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2.6.6.9 考察及び結論

の発赤及び流涙過多)及び摂餌量減少は、プロスタグランジン I2(PGI2)の静脈内投与後にも発 現したことが報告されている5)。イロプロストの 4 週間反復静脈内持続投与後にラットに観察さ れた前立腺及び精嚢腺のサイズ減少は、細胞/組織構造に形態学的変化を認めなかったことから、

内分泌障害というより低栄養又は一般的なストレスに関連した変化である可能性が示唆される。

イロプロストをイヌに長期皮下持続投与後に認められた胸腺重量の増加は、細胞保護作用を示 している可能性が考えられる。埋込みポンプ適用部位における炎症細胞反応に関して、対照群と イロプロスト投与群との差異は認められなかったが、血清中γ-グロブリン値の軽度な上昇は、

ポンプ埋込部位でのイロプロストの異物反応に対する増強作用と考えられる。観察された一過性 の下痢の頻度増加は過度の薬理作用と考えられた。PGI2及びプロスタサイクリンアナログは下痢 を誘導することが知られている6,7)。腸壁の電解質バランス又は消化管運動のいずれかに対する 作用が原因と推定される。麻酔下のウサギに PGI2及びイロプロストを静脈内投与後に、有意で はないものの、腸内圧の軽度の上昇が報告されている(2.6.2.4.5 胃腸管系に及ぼす影響 報 告書 4169)。更に、イヌにおいてプロスタサイクリンは迷走神経の緊張を亢進すること8)が示さ れており、これが死亡及び下痢を増加させる原因となった可能性が考えられる。ラットにおいて イロプロスト及び PGI2は尿量を減少させることが知られていること(2.6.2.4.4 腎機能に及ぼ す影響 報告書 4474)から、雌犬における尿量の軽度な減少も、イロプロストの薬理作用に関 連する可能性が考えられる。

吸入投与されたイロプロストを誤嚥した場合の安全性に関しては、イロプロストの混餌及び強 制投与を行った試験成績が適用できる。予定臨床用量の吸入投与後のヒトにおける予想血漿中濃 度より高い血漿中濃度となる、ラットへのイロプロストの反復経口投与は、臓器毒性を誘発しな かった。血漿中濃度がヒトでの予想血漿中濃度より高くなるイロプロストのサルにおける 2 週間 反復経口投与試験においても忍容性は良好であった。イロプロストを反復強制経口投与したサル 2 例における死亡は、イロプロストの薬理作用(血圧低下作用)に関連したものと考えられた。

非経口又は吸入用量より高い経口用量を用いた毒性試験において、消化器毒性所見は認められな かったことから、吸入用量の一部を誤嚥することによる副作用発現の可能性は低いと考えられる。

一連の反復投与毒性試験における無毒性量と臨床用量、投与量及び曝露量での比較(安全域 MoE)を表 2.6.6.9- 1に要約する。

表 2.6.6.9- 1 反復投与毒性試験の無毒性量、臨床吸入用量及びそれらの投与量間又は 曝露量間の比較

Route of

administration Duration Species NOAELa MoE based on Report no.

(μg/kg/day) Doseb Cmaxc AUCd Repeated-Dose toxicity

Inhalation 4 weeks Rat 22.6 25 5 5 A01317 & B784

Inhalation 26 weeks Rat 48.7 54

10-21[16]

16-33 A04447 & A05405

Oral (gavage) 2 weeks Rat 2,000 2,222 - - 4739

Oral (diet) 28 weeks Rat 600 667 3 33-37e AC52 & AB90

Oral (gavege) 2 weeks Monkey 20 22 5-7 - 4858Ⅱ

Oral (capsule) 53 weeks Dog 50 56 2-5 8-10 A706 & A693

IV infusion 10(8) days Rat 200 222 - - 4544

IV infusion 11(9) days Monkey 2 2.2 - - 4545

IV infusion 4 weeks Rat 200 222 - - 6075

IV infusion 4 weeks Monkey 12.4 13.8 - - 5482

IV infusion 28 weeks Rat 500 556 25-35 274-391e 7948 & 7442

SC infusion 26 weeks Dog 96-97 107-108 11-15 125-164e 7949

a: Actual dose of iloprost, -: No data available.

