非可換代数の一般論は(特に今の場合は有限次元だから)かなり深い理論が構築されていて,
それからいろいろなことがわかる.例えば CG の既約表現47は全て CG の正則表現の商と して表せる.特にそれは有限次元である.これを群環の場合に説明してみよう.
(;V) を CG の既約表現として,ゼロでないv 2V を任意に選ぶ.
I
L
(v)=fx2CGj (x)v=0g
とおけば,IL(v)は左イデアルになっていて,
: CG=I
L (v)
! V
[ j
[ j
x modI
L
(v) 7 ! (x)v
47既約表現とは f0gと V 以外に不変部分空間が存在しないときに言う.自明でない不変部分空間があると その商表現が作れるので,既約表現とはある意味で極小な表現のことである.
は well-denedな G 加群としての同型写像を導く.実際,写像が x の選び方によらず決 まることは IL(v)での商を考えるのでOK.次に が G加群としての同型である点を確認 してみる.が全射であることは V の既約性から従う.単射であることは IL(v) の定義の 仕方から明らか.さらに が intertwinig 作用素になることは
(ax mod I
L
(v))=(ax)v =(a)((x)v)
=(a)(x mod I
L (v))
となることよりわかる.
(;V) の既約性はまた IL(v)がCG の極大左イデアルであることを我々に教えてくれる.
この左イデアル IL(v)は v 2V の選び方に依存しているが,
I(V)=
\
v2V I
L
(v)=fx2CG j(x)V =(0)g
は V のみによって決まる.上式の二番目の表示の仕方から,I(V)が両側イデアルであるこ とが容易に見て取れるだろう.I(V)=AnnV とも書く.このイデアルをあとで述べる理由 によって本稿では原始イデアルと呼ぶことにする.
原始イデアルは既約表現の同値類を完全に決めてしまう.つまり,(1;V1)と (2;V2)を
CG の既約表現とすると
V
1 'V
2
(同値な表現) () I(V1)=I(V2) が成り立つ.じつはもっと強く,次の定理が成り立つのである.
Theorem 18.1 CG の両側イデアルが原始イデアルことと極大両側イデアルであることは 同じである.さらに CG の既約表現の全体を Irr(CG)と書くと,
Irr(CG)3(;V)7 !I(V)2f極大両側イデアルg=f原始イデアルg は全単射写像を与える.
この全単射写像の逆は,次のように与えられる.極大両側イデアル I を含む極大左イデ アル IL をとり,V =CG=IL で,Gの作用を左からのかけ算で定義すればよい.
さて,表現論の原初的な問題の一つとして,
Problem 18.2 群 Gの既約表現を全て決定し,その具体的な実現を与えよ.
というものがある.有限群の場合には,すべての(有限次元)表現はいくつかの既約表現の直 和に分解することが知られているので,表現を分子にたとえるなら,既約表現は原子のよう なものである.したがって上の問題は,要するに「原子の周期律表を作り,その表の各原子 に標本を一つずつ付け加えて,夏休みの終わりに提出しなさい」という夏休みの宿題48に似 ている.実は標本と一口に言っても,それはさまざまであって,一つの原子(=既約表現)に いろんな標本(= 実現の仕方)があったりするが,それはこの際あまり気にしないでおこう.
48いつも夏休みの宿題には泣かされたのを思い出す.
すると定理18.1は,既約表現の分類が原始イデアルでできること,その実現が原始イデ アルを含むような極大左イデアルによって与えられることを示している.これは曲がりなり にも問題への解答といえるだろう.
最後に CG の構造について触れておこう.既約表現 (;V) に付随する原始イデアルを
I(V) と書くと,
:CG=I(V)3(x modI(V))7 !(x)2EndV
は非可換代数の同型写像となる.が単射であることと代数準同型であることは簡単に確か められるが,全射であることは若干の考察を必要とする.さらに CGが半単純であることを 用いると,次の定理を得る.
Theorem 18.3 非可換代数として,CGは各既約表現の表現空間上の全行列環の直和である.
CG '
X
(;V)2Irr(CG) EndV
Corollary 18.4 CG 自身を左からの G の積によって G の表現と見たとき(左正則表現), 次の直和分解が成り立つ.
CG '
X
(;V)2Irr(CG) V
V
ここで V は V の双対空間であるが,表現V の CG における重複度を表している.49
Corollary 18.5 有限群の元の個数 #G と既約表現の次元の間には次の関係が成り立つ.
#G =
X
(;V)2Irr(G)
(dimV) 2
少し例を見てみよう.その前に,もし Gが可換群であれば,CG は可換環であって,良 く知られているように極大(両側)イデアルを I とすれば,CG=I 'C となることに注意す る.特にこの場合にはすべての既約表現は一次元である(よく知られた事実ではあるが).
Example 18.6 p 次巡回群 G= Z=pZを考えることにして,演算を乗法的に書こう.x を
G の生成元とすれば,G=f1;x;x2;::: ;xp 1gである.xp =1だから,群環は
CG 'C[x]=(x p
1)
となっている. 2 C を 1の原始 p 乗根として,xp 1=
Q
p 1
i=0 (x
i
)と因数分解してお くと,CG の極大イデアルによる分解は
CG 'C[x]=(x p
1)' p 1
X
i=0
C[x ]=(x i
)
で得られる.直和成分 C[ x]=(x i)に対応する既約表現はもちろん G3x 7!i 2C で決 まる一次元表現である.
49右正則表現を同時に考えれば ,Vは右正則表現の表現空間で,V がその重複度を表すと考えることもで きる.