古典分子動力学を用いて,SWNTへの金属蒸着のシミュレーションを行うことにより,以下の ことが確かめられた.
SWNT上に形成される金属クラスタの連続性は,金属の種類によって異なり,炭素-金属間の Lennard-Jonesポテンシャルのパラメータ
ε
が大きなものほど金属クラスタは連続的な構造となる.例えば,1本のSWNT上のAuクラスタは球形で点在しているが,Tiクラスタは連続的でSWNT 全体を覆う.また,高温で蒸着するほどクラスタが集まりやすくなるので,例えば金では小さな クラスタが集まってより大きなクラスタができる.
蒸着において,金属がクラスタを形成したのちに SWNT に吸着する場合,金属が 1 個ずつ SWNTに吸着してゆく場合に比べてSWNT上の金属クラスタの形状は不規則なものとなる.
SWNTが束になると,金属原子はSWNTの隙間に集まりやすくなり,SWNT上に形成される 金属クラスタはSWNTの軸方向に連続なものとなりやすい.すなわち,束になることでクラスタ に違方性が生じる.
SWNT上にまとまった金属クラスタが点在している場合,そのクラスタ付近で SWNTの炭素 間結合長は小さくなる.ただし,金属クラスタが広範囲に広がっていたり,TiのようにSWNT全 体を覆っているときは炭素間結合長の変化は一様ではなく,必ずしも結合長が小さくなるとも限 らない.
今後の課題としては,Fe のシミュレーション結果が実験と合わない原因を解明することや,
炭素-金属間の相互作用を本研究で用いた2体ポテンシャルで近似するのではなく,より正確な 多体ポテンシャルで表現してシミュレーションを行うことなどが挙げられる.
参考文献
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謝辞
研究室に入って以来,分子動力学の基礎や計算機の扱い方などを懇切丁寧に教えていただい た伊豆さん,塩見先生にはとくにお世話になりました.この御二人に付き合っていただいた,分 子動力学の勉強会は,難しくて理解できないことも多かったですが大変有意義だったと思います.
また,丸山先生には研究会において多くの助言をいただいき、大変感謝しています.
パワーポイントやマトラボの使い方をはじめ,多くのことを教えていただいた山本さん,大 川さん,研究のあるべき姿などを教えていただいた石川さん,なにかある度に幹事をしていただ いた岡部さん,ありがとうございました.
同じ4 年生として1 年を過ごした井上君の熱心に研究に取り組む姿勢は,自分の研究の励み になりました.
研究分野の異なる村上さん,エリックさん,シャンロンさん,技術専門職員の渡辺さんには,
研究以外でいろいろとお世話になりました.ありがとうございました.