小野塚 正一
5. 考 察
5. 1 溶込み形状予測指標の作成
5. 1. 1 電流波形形成パラメータと溶滴移行形態
高速度カメラの動画上から,ワイヤの溶融および溶滴の 離脱がピーク電流時に発生していることが見受けられた.
そこで,ピーク電流時に溶融するワイヤ量に対してはたら く電磁ピンチ力に着目し,簡易的に溶滴移行形態を予測で きる指標を作成した.
こ こ で,d: ワ イ ヤ 径 ( m ),V f: ワ イ ヤ 送 給 速 度 ( m/min ),T p:ピーク時間( s )である.また,離脱前の 溶滴の内部圧力P p ( Pa )は( 7 )式で与えられる ( 10 ).
4p 4p
P P
R I
R I
p= 0+ + p ≅ Rp
0 2
2 2
0 2
2 2
g m m
……… ( 7 ) ここで,P0:雰囲気圧力( Pa ),g:液体の表面張力
( N/m ),R:液柱の曲率半径( m ),m0:真空の透磁率
( N/A2 ),I p:ピーク電流( A )である.なお,右辺の左項 から雰囲気圧力,表面張力による圧力,電磁圧力を示す.
このとき,ピーク電流時のワイヤ端には電流が集中してい るため,溶滴離脱には電磁ピンチ力が支配的であるとして 整理した.これにより,ピーク電流時で溶融する溶滴に対 して,電磁ピンチ力が行う仕事量 W pは,( 8 )式で与え られる.
0 4
W M P
d V
T I
R AI d V T
p p p
f p
p
p f p
= ×
= ⋅
⋅ ⋅ × =
p 2 6 p
2 0 2
2 2 2 2
m … ( 8 )
A= m0R 960p 2
以上より,溶滴移行形態を予測する指標として移行形態 評価パラメータW p ( = AI p2d 2Vf Tp )を採用した.
第13図に,W pと1パルス当たりのドロップ数の関係 を示す.本結果は,W pとドロップ数に深い相関があるこ とを裏付けている.このことから,W pを用いることで簡
macroscopic cross section
Linear heat ratio
0% 25%
第12図 線状熱源有無による溶込み形状の比較 Fig. 12 Comparison of penetration shape with or without linear heat source
0 1 2 3 4 5
0 0.03 0.06 0.09 0.12 0.15
Number of droplet per pulse
Evaluation parameter ( Wp )
第13図 W pと1パルス当たりの溶滴落下数の関係 Fig. 13 Relationship between W p and the number of droplet per pulse
( a ) Weld start ( c ) Finger type
penetration ( b ) Bowl shaped
penetration
第11図 熱源形状の変化 Fig. 11 Change of heat source shape
易的に1パルス当たりのドロップ数を予測できると考え られる.
5. 1. 2 溶滴移行形態と溶込み形状
1パルス当たりのドロップ数と溶込み形状評価指標Pf の関係を第14図に示す.1パルス2ドロップ領域が他 の溶滴移行形態と比較し最もPfの数値が小さい,つまり フィンガー形状となることが分かった.一方,Nパルス1 ドロップとなる領域では,Pfが大きくなる( 鍋底形状と なる )ことが分かった.
これは,溶滴サイズが大きい場合,溶融池への入熱の拡 散領域が広いため,溶込みは幅方向へ広がり,結果鍋底状 となるものと推察される.
よって,溶込み形状の制御には溶滴サイズを制御する必 要があると考えられ,Nパルス1ドロップとなるよう電 流波形形成パラメータを調整することが効果的と考えられ る.
5. 1. 3 溶込み形状予測実験式の導出
移行形態評価パラメータWpと1パルス当たりのド ロップ数( アーク現象 ),Pf( 溶込み形状評価指標 )の関 係から実験式が導き出された(第15図).これらの式を 重畳することで,電流波形形成パラメータと溶込み形状評 価指標の近似理論値を導出した(( 9 )式 ).アークを出 さずともパルス条件から溶込み形状を予測する指標となる と期待できる.
