本研究では,1980 年以前に建設された既存 WPC 構造集合住宅建物(既存建物)に EV を併設し た共用廊下(増築部)を増築し,エキスパンション・ジョイント(Exp.J.)を設けずに,あと施工 アンカーにより一体化する計画を想定し,増築後の建物(増築一体化建物)の耐震性能評価を行 った。本計画では増築により建物全体の重量が増大するため,発生する地震力も既存建物に対し て大きくなる。これにより建物の耐震性能が低下することが考えられる。そこで,増築一体化建 物に対する補強案を提示し,その補強効果を解析的に評価した。また,増築部の構造計画を検討 し,既存建物が負担する地震荷重を低減させる計画についての耐震性能評価を行うことで,既存 建物と増築部を構造的に一体化する改修(増築一体化計画)の可能性について検討した。本研究 によって得られた知見は以下の通りである。
1) 既存建物の現行法規抵触事項を整理した。仕様に関する規定について,既存建物は耐震壁 や床板などの補強筋に丸鋼を使用しているが,現行規定では異形鉄筋を使用するよう規定 されている。また,壁梁の横補強筋比の規定を満足せず,これらの点で既存建物が既存不 適格となっていることを確認した。
2) 既存建物は仕様規定を満足しない一方で,部材の耐力や剛性に関する規定(許容応力度設 計など)は満足する。つまり,既存建物は既存不適格になっているが耐震性能については 現行規準で要求される程度の性能を有していると言える。
3) 既存不適格建物に増築一体化計画を適用する場合,平成 17 年に施行された改正基準法によ ると増築後の建物全体で許容応力度設計を満足することが求められる。
4) 増築一体化計画に伴う建物の自重増大により,地震荷重が大きくなることで増築後の建物 の保有水平耐力が低下することが考えられる。これに対し,建物の最上階に梁を設ける補 強(屋上補強),既存住戸出入り口上部の壁梁と耐震壁同士の接合部に梁を新設する補強(接 合部補強),増築部フレームによる補強(増築フレーム補強)方法を提案した。またそれぞ れの補強効果を解析的に評価した。
5) 屋上補強と接合部補強について,建物の張間方向(±Y 方向)の保有水平耐力を解析的に評 価した。解析の結果,それぞれの補強案の保有水平耐力時の 1 階層せん断力係数(CQU1)は,
+Y 方向で 0.59 と 0.65,-Y 方向で 0.58 と 0.63 であった。既存建物の CQU1は 0.64(+Y 方向)
と 0.65(-Y 方向)で,屋上補強案は 9-11%程度,接合部補強案は-Y 方向で 3%既存部に対し て耐力が低下するが,それぞれの地震荷重は 16%-18%程度増大しており,このことからそれ ぞれの補強効果を確認した。
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6) 増築フレーム補強について,増築部の設計案は4階までを鉄筋コンクリート構造,5階と屋 根を軽量化のため鉄骨造とした。既存部の階段室脇の連層壁に添柱を設け連結梁により増 築部と接続した。増築後の建物(増築一体化建物)について,標準せん断力係数C0=0.2の Ai分布の設計用地震荷重と長期荷重に対する許容応力度計算を行った。X方向(桁行方向)
の地震荷重に対しては,増築部のみのモデルで検討し,Y方向(張間方向)に対しては,既 存部との一体化モデルで検討した。その結果,全ての増築部材の発生応力度が許容応力度 以内であった。
7) 増築一体化建物の張間方向(±Y方向)の保有水平耐力と崩壊形を静的増分解析により確認 した。増築前の既存部の張間方向の崩壊形は 1 階水平接合部と鉛直接合部および境界梁の 損傷を伴う連層壁のロッキングである。増築一体化建物の重量は既存重量より29%ほど増大 するが,増築部が連層壁のロッキング変形を制御する役割を担い,保有水平耐力時の 1 階 の層せん断力係数CQU1が+Y方向で-3%,-Y方向で+15%となった。増築部を既存部と一体化す ることで,合理的な増築計画とできる可能性を示した。
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