「良く伝わる」という意見が大多数だった.映像がカラーになり両眼で見ることが出来るた め,被験者の多くが伝わりやすいと感じた.また,周囲を 360°見渡せることにより,情報量 が増え更に雰囲気の把握につながったと考える.しかし,「詳細までは分からない」という意 見があった.この意見については映像の画質向上により対応できると考える.
5. 相手が自分のすぐ目の前にいる感じがするか
大多数が「する」と答えた.理由としては,両眼になったことにより相手が大きく表示され るからというものや,奥行きが感じられるからという意見が多かった.また,ユーザの頭部 の動きに合わせて映像が動くことも相手が自分のすぐ目の前にいる感じがするということに つながった.「あまり感じなかった」という意見もあり,その理由としては,画質が良くない,
画面サイズが小さいというものであった.試作した HMD は LCD を反射させて映像を見ている ため,ハーフミラーのサイズも LCD のサイズに合わせたものとなっている.そのため,現在 の HMD の方式では画面サイズの拡大は難しい.より大きな LCD,より大きなハーフミラーを用 いれば画面サイズの拡大は可能であるが,総重量が大きくなってしまいユーザへの負担も大 きくなってしまう.画質についてはカメラの高画質化で対応可能である.
6. 会話はスムーズに行えたか
被験者全員が「スムーズに行えた」という意見であった.カメラは上下左右スムーズに動き,
遅延も殆ど感じられなかった.音声も明瞭で,相手が注目しているものがすぐ分かり,視線 をその方向に向けることが出来たという意見が多かった.
7. 両眼式と片眼式ではどちらが良いか
被験者全員が「両眼のほうが良い」という意見であった.片眼式では視界が狭くなったよう に感じ,また距離感もつかみ難くなったようだ.また,片目に集中するため,目の疲労を感 じるという意見が多かった.
会話実験を行った結果,相手側の雰囲気の伝わりやすさ,相手が自分の目の前にいる感じ,会 話のスムーズさについて良い意見が非常に多く,先行研究と比較してシステムを発展させること が出来たと考える.カメラの追従特性の向上,見渡し可能範囲の拡大,ユーザの見ることが出来 る映像が両眼フルカラーになったことがこのような結果につながったと考える.しかし,映像の 画質が悪かったため,アイコンタクトは満足にとることが出来なかった.今後の課題としては,
ハーフミラーの曲率半径の最適化,ハーフミラーフィルムの透過率及び反射率の再検討,HMD の 画面サイズの更なる拡大,ミラー調節機能の追加,そしてカメラの高画質化が挙げられる.また,
首を傾げるといった特殊動作への対応や,ズーム機能,図形やポインタの表示といったユーザ志 向のシステム構成の検討も必要であると感じた.
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第7章 あとがき
本研究では,近年の通信機器の高速化に伴い求められるようになったコミュニケーションツー ルにおける臨場感の向上を,テレビ電話というツールに着目して目指した.
テレビ電話が一般的に普及しない原因の1つとして,対面して行う会話と比較したときの違和 感が挙げられる.対面して行う会話ではユーザはその空間全てに自由に意識を向けることが出来 るが,従来のテレビ電話ではカメラが固定されており,常に同じ面しか見ることが出来なかった.
ユーザは見える範囲の選択を自由に行うことが出来ず,このことが対面して行う会話との違いで あり,テレビ電話において違和感や,臨場感の欠如の要因の1つとなっていた.
この問題に対して中嶋研究室の井上は,HMD を装着したユーザの頭部の動きをセンサで検出 しサーボを制御することで,カメラの向きが頭部の動きに追従し見える映像の範囲が制限される ことがなく自由に視線を動かすことが出来るシステムを考案した.試作したシステムを評価した 結果,従来のテレビ電話と比較して,はるかに臨場感のある会話を行うことが出来た.
本研究では,先行研究で生じた課題の内,ユーザの頭部の動きに対するカメラの追従特性の改 善,ユーザが見渡し可能な範囲の拡大,広視野両眼式シースルーHMD の試作の 3 つについて取り 組み,更なる使用感及び臨場感の向上を目指した.
既存システムで使用されていたジャイロセンサにはドリフトという温度変化等により静止時出 力が徐々に変動してしまう性質があり,これによりユーザの意思に反してカメラの向きが変化し てしまった.既存システムでは積分回路を改良しこの問題に対処したが,ユーザが十数秒ごとに 再調整する必要があった.本研究ではより安定で高精度のデジタルジャイロセンサを用いて頭部 の向きの検出を行い,ユーザの手を煩わせることのない装置構成を検討した.また,既存システ ムではユーザが見渡し可能な範囲は上下 180°左右 180°であったが,サーボの数を増やし左右 360°まで見渡せるようにし,臨場感の向上を目指した.最後に,既存システムで使用していた HMD は片眼式で映像もモノトーンであった.そこで,小型 LCD 及びハーフミラー用いて,より広 視野で且つアイコンタクトが可能な両眼式フルカラーシースルーHMD を試作した.
改良したシステムを評価した結果,相手側の雰囲気の伝わりやすさ,相手が自分の目の前にい る感じ,会話のスムーズさについて良い意見が非常に多く,先行研究と比較してシステムを発展 させることが出来た.カメラの追従特性の向上,見渡し可能範囲の拡大,ユーザの見ることが出 来る映像が両眼フルカラーになったことがこのような結果につながったと考える.しかし,映像 の画質が悪く,アイコンタクトは満足にとることが出来なかった.また,人によっては HMD の形 状が顔に合わず,使用が辛いとの意見があった.
今後の課題としては以下のものが挙げられる.①ハーフミラーの曲率半径,透過率及び反射率 の最適化や画面サイズの更なる拡大,ミラー調節機能の追加といった HMD の改良②カメラの高画 質化③首を傾げるといった特殊動作への対応といったユーザ志向のシステム構成の検討④特にネ ットワーク経由で遠隔通信を行った場合のリアルタイム性の向上
本システムを用いることで,従来のテレビ電話にはないより臨場感のある会話を行うことが出 来,また,システムを複数用意すれば多人数での会話も可能である.よりリアリティに溢れたテ レビ電話システムとして今後の発展が期待出来るデバイスであると考える.