Pf=-3 854.7W p3+ 1 141W p2-102.1W p+ 4.830 7 ……… ( 9 ) 5. 2 溶込み形状予測シミュレーション
5. 2. 1 熱効率と溶込み形状の関係
第17図は,第16図の溶接条件に合わせ熱効率と熱源
比率を変化させて計算した計算結果であり,図中の数字は 溶込み深さを表す.熱効率と熱源比率を変化させて計算し た.この図を見ると,熱効率が変化しても溶込み深さには それほど影響が出ていないことがわかる.また熱源比率を 変化させた場合には,フィンガー溶込み先端の幅はそれほ ど変化しないが,深さが大きく変化している.
5. 2. 2 溶滴サイズと溶込み形状の関係
前項にて,溶滴サイズが大きい方が鍋底状の溶込みとな る結果を述べたが,板厚方向への線状熱源直径を溶滴サイ ズとみなし,溶滴サイズが2.0 mmの場合の溶込み形状 のシミュレーションを実施した.第18図に,第17図と 入熱量は同じであるが線状分布熱源の熱源直径を1.2 mm
から2.0 mmに変更した場合の計算結果を示す.
この図から第17図と入熱量が同じであるにもかかわら ず,溶込み形状が鍋底形状に大きく近づいたことがわか る.これは入熱量が溶融池内に分散して投入されたことが 原因であり,溶滴の挙動によって溶込み形状が大きく変化 することを示唆している.本結果は実験結果とも符号して いる.また溶融断面積も変化しており,単純に熱効率だけ
1 2 3 4 5
0 1 2 3 4
Evaluation index of penetration
The number of droplet per pulse
第14図 1パルス当たりの溶滴落下数とPfの関係 Fig. 14 Relationship between the number of droplet per pulse and Pf
1 2 3 4 5
0 0.03 0.06 0.09 0.12 0.15
Evaluation value of penetration
Evaluation parameter ( Wp ) 第15図 W pとPfの関係 Fig. 15 Relationship between W p and Pf
( I = 200 A,V = 27.3 V,v = 70 cm/min,WFS = 6 m/min ) 第16図 溶接試験結果
Fig. 16 Experimental result
で溶融量を評価することが難しいことがわかる.この様な 変動は,溶滴の移行現象に大きく依存していると考えら れ,今後はパルス条件やワイヤ径等が溶込みに与える影響 を調査していく必要がある.
6. 結 言
一連のアークプロセスの把握と最適波形の提案が可能な 指標の明示を目的とし,電流波形形成パラメータ,溶滴移 行現象,溶込み形状の関係を調査した.また,熱源近傍の みを詳細に計算し,溶滴を模擬した板厚方向への線状分布 熱源を考慮した溶接プロセスモデルの開発・評価を行っ た.
( 1 ) 従来,主観による評価が主流であった溶込み形状
評価を定量化可能で,目視での評価結果と精度良く 対応させる指標Pfを作成した.
( 2 ) 溶込み形状に最も寄与度の高い因子が溶滴移行形
態であることが明らかになった.1パルス2ドロッ プで最もフィンガー形状となり,Nパルス1ドロッ プで最も鍋底形状となることが分かった.
( 3 ) ピーク電流時でのワイヤの溶融量と溶滴離脱にか
かる力( 電磁ピンチ力 )に着目した.出力波形形成 パラメータから溶滴移行形態を予測する指標 Wp ( = AI p2d 2Vf T p )を作成した.
( 4 ) 電流波形形成パラメータから溶込み形状評価点数
を予測する実験式を導出した.
( 5 ) 従来の計算モデルでは再現が難しかったフィン
ガー形状の溶込みの再現を可能とした.
