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結論

ドキュメント内 第1章 序論 (ページ 133-149)

9.1 研究成果の総まとめ

本研究では、それぞれ日本語母語話者と台湾華語母語話者による、依頼とそれに対する 断りとを含む実際の会話を検証資料に、依頼側と被依頼側とのやりとりを相互関係と捉え、

一連の会話展開の中で、依頼側と被依頼側が、相手の働きかけをどのように理解し、そし て自分の意図をどのような配慮に基づいてどのように表明するかについて検証してきた。

以下に、2.4に提示された研究課題に従い、本研究によって得られた結果をまとめる。

1.日本語母語話者同士と台湾華語母語話者同士の実際の会話における「依頼」に対する

「断り」を談話レベルから分析した際、日本語母語話者と台湾華語母語話者はそれぞ れどのように断りをしているか。そして、いかなる点が共通しており、いかなる点が 異なるか。

検証資料を談話レベルから分析し、日本語母語話者と台湾華語母語話者がどのように断 りをしているのかを探り、その共通点と相違点を明らかにし、さらに、それらをポライト ネスや文化と関連付け、考察した結果、以下のような結果が得られた。

(1)「断り談話」の構成要素における出現順序について、日本語と台湾華語ともに、ま た、両言語の目上・同等・目下のどのグループにおいても、「最初に用いられる断りのスト ラテジー」として「事情説明」を、「最後に用いられる断りのストラテジー」として「謝罪」

を多く使用している。

(2)構成要素の使用頻度について、台湾華語母語話者同士の会話においては、「事情説 明」が一番多く使われているのに対し、日本語母語話者同士の会話においては、「謝罪」の 使用が他のどの要素よりも多くみられた。

(3)「断り成立まで」と「断り成立後」の2段階に分けてみた結果、日本語母語話者と 台湾華語母語話者ともに、断りたい意思を伝える際に、主に「回避」、「直接的な断り」、「事

り、「代案提示」をしたりすることが多いことがわかった。

(4)相手との「相対的力(P)」関係による影響を考察してみたところ、両言語にはこ れによる相違はあまり見られなかった。以下ではわずかな傾向を示す:日本語母語話者同 士の会話では、「直接的な断り」の使用は、同級生からの依頼を断る場合において高い割合 を占めている。そして、先輩からの依頼を断る場合は、「代案提示」が使われていないこと がわかった。台湾華語母語話者同士の会話では、「回避」というストラテジーは先輩からの 依頼を断る場合のみ使われており、「直接的な断り」は後輩からの依頼を断るときに一番多 く使われている。

(5)実際の会話資料の分析結果がDCTによるものとの根本的な違いは、DCTには 見られなかった依頼側による「食い下がり」や「気配り発話」が用いられていることであ る。つまり、実際の会話では、依頼に対して事情説明、回避などのいわゆる間接的な断り を用いて断ったつもりであっても、依頼側にそれが受け入れられず、依頼の場面がもう一 度繰り返され、依頼の発話が続く場合もあり、また、依頼側から「無理ならいいのよ」な どの相手に対する「気配り発話」をかけられたため、断りをしやすくする場合もある。こ のように、話し手は聞き手との相互作用の中である特定の発話行為を徐々に作り上げてい くことが、談話レベルからの分析によってわかった。

(6)語用論的な観点から「断り」を考察し、ネガティブ・ポライトネスと言われてい る日本語においても談話レベルからみれば言語形式以外の言語的ストラテジー(「スピーチ レベル・シフト」など)を用いて相手のポジティブ・フェイスに積極的に訴えているとい うことがわかった。

2.日本語母語話者同士と台湾華語母語話者同士の電話会話における「依頼」に対する「断 り」を談話レベルから分析した際、日本語母語話者と台湾華語母語話者それぞれの断 り行動の展開パターンはどうなっているか。さらに、それらの使用特徴がいかに人間 関係維持に機能しているか。

日本語母語話者同士と台湾華語母語話者同士の電話会話における「依頼」に対する「断 り」を談話レベルから分析し、日本語と台湾華語それぞれの断り行動の展開パターンを明 らかにし、さらに、それらの使用特徴がいかに人間関係維持に機能しているかを考察した。

