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い1

5.  考察

 生徒は,辞書使用に関するアンケート調査から,英語を学習する上 で辞書を活用していることが明らかになった。しかし,アンケートの 調査からは,生徒は辞書を使用する際,どこまで詳しく調べているか の詳細については分からなかった。

 そこで,「辞書づくり」という単元を設定し,辞書の仕組みを理解さ せることによって,生徒が辞書をどのように捉えたのかを,授業の様 子や,実践後の記述のアンケートから分析することにした。

 生徒たちは,アンケートの中で自分たちのこれまでの学習を振り返 り,今まで辞書を引いたら単語の意味の確認だけに終っていたことや,

辞書の機能については,十分な理解をしていなかったことを反省して

いた。

 また,生徒の記述を分析すると,「授業の内容に対しての気づき」「辞 書の機能についての理解」「英語を学習する上での辞書を引く重要性へ の気づき」という3つの観点から捉えていたことが分かった。これは,

事前に行われた辞書使用に関するアンケート調査からは,見えなかっ た部分である。

 今回の辞書づくりを通しての感想や意見について,「以前は,辞書は なんだか難しいイメージがあったけれど,実際に,自分で作ってみて 辞書は身近なものなんだと思いました。また,自分で作ったほうが身 につきやすいと思いました。楽しかったです」,「これからも,辞書を 積極的に活用したいと思った。単語のつづりや意味例文などが載って いることで,一つの単語にも深い所までせまっていけると思った」な どの意見が述べられた。これは,授業を行う前までは,辞書を引くこ とが難しいというイメージを持っていたが,授業の中で,自分の「辞 書づくり」をすることによって,辞書の機能を理解していく中で,便 利だということに気づき,これからも辞書を活用しようと捉えたので はないかと思われる。このように,辞書の見方を知った生徒は,自己 教育力を育成することにつながっていくのではないかと考えられる。

 授業の中で自己教育力を育成することを根底に考えたとき,本来,

生徒は,どのように学びを深めていくべきであるのか。

 実践後の「辞書づくり」の授業を通して,生徒たちの3つの観点か ら捉えたものを図で示してみることとした。(図7)

 まず,生徒は「辞書づくり」という活動そのものに対する教師の求 めている目的に気づくのではないかと思われる。次に,活動そのもの に対しての気づきから,辞書の仕組みなどを知って,辞書の見方を理 解し,身につけることができていく。生徒は,授業のねらいを理解し ているといえる。

 さらに,こうした授業を踏まえて,辞書の機能を理解した上で,生 徒は,辞書が便利だということに気づき,身近に感じることができる のではないかと考えられる。また,辞書を引くという習慣が身につく ことによって,自分が英語を学習する上で,分からないものに遭遇し たとき,辞書を活かしていくことができるということに気づいたので はないかと考えられる。

 これらを踏まえて,自己教育力を育成することにつながるのではな いかといえる。また,生徒たちの学びが表層的なものから,より深い ものへと変化していくのではないかと思われる。

 以上のことから,少しの授業の間でもこういった活動をすることで,

生徒は,さまざまな気づきをしたことが大切であり,英語教育の初期 の段階でも,折に触れて辞書指導していくことによって,自己教育力 を育成することに取り組んでいく必要があるのではないかと考えられ

る。

授業の活動の内容に対しての気づき

自分のもの(所有感)

  視覚的情報

辞書の機能についての理解

語彙数の多さの発見

一語一義から一語多義への広がり

英語を学習する上での 辞書を引くことの重要性

についての気づき

 技術的な向上 ぴの道具としての辞書

自己教育力

図7 辞書を引くことを通しての気づきと自己教育力への深まり

第5章 全体考察

 これまでの研究1・研究IIを通して,教師側と生徒側が「辞書」を 使った学習をどのように捉えているかについてみることができた。

 まず,研究1において,中学校英語教員が授業の中で辞書を使った 学習をどのように捉えているかについてみるために,中学校英語教員

とともに比較対照として高校英語教員にもインタビューを行った。

 その結果,高校英語教員は,辞書を活用していたことが見受けられ た。一方,中学校英語教員は,先行研究の辞書指導に関するアンケー ト調査などにみられたものと同様に,辞書を活用していないにもかか わらず,「辞書の重要性を教える必要がある」,「単語の理解が深まる」

など,理念として辞書を活用しなければならいと感じていたことが見 受けられた。

 そこで,中学校英語教員がどのような考えに基づき,またその背景 にある教育そのものに対する考え方をみていくために,中・高の英語 教員にインタビューをした意見を詳しく分析した。その結果,中学校・

