第 1 節 3 つ の 視 点 か ら み た 日 本 の ポ ジ シ ョ ン
1 . 技 術 テ ー マ と 研 究 開 発 動 向 か ら み た 日 本 の ポ ジ シ ョ ン
特 許 動 向 分 析 及 び 研 究 開 発 動 向 分 析 の 結 果 か ら 代 表 的 な 技 術 テ ー マ の 位 置 付 け を 第
5-1
図 に 示 す 。カ ラ ー マ ッ チ ン グ ・ マ ネ ー ジ メ ン ト 技 術 は 、 異 な る 画 像 入 出 力 機 器 間 で の カ ラ ー 画 像 の 色 再 現 を 実 現 す る 技 術 で あ る 。 そ の 実 現 の 基 礎 と な る 異 な る 画 像 入 出 力 機 器 の 「 色 特 性 」 に 関 す る 技 術 や「 デ バ イ ス プ ロ フ ァ イ ル の 作 成 」に 関 す る 技 術 は 、
1993
年 のICC
設 立 前 後 か ら 、 活 発 に 特 許 出 願 、論 文 発 表 が 行 わ れ て き た が 、2000
年 頃 に ピ ー ク を 迎 え た 。こ れ ら の 技 術 で は 、 画 像 入 出 力 機 器 の 性 能 の 向 上 等 へ の 対 応 に 関 連 し た 改 良 技 術 開 発 の 継 続 は 行 わ れ て い る も の の 、 技 術 的 に 飽 和 し た 分 野 と な っ て い る 。カ ラ ー マ ネ ー ジ メ ン ト に 関 す る 国 際 会 議 で あ る
CIC
の テ ー マ と し て1996
年 に 初 め て 採 り あ げ ら れ た「 色 域 マ ッ ピ ン グ 」・「 色 域 圧 縮 」に 関 す る 技 術 は 、1985
年 頃 か ら 散 発 的 に 特 許 出 願 が 行 わ れ て き た が 、1990
年 代 を 通 じ て 出 願 件 数 が 増 加 傾 向 に あ り 、2002
年 に 大 き く 出 願 件 数 が 伸 び て い る 。し か し 、内 容 的 に は 、2000
年 以 降 は 、「 多 原 色 化 」や「 主 観 評 価 」を 含 ん だ 出 願 が み ら れ る な ど 多 様 化 し て お り 、 基 本 技 術 と し て の 「 色 域 圧 縮 」 は 成 熟 し た 分 野 で あ る と 考 え ら れ る 。た だ し 、2000
年 以 降 の 出 願 に 見 ら れ る よ う な 他 の 技 術 要 素 と 組 合 わ せ た 技 術 開 発 は 継 続 的 に 行 わ れ て い る 。2000
年 以 降 の 特 許 出 願 の 伸 び が 大 き い テ ー マ と し て は 、 「 測 色 値 解 析 」 、 「 多 原 色 化 」 、「 好 ま し い 色 再 現 」 等 が 挙 げ ら れ る 。 こ れ ら の テ ー マ に つ い て は 、 単 独 若 し く は 、 「 分 光 分 布 の 利 用 」 を 始 め と し 、 他 の 技 術 要 素 と 複 合 し な が ら 今 後 も 技 術 開 発 が 継 続 さ れ て い く も の と 考 え ら れ る 。
ま た 、 最 近 の 研 究 開 発 動 向 と し て 注 目 さ れ る 「 質 感 」 の 再 現 を 含 む 特 許 出 願 も 萌 芽 的 に み ら れ 、
CG
分 野 の 技 術 を 利 用 し た 研 究 開 発 成 果 の 特 許 出 願 が 今 後 期 待 さ れ る 。第
5-1
図 技 術 テ ー マ の 位 置 付 け分光分布の利用 色特性
デバイスプロファイルの作成
色域圧縮
好ましい色再現 多原色化 研究開発時間軸
飽和期
現在の技術テーマの状態 成熟期 色域マッピング
成長期 測色値解析
質感
政 策 動 向 な ど か ら 注 目 さ れ る 遠 隔 医 療 、 デ ジ タ ル ア ー カ イ ブ な ど の 特 定 の 用 途 に 関 す る 内 容 の 特 許 出 願 及 び 論 文 発 表 は 、 調 査 対 象 期 間 を 通 じ て 少 な い が 、
1998
年 の 論 文 発 表 、1999