以下に得られた結果をまとめる。

「断り成立まで」の段階において、日本語母語話者調査協力者も台湾華語母語話者調査 協力者も「事情説明のみ」のパターンを多く使用している。このことから、日本語と台湾 華語ともに、「事情説明」は断りたい意志を伝えるのに効果的と言えるであろう。また、台 湾華語母語話者同士の会話39例のうち、「事情説明」が使われているのは37例あったこ とや、依頼側の調査協力者の[那你要給我一個確切的理由(じゃ明確な理由を教えてくれ)]

などの発話から、台湾華語母語話者は断る際に理由を説明したか否かを重要視する傾向が あることがわかった。

また、「断り成立後」の段階において、台湾華語母語話者調査協力者は、一度だけ詫びる か、本研究で提示されたどの断りのストラテジーも使わなかったというパターンがそれぞ れ3割程度占めているのに対して、日本語母語話者調査協力者は、「謝罪2回以上」のパタ ーンが圧倒的に多いことが明らかになった。それは、この段階において、断りによって生 じた気まずさを緩和するために、依頼側と断る側が詫び合っている例が非常に多かったか らだと考えられる。

本調査から、相手との「相対的力」関係による影響はあまりみられなかったが、「謝罪」

や「回避」のみで断りの成立に導いた会話は日本語母語話者が後輩からの依頼を断る場合 にしかなかったことや、日本語母語話者が先輩からの依頼を断る場合は先輩に代案提示を しないこと、台湾華語母語話者調査協力者は同級生からの依頼を断った後、より積極的に

「代案提示」をしたり「条件提示」をしたりするなどの興味深い結果がみられた。

3.日本語母語話者と台湾華語母語話者による、「依頼」とそれに対する「断り」とを含 む実際の会話を検証資料に、一連の会話展開の中で、依頼側と被依頼側が相手の働き かけをどのように理解し、そして自分の意図をどのような配慮に基づいてどのように 表明するか。

「依頼・断り」のコミュニケーションの中で、依頼側と被依頼側が、相手の働きかけを どのように理解し、そして自分の表現意図をどのような配慮に基づいてどのように表明す るかについて検証してきた。

その結果、実際の電話会話の「依頼・断り」のコミュニケーションにおいては、依頼行 為は、依頼側が発した 1 文レベルの「依頼発話」だけによって成立するものではなく、「依 頼発話」に先行する「依頼可能性の確認」「前置き」「依頼受諾見込みの確認」「事情説明」

などを含むより長い発話の連鎖によって、被依頼側との相互作用の中で動的に成立してい くということが明らかになった。また、依頼行為が成立してから断りの目的が達成される までの段階においては、依頼を断らなければならない決定的な事情がある場合、被依頼側 による「理由説明」を中心に展開し、依頼側による「断りへの了解を示す発話」までのや りとりが短い場合が多い。一方、依頼を断る決定的な事情がない場合、被依頼側は情報要 求をしたり、情報を繰り返し確認したり、言いよどんだり、依頼内容について否定的な意 見を述べたりする行動が見られた。そして、断り目的達成から会話終了までの段階におい ては、依頼側による「お詫び」や「感謝」、被依頼側による「お詫び」や「代案」の配慮行 動が観察された。

さらに、「依頼・断り」のコミュニケーション全体において、被依頼側は、依頼側からの 働きかけに一方的に反応するのではなく、コミュニケーションがよりスムーズに展開する ように、本来依頼側が中心に行う働きかけを先取りするといった、被依頼側による働きか けがあることもわかった。

以上述べたように、「依頼・断り」のコミュニケーションにおいて、日本語母語話者同士 の会話と台湾華語母語話者同士の会話には共通点が多かったが、依頼の切り出し方や断り によって気まずさを増した会話の終わらせ方には違いが見られた。具体的に提示すると、

日本語母語話者同士の会話では、依頼側による「依頼可能性の確認」や「前置き」から始 まり、依頼側と被依頼側が詫び合っているやりとりで終わる場合が多いが、台湾華語母語 話者同士の会話においては、依頼の用件が被依頼側によって引き出され、最後に依頼側が

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