4-1 感潮河道の流速
スカム発生の原因として,河川の流動性がなく嫌気的な環境が形成されやすいこと が考えられる.集中観測の流速データから流量を計算すると石神井川の流量は隅田川 の約1/100であった(図 4-1-1,図 4-1-2).石神井川の流速は-0.04~0.05 m/sであ り水平流動が極めて弱いことから,石神井川感潮域では水位変動のみが生じているこ とが推測される.この仮説を検証するために大潮時の流速を,水位差を用いて上げ潮 時,下げ潮時の流速を計算した式(4-1).
𝑉 = ( ∙ ∙ )
( ∙ )
(4-1)V:流速 B:川幅 L:河川全長
h:満潮時と干潮時の水位差 H:平均水位 t:経過時間
本研究では,Bは20 m,Lは1140 m,hは-1.7 m,tは上げ潮時に19200 s,下げ潮時
に21600 s,Hは3.188 mとして計算を行った.計算の結果,上げ潮時で-0.031 m/s,下
げ潮時で 0.028 m/s の流速が発生していることが分かった.以上の計算結果は観測値
の-0.04~0.05 m/sと比較してその差が約±0.01 m/sであり,妥当であると言える.よっ て大潮時でも流速が遅いのは石神井川感潮域の地形が閉鎖的な環境を形成しているた めであると考えられる.このような閉鎖的な河川は日本橋川や呑川など都内に複数あ り,いずれの河川でもスカムが発生していることからスカム発生要因の一つとして,
閉鎖的な環境を形成する河床地形が考えられる.
L
H h B
81
図 4-1-1 流量(小潮時)
-20000 -10000 0 10000 20000
-20000 -10000 0 10000 20000
-2 -1 0 1 [105] 2
-2 -1 0 1 [105] 2
時刻
8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20
7 Sh-U
Sh-D
Su-U
Su-D 流量(m3/30min)
82
図 4-1-2 流量(大潮時)
-20000 -10000 0 10000 20000
-20000 -10000 0 10000 20000
-4 -2 0 2 [105] 4
-4 -2 0 2 [105] 4
時刻
8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19
7 6 5
Sh-U
Sh-D
Su-U
Su-D 流量(m3/30min)
83
4-2 底層の塩分と DO の関係
石神井川と隅田川では流速・流向が大きく異なることが分かったため,塩水遡上特 性・底層の水質構造も異なることが考えられる.底層の水質がある条件を満たすとス カムが発生するため,底層の水質特性を把握することは重要である.そこで底層に存 在する水質の特徴を調べるために,底層(-2 A.P.m)で観測点4地点のDO と塩分を 抜き出し,時系列変化を調べてから相関を取った(図 4-2-1~図 4-2-4).縦軸を DO,横軸を塩分にしたとき,塩水は底層から這うように遡上するため,関係が直線的 であれば同じ塩水が希釈混合されたと考えることができる.
小潮時の塩分時系列変化を見ると Sh-D,Su-U,Su-Dにおいて塩水遡上に伴い塩分 が上昇していた.DOは塩分と逆位相の形で変動していた.相関を見るとSh-D,Su-U, Su-D のプロットは塩分が高ければ DO が低いという相関関係が見られたが,Sh-U で は常にDOが低く,Sh-D,Su-U,Su-Dとは違う水質構造であった.以上から,石神井 川感潮域の上流では酸素消費が行われ Sh-D,Su-U,Su-D では塩水遡上によって DO が低下したと考えられる.
大潮時の塩分時系列変化を見ると最下流の Su-D で下げ潮時に 0.1 低下したが全観 測地点で塩分の変動はほとんど見られなかった.DO に関しても時系列変化はほとん どなく一潮汐間で一定であった.相関を見ると Sh-U のプロットは全体的に塩分が低 くDOが高い傾向があった.Sh-Dでは常にDOが他の地点よりも下回っており酸素消 費されている可能性がある.隅田川に関しては塩分とDOに負の相関がみられたので 僅かながら塩水遡上の影響を受けていると考えられる.