高校の指導者のそれぞれ背景にあるものを知ることができた。

高校英語教員の背景にあるもの

 高校英語教員は授業の中で,辞書を活用している理由として,大学 入試をめざして読解力をつけることが大きく関連しているように思わ れた。しかし,高校英語教員の辞書を活用する意見を詳しく分析して みると,辞書を活用することに,広い意義を見出していることも明ら かになった。

 高校英語教員は,例えばインタビューの中で「簡単な単語でも難し い意味をもつことを知ることによって,単語の理解が深まる」などの 意見があげられた。これは,辞書を引いて,単語の文化的な背景や,

文脈の中でどのように単語が使われているかなどに目をむけているこ とが分かった。

 また,インタビューの中で「自分で分からなかったら調べる習慣が

つくのではないか」などといった意見があげられた。これは,米山

(2003)が,「授業中,随時辞書を参照させること自発的な習慣形成 に役立つ(p。79)」と指摘している部分であり,英語を学習することに よって,自分で分からないものに遭遇したときに,辞書を活かし,発 展的な学習ができるのではないかと捉えていると思われる。

中学校英語教員の背景にあるもの

 中学校では,実際辞書を活用していないにもかかわらず,理念とし て辞書を活用しなければならないと考えていた。

 中学校英語教員にインタビューをした意見を詳しく分析すると,研 究1の結果から,「週3時間の授業時数の中で4技能(読む・聞く・話 す・書く)を身につけなければならないこと」,「限られた時間の中で 教科書の範囲を進まなければならないこと」,「中学校で習う単語が難 しくないこと」,などのさまざまな事象が背景にあるため,授業の中で 辞書を使った活動を重視していないことが分かった。

 中学校英語教員は,英語を学習する上で,辞書は単語の一義的な意 味を調べるための補助的な道具であるとしか捉えていないことが見受 けられた。これは,第1章で述べた,これまでの学校教育での教科書 などに書かれているものを単に覚えていくことと同様に,語彙学習に おいて,単語を文脈の中で意味が異なってくるものとしてではなく,

語義と一対一対応をするものとして,それぞれ切り離して考えている ため,辞書を活用しないのではないかと考えられる。これは,Jeremy Harmer(2002)が,「辞書をうまく使えば,生徒はまさに自分が探して いるものを手にいれることができるが,外国語で単語がどのように使 われているのかが生徒に示されないことがあまりにも多く,実際は,

はるかに複雑なことがらに対して単純な答えが与えられてしまう」と 指摘している部分ではないだろうか。

 これまで,教師側からみた辞書活用の意義や辞書指導の捉え方につ いてみることができた。次に,生徒側が辞書をどのように捉えている かについてみていくこととした。

 研究IIにおいては,中学生自身が辞書をどのように捉えているかに ついて調べてみたところ,先行研究においては,行われていなかった。

そこで,生徒が辞書をどのように使用しているかについて調査した結 果,英語を学習する上で辞書を使用していることが分かった。しかし,

第2章で述べた辞書の構造や役割について理解しているかなど,どこ まで詳しく調べているかについてみることができなかった。

 そこで,「辞書づくり」という単元を設定し,辞書の仕組みを示すこ とによって,生徒が辞書をどのように理解したのかを実践後の授業の 様子や記述アンケートから分析してみることした。その結果,生徒た ちは辞書を引くことを難しいとイメージとして捉えており,また,辞 書の構造や辞書の役割については,十分な理解をしていなかったこと が見受けられた。

 実践後の生徒の記述を分析した結果,「授業の内容に対しての気づ き」,「辞書の機能についての理解」,「英語を学習する上での辞書を引 く重要性」という3つの観点から辞書を捉えていたことが分かった。

例えば,「辞書の機能についての理解」という点において,生徒は,1 つの言葉に対して意味が複数あるということ,1つの語のもつ文法的 な側面について品詞としての在り方を理解したことなど,第2章で述 べた辞書の構造についての部分に気づいていることが分かった。

 また,「英語を学習する上での辞書を引く重要性」という点において,

生徒は,辞書を使用していく中で,便利なものであると理解し,英語 を学習する上で辞書という道具を活かすことが大切であるということ に気づいていた。これは,高校英語教員が,辞書を活用することに,

より広い意義を見出している部分に,生徒は気づいていると考えられ

る。

 上記は,稲垣(2003)がいう,「知識を歴史の一本として捉え,生 きた知識を獲得し,学びを広げていく」と述べている部分と相通じる 部分ものがあるのではないだろうか。つまり,辞書の使用が単語の一 語一義ではなく一語多義,すなわち,知識の再構成へとつながり,類 義語,反意語などを調べることが表現の多様化を身につけ,ついては

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