この章では、これまで述べてきた研究の結果全体を通じて得られる結論と、それを踏ま え今後日本がどのような形で地方分権改革に関わるのか、考察を行う。また結論に対して 想定できる反論に対して議論を行い、最後に今後の研究課題について触れる。
これまでの章で論じてきたことをまとめる。第1章では日本における戦後政治史が地方 分権改革とどのように関わってきたのかをまとめ、戦後政治史の主要なアクターである、
自民党と中央省庁が強い影響力をもち続けてきたことが特徴的であった。
第2章では政党政治に焦点を絞り、日本の主要政党-長年政権党を維持してきた自民党 と、対抗勢力となった社会党などの革新系政党-が、それぞれどのような組織的特徴をも っていたのかを論じた。その結果、自民党の強固なネットワークや官僚との結びつき、そ の一方で野党は十分な政策形成能力や組織力をもちえず、政権交代を困難なものにしてき たことがわかった。
第3章では前章を踏まえ、イギリス、フランス、スウェーデンの3国において地方分権 改革を成し遂げた政党の特徴をまとめ、比較分析によって仮説を検証した。分権改革の成 功のためには政党組織が特定利害関係者に依存することなく、十分な調査・政策形成プロ セスを独自に構築しうるトップダウン型組織か、または広く多様な意志を集約できる組織 になる必要があると判明した。
第4章、第5章では政官関係に焦点を当てた。第4章では日本の政官関係の諸特徴をま とめ、官僚機能に対する依存度の高さ、そして利害に基づくボトムアップ型の意思決定シ ステムの存在について指摘した。第5章では政党政治の比較と同様の形式で各国の政官関 係について論じ、仮説の検証を行った。比較対象国の政官関係は一方的な力関係や利害関 心中心の相互依存関係とはならず、相互の役割分担や政党主導の組織編成がなされている ことなどがわかった。
最後に、第6章では各国の事例に関して具体的に論じ、各政党の改革が実際にどのよう に行われてきたのかを明確なものとした。
7-1.仮説の検証から得られた結論
本論文の結論を以下に記載する。本論では二つの仮説について序文で述べたが、仮説①
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に関しては第3章で、仮説②に関しては第5章で詳細に論じてきた。改めて本論文の結論 として、以下の2点にまとめた。
結論①:政党組織における中核的機能がもつべき役割を強化すること-すなわち政党組織 を集権化させ党幹部の意向を浸透させること、党首を中心とする大衆政党となり 特定の支持母体からの依存状態を脱却すること、そして明確で現実可能性の高い 政策を形成する能力をシンクタンクなどの機能として保有すること-が、自民党 と中央省庁によってなる、これまでの一党優勢体制を打破する。そしてこれらの 手段によって政権を獲得することで、旧来の行財政構造を改革することができる。
ただし、政党側の意向だけでなく、地方分権改革を必要とするような、地方の声 や社会経済上の要求も求められる。
結論②:地方分権改革には適切な政官関係の確立が必要であり、適切な政官関係とは、政 治過程上の重要な意思決定機能とそのための政策立案能力を、官に依存せず政党 が独自に形成し、同時に個々の政策における専門家としての中立的官僚を、官庁 の改廃などの組織面でコントロールすることを指す。官僚排除による政治主導と は異なり、政官間の適切な役割分担が必要である。
7-2.結論に対して想定でされる反論と、それに対する意見
このような本論文の結論に対して、以下のような反論が想定できる。またそれに対する 筆者の見解も併せて提示する。
・自民党-中央省庁の体制下でも必要に応じて行財政改革を行うことは可能であり、革新系政 党が改革に必要な条件とは言い切れない。
この反論に対する筆者の見解はこのようなものである。仮に自民党の党組織や政策形成 能力が官僚に依存しないものであり、両者の関係性も高くない場合は、必要に応じて行財 政改革を行う能力はあるといえるだろう。しかし自民党は長らく政策形成や選挙基盤に至 るまで官僚への依存度の高い政党組織であり、両者の相互依存状態は容易に打開できるも のではない。自民党が上記のような官僚に対する自律性を高めるためにも、競争的な政党 政治によってその能力を高めることが必要である。
