本論文では商業地景観における調和概念に関する研究について景観計画を読み解く手法 や、来街者に対し街路アンケート行う方法で分析を進めてきた。その結果得た内容を下記 に示す。
5-1 本論文の結論
第2章では商業地における調和の重要性を分析し、第3章では来街者における調和の重 要性を探り、第4章では色彩と間口がどのような時に違和感が指摘されるのかを分析して きた。その結論を下記に示す。
(1) 第2章の結論
景観計画の大部分が定性的用語により策定されていることに注目し、景観形成方針の景 観に関わる用語を抽出、分類することで商業地が目指す景観のタイプを探った。その結果、
商業地が目指すタイプを「独自性」、「高質性」、「賑わい性」、「調和性」、「安らぎ性」、「開 放性」の6タイプに分類することができた。この分類を活用し分析を行った結果、商業地 が目指す景観は「賑わい性」が最も重要視されており、「調和性」に関わる記述をした商業 地は7割あった。しかし、主景観タイプに調和型を目指す商業地は少なく、賑わい型が多 い結果であった。商業地が目指す景観では「調和性」が重要な概念であるとは言えなかっ た。
景観形成方針と同様に、行為制限の景観用語に関わる用語を抽出、分類した結果、行為 制限では「調和性」が最も活用されており、9割を超える商業地が調和性を用いた景観コ ントロールを行っていた。
商業地景観が目指すタイプは「賑わい性」を筆頭に様々なタイプがあるが、それらを実 現させる方法は一律に「調和性」によるものと解釈できる。しかし、目指す主景観タイプ により調和を要求する景観要素には、共通点と相違点があった。
以上のことから、景観計画においては、調和が目標であるというよりも目標を実現する 為の主導的概念であることが分かった。
(2) 第3章の結論
景観の全く異なる池袋と銀座で、来街者の景観評価がどのように異なるかを分析した。
評価用語に「悪い」と「違和感」を用いた街路アンケートでは、商業地に関わらず違和感 の指摘が多く、悪い指摘は全て違和感に含まれていた。このことから、調和しているファ サードが悪いと評価されることは無いと示された。つまり、来街者の評価においても調和 の重要性が確認できたと言える。また、違和感には悪いと判断されない要素もあった。
来街者が違和感を指摘する景観要素は商業地に関わらず共通しており、池袋と銀座で違 和感が指摘された景観要素は、共通して「色彩」、「意匠」が多かった。また、大部分の要
69 素は銀座の指摘が多かったが、中でも「意匠」、「規模」、「開口部」は、明らかな差がみら れた。このことから、水準の高い景観を持つ商業地では、調和を要求する水準が高いと考 えられ、景観計画の調和概念を丁寧に制定する必要があると考えられる。
来街者属性の比較では、性別・年代・頻度・目的は、属性により違和感を指摘する景観 要素が異なることが分かった。特に、性別は男性、年代は50代以上、頻度は訪れる回数が 少ない、目的は買物の来街者が違和感を多く指摘した。
池袋と銀座の違和感指摘数の相違が、来街者の分布の相違にあるのではないかと考え、
各属性で指摘が多かった属性同士の商業地比較を行った。性別、年代、頻度、目的の何れ についても一貫して銀座の違和感指摘数が池袋よりも多く、池袋と銀座の違和感指摘数の 相違は、商業地景観の客観的相違及びそれに基づく来街者の期待水準の相違によるものと 考えられる。
違和感の指摘は来街者の性別、年代、頻度、目的に関わらず「色彩」と「意匠」が高い ことから、商業地にとって調和を最も意識すべき対象は「色彩」と「意匠」と示した。商 業地に調和した景観を求める場合、各々の商業地が目指す景観に合わせた「色彩」や「意 匠」を見い出す事が大切だと考えられる。
(3) 第4章の結論
