第1節 緒 言
短繊維強化熱可塑性プラスチック 、 いわゆるFRTP (Fibe r Reinforced Thermoplastics)射出成形品は、 その優れた機械的物性を活かして構造部材な ど様々な分野で応用されている1 )。 しかし、 非強化プラスチックと比べて金型 内の流動性が低いためにより高い射出圧力を必要とするほか、 金型内の繊維配 向が複雑なために高品質製品の設計や成形制御が難しくなるなど技術的な問題 を抱えている2)・ 3)。 ウエルドラインによる強度低下も問題のひとつである。
ガラス短繊維強化材料では、 ウエルドライン合流面に平行に繊維がランダム配 向して合流面を貫通することがないために補強効果が発揮されず、 製品強度は ウエルドラインの無い場合に比べて著しく低下する4)ー7)。 そこで、 FRTP 射出成形品の強度設計を行うためには、 ウエルドラインにおける繊維配向を把 握し、 ウエルド強度に及ぼす成形条件の影響を解明しなければならない。
ウエルドラインは発生機構の観点から以下の2種類に大別できる(図4. 1)。
( 1 ) 対向流ウエルドライン. • .複数の流動先端が互いに反対方向から合流して 生じる流動方向に直角なウェルドライン
(2 ) 並走流ウエルドライン.• .ピンやコアなどの金型内部品により分離した流 動先端が再合流後に並走しながら生成する流動に平行なウエルドライン この2つのウエルドラインの違いのひとつはウエルドライン部樹脂への圧力 の伝達である。 すなわち、 ( 1 )では、 ウエルドラインの形成と同時に流動停止し
て保圧過程に移行するために、 比較的高い樹指圧がウエルドライン部で保持さ れる。 一方、 (2 )では、 ウエルドライン形成に時間差が生じる、 充てん初期に形 成されたウエルドライン部の樹脂は充てん完了まで比較的低圧下で滞留するた め、 充分な保圧が伝達される前に冷却固化する。 また、 ウエルドラインに対す
83
-亨宮?
ーーーーウ ェルドライ ン
〉流れ
( 8 ) (b)
図4. 1 ウ ェ ルドラインの分類
( a)対向流ウ ェ ルドライン (b)並走流ウ ェ ルドライン
- 84
-亨τー
る樹脂流動方向の違いから、 ウェルドライン部 における繊維配向分布も異なっ てくる。 繊維配向方向は樹脂流動方向と関連しているので、 ( 1 )では繊維は主 に成形品の厚さ方向に、 (2 )では成形品の長さ方向に配向すると思われる。
対向流ウエルドラインは、 2点ゲートダンペル試験片を用いて評価すること ができるため、 物性の評価が容易であることからこれまで多くの研究が行われ てきたB)ー15)。 一方、 並走流ウェルドラインに関する研究は、 ピンあるいはコ アを挿入した金型を用いた研究がいくつか見受けられるが、 系統的な知見は少 なく、 わずかにCriensらの研究などがあるだけである16)ー18)。
繊維配向はFRTPのウエルドライン特性を検討する重要な因子であり、 し たがって、 上述のウエルドライン生成機構の違いを考慮した研究を行う必要が ある。
そこで、 本章では、 まず、 第3章までに検討してきたポリカーボネートの繊 維強化材料に関して、 対向流ウエルドラインにおけるガラス繊維の配向や含有 率の影響を調べ、 さらにウエルド強度に及ぼす射出圧力、 すなわち、 充てん圧 力と保圧の影響について研究した。 射出圧力条件とウエルドライン領域におけ る材料の圧縮状態との関連に特に着目し、 圧力センサーを用いて測定した金型 内樹脂圧力からウェルドライン部樹脂圧力を求め、 ウエルド強度に及ぼす樹脂 圧力の影響を検討した。
次に、 結品性熱可塑性プラスチヅクであるポリプロピレンのガラス繊維強化 材料を用いて対向流および並走流ウエルドラインの関して、 繊維配向やウエル ド強度を比較、 検討した。 用いた平板金型は、 ゲート位置の変更やインサート
コアの脱着が可能で、 種々の形態のウエルドラインを持つ試料を成形できる。
並走流ウエルド強度に関しては、 さらにインサートコアからの距離や負荷方向、
試験片形状の影響についても検討を行った。
第2節 実験方法
2, 1 対向流ウェルドライン
85
-Tτー
2. 1. 1 成形材料
成形材料として、 これまでに種々検討してきたポリカーボネート(P C)を マトリックスとしたガラス短繊維強化材料を用いた。 レキ サン500-131(ガラ ス繊維含有率10wt%)、 34 12 (同2Ow t % )、 3414(同4Owt % )の3種類を用い た(いずれもEPL側製)。
2. 1. 2 射出成形
実験に用いた金型を図4.2に示す。 これは第2章2.2で示した金型と同形状 である。 ここでは溶融樹脂の金型内圧力と温度を測定するために図中Sの位置 に圧力センサー(スイス キスラ一社製水晶圧電式センサ- 6153型)および赤 外線温度計(ニレコ側製モパック 700 )を設置した。 Pはランナ閉鎖周囲転栓 である。