年 の 特 許 出 願 以 降 、 散 発 的 で は あ る が 見 ら れ 始 め て い る 。特 許 出 願 動 向 及 び 研 究 開 発 動 向 か ら カ ラ ー マ ッ チ ン グ ・ マ ネ ー ジ メ ン ト 技 術 の 個 々 の 要 素 技 術 に つ い て 、 日 本 の 優 位 性 が み と め ら れ た 。 ま た 、 発 明 者 や 論 文 著 者 の 動 向 な ど か ら 、 日 本 の 研 究 者 の 層 の 厚 さ が 示 さ れ た 。
論 文 発 表 、 国 際 会 議 で の 報 告 は 、 米 国 に お け る も の が 中 心 で あ り 、 そ こ で は 、 日 欧 か ら の 発 表 も そ れ ぞ れ 行 わ れ て い る 。 米 国 に お け る 国 際 会 議 等 で あ っ て も 日 本 の 研 究 者 の 発 表 が 多 い の こ と な ど か ら 、 日 本 の 学 会 が 、 米 国 の 学 会 と 共 同 で 主 催 す る 例 も 見 ら れ 、 日 本 の 研 究 開 発 に お け る 優 位 性 が 窺 え る 。
2 . 主 要 プ レ イ ヤ ー か ら み た 日 本 の ポ ジ シ ョ ン
(
1)
主 要 プ レ イ ヤ ーカ ラ ー マ ッ チ ン グ・マ ネ ー ジ メ ン ト 技 術 の 企 業・大 学 等 の 機 関 別 の 特 許 出 願 件 数(
1991
年 か ら2002
年 の 出 願 ) と 論 文 発 表 件 数 (1985
年 か ら2004
年 の 発 表 ) の 相 関 を 第5-2
図 に 示 す 。対 象 は 、特 許 出 願 件 数20
位 以 内 、論 文 発 表 件 数10
位 以 内 の い ず れ か に 該 当 す る 機 関 と し た 。第
5-2
図 機 関 別 の 特 許 出 願 件 数 と 論 文 発 表 件 数 の 相 関そ れ ぞ れ の 上 位 機 関 に は 、 共 通 す る 企 業 名 ( コ ニ カ ミ ノ ル タ 、 松 下 電 器 産 業 、 富 士 写 真 フ ィ ル ム 、 キ ヤ ノ ン 、
Xerox
、Eastman Kodak
等 ) が 多 く み ら れ る が 、 特 許 出 願 件 数 と 論 文 発 表 件 数 と の 相 関 に は ば ら つ き が 見 ら れ る 。こ れ ら の 企 業 群 の 中 で 、論 文 発 表 件 数 に 対 し て 、特 許 出 願 件 数 が 著 し く 多 い 図 中
A
群 の 企 業 に は 、キ ヤ ノ ン 、リ コ ー 、セ イ コ ー エ プ ソ ン 、Xerox
、シ ャ ー プ 、富 士 写 真 フ イ ル ム 、0 10 20 30 40 50 60 70
0 100 200 300 400 500 600 700 800 900
特 許 出 願 件 数 論
文 発 表 件 数
日 本 の 企 業 米 国 の 企 業 日 本 の 大 学 米 国 の 大 学 欧 州 の 大 学
A群 B群
C群
キ ヤ ノ ン リ コ ー
富 士 ゼ ロ ッ ク ス セ イ コ ー エ プ ソ ン HP
コ ニ カ ミ ノ ル タ 松 下 電 器 産 業
富 士 写 真 フ イ ル ム Xerox
千 葉 大
大 阪 電 通 大 RIT
N E C
Eastman Kodak ソ ニ ー 凸 版 印 刷
シ ャ ー プ 三 菱 電 機
富 士 ゼ ロ ッ ク ス 、
Hewlett- Packard
が 該 当 し て い る 。こ れ ら 企 業 群 は 、プ リ ン タ や 複 写 機 の シ ェ ア の 高 い 企 業 で あ り 、 特 許 活 動 が 活 発 で あ る こ と が 分 か る 。 論 文 発 表 件 数 が 比 較 的 多 い 図 中B
群 に は 、コ ニ カ ミ ノ ル タ 、凸 版 印 刷 な ど の 印 刷 関 連 や 写 真 関 連 に 近 い 企 業 や ソ ニ ー 、 松 下 電 器 産 業 な ど の デ ジ タ ル カ メ ラ 扱 う 企 業 、 N E C 、 三 菱 電 機 な ど デ ィ ス プ レ イ を 扱 う 総 合 電 機 メ ー カ ー が 含 ま れ る 。図 中C