以上の結果から石神井川は閉鎖的な空間により,流動性がなく貧酸素化しやすい特 徴があると考えられる.
84
図 4-2-1 A.P.2m の塩分・DO 時系列変化(小潮時)
図 4-2-2 A.P.2m の塩分・DO 相関(小潮時)
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
Sh-DSh-U Su-DSu-U
塩分
6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 (時)
0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
Sh-DSh-U Su-DSu-U
DO(mg/l)
6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 (時)
0 2 4 6 8 10 12 14 16 18 20
0 2 4 6 8 10
塩分
DO(mg/l)
Sh-DSh-U Su-DSu-U
85
図 4-2-3 A.P.2m の塩分・DO 時系列変化(大潮時)
図 4-2-4 A.P.2m の塩分・DO 時系列変化(大潮時)
6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 (時)
5 0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
塩分
Sh-DSh-U Su-DSu-U
6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 (時)
5 0 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
DO(mg/l)
Sh-DSh-U Su-DSu-U
0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6 0.7 0.8 0.9 1
0 2 4 6 8 10
塩分
DO(mg/l)
Sh-DSh-U Su-DSu-U
86
4-3 塩分・DO とスカム量の関係
スカムの重要な発生要因として塩分,DOが考えられるため,塩分・DOとスカム発 生量との相関を取った(図 4-3-1).
塩分とスカム発生量の相関を見ると,塩分が0.5未満の時スカム発生量が多く,0.5 以上の時はほとんどスカムの発生は見られなかった.DOとスカムの相関を見るとDO
が6 mg/l未満の時スカムが多く発生していることが分かった.
以上の結果から塩分が0.5 以上,DOが 6 mg/l以上のとき,スカムの発生は抑制さ れることが分かった.
図 4-3-1 塩分・DO とスカム被覆率の相関
20 40 60 80 100
2 4 6 8 10
0
スカム被覆率(%)
塩分
20 40 60 80 100
2 4 6 8 10
0
スカム被覆率(%)
DO(mg/l)
87
4-4 スカム発生頻度
潮汐による塩水遡上は河川水質に大きく影響する.都市河川感潮域の流動・水質変 動特性に関しては3章,4-1,4-2で説明され,水質とスカム量の関係に関しては3
-2-3,4-3節で塩分,DOが高いときにはスカムが発生しないことが分かった.し かし,スカムが発生する水質環境がいつ形成されるかはまだ明らかにされていない.
そこで潮汐,降雨で場合分けをしてスカム発生頻度を計算し,どのような気象条件で スカムが発生しやすいかを検討した.場合分けをしなかった場合のスカム発生頻度は 14.2 %であった.
4-4-1 大潮・中潮・小潮
大潮・中潮・小潮で場合分けをしてそれぞれのスカム発生頻度を計算した(図 4-4
-1).計算の結果,大潮時に16.4 %,中潮時に14 %,小潮時に11.5 %と大潮時に最も 発生しやすいことが分かった.これは小潮時に塩水が遡上するため,塩分によってス カムの発生が抑制された結果であると考えられる.上げ潮時と下げ潮時のスカム発生 頻度が下げ潮時に19.1 %,上げ潮時に8.8 %と下げ潮時の方が,スカム発生頻度が高 かった.これは上げ潮時に遡上する塩分がスカムの発生を抑制している可能性,下げ 潮時に水圧が下がりスカムが浮上しやすくなる可能性,DO の潮汐に伴う周期的な変 動で下げ潮時に低くなることが影響していることが考えられるがより詳しい検討が必 要である.
図 4-4-1 潮汐別のスカム発生頻度 05
1015 2025 3035 4045 50
スカム発生頻度(%)
大潮 中潮 小潮
88
4-4-2 スカム降雨指数
降雨からスカムが発生するまで一定の時間を有すると考えられるため,降雨から何 日後に最もスカムが現れやすいかを算出した.計算の結果スカム発生頻度は降雨当日
で10 %,1日後,2日後とスカム発生頻度は高くなり,最も高くなったのは降雨から
4日後で26 %であった.その後5日後に25 %,6日後に18 %と低下していった(図 4
-4-2).以上の結果から雨が降ってから4~5日後にスカムが最も発生しやすいこと が分かった.
