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1.中国移転価格税制自体の問題

2.移転価格税制の背景となる中国税制、税務行政、更には中国法制度全般に纏わる問題

総 括

本論文では、「日中移転価格税制の研究」を研究テーマとして日中両国の移転価格税制及 び執行の現状更には今後のあり方について検討を行ってきた。

第 1 章では、日本の移転価格税制について、その導入の背景、沿革、制度の概要、第 2 章では、中国税制の生成及び発展、中国の移転価格税制についての導入の背景、沿革、制 度の概要、第 3 章では、日本の移転価格税制の執行についてその執行関連規定と税務行政 の執行の現状について、第 4 章では、中国の移転価格税制の執行についてその執行関連規 定と税務行政の執行の現状について、第 5 章では、移転価格税制度につき日中両国がかか える共通の課題である無形資産の問題を検討した。そして、主として各章の小括の部分に おいて、その章での検討内容についての筆者の分析、評価更には提言を行ってきた。

以下では、こうした検討結果を総括する意味で、これまで展開してきた個々の問題点に 対する評価、提言とは別個に中国の移転価格税制が抱える全般的な問題、言い換えれば、

一般的、共通点問題とは何か、また、その改善はいかにすべきかといったことについて論 及したい。

1.中国移転価格税制自体の問題

中国の税務当局は常に「公平、効率、適正、法治」という四大原則を提唱している。し かしながら、中国の税務当局の納税者に対する配慮は十分とは言えない。この点について は第4章の第 3節の相互協議と事前確認の部分で二重課税排除が不徹底であることを指摘 するとともに、第4章の第 4節小括の部分で、①納税者への配慮不足、②実態に基づかな い課税、③収集情報の非対称性と情報管理の甘さ等の問題があるとしてその改善の必要性 を強調してきた。しかしながら、そうした、個々の規定を改正していくことは勿論必要で あるが、むしろ制度の制定に至るプロセス自体に問題があるように思われる。つまり、中 国の移転価格税制が納税者への配慮を欠いているのは、移転価格税制の制定プロセスに納 税者の立場が反映されるような仕組みを採り入れていないことに起因していると考えられ るのである。

その意味で、中国でも納税者の立場に立った租税法学者や専門家の意見を反映できるシ ステムを創設する必要がある。その場合、政府税制調査会や立法作業に租税法学者や税理 士といった在野の専門家を参加させたり、通達の改正についてパブリックコンメントとし て、納税者からの意見を聞くこととしている日本の経験は参考となるものと思われる。

いずれにしても、中国課税当局は、移転価格問題について課税当局と納税者の双方が満 足のいく解決を見出すための方法を示すことに積極的に取り組むべきである。

次に中国の移転価格税制は、とりわけ納税者の立場を尊重するという点において、同制 度の国際的な標準と乖離していることがある。中国は、移転価格税制の諸規則は基本的に はOECDガイドラインに準拠していると主張しているが、納税者の立場への配慮という点 では不一致な部分が少なからず存在する。例えば、中国の相互協議規定の適用範囲は国際 基準(例えばOECDガイドライン)に比べて限定的であり、また十分な実施細則を持って いない。中国では、支払利息、賃貸料、ロイヤルティー等源泉徴収済みの税額については 対応的調整を認めず還付されない353。また、中国は、過少資本税制にもとづいて否認され た利息についての対応的調整も認めていない。また、中国の法令は、外国で移転価格調整 が行われる場合の救済として相互協議を位置づけており、中国での移転価格課税に関する 相互協議申立てについて明示的な規定が存在しない。これでは、中国の納税者が中国課税 当局に対して直接相互協議の申立てをすることができるかが明確でないという問題がある

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なお、移転価格の取扱いについては国際的に厳格な基準はなく、 OECDガイドラインが 存在する程度であり、これが世界各国の共通理解の根拠とされている。しかし、このOECD ガイドラインは、各国に対する拘束力を持つものではなく、また紛争を解決するための強 制力があるわけでもない。各国は各々事情があり、利害関係も異なる。国連モデル条約の 改訂作業において同条約の9条(移転価格条項)のコメンタリーにおいて、OECDガイド ラインに適用すべきとする提案が中国を含む新興国の反対で留保となっているということ も事実である355

