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第1節 総合メーカーの現状

図3-1および図3-2は、電子部品大手5社(京セラ、村田製作所、TDK、日本電産、ア ルプス電気)に日東電工を加えた日本の主な電子部品メーカーにおける、2012年3月から 2016年3月までの業績を比較したものである。グラフが示すように、売上高では京セラが トップで、次いでTDK、村田製作所が続き、営業利益率では村田製作所がトップで、次い で日東電工、日本電産が続いている。これらの企業における売上高に占める製品の特徴を 見てみると、村田製作所は売上高に占めるコンデンサの割合が3割以上を占め、TDKはセ ラミックコンデンサを含めた受動部品の割合が約5割を占めている。また、京セラはセラ ミック製品などの電子部品事業が売上高の5割以上を占め、日本電産においても精密小型 モータが売上高の約4割を占めるなど、総合電子部品メーカーと言いながらも製品に偏り があることが分かる。一方、アルプス電気は、売上高、営業利益率ともにこれらの企業に は及ばないものの、製品群の特徴を見てみるとスイッチ、コネクタなどの接続部品をメイ ンとしながらも、ドアモジュールをはじめとした車載モジュールなどの複合部品の開発も 行っており、約40,000種類の電子部品を自動車、家電、モバイル、産業機器などを扱う世

界中の2,000社へ供給している。

近年の電子部品産業には、概して「専業の総合化」と「総合の専業化」という二つの動 きがある。前者の動きとしては、ベアリングの世界トップシェアを持つミネベアがミツミ 電機と経営統合した例が挙げられるが、このように新たな市場の創造を目指し「総合のシ ナジー」を期待した戦略を打ち出している企業も見受けられる。しかしながら、その一方 では電子部品大手メーカーの動きにも見られるように、事業の「選択と集中」により、成 長性の高い分野への経営資源のより一層の投入を図る「総合の専業化」への動きの方が強 くなっている傾向にあり、アルプス電気のような多品目を扱う総合電子部品メーカーは少 なくなってきているのが実情である。

11 3章は、『工業経営研究』に公表した佐藤(2018a)に基づいて作成している。

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図 3-1 売上高推移の比較(2012 年 3 月~2016 年 3 月)

出所)各社有価証券報告書をもとに筆者作成。

図 3-2 営業利益率推移の比較(2012 年 3 月~2016 年 3 月)

出所)各社有価証券報告書をもとに筆者作成。

0 200,000 400,000 600,000 800,000 1,000,000 1,200,000 1,400,000 1,600,000 1,800,000

2012.3 2013.3 2014.3 2015.3 2016.3

京セラ 村田 TDK 日本電産 日東電工 アルプス電気

0.0 5.0 10.0 15.0 20.0 25.0

2012.3 2013.3 2014.3 2015.3 2016.3

京セラ 村田 TDK

日本電産 日東電工 アルプス電気

59 第2節 アルプス電気の概要と製品群

アルプス電気は、1948年11 月に設立された東証一部上場の独立系の電子部品メーカー である。表3-1に示すように、国内従業員数(単体)は5,328人(2016年3月末現在)で、

日本をコアとしながらもアメリカ、ヨーロッパ、アセアン・インド、中国・韓国に開発・

生産・販売拠点を展開しているグローバル企業である。基礎技術や先端技術の開発は日本 で行い、顧客や市場のニーズに合わせた製品バラエティは現地で設計開発する体制を敷い ている。例えば、中華圏においては、大連で車載向け製品開発の強化を図り、上海ではソ フト開発力の強化を図るなど、自主開発ビジネスを強化している。また、韓国では主とし て車載向け製品の開発を行っており、アメリカやヨーロッパでは新規ビジネス獲得に向け た機能強化や技術マーケティングに力を入れている。

同社は、以前から「電子部品のデパート」と言われるほど幅広い品目を製造していたが、

現在でもその種類は約40,000にも及ぶ。主要な製品には、家電・OA機器・業務機器・産 業機械などの広範囲に使用される「タクトスイッチ12」があり、世界シェアの約30%を獲 得している。また、車載用Bluetoothモジュールは、2000年に世界で初めてBluetoothモジ ュール認証を取得し、2009年には累計生産1億台を達成するとともに、世界シェア約30%

というトップクラスのシェアを維持している。同社は、民生市場で培った技術を車載製品 にも応用することで、市場における高いシェアを獲得している。

表 3-1 アルプス電気の概要

社名 アルプス電気株式会社 設立年月日 1948 年 11 月 1 日

資本金 387 億 30 百万円(2016 年 3 月末現在) 事業内容 電子部品・音響機器の製造、開発及び販売

従業員数 単体:5,328 名 連結:39,433 名(2016 年 3 月 31 日現在)

