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第 5 章 実験と考察 40

5.3 考察

5.3.1 実験 1 について

実験1では和声学の教科書に記載された一般的なカデンツパターン19種を入力として 解析を行った.カデンツは楽曲における和声の単位であり,自然言語では文に相当する.

これを解析することは提案システムの基礎能力を見る上で有用であると考える.結果とし て,19種中18種について解析を行うことができたが,唯一VI/C→ IV/C → I/Cにつ いては調を誤認した.図5.4のグラフをみたところ,全てのコードネームは和音候補とし て正しい調を含んでおり,問題は距離計算の部分にあるといえる.

入力データ Am → F → C 想定した正解 VI/C IV/C I/C 提案システムの出力 III/F I/F V/F

上記のように,入力データはハ長調(C)とヘ長調(F)の両方の調に適合する.このうち どちらが選択されるかはカデンツや音の出現頻度などから判断されるのが一般的である.

提案システムはカデンツ単体の認識という点では誤認したものの,この誤認は問題となら ないと考える.

その理由は,実際にはこのようなカデンツパターンが単体として出現することはごく 稀だからである.一般にこのようなカデンツは,前半に同じ調の他のカデンツ進行を伴っ た,複数のカデンツからなる複合カデンツとして出現する.

カデンツ1 C → G → Am

カデンツ2 Am → F → C

複合カデンツ I/C V/C VI/C IV/C I/C

そして,提案システムにこのような複合カデンツを入力として与えた場合には,調の誤 認はおこらず,全体は正しく認識された.また,C →G →C(5.1左上)なども同様に 複数の調で解釈可能であるががこちらは正しく認識できている.

以上から,提案システムとTPSは概ねにおいて和声学のカデンツの原理と一致した解 答を提示しているといえる.

5.3.2 実験 2 について

実験2では実際の4楽曲から作成したコードシーケンスを入力として,その和声解析を 行った.提案システムの出力と正解としたデータの一致率は83.6%˜93.1%であり,和音毎 平均は89.2%,楽曲毎平均は88.4%となった.解析の例としてBeethoven, Piano Sonate, Op49, No2, 2楽章 bar 9–12に対してシステムが出力した和音候補グラフを図5.5 示す.

誤認のパターンとして最も多かったのは,転調位置の誤認である.これは前後の調性を 正しく認識しているにもかかわらず,その調の変更位置が正解データとずれたもので,図 5.5でもそれがみられる.

小節 9 10 11 12 13

入力データ · · · G B Em Em Bm Am G · · · 正解データ I/G V/e I/e VI/G III/G II/G I/G 出力データ I/G V/e I/e I/e III/G II/G I/G

これは,正解データと異なっているものの和声進行としては誤りとは言えないと考え る.誤認部分の11小節第1和音はGとしてもeとしても解釈可能であり,両方の調性を 備えた和音であると言えるからである.しかしながら,一般的にはこのような場合,小節 の代わり目など拍節的な重要度が高い部分を転調と考える.提案システムでは,コード シーケンスのみから解析を行い,どの部分が小節の変わり目であり,拍節的に重要である かは考慮しなかった.提案システムの改良案として,これらの拍節情報を取り入れること で,より人間の認識に近い調性判断ができるのではないかと考える.

続いて問題となったのは,必要以上に小さな転調を考慮してしまう問題である.これは 出現頻度こそは少なかったが一つの和音を間違えたために連鎖的に誤認が続くケースが多 かった.この問題は,一部の経路で転調を含んだ進行と転調を含まない進行が和音間距離 の総和が等しいか転調を含んだ進行の方が小さくなっていることに起因する.このような 場合により転調回数が少ない進行を優先することでこの問題は解決できるのではないか と考える.これは,転調を含んだ和音間距離に重み付けすることで実現できるが,逆に並 行調の移動などを阻害してしまう可能性もあり,重みパラメータの設定には考慮が必要と なる.

VI/C

VI/a

V/Bb I/F IV/C V/a#

VI/c# III/F START

IV/e II/G I/a

V/F

IV/G V/f VI/e I/C

GOAL

図 5.4: 基本的なカデンツの解析結果4

図5.5: Beethoven, Piano Sonate, Op49, No2, 2楽章 bar 9–12

5.3.3 実験のまとめ

提案手法は,Lerdahlの和音間距離とダイクストラ法を使用し,入力としてコードネー ムのみから和声解析を行うという点でシンプルなシステムであるが,カデンツパターンの ほとんどを認識でき,実際の楽曲に対する解析も80%以上の精度を導いた.システムとし ては依然として改良の余地が残っており拍節情報の取り入れや,転調に対するペナルティ を科すなどの方法でより人間の認知に近い和声解析ができるのではないかと考える.

ドキュメント内 Tonal Pitch Space を用いた楽曲の和声解析 (ページ 50-53)

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