b: 0.9 μg/kg/day (患者体重を50 kgとして算定).

c: 142 ng/L (日本人PK試験 試験番号15266: 報告書番号A56356; 5μg 投与セッションでの平均Cmax; M2.7.2.2.1).

d: 34.1 ng・h/L(日本人PK試験 試験番号15266: 報告書番号A56356; 5μg 投与セッションでの平均AUC; M2.7.2.2.1) 1 当たり9 回投与= 306.9 ng・h/L.

e: 持続投与及び混餌投与時の血漿又は血清中濃度は一定とみなして算定(平均濃度の24倍).

反復投与毒性試験で得られた無毒性量及びその曝露量はいずれも、臨床吸入投与量及びその曝 露量より大きく、ヒトで予定される臨床用量のイロプロスト吸入投与に際して、概して問題とな る全身毒性はみられないと予想される。

遺伝毒性

代謝活性化系の存在下及び非存在下で、細菌及び哺乳類培養細胞を用いて実施された

in

vitro

試験において、イロプロストは変異原性を示さないことが確認された。更に、マウスに最

高 40mg/kg のイロプロストを静脈内投与した

in vivo

小核試験において小核誘発性は認められな かった。

がん原性

マウスにイロプロスト徐放性製剤を反復経口(混餌)投与した結果、雌の高用量群で死亡率が 増加し、雌雄の中・高用量群では摂水量の減少がみられた。中・高用量群で精巣上体重量の減少 又は減少傾向、高用量群で卵巣重量増加がみられた以外イロプロスト投与に関連した影響は認め られなかった。マウスにイロプロスト徐放性製剤を反復(強制)経口投与した結果、摂餌量、体重、

血液学的検査パラメータ、剖検所見に影響は認められなかった。投与約 1 時間後、高用量群のマ ウスに軽微な傾眠が認められた。

ラットにイロプロスト徐放性製剤を反復経口(混餌)投与した結果、死亡率、摂水量、臨床所見、

剖検所見に影響は認められなかった。高用量群で子宮重量が増加したことを除き、臓器重量に薬 剤投与に関連した影響は認められなかった。組織学的検査において、プラセボ群及び高用量群の 雄ラットで膵島細胞腫瘍発生率がやや上昇したことを除き、イロプロスト投与に関連した非腫瘍 性又は腫瘍性病変の型の変化、発現率及び重症度の増加は認められなかった。膵島細胞腫瘍は栄 養バランスの不均衡な食餌投与に関連した影響である可能性が高い。ラットにイロプロストを反 復強制経口投与した結果、50 及び 125/100mg/kg/日で、一部の一般症状の発現率増加、摂餌量及 び体重の減少、膵臓の実質変性の発現率増加及び重症化など、本薬投与に関連したいくつかの所 見が認められ、高用量では生存率低下も認められた。死因は薬剤投与と直接関連するものではな かったが、高用量群では肺の急性炎症の発現率増加と重症化が認められた。この肺炎発現率増加 の成因として高用量(125mg/kg)の本薬反復強制経口投与時に胃内容物の逆流及び誤嚥が生じた 可能性が示唆され、減量(100mg/kg)により死亡(肺炎発生)率は明らかに減少した。

一連のがん原性試験の最高用量と臨床最大吸入用量及び曝露量の比較を表 2.6.6.9- 2に示す。

マウス及びラットのがん原性試験成績から、イロプロストの混餌投与又は強制経口投与はがん 原性を持たないことが示された。

表 2.6.6.9- 2 がん原性試験で検討した最高用量と臨床吸入用量及び曝露量の比較

Species / Strain

Route of application

Treatment Duration [weeks]

Maximal Test Dosea [mg/kg/day]

MoE based on Report no.