群 は 、特 許 出 願 は 見 ら れ な か っ た が 、論 文 発 表 件 数 の 上 位 に 属 す る 機 関 と し て 、 千 葉 大 、 大 阪 電 通 大 、Rochester Institute of
Technology
等 の 大 学 が 存 在 す る 。画 像 入 出 力 機 器 の 世 界 シ ェ ア か ら 、モ ノ ク ロ 機 器 、カ ラ ー 機 器 と も プ リ ン タ の シ ェ ア は 、
Hewlett-Packard
が 優 位 で あ る が 、カ ラ ー レ ー ザ ー プ リ ン タ に 限 っ て み る と セ イ コ ー エ プ ソ ン 、 コ ニ カ ミ ノ ル タ 等 の 日 本 企 業 の シ ェ ア が 低 く は な い 。 そ の 他 、 デ ジ タ ル カ メ ラ や 液 晶 テ レ ビ 等 の 色 再 現 技 術 が 市 場 シ ェ ア に 与 え る 影 響 が よ り 大 き い と 考 え ら れ る 製 品 に 対 す る 日 本 企 業 の シ ェ ア は 非 常 に 高 い 。主 要 プ レ イ ヤ ー の 特 許 出 願 及 び 登 録 状 況 な ど か ら も 、 外 国 市 場 を 意 識 し た 世 界 的 な 視 野 で の 特 許 戦 略 の 様 子 が み ら れ た 。
主 要 な 画 像 入 出 力 機 器 の 市 場 シ ェ ア に つ い て は 、
A
群 、B
群 双 方 の 企 業 群 の 占 め る 割 合 が 高 い こ と が 示 さ れ た が 、ICC
プ ロ フ ァ イ ル やsRGB
対 応 製 品 な ど の 標 準 化 関 連 商 品 の 市 場 へ の 投 入 状 況 に お い て は 、必 ず し も こ れ ら の 企 業 群 の み の 活 躍 で は な い こ と が 分 か っ た 。こ れ ら の こ と か ら 、カ ラ ー マ ッ チ ン グ・マ ネ ー ジ メ ン ト 技 術 に お け る 主 要 プ レ イ ヤ ー は 、 限 定 さ れ た 企 業 、 大 学 で あ り 、 そ れ ぞ れ で 研 究 開 発 が 進 め ら れ て い る こ と が 分 か っ た 。
各 プ レ イ ヤ ー 間 の 共 同 研 究 開 発 に 関 し て 考 察 す る と 、 特 許 出 願 動 向 か ら も 論 文 発 表 動 向 か ら も 企 業 間 の 共 同 研 究 開 発 が 活 発 に 行 わ れ て い る 様 子 は 窺 え な か っ た 。
大 学 と 企 業 と の 関 係 に つ い て は 、 論 文 の 共 著 の 状 況 か ら 大 学 間 の 共 同 研 究 及 び 大 学 と 企 業 と の 共 同 研 究 が 行 わ れ て お り 、 ま た 、 国 際 間 の 共 同 研 究 ( 日 米 間 、 日 本 と ア ジ ア ) も 行 わ れ て お り 、 特 に ア ジ ア 地 域 に お い て 日 本 が リ ー ダ ー シ ッ プ を 取 っ て い る 様 子 が 窺 え る 。 以 上 の よ う に 、 カ ラ ー マ ッ チ ン グ ・ マ ネ ー ジ メ ン ト 技 術 の 技 術 開 発 に お い て は 、 大 手 企 業 の 主 要 プ レ イ ヤ ー の 集 中 度 が 高 く 、 ベ ン チ ャ ー 企 業 の 存 在 は 大 き く は な い 。
(
2)
主 要 プ レ イ ヤ ー の 得 意 と す る 学 術 的 要 素カ ラ ー マ ッ チ ン グ ・ マ ネ ー ジ メ ン ト 技 術 は 、 色 彩 工 学 と 情 報 工 学 と の 学 術 的 要 素 か ら な る も の と 考 え 、 こ れ ら を 軸 と し 、 企 業 業 種 を 、 カ ラ ー ア ナ ロ グ 画 像 情 報 を 扱 っ て い た か 、 モ ノ ク ロ デ ジ タ ル 画 像 を 扱 っ て い た か と い っ た 研 究 開 発 へ の 参 入 の 歴 史 的 背 景 等 を 考 慮 し 、 位 置 付 け た も の を 第