このように、経済の発展段階がOECD加盟国並みの水準でないこと等の理由から、中国 が所得の発生する源泉地国の立場をOECDガイドラインよりも強く主張することは理由の ないことではない。しかしながら、少なくとも二重課税の排除といった納税者の正当な権 利の確保という面では、中国国家税務総局は基本的にOECDガイドラインを支持する立場 であることを考慮すべきである。しかも、2008年以後、外国企業への優遇政策は廃止され、

外国企業等にも税収面での貢献を求めるようになってきている。そして、優遇政策の廃止 を契機として、企業所得税率も25%となり、移転価格課税による二重課税が発生した場合 には、税負担の面で外国企業にとっては深刻な問題になる可能性が高まっているのである。

こうした状況の変化を踏まえれば、今後、中国当局はOECDガイドラインに基づき、中 国移転価格税制の体制を改善することがますます必要となる。その結果、相互協議と事前 確認等の事務の円滑な実施により二重課税の排除の徹底が推進されることとなろう。課税 当局への信頼度を向上させるという点でも、このことは企業及び課税当局の双方にとって メリットがあり、課税の適正化、不要な調査事務等の発生の回避及び迅速な問題の処理等 を実現することにつながることになるものと考える。

353 あずさ監査法人中国室/KPMG『中国移転価格税制の実務』119頁。

354 あずさ監査法人中国室/KPMG、前掲書、119頁。

355 角田伸広「OECD加盟国間及び中国等新興国との間での二重課税問題」、『租税研究』第 755号225頁。

また、第5章で触れた、無形資産に係る移転価格課税との問題も、中国と相手国がOECD ガイドラインという共通の土俵に立つことによりその先鋭化の回避が期待できるのである。

2008年以降に公表された移転価格税制に関する取扱いの多くは、国家税務総局という行 政機関が公布した規則にすぎず、「国税発」、「国税函」、「通知」、「弁法」等の名称からでも 明らかなように、法的効力が弱いという問題がある。しかも、これら取扱いは改正が繰り 返され、周知も徹底されていないという問題もある。

国家税務総局から公布された「国税発」及び「国税函」は、下級機関に対する通知であ り、日本の通達・事務運営指針に相当するものであるが、下級機関に対する拘束力は弱く、

事務を実施する上での手引き書的な位置付けのものにすぎない。こうしたこともあって、

例えば、移転価格調査の対象選定は、第4章第2節1に記述したように、特別調整弁法で 定めた赤字企業や特定業種を対象として選定することとしているが、現実には、この特別 調整弁法に定めた選定基準は遵守されておらず、こうしたことが現場における調査対象企 業の適用範囲を拡大する余地を与えていることが指摘されている356。企業側の税務調査の 有無に対する予測可能性を侵害していると言えよう。

移転価格課税は否認をされた場合、巨額の追徴課税を課されるリスクのある税制であり、

統一的かつ安定的な課税庁の執行方針の確立が強く要請されるところである。こうした方 針の確立こそが移転価格課税の第一線における課税当局側への過大な裁量権の行使に歯止 めをかけられることを可能とするのである。

2.移転価格税制の背景となる中国税制、税務行政、更には中国法制度全般に纏わる問題

これまで、主として日本と中国の移転価格税制を比較検討する中で、特に中国の移転価 格税制の制度及び執行の両面に存在する問題を指摘するとともに、課税当局等において措 置せねばならぬ事項について提言を行ってきた。しかしながら、中国の移転価格税制を課 税当局及び納税者の双方が納得の行くようなレベルの制度に引き上げていくためには、議 論を移転価格税制にのみ限定していたのでは解決が難しい課題が存在する。そして、それ は中国の法律の立法と運用全体に係る問題であるため、一朝一夕で解決できるような問題 ではない。これは、本論文において、筆者が研究してきた論題の射程を超える部分もある かもしれないが、問題の解決のためには避けて通れない課題である。そこで、最後に移転 価格制度の関連で検討を要すべき中国の税制、税務行政及び法制度の問題について、今後 のいわば中長期的な課題として簡潔に私見を提示したい。

現在、中国の立法機関により制定された法規は企業所得税法、個人所得税法、税収徴収 管理法及び車船税法しか存在しない。それ以外は、条例に基づき執行されている。例えば、

356 陈捷「明确转让定价调查重点优化转让定价调整流程」、『涉外税务』2009年8月号34頁。

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