Doseb Cmaxc AUCd

Mice/

NMRI PO (diet) 95-97 M: 10.3

F: 13.3

M: 11,444 F: 14,778

M: 18 F: 27

M: 203e

F: 305e AW35 & AR18 Mice/

CD-1 PO (gavage) 104-105 16.25 18,056 M: 270f- 1085g F: 768f- 775g

M: 450g F: 570g

BC60, SFR-KIST20000009 &

AM30 Rats/

Wistar PO (diet) 104-108 M: 4.2

F: 5.3

M: 4,668 F: 5,889

M: 8 F: 11

M: 94e

F: 117e AP21 & AO43 Rats/

SD PO (gavage) 104-105 16.25 - 13.0 18,056 -14,444

M: 425f- 838h F: 254f- 1183h

M: 639h F: 749h

BC61, SFR-KIST20000009 &

AL96 a: Actual dose of iloprost, M: male, F: Female,

b: 0.9 μg/kg/day (患者体重を50 kgとして算定)

c: 142 ng/L (日本人PK試験 試験番号15266: 報告書番号. A56356; 5μg 投与セッションでの平均Cmax; M2.7.2.2.1) d: 34.1 ng・h/L(日本人PK試験 試験番号15266: 報告書番号A56356; 5μg 投与セッションでの平均 AUC; M2.7.2.2.1) 1

当たり9 回投与=306.9 ng・h/L

e混餌投与時の血漿又は血清中濃度は一定とみなして算定(平均濃度の24倍) f: 連日投与53 週目の投与約15分後のデータに基づく(SFR-KIST20000009)

g: 用量設定試験(AM30)のイロプロスト17.2 mg/kg [徐放性製剤125 mg/kg] 投与群72日目のデータに基づく。

h: 用量設定試験(AL96)のイロプロスト17.2 mg/kg[徐放性製剤125 mg/kg] 投与群の72日目のデータに基づく。

生殖発生毒性

イロプロストを雄ラットの交配前及び交配期間中、雌ラットの交配前から交配期間及び妊娠の 7 日目まで各々持続静脈内投与した試験、イロプロスト徐放製剤として雌ラットの生殖発生の全 期間にわたって連日強制経口投与した併合試験成績から、静脈内投与又は経口投与のいずれにお いても、イロプロストは雌雄ラットにおいて受胎能又は生殖能のいずれにも影響しなかった。

妊娠 6~15 日目のラットにイロプロストを静脈内持続注入した胚・胎児発生に関する試験にお いて、用量依存性は明確でないものの、最低用量から少数の胎児に前肢手指の異常(短小)が認 められた。妊娠 15 日目(器官形成完了後)にイロプロスト の静脈内持続注入を開始したラット 出生前及び出生後発生に関する試験においても、数例の新生児に同様の手指の異常が認められた ことから、この異常は手指の分化過程に対する直接的な催奇形性というより、既に分化が完了し た手指に対する二次的な作用(発育遅延)の結果であると考えられる。イロプロスト徐放性製剤 を雌ラットの全生殖期間にわたって連日強制経口投与した併合投与試験及びウサギ胚・胎児発生 に関する試験、イロプロストの持続注入によるウサギ及びサルにおける胚・胎児発生に関する試 験では、全身曝露量が十分高かったにもかかわらず、手指の異常は認められなかった。

妊娠 13~15 日目のラットの子宮血管を結紮することにより、同様の手指の異常が認められる ことが報告されている1,2)。イロプロストは、正常血圧ラットにおいて、0.3μg/kg/分の投与速 度で 20 分間持続静脈内注入することにより降圧作用を示すことが報告されている(2.6.2.2.2.1

In vivo

肺血行動態及び全身血行動態作用 報告書 7145)。更に、イロプロストの降圧用量の静

脈内持続注入は、骨格筋及び消化管では血流を増加させ、その他の臓器(腎臓、脾臓、肺及び皮 膚)では逆に減少させることが知られていることから、イロプロストは心拍出分布の変動を誘導 することが示唆される。すなわち、イロプロストの降圧作用により、母体の胎盤への血液供給が 障害されたため、胎児の前肢遠位部に低酸素状態が生じた可能性が推測される。ただし、後肢に 同様の影響が生じない理由については明確ではない。また、この異常はラットへのイロプロスト の持続注入においてのみ誘発される可能性が高く、この軽度な発育遅延は概ね可逆性であると予 想される。しかしながら、妊婦への本薬吸入投与による胎児・新生児への影響は明らかでない。

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