開発・生産・販売拠点 日本(マザープラント)、アメリカ、ヨーロッパ、アセアン、インド、

韓国、中国

出所)有価証券報告書をもとに筆者作成。

12「タクトスイッチ」は、日本において、アルプス電気株式会社が登録している商標である。

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図 3-3 は、2011 年から 2015 年までの市場別売上高(連結)の推移を示したものである。

2011 年と 2013 年はわずかに民生が上回っているものの、車載部品の割合が高くなってお り、同社はターゲットを民生市場から車載市場へシフトさせているのが分かる。

図 3-3 市場別売上高(連結)の推移

出所)財務資料より筆者作成。

同社では、図3-4に示すように製品群を大きくA製品(コンポーネント製品)とB,C製 品(モジュール製品)に分けた開発を行っている。13 A製品は、主にスイッチ類で標準部 品としてホーム、モバイル、オートなどの様々な市場に販売している。B,C 製品は、基本 的には客先仕様に基づいたカスタム対応を要する製品で、代表的なものとしては、パワー ウィンドウスイッチ、通信モジュール、チューナなどがある。車載カーナビゲーションや カーオーディオに使用される通信モジュールやチューナなどは、機能的には民生用製品と 同じでも仕様などが異なり、感度やノイズ耐性などの微調整が発生する製品群である。よ

13 本事例で使用される「モジュール」は、アルプス電気独自の用語として製品の複合化の程度を表 す意味合いが強く、アルプス電気または顧客の製品アーキテクチャ全体がインテグラル型あるい はモジュラー型であるかは、また別の問題である。

1,324 1,400 1,684 2,084 2,475 1,364 1,280

1,703

1,806

1,865

2011 2012 2013 2014 2015

車載 民生その他

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り顧客ごとのカスタム度合いが高いC製品には、エアコンパネルやハプティック14 コマン ダなどがある。同社がこれらのB,C製品を扱う理由は、もともとはスイッチやボリューム などのA製品を単品販売していたが、操作・入力デバイスとして複合化して販売して欲し いという顧客の要望に応えたものである。

製品群別戦略を見てみると、A製品は外販を強化することで販売拡大を目指し、材料・

プロセス技術で他社製品との差別化を図ることを狙いとしている。B,C 製品では、内製し たA製品を組み込むことで更なる差別化を図り、民生で使用していた技術を車載に転用す るなどして事業展開を行っている。車載市場に対応するということは、従来の単品ビジネ スからある程度部品が複合化されたモジュール品の開発が要求され、より高度な専門性と 総合力が求められることになる。近年、アルプス電気ではこれら車載市場におけるB,C製 品の売上げが増加しているが、その要因としてパワーウィンドウをはじめとした車室内の 操作・入力機器の売上げ拡大によるところが大きく、15 車載市場向け売上げの大きな柱に なっている。

図 3-4 アルプス電気の製品群

出所)アルプス電気インタビューをもとに筆者作成。

14 「ハプティック」は、日本、中華人民共和国、欧州において、アルプス電気株式会社の登録して いる商標である。

15 一般社団法人科学技術と経済の会(2011, p.26)および株主・投資家向け説明資料にも同様の記載 がある。

B,C製品(モジュール製品)

C製品(エアコンパネル,ハプティック コマンダ等)

B製品(パワーウィンドウスイッチ,通 信モジュール,チューナ等)

A製品(コンポーネント製品)

タクトスイッチ,エンコーダ,多方向操作 デバイス等

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これらのことからアルプス電気では、自社製品を階層的に定義することで、どの市場の どの顧客にどのように販売するのかといった戦略をたてやすい工夫を行うことで、顧客ニ ーズに迅速に対応できるようにしているのである。

第3節 研究開発の動向

企業にとって顧客ニーズを満足させる新製品を開発し市場に投入していくことは、収益 性を維持していく上で非常に重要である。それ故、企業がどれだけ積極的に研究開発を行 っているのかについて見てみることは、企業の競争力を図る上で有効である。

本節では、第2章のイリソ電子と同様に、総合メーカーであるアルプス電気の研究開発 の動向について探ってみる。

(1) 売上高研究開発費比率の推移

図3-5は、電子部品大手5社および日東電工の2012年3月から2016年3月までの5年 間における売上高研究開発費比率(研究開発費を売上高で除した比率)の推移を示したも のである。

6社中で村田製作所とTDKは、売上高研究開発費比率が6.0%以上と高くなっており、

研究開発型の企業の特徴を示している。京セラと日東電工は平均して4.0%以下で、6社中 では研究開発への投資をあまり積極的に行っていないと考えられる。一方、アルプス電気 は、2013年3月までは5.0%以上の比率を維持してきたが減少傾向にある。しかし、平均 して5%程度の水準を維持しており、業界の中では平均的な水準となっている。

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