射出成形法は第2章2.2と同様である。 主な成形条件を表4.1に示す。
2. 1. 3 引張試験およびSEM観察
号!張試験およびSEM観察の条件は第2章2. 3と同様である。
表4. 1 主な成形条件( 1 )ポリカーボネート
ポリカーボネート(繊維含有率1Ow t % ) ノンウェ ウェルド試料 ルド試料
シリンダ温度(oC ) 280 280 金型温度( oC ) 80 80
充てん圧力(MP a) 83. 8 53.8, 89.8 保圧 (M P a) 83. 8 0, 53.8, 119.7
射出時間 ( s ) 12. 0 12. 0
冷却時間 ( s ) 20. 0 20. 0
- 86
-7司
r-S
P
図4. 2 射出成形金型および圧力センサ一位置
- 87
-τ"F
-ポリカーボネート(繊維含有率2 Ow t % ) ノンウェ ウェルド試料 ルド試料
シリンダ温度(OC ) 280 280 金型温度(OC ) 80 80 充てん圧力(M P a) 113. 7 56.2, 89.8 保圧 (M P a) 113. 7 0, 56.2, 119.7
射出時間 ( s ) 12. 0 12. 0
冷却時間 ( s ) 20. 0 20. 0
ポリカーボネート(繊維含有率4 Ow t % )
シリンダ温度(OC ) 金型温度(OC )
充てん圧力(M P a) 保圧 (M P a) 射出時間 ( s ) 冷却時間 ( s )
2.2 並走流ウェルドライン 2. 2. 1 成形材料
ノンウェ ウェルド試料 ルド試料
280 280
80 80
131. 7 69.5, 89.8 13 1. 7 0, 69.5, 119.7
12. 0 12. 0
20. 0 20. 0
成形材料として、 ガラス繊維強化ポリプロピレン(PP ;三井石油化学側製、
E7000、 繊維含有率30wt% )を用いた。 PPは、 結品性材料で、 非強化材料とし
ても実績のある材料である。 繊維強化材料のマトリックスとしての使用量も多 いために本研究で検討することにした。
- 88
-
τ�-2.2.2 射出成形
次の2種類の平板金型を用いた。
i)平板A: 200x100x 3mmの長方形平板で2点ゲートにより中央部に対 向流ウェルドラインが形成される(図4.3 (a) )。
i i)平板B: 平板Aと同形状で、 キヤピテイ中央部に円形穴(穴径は20mm
と10mm)を有する。 穴後部に並走流ウェルドラインが形成さ れる(図4.3 (b) )。
用いた射出成形機および条件設定は第2章2.2 と同様である。 各平板の主な 成形条件を表4.2に示す。 平板Aと平板Bは同寸法であるがゲートから流動末 端までの距離が平板Bの方が長くなるため 、 平板Bの方が若干高い射出圧力の 設定となった。 保圧 Phの設定は、 基本的には充てん圧力P f を基準にして大 小に変化させたが、 パリ発生のために、 平板Aでは高圧力設定が不可能であっ た。
表4.2 主な射出成形条件(II )ポリプロピレン
ポリプロピレン(繊維含有率3Ow t % )
平板A 平板B
シリンダ温度(OC ) 200 200 金型温度(OC ) 40 40 充てん圧力(MP a) 59.8, 71.8 89.9, 107.7
保圧 (M P a) 12.0, 59.8 0, 12.0, 35.9, 59.8, 89.8
射出時間 ( s ) 10. 0 10. 0
冷却時間 ( s ) 20. 0 20. 0
2.2.3 引張試験およびSEM観察
上記平板成形品から図4. 4に示した4種類の試験片を機械加工で製作した。
89
-て
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ゲート
o
。
-OON
100
(b)
図4. 3 平板金型
( a) 2点ゲート金型 ( b) 1点ゲート金型(中央に円形コ ア有り)
90
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図4
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4.50
日2
引張試験片の作製 実線はウ 3二 jレ ドラ
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イ ン、
[31
B3
破線は試験片の切り出し位置を示す。
- 91
試験片A :平板Aの対向流ウエルドラインに直角な短冊状試験片。
試験片B 1 :平板Bの穴 後部に形成する並走流ウエルドラインに直角な短冊状 試験片。
試験片B2 :同じく並走流ウエルドラインに対して45。 の角度 で 切り出した短 冊状試験片。
試験片B 3 :平板Bの穴を切り欠きとして持つ非対称形状の試験片。