・政治が強いコントロールを行い、官の役割は縮小されるべき
官僚のコントロールは、例えばアメリカ合衆国における「猟官制」が最たる例である。
それにより米国の政治体制は大統領交代ごとに抜本的に入れ替わることが可能であった。
また昨今の財政問題によって官の役割を縮小せざるを得ないという部分もある。しかしそ
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れには、政策形成を行う民間スタッフが充実していることが条件であり、それなくして「政 策スタッフの起用」を行おうと思ってもそのための基盤が存在しない。また2009年以降の 民主党政権が目指した「政治主導」は官僚個々をコントロールしようとし、また官僚の管 轄領域に踏み込むものであったが、これにより党と官庁の関係性は阻害され、また結局政 策形成にあたって官僚に頼らざるをえないことを民主党は痛感した。こうした経験は、現 在の日本において「行政のどの部分を政治がコントロールするのか」を考える上で示唆が 得られる。すなわち、一定の領域、専門的な行政知識などは官僚に依存せざるを得ず、そ こではない「最高位の意思決定」や「官庁組織」、「調査」などの領域において政党が主導 的役割を果たすほうが、むしろ改革を円滑に遂行できるだろう。
7-3.今後の展望
今後の日本が直面する課題は多岐にわたり、経済問題から外交まで、もはや従来型の右 肩上がりの経済成長を前提とした資源配分中心の舵取りでは成り立たなくなっている。地 方の経済的な疲弊と国家財政の危機的状況はもはや、地方経済の将来に絶望してしまうよ うな状況にある。それに対し、道州制や自治体改革など、制度転換を図ることによって現 状を打開する事が本当に可能なのか、という懐疑は当然あるだろう。事実、2000年に成立 した地方分権一括法がいったい地方にとってどれだけのメリットをもたらしたのか、今日 の地方の状況を見ても絶対的に肯定的な評価を下すのは難しい。しかし本論文で述べてき たように、法制度の構築の前提となるのは、権力を勝ち取った政権与党が主導的な役割を 担い、その政治的信条に従って政策形成を推進していくことにある。そして日本の政治に とって大きな課題は、その「主導的な役割」を果たすためのプロセスを政党が十分に構築 できていないことであり、国家戦略の策定から実行までに生じうる様々の障壁を超えられ ないことにある。ならば、真っ先に変わるべきは野党を含めた政党組織であり、そうして 変貌を遂げた政党が、大局的な展望のもとでつくりあげた戦略、そしてそのための「手段」
として提起する地方分権改革―それも、制度として単独に存在するものではなく、望まし い社会実現のための道具の一つ―こそが、国民が真剣に向き合うべき制度的転換の選択と なるだろう。
7-4.今後の研究課題
最後に、今後の研究課題についてまとめる。
一点目に、今回の研究は日本に加えてヨーロッパの三国を対象とするものであったが、
その他にも比較対象として想定できる国家はいくつか考えられる。例えば今回比較対象外 としたアメリカやドイツのような連邦国家、またフィリピンやインドのような一党優位政 党政治下においてどのような傾向が見られるかによっても、新たな視座や考察上の変数が 得られるだろう。
二点目に、ミクロレベルにおける研究が今回は不足していたために、各国の地域単位に
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おける政党政治や政官関係の実際について、検証できる機会が得られなかった。おそらく そうした研究によって、今回扱った中央政党主導の改革がもたらした負の側面、例えば自 治体間格差や地域財政の危機的状況のような実情が把握できるであろう。
三点目に、今回は欧州の三国を、改革自体の実現という視点で「成功事例」としてみな したものの、政策内容も含めて「成功」であったかどうかは賛否が別れる。80 年代初頭か ら行われてきた改革は、改革への着手から30年近くたった今日においてどう評価されてい るか、残念ながら現在有効な示唆を得られる研究は見つかっていないものの、現地の研究 などでその評価が学問領域にも浸透していくことだろう。