( 6 ) 溶滴サイズが1.5 mm程度ではフィンガー形状と
なり,2.0~2.5 mmでは鍋底形状となる傾向が見受
けられた.本傾向はシミュレーションにおいて板厚 への線状分布熱源直径を1.2 mmから2.0 mmに変 化させた場合も同様に見受けられた.
Heat input ratio ( linear : surface )
1 : 4
3.7 mm
3.1 mm
3.6 mm
2.7 mm
3.2 mm
2.7 mm 第17図 溶込みに及ぼす線状熱源の影響
Fig. 17 Effect of line heat rate of penetration
Diameter of linear heat source
Heat efficiency
70% 65% 60%
Heat input ratio 1 : 4 ( linear : surface ) Welding speed 70 cm/min
1.2 mm
2.0 mm
第18図 溶込みに及ぼす線状熱源径の影響 Fig. 18 Effect of line heat diameter on penetration
― 謝 辞 ―
本研究の遂行に当たっては,技術開発本部生産技術セン ター溶接技術部 内田雄太氏から多くのご助言とご協力を いただきました.ここに記し,深く感謝いたします.
参 考 文 献
( 1 ) K. Hyoma,S. Nonomura, et al. : Preprints of the National Meeting of JWS No. 93 ( 2013. 11 ) pp. 116-117
( 2 ) T. Okuno, T. Haga, et al. : The Method of Multivariate Statistics< Revised Edition > ( 1981 ) pp. 25-155
( 3 ) J. F. Lancaster : The Physics of Welding ( 1990. 11 ) pp. 290-291
( 4 ) Y. Hirata : Gas shielded Metal Arc Welding Journal of the Japan Welding Society Vol. 77 No. 4 ( 2008. 10 ) pp. 32-39
( 5 ) H. Maruo, Y. Hirata and T. Noda : Effects of Welding Current Waveform on Metal Transfer and Bead Formation in Pulsed MIG Welding Quarterly Journal of the Japan Welding Society Vol. 2 No. 1 ( 1984. 6 ) pp. 12-18
( 6 ) P. K. Palani and N. Murugan : Selection of parameters of pulsed current gas metal arc welding Journal of Materials Processing Technology 172 ( 2006. 2 ) pp. 1-10
( 7 ) F. Miyasaka, Y. Yamane and T. Ohji : Development of circumferential TIG welding process model: a simulation model for welding of pipe and plate Science Technology of Welding and Joining Vol. 10 No. 5 ( 2005. 9 ) pp. 521-527
( 8 ) T. Yamamoto, T. Ohji, F. Miyasaka and Y. Tsuji : 2Mathematical modeling of metal active gas arc welding Science Technology of Welding and Joining Vol. 7 No. 4 ( 2002. 7 ) pp. 260-264 ( 9 ) T. Ohji, Y. Tsuji, F. Miyasaka and T. Yamamoto :
Mathematical Modeling of Metal Active Gas ( MAG ) Arc Welding Journal of Material Science and Technology Vol. 17 No. 1 ( 2001. 1 ) pp. 167- 168
( 10 ) S. Nonomura, K. Hyoma, et al. : Preprints of the National Meeting of JWS No. 93 ( 2013. 11 ) pp. 114-115
( 溶接学会論文集 第33巻 ( 2015 ) 第1号より転載 )
1. は じ め に
2004〜2007年 に 開 催 さ れ たDARPA Grand/Urban
Challengeなどの長距離無人車競技会により,ロボット車
両の実現可能性が大きく示された.DARPA Challengeは,
米軍において2015年に自律的な無人軍用車両を全体の 1/3にすることを目標に行われた.現在,自律走行の技術 は軍用に限らずさまざまな分野で研究・開発・実証が行わ れている.本稿では各分野で開発が進められるロボット車 両や自律走行・遠隔操縦支援に関する技術を紹介する.な お,ここでは自律もしくは遠隔操縦で走行する車両を無人 車,自律的にドライバの運転支援を行う車両を自動運転車 とし,両方包括してロボット車両と呼ぶこととする.