5-3
図 の 下 段 に 示 す 。 日 米 欧 の 主 要 プ レ イ ヤ ー の 企 業 業 種 を 重 み づ け し て 示 し た そ れ ぞ れ の 地 域 の ポ ジ シ ョ ン を 第5-3
図 の 中 段 に 示 す 。日 本 に は 、 情 報 工 学 や 画 像 処 理 を 強 み と す る 企 業 と 色 彩 工 学 を 強 み と す る 企 業 の 双 方 が 主 要 プ レ イ ヤ ー と し て 存 在 し 、 影 響 を 与 え あ っ て い る 。 米 国 の 特 徴 は 、 情 報 工 学 を 強 み と し 、 オ ペ レ ー シ ョ ン シ ス テ ム や 基 本 ソ フ ト ウ ェ ア の 業 種 の 主 要 プ レ イ ヤ ー が 存 在 す る こ と で あ る 。 欧 州 の 特 徴 は 、 色 彩 工 学 を 強 み と す る 主 要 プ レ イ ヤ ー が 中 心 で あ る 。
第
5-3
図 色 彩 工 学 、 情 報 工 学 を 軸 と し た 関 連 要 素 の イ メ ー ジ3 . 標 準 化 へ の 取 組 み か ら み た 日 本 の ポ ジ シ ョ ン
カ ラ ー マ ッ チ ン グ ・ マ ネ ー ジ メ ン ト の 標 準 化 の 審 議 ・ 制 定 団 体 の 参 加 メ ン バ ー と 論 文 発 表 の 件 数 の 多 い 大 学 は 日 米 欧 と も 一 致 し て お り 、 加 え て 、 主 要 プ レ イ ヤ ー 中 で 、 カ ラ ー マ ッ チ ン グ ・ マ ネ ー ジ メ ン ト 以 外 の 項 目 に 対 し て も 標 準 化 が 行 わ れ て き て い る 写 真 や 印 刷 を 扱 っ て い る 企 業 が こ れ ま で の 経 緯 か ら 標 準 化 へ の 取 組 み が 活 発 で あ る 。
標 準 化 へ の 取 組 み に お い て は 、 標 準 色 空 間 の 定 義 と な る 「
sRGB
」 の そ の も の の 規 定 に つ い て は 、Microsoft
、Hewlett-Packard
等 の 米 国 企 業 の 影 響 力 が 大 き い 。し か し 、個 々 の カ ラ ー 画 像 入 出 力 機 器 に 適 用 す る 規 格 の 策 定 で は 、 日 本 が リ ー ダ ー と な っ て お り 、 影 響 力 を 発 揮 し て い る 。ま た 、 色 の 見 え モ デ ル に 対 し て は 、 日 本 の 研 究 成 果 が 規 格 策 定 の 方 向 性 に 大 き な 影 響 を 与 え て い る 。
日 本 、 米 国 は 、 い ず れ も 技 術 テ ー マ 、 主 要 プ レ イ ヤ ー の 特 徴 を 活 か し た 標 準 化 に 取 組 ん で い る 。
デ フ ァ ク ト ス タ ン ダ ー ド と な っ て い る 、オ ペ レ ー シ ョ ン シ ス テ ム(
OS
)に お い て カ ラ ー マ ネ ー ジ メ ン ト を 規 定 す るMicrosoft
のICM
やApple Computer
のColorSync
、ま た 、Adobe Systems
の 基 本 ソ フ ト ウ ェ ア 製 品 の 影 響 力 は 大 き く 、日 本 の 弱 み と な っ て い る と こ ろ で あ る 。一 方 、
Exif
、PictBrige
な ど の デ ジ タ ル カ メ ラ を 中 心 と し た 画 像 フ ァ イ ル の フ ォ ー マ ッ ト は 、 そ れ ぞ れ 、JEITA
やCIPA
の 規 格 で あ り 、こ れ ら は 、日 本 発 で 世 界 的 な デ フ ァ ク ト ス タ ン ダ ー ド と な っ て お り 、 こ こ で は 、 日 本 の 強 み が 窺 え る 。色彩工学 情報工学
印刷業
写真関連業
光学機器メーカー
情報機器メーカー ソフトウェア
企業業種 国籍別 技術要素
色知覚モデル
米国 欧州
日本
総合電機メーカー
多原色化 分光分布の利用
質感
CG 好ましい色再現
色域マッピング 主観評価