第4章では来街者の違和感指摘が多く、また数値化が可能であった「色彩」と「規模(間 口)」に関して分析を行った。色彩にはマンセル・カラー・システムを使用した。まず、比 較し易い色相のみを分析した結果、池袋では Y、YR、銀座では「準無彩色」の建物に違和 感が指摘されていた。しかし分布比較では、商業地に関わらずY、YR、Rに違和感が多く 指摘された。一方、「準無彩色」の違和感指摘はそれ程ではなかった。この結果に対し、明 度と彩度を3段階に分け分析した結果、Y、YR、R は明度・彩度に関わらず違和感の指摘 が多かったが、「準無彩色」では白色には違和感を指摘されておらず、原色に近い黒色を使 用している建物に違和感の指摘が多いことが分かった。このことから、Y、YR、R や黒色 を使用した建物は、地域に関わらず違和感を指摘されると言え、色彩と違和感の関係には 絶対的基準があると考えられる。
東京都色彩ガイドラインが制定しているマンセル値が来街者の評価と一致しているかを 調べた。その結果、東京都色彩ガイドラインの基準外に対しての違和感が多く指摘されて おり、マンセル値の設定は概ね妥当であると言える。なお、今回の調査対象はガイドライ ンが制定している規模基準外だが、基準外においても違和感が指摘されていることから、
制定規模基準を厳しくしても良いと考えられる。
間口に関する分析では、違和感が指摘された建物は、地域の平均間口よりも乖離したも のであった。このことから間口と違和感の関係には相対的基準があると解する。
70 (4) まとめ
本論文では景観計画を読み解くことで、商業地の様々な景観目標を実現するために「調 和」が重要な概念であることを示した。本論文の調和の定義は「その地域に則した(釣り合 いの)在り方があるものの、異なる店舗の外観が程良く釣り合う状態」であり、店舗の外観 が程良く釣り合う状態とは、「色彩」、「意匠」、「間口」、「開口部」が調和している事である と示した。特に、色彩と間口は、一定の基準を保つことが大切である。以上、商業地景観 は調和が重要であり、各商業地が目指す景観に合わせた景観要素の在り方を発見すること が必要なのではないだろうか。
5-2 商業地の景観づくりへの提言
本論文では、池袋と銀座を対象に調査を行った。その結果、共通して注意すべき点を下 記に綴る。
①「色彩」、「意匠」、「間口」、「開口部」は違和感を指摘され易い景観要素である。商業地 において調和を求める場合にはこれらの要素の調和に取り分け注意を払う必要がある。
②「色彩」に関しては、商業地によらず、違和感を持たれ易い色彩があるため、マンセル 値による絶対的評価が概ね妥当である。
③間口は商業地全体の分布に対して、広すぎたり、狭すぎたりすると違和感を指摘される ことが多い為、その点に配慮する必要がある。
また、それぞれの商業地に対しては、池袋では強い色を使ったファサードが多いが、色 彩には、少なくとも池袋と銀座には共有して違和感が指摘される基準があると考えられ、
池袋においては、原色に近い色彩の使用を控える必要があると思われる。
一方、ある程度整った景観が形成されていると考えられる銀座は、平均から乖離した間 口に違和感を持たれ易いため、ファサードの造りを慎重に考える必要があるのではないだ ろうか。
景観水準が高いと調和の要求も総じて高くなる。よって銀座のように、ある程度整った 景観にも更に高い水準の調和が求められると考えられ、良好な景観を目指す限り、持続的 に調和した景観づくりを行う必要があるのではないだろうか。どのような商業地であって も、より良い景観を求める努力が必要である。
5-3 残された研究課題
本研究では商業地景観における調和を取り挙げたが、住宅地など他の地域における調和 とどのように異なるかは分析していない。また、広域商業地を対象としたが、商業と住居 が混合しているエリア等について調和の重要性や調和の在り方がどのように異なるかは分 析しておらず、様々な地域に対応できる調和の在り方を分析する必要があると考えられる。
同様に、商業地区に関する来街者の景観評価を池袋と銀座の2つの商業地でしか行って おらず、各商業地における調和の共通点や特徴についての結果が希薄であることも本論文
71 における不十分な点である。また、商業地景観は昼と夜で姿が異なるが、本研究では昼の 状態における商業地景観しか分析を行っていないために、照明等の景観要素の分析を行っ ていない。
来街者調査では、違和感があるが悪いと評価されてないファサードもあった。このこと は景観計画が調和を求めることについて更に検討する余地があることを示唆している。