対向流ウエルドラインと 並走流ウエルドラインの強度比較は試験片Aと試験
片Blを用いた。 試験片B2では荷重方向が界面に対して450 となる場合の 並走 流ウエルドラインの強度試験を、 また、 試験片B 3 の様な非対称試験片では
ウエルドライン界面に曲げ応力が加わる場合の強度試験が行える。
引張試験およびSEM観察は第2章2.3と同様である。
2.2.4 繊維配向角 測定
平板Bに関しては、 成形品中の 繊維配向を観察した。 試験片表面の凹凸を除
去するために研磨機を用いて200...,300μm程度研磨した後、 顕微鏡写真を撮影 した。 観察した繊維配向分布はスキン層に相当する。 この写真を用いて、 穴近 傍のウエルドライン部における繊維配向角を測定した。 タブレ ツト ・ デジタイ ザ( 1 Dモデル、 武藤工業側製)を用いて写真に 観察された繊維 の両端の 座標 (穴端部を原点としてウエルドラインをX軸とした座標系)を入力し、 各繊維 の中心点 座標およびウエルドラインに対する配向角を計算した。
第3節 実験結果ならびに考察
3. 1 対向流ウェルドラインの特性
3. 1. 1 金型内樹脂圧力および樹脂温度の 測定
まず、 繊維強化PCのダンペル試験片中の対向流ウエルドラインに関して検 討した。
センサーを用いて実測した結果、 金型内樹脂圧力および温度は射出成形過程
92
-において図4,5に示すような経時変化を示した。 樹脂圧力も樹脂温度もウェル ドライン合流と同時に急激に増加して最大値を示した後、 温度は直線的に、 圧 力は緩やかに低下した 。 各信号から最大値を取り出し 、 射出圧力に対してプ ロットした(図4,6 )。
樹脂圧力は射出圧力、 すなわち充てん圧力や保圧の影響を大きく受けた。 特 に保圧に対して直線的に増加傾向を示した。 樹脂温度は保圧に対してはほぼ一 定であったが、 充てん圧力の増加にしたがって上昇した。 Pf=53,8MPaの場合 よりPf=89,8MPaの場合の方が樹脂温度が1 60C高かった。 ただし、 樹脂温度計 測においては材料の赤外線放射率が不明であったため、 すべて非強化PCの放 射率を利用した。 したがって、 測定結果は絶対温度ではなく相対温度である。
3, 1. 2 ウェルドラインによる強度低下
引張試験の結果を表4,3に示す。 ウェルド強度に及ぼすガラス繊維含有率の
表4,3 ポリカーボネートの引張試験結果 Pf:充てん圧力 P h :保圧 ( i ) 含有率1Owt %
Pr-Ph (MPa)
an 83,8 - 83, 8 53, 8
-53, 8 - 53, 8 53, 8 - 89, 8
σw 53, 8 - 11 9, 7 89, 8
-89, 8 - 54, 0 89,8 - 89, 8 89, 8 - 11 9, 7
- 93
-強度(MPa) 73, 5
62, 3 63, 4 63, 7 64, 3 62, 6 64, 8 65, 6 66, 2
τ司区ー
樹脂温度
(射出開始) 時間
図4. 5 射出成形金型中の樹脂圧力および樹脂温度の変化
94
-300
マ
冒..---司、
ι.)制明畑町認
250 80 4‘
60
(dwι2)
R出血白羽 40よ
。
20
Afill -o nu 200
100 150 50
(MPa) 保圧
射出圧力と樹脂圧力および樹脂温度の関係(ポリカーボネート10wt% ) 樹脂圧力=・(P f= 53, 8MPa) ,. (P f= 89, 8MPa)
樹脂温度=0 (P f = 53, 8MP a) ,ム(P f= 89, 8MPa)
95 -図4.6
可亨F
( i i) 含有率2Owt %
Pf-Ph (MPa)
σn 11 3. 7 - 11 3. 7 56.2
-56. 2 - 56. 2 56. 2 - 89. 8
σw 56.2 - 11 9. 7 89. 8
-89.8 - 56. 2
89. 8 - 89. 8 89.8 - 1 1 9. 7
( i i i) 含有率40wt%
Pf-Ph (MPa)
σn 131. 7 - 1 3 1. 7 69. 5ー
69. 5 - 69. 5 69. 5 - 89. 8
σw 69. 5 - 11 9. 7 89. 8
-89.8 - 69. 5 89. 8 - 89. 8 89.8 - 11 9. 7
強度(MPa) 96. 3 52. 5 53. 0
55. 0 55. 6 54. 2 57. 4 58. 0 58. 5
強度(MPa) 130. 0
6 1. 0 62. 3 64. 5 65. 9 50. 1 6 1. 5 6 1. 8 62. 6
影響を図4.7に示す(Pf= 89.8MPa、 Ph=119.7MPa)。 含有率Owt%の値は 第3章で求めた非強化PC (ユーピロンS2000 )のデータである。 射出圧力条
96