次に降雨量がスカム発生頻度に与える影響を検討するため,スカム降雨指数(RSI)を 用いて場合分けをした.場合分けは降雨なし,小降雨,中降雨,大降雨の4つのレベ ルに分けてそれぞれのサンプル数に偏りがないように設定した.ここで小降雨では APIを0~0.5,小降雨では0.5~3,中降雨では3~7,大降雨では7以上とした(図 4
-4-3).計算をした結果RSIが3~7の時に最も発生頻度が高くなり29 %であった(図 4-4-4).これは5日前の日降水量が20 mm程度の時である.よって晴天時,降雨時 にはスカムは発生せず,中規模降雨の 4 ~ 5日後にスカムが発生しやすいということ が示された.
89
図 4-4-2 降雨からの経過日数別のスカム発生頻度
図 4-4-3 RSI と降雨の関係
図 4-4-4 RSI 別のスカム発生頻度 05
1015 2025 3035 4045 50
スカム発生頻度(%)
0 10 20
0 10 20 30
RSI 降雨(mm)
4/7 4/27 5/17 6/6 6/26 7/16 8/5 8/25 9/14 10/4 10/24
05 1015 2025 3035 4045 50
スカム発生頻度(%)
RSI
0 1 2 3 4 5 6
降雨からの経過日数(日)
0~0.5 0.5~3 3~7 7~
90
4-5 スカムと関連の深いパラメーターの検討
スカム発生頻度の考察より大潮中潮小潮,降雨量に差があることが分かった.次に スカム発生量についてそれぞれの差が誤差の範囲であるか,有意に差があるかを検定 するために一元配置分散分析を行った.以下に結果を示す(表 4-1~4-6).
潮汐に関しては有意水準を5 %とすると統計量は27 %であり,帰無仮説は採択され た(表 4-1).これは大潮,中潮,小潮でスカムの発生量に有意な差がないことを意 味する(表 4-2,4-3).
降雨に関しては降雨スカム指数(RSI)を4つのレベル(降雨の影響なし,小降雨,
中降雨,大降雨)に分けて,先行降雨がスカムに与える影響を統計的に比較した.そ の結果,有意水準を 5 %とすると統計量は 0.1 %であり,帰無仮説は棄却された(表 4
-4).これは降雨量によってスカムの発生量に差をもたらすことを意味する.さらに どの程度の降雨が影響するかを検討するために多重比較をした(表4-5,4-6).その 結果 RSI が 3~7 の時に有意差が見られ,中程度の降雨がスカムの発生に影響を及ぼ すことが分かった.
表4-1 分散分析の結果(潮汐)
要因 自由度 平方和 平均平方 F 値 統計量
グループ間 2 66.16189 33.08094 1.28 0.2785 グループ内 2589 66961.65 25.86391
合計 2591 67027.82
表4-2 各項目の最小 2 乗平均
潮汐 最小 2 乗平均
大潮 0.44943909 中潮 0.80537715 小潮 0.52693019
表4-3 多重比較の結果(潮汐)
大潮 中潮 小潮
大潮 0.3093 0.9549
中潮 0.3093 0.4798
小潮 0.9549 0.4798
91
表4-4 分散分析の結果(RSI)
要因 自由度 平方和 平均平方 F 値 統計量
グループ間 3 1006.422 335.4741 13.15 <0.001 グループ内 2588 66021.14 25.51058
合計 2591 67027.81
表4-5 各項目の最小 2 乗平均
RSI 最小 2 乗平均
0~0.5 0.03706843 0.5~3 0.67116699
3~7 1.66582843
7~ 0.09351637
表4-6 多重比較の結果(RSI)
0~0.5 0.5~3 3~7 7~
0~0.5 0.0695 <.0001 0.9977
0.5~3 0.0695 0.0013 0.1934
3~7 <.0001 0.0013 <.0001
7~ 0.9977 0.1934 <.0001
92