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第1節 特許出願動向分析の総括 (1) 全体動向

今回の調査範囲は優先権主張(出願年)が2005年~2009年までの5年間とした。

詳細解析の対象とする出願先国として、前回と異なり、中国、韓国を加え、日米欧中韓の 5 国とした。日米欧中韓への出願件数合計は 42,019件であり、これは DWPI全収録国への 合計出願件数 50,457件の83.3%を占めているが、前回の調査期間(1998年~2004年)では

日米欧で 98%を占めていたことから、燃料電池の特許出願は世界各国に拡散している。

日米欧中韓の出願人国籍別件数では、日本国籍が58.2%と最も多い。但し、個別の出願人 国籍別推移を見ると、中国籍がほぼ横ばいであるのを除いて、日米欧韓は概ね減少傾向にあ る。

(2) 注目研究開発テーマ動向

注目研究開発テーマ6件のうち、出願件数の多い白金量低減、高導電率耐食性バイポーラ プレート、フラッディング抑制技術、SOFCの信頼性・耐久性向上の4件について出願人属 性別にその出願動向を解析した。企業の出願人属性として、企業の属する産業分野を選択し 分類した。それらは自動車産業、電機・電子産業、化学・素材産業、電力・石油・ガス産業 の5分野と、大学、公的研究機間の 2分野、合計7分野である。なお、ここでの抽出条件を、

上記 4テーマの「いずれかのテーマに5件以上」出願している企業、大学、研究機関等とし た。該当するのは 167出願人である。

図2-30より、燃料電池の開発には自動車産業、電機・電子産業、化学・素材産業が大きく 関わっていることがわかる。

第2節 研究開発動向分析の総括

国際的な主要論文誌である 16 誌から 6,948 件の論文を選定し抄録を参照して技術分類を 行った。技術分類の分析軸は特許調査と同様とした。論文件数は増加傾向が見られる。大幅 な増加を示しているのは中国であり、その他の国に属するカナダ、ロシア、台湾等である。

日本の論文件数は少なく、むしろ特許出願に力点を置いていることが分かる。

後発組としての中国は世界レベルの研究を実施する素地づくりに重点をおいているものと 考えられる。注目研究開発テーマ「PEFCの白金使用量低減」については、非特許論文でも 注目論文数が多く、学術的な視点からも注目されている。

また、「PEFCの水管理」についてはアカデミックな立場から、高度解析手法を用いた水の 挙動分析やシミュレーションが実施されている。また、SOFC では、主に中温度域作動の SOFC材料論文が多数発表されており、注目研究開発テーマ「SOFCの信頼性・耐久性向上 技術」の基盤部分を担っていると考えられる。一方、「高導電性耐食バイポーラプレート」の 論文発表は少ない。研究が進んでいるが、低コスト化と信頼性技術の確立等で「何らかのブ レークスルー技術」が必要である。

第3節 政策動向分析の総括

エネルギー資源の乏しい我が国にとって「エネルギーの有効利用」は喫緊の政策課題であ り、各種大型プロジェクトや補助事業で燃料電池の普及の強力に推進してきた。2005年度か ら定置用燃料電池大規模実証事業が始まり、2009年度には「民生用燃料電池導入支援補助金 の制度」が導入された。

日本の燃料電池技術ロードマップは、2010年6月に策定された「技術戦略マップ2010」

にまとめられている。また、これを補完する形で、「NEDO 燃料電池・水素開発ロードマッ

プ 2010」が 2010年 7月に策定され、燃料電池・水素技術として定置用燃料電池システム、

燃料電池自動車等、水素インフラの3本柱で研究開発が行われている。他国の政策について は第 4章(3)海外の政策を参照されたい。

第4節 市場動向分析の総括

2009年度の「民生用燃料電池導入支援補助金の制度」(愛称「エネファーム」)により家庭 用 PEFC コジェネシステムが一般家庭への販売が開始され、2011 年度の第三次補正予算の 補助事業では SOFCの家庭用コジェネシステムも「エネファーム」の補助対象になった。

しかしながら、燃料電池市場は、まだ本格的には立ち上がっていない。市場全体では、使 用環境に柔軟に対応できる PEFC(固体高分子形燃料電池)が主流となっている。より大きな 定置式発電用として、MCFC製品やPAFC製品は米国においてすでに商品化されている。家 庭用として研究開発努力の結果、SOFCの国内販売が最近開始された。

第5節 提言

今回の調査では、燃料電池に関する技術について2005年から2009年までの特許出願動向 とともに、研究開発、政策動向、および市場環境についても分析を行った。その結果から、

今後日本企業と研究機関がとるべき方向性をまとめるため、SWOT分析により市場を見据え、

に関しては赤色、提言2に関しては緑色、提言3に関しては青色で示す。

図6-1 日本の燃料電池に関するSWOT分析

S:強 み W:弱 み O:機 会 T:脅 威

・分散型電源に関する ニーズの増大

(3.11震災契機)

・コジェネ発電

(エネファーム)

・日本国籍出願人の割合 PEFC、DMFC:64%

SOFC:52%

→活発な開発力、

投資(人、物、金)

・FCV車:水素供給等の インフラ未整備

・ガソリン・電気ハイブリッド車、

プラグインHV車 EVカーの先行普及

・大容量二次電池の台頭

・高コスト

:白金触媒依存

・信頼性・耐久性向上に 関する出願多

・中国籍出願人の 特許出願増と論文増 国内:家庭用定置型燃料電池

システムが稼働開始 5,000台/年 世界:FCV車による 市場牽引期待

リー ギー

・FCV車:2015年普及化

・日本国籍出願人の 出願件数の減少傾向

・日本発の研究論文数が少

(国際的に著名な論文誌)

日本の研究者数少

・定置型燃料対策(PEFC) 海外は窒素含有量多い

現状は技術優位、競争優位

提言2

定置型燃料電池開発促進

・ 補助金からの自立を 目指した技術開発促進

・ 海外市場での競争 優位性確保技術確立

提言3 FCV向け燃料電池

開発の促進

・ 産業界の技術共有化

提言1

SStrengths(強み); WWeaknesses(弱み); OOpportunities(機会); TThreats(脅威)

これまで日本は企業の卓越したものづくり力を発揮しコストダウンに努めてきた実績があ る。特に、今回調査における出願の中心である自動車、電機産業は低コスト・高品質・高信 頼性で世界に君臨してきた分野であり、この実績と上記出願内容をベースにして、日本勢は 燃料電池の実用化に向けたコスト低減・耐久性技術を両立させる部材とシステム開発力を有 しているといえる。したがって、燃料電池事業の早期拡大に向け、コスト低減と信頼性・耐 久性技術を両立させるブレークスルー技術開発を促進すべきである。

因みに、PEFCについてはブレークスルーすべき課題として、たとえば白金触媒の高活性

【提言1】燃料電池事業の拡大に向けた

コスト低減と信頼性・耐久性を両立させるブレークスルー技術開発の促進

10 年以上にわたる旺盛な開発努力にも拘わらず市場が中々拡大しないのが実情であ る。この理由は、「市場で要求される、低価格で機能・性能を充たす材料が未だに見出さ れていない」ことと、「発電効率が高く耐久性に優れた製品の信頼性確立まで技術が追い 付いていない」ことにある。

2006 年度調査と本調査結果を踏まえ、燃料電池事業の早期拡大に向け、コスト低減と 信頼性・耐久性技術を両立させるブレークスルー技術開発を促進すべきである。

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