第三章 異種間キメラ動物作出において ES 細胞が最も肝臓に寄与する手法の
3.4 考察
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あるMixl1を強制発現させたマウスES細胞を用いてキメラマウス作製を行うこ
とで、マウスES細胞の肝臓や肺といった内胚葉系列組織への寄与が増加し、中 胚葉や外胚葉系列組織への寄与が減少するなどマウス ES 細胞の寄与方向をコ ントロールできることが報告された 67)。今後、CRISPR/Cas9 のような遺伝子編 集技術を用いて、ES/iPS 細胞の外胚葉や中胚葉への分化に重要な転写因子をノ ックアウトし、キメラマウス形成に用いるES/iPS 細胞の標的臓器以外への分化 を阻害することで上記のような発生へのラットES/iPS 細胞の影響を防ぐことが できる可能性がある。
一般に、ES細胞の組織への寄与率はキメラマウスの組織切片を染色し、その ES細胞由来組織の面積比から算出される。しかし、この手法では多くの切片を 免疫染色し、面積を計算する必要があるため非常に煩雑であるうえ、切片を作製 した臓器の一部からしか寄与率を算出することができない。蛍光観察からキメ ラマウスにおけるES細胞の臓器への寄与は一様ではないと考えられるため、切 片からの寄与率算出では臓器全体における寄与率を反映しているとは言い難い。
これらの問題を解決するため、キメラマウス臓器から抽出したゲノムDNAを用 いて寄与率の算出を行った。本手法を用いて解析を行うと、理論値と非常に近い 値が算出され、正確にラットES細胞の割合が算出できていることが示唆された Figure 3-5. Observation of fluorescence in an embryo whose generation stopped halfway.
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(Fig. 3-3A)。このことから、本解析手法はキメラマウスにおけるES細胞の組織
への寄与率を算出するのに有用であると考えられる。本手法を用いることで、免 疫染色などを行うことなく非常に簡便に、臓器全体の異種細胞割合を算出する ことが可能である。
臓器毎にラットES細胞の寄与率を算出すると、腎臓以外の臓器ではラットES 細胞の寄与が確認された一方、腎臓では作出手法によらず、ラットES細胞の寄 与がほとんど認められなかった。この結果は、近年報告されたSall1ノックアウ トマウス受精卵とラット多能性幹細胞を用いた胚盤胞補完法による腎臓の作出 ができないことと一致している 59)。一方、肝臓においては胚盤胞注入法により 作出したキメラマウスではほとんどラット ES 細胞の寄与が認められなかった のに対し、8細胞期胚注入法では寄与率の有意な上昇が認められた (Fig. 3-3B)。 加えて、その寄与率は胚盤胞注入法により作出したキメラマウスの膵臓におけ るラットES細胞の寄与率と比較しても高かった。また、8細胞期胚凝集法及び 8 細胞期胚注入法により作出されたキメラマウス肝臓内でラット肝細胞から
CYP2C6 が産生されていることが示された (Fig. 3-4)。これらの結果は腎臓の場
合とは異なり、将来的に胚盤胞補完法による膵臓の作製と同様、8細胞期胚を用 いた補完法により肝臓の作製が可能であることを示唆している。残念ながら、現 状では補完法に応用可能な肝臓発生のカギとなるマスター遺伝子は見つかって おらず、本研究において 8 細胞期胚補完法による異種肝臓作製が可能であるか 検証を行うことはできなかった。しかし、ALB プロモーター下に単純ヘルペス ウイルスⅠ型チミジンキナーゼを発現させたALB-TKマウスや、フマリルアセト 酢酸ヒドラーゼノックアウトマウス (Fah-/-マウス)、ウロキナーゼ型プラスミノ ーゲンアクチベーター発現マウス (uPAマウス) など、出生後に肝炎を誘発可能 なマウスをホストに用いることでキメラマウス肝臓におけるラット ES 細胞由
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来肝細胞の割合を向上させることが可能かもしれない68-70)。今後、胚盤胞補完法 と同様に 8 細胞期胚補完法でもほぼ全てが多能性幹細胞由来からなる機能的な 肝臓が作製可能であるか詳細な検討が必要である。
ラットES細胞の寄与率は、胚盤胞注入法で作出したキメラマウスでは肝臓や 膵臓で低く、心臓で高いなど個体内でばらつきが大きく、臓器毎で寄与率に大き な偏りがあった。一方、8細胞期胚注入法で作出したキメラマウスでは寄与のな い腎臓を除き、それぞれの寄与率がおよそ 10%程度と、個体内での臓器毎のば らつきが小さく、寄与率が比較的均一であった (Fig. 3-3B)。これまでに、8細胞 期胚までの割球はドナー受精卵と凝集させることで全ての組織に寄与する多能 性を有していることが報告されている71-73)。その一方で、胚盤胞の内部細胞塊は すでにその後の細胞運命が決まった状態にあり、胚盤胞の発生に従い、空間的に 異なる胚盤葉および原始内胚葉区画へと徐々に分離される74-76)。8細胞期胚に異 種ES細胞を注入すると、ホスト受精卵の割球とともに異種ES細胞が増殖し、
コンパクションを経て内部細胞塊に均一に異種 ES 細胞が寄与した胚盤胞にな ると考えられる。その一方で、胚盤胞腔へと注入された異種ES細胞は内部細胞 塊へと寄与するものの、その寄与は均一ではなく、内部細胞塊の胚盤胞腔面に多 く寄与するなど偏りが生じることが想定される。この偏りが胚盤胞注入法にお ける臓器毎での寄与率のばらつきに繋がっているものと考えられる。
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