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近年爆発的に増加を続ける情報トラフィック需要に応えるため、次世代のネットワークでは柔 軟に光信号の経路を切り替え、大容量情報を扱うことが可能なCDC-(Colorless, Directionless, and

Contentionless) ROADMの導入が不可欠ある。本研究では、CDC-ROADMを構築するためのキー

デバイスである空間スイッチと波長選択スイッチ(WSS)について、小型性・低損失性・偏光無依 存性・可変グリッド機能などの高機能性を付与するためのさまざまな構成法を提案し、設計手法 の確立のための検討を行った。本論文では以下のような構成で研究成果をまとめた。

第2章: LCOSを用いた空間スイッチの高速な収差補償法の検討 第3章: 多層AWGとLCOSを用いたWSS

第4章: 多層AWGとLCOSを用いたWSSの偏光無依存化とAWGの位相誤差補償法の検討 第5章: 多層AWGとLCOSを用いたWSSの小型化の検討

第6章: MEMSミラーを用いた可変グリッドWSS

本章では研究の結論と今後の展望を述べる。

第2章ではLCOSとファイバアレイを用いた空間スイッチを提案し、その挿入損失を低減する ためにLCOSを用いて光学系の収差を高速に補償する手法を提案した。本手法では収差を補償す るための位相パタンをZernike多項式で展開し、損失を最小化する最適なZernike係数の組み合わ せをPSOアルゴリズムに従った試行錯誤型の演算により導出した。従来の一般的なアルゴリズム を用いて最適化を行った場合には、最適化変数の数が課題であるために収束の過程において局所 解にトラップされてしまうことが頻繁に起き、光スイッチのカリブレーションに膨大な時間を要 していたことが問題であった。これを解決するため、本研究ではまず統計的解析により、局所解 において低次モード係数と高次モード係数の間に線形な相関があることを明らかにした。続いて 上記相関性質を考慮し、最適化に必要な変数量を削減した新規な突然変異オペレータをPSOに対 して導入することで、局所解にトラップされる確率が大幅に減少し、従来型PSOに比べ2倍以上 高速に大局解へと収束することを明らかにした。本手法は次世代の柔軟なネットワークの構築に 必要とされる光スイッチの低損失化・低コスト化に有効な技術である。

本研究では最適化アルゴリズムの一種である PSO 法を用いてレンズ収差の高速補償を実証し た。PSOの他にもSimulated Annealing法やSimplex法など多数の汎用最適化アルゴリズムが開発 されており、突然変異オペレータを導入できるアルゴリズムであれば本研究の提案する手法が適 用できる可能性がある。よって今後、ベースとなるアルゴリズムの種類を検討することにより、

より高速な空間スイッチのカリブレーションが実現される可能性がある。

第3章では多層AWGとLCOSを用いたWSSを提案した。まずWSSの光学系における光波の 振る舞いをガウシアンビーム伝搬側と光波結合理論を用いて記述し、多層AWG・LCOS・レンズ

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の設計パラメータとWSSの性能との因果関係を明らかにした。また、WSSのポート数は多層AWG に含まれる導波路層数で決定し、低損失にWSSを構成するためには多層AWGの導波路層間の平 行度精度の厳密な制御が必要であることを明らかにした。次に低損失・多ポートな WSS を得る ための多層AWGの作製手法として、①樹脂によって導波路基板を貼り合わせる手法(スタッキン グ方式)、②単一基板上に多層AWG をモノリシック集積する手法(モノリシック方式)、の二つの 作製手法を提案した。

①のスタッキング方式では試作の結果、基板平行度±0.9m 以内という極めて良好な作製精度 の多層 AWGが得られており、スタッキング方式により作製された多層 AWG はシリンドリカル レンズアレイと併用することで1×10規模の多ポートな WSS が得られることを明らかにした。

マイクロレンズと多層AWGとのピッチの不整合による過剰損失の問題や、WSSを組み立てる際 のレンズアレイとの位置調整の難しさを解決することが課題である。

②のモノリシック方式では試作の結果、4層のAWGの作製に成功している。また、AWGの積 層平行度は±0.3 m以内であり、スタッキング方式を用いた場合よりもさらに高精度な多層AWG を得ることに成功している。モノリシック多層AWGは複数の導波路層が30 m以下の間隔で極 めて近接して配置されているため小型、多ポートかつレンズアレイが不要な WSS が得られる可 能性を示した。レンズアレイが不要となるため、上記①で問題とされた組立時の光軸調整の難し さが大幅に低減した。しかしながら、プロセス偏差による分光特性のピーク波長ずれや大きな位 相誤差が問題となっており、これを解決する手法を検討することが課題である。

スタッキング方式を用いて作製された多層AWGを用いてWSSを構成し動作実験を行った結果、

クロストークが-31dB以下の良好なスペクトル性能が得られており、本章の提案する構成法によ り実用的な性能のWSSが得られることを明らかにした。

第4章では多層 AWG と2台のLCOS を用いた偏光無依存型WSS を提案した。2台の LCOS のうちの 1 台はスイッチングエンジンとして機能し、AWG によって分光された各波長光を任意 の角度で反射することでポート間のスイッチングを行う。もう一台のLCOSはリレー光学系によ って結像されたAWG端面と等価な像に対して位相変調を行うことで、AWGの位相誤差によって 歪んだ等位相面を導波路層別、偏光成分別に補償し、低損失なスイッチングが可能となる。また 偏波ダイバーシティ光学系を導入したことによってLCOSの偏光依存性が補償される構成となっ ている。AWGの位相誤差が補償可能な構造となったことで、プロセス偏差によってAWGにラン ダムな位相誤差が発生したとしても低損失な WSS が高い歩留まりで得られる。そのため第3章 の検討結果では位相誤差が大きく実用化が難しいとされていたモノリシック多層AWG を用いて WSSを構成することが可能となった。実証実験ではモノリシック多層AWGを用いて位相誤差の 補償を行いクロストークが-30 dB以下、PDLが 1 dB以下という良好な性能が得られている。

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第5章では多層AWGとLCOSを用いたWSSを小型化するための構成法を提案した。第4章で 提案したWSSの構成法では、偏光無依存性や、AWGの位相誤差を補償する機能により低損失な WSSが高い歩留まりで得られるといったメリットが得られる一方で、比較的高価な光デバイスで あるLCOSを2台用いていることと、補償光学系を導入したことによりモジュールサイズが増大 する点が問題であった。上記問題を解決するため、第5章では WSS 光学系に反射器を用いた折 り返し構成を導入することにより、スイッチング動作と位相誤差補償動作の両方を1枚のLCOS にて行うことを可能としている。試作したWSS光学系のサイズは80 mm × 100 mm × 60 mmであ り、第4章で述べたLCOSを2枚必要とする構成と比べて約40 %のサイズ縮小が可能であること を明らかにした。本WSSを試作し、多層AWGの位相誤差の補償実験を行ったところ、導波路層 別・偏波モード別に補償することで、挿入損失が40.0 dB から 29.0 dBにまで低減され、位相誤 差が正しく補償されることを明らかにした。また位相誤差が補償された WSS は、隣接チャネル クロストークが−21.0 dB、PDLが1.5 dB以下、25 GHz以下の周波数粒度で可変グリッド動作が可 能という良好なスペクトル性能を示しており、40-GbpsのNRZ-OOK信号をWSSを経由させた場 合に信号の劣化を生じることなく伝送可能であることを、受信信号のBER測定とアイパタンの評 価から明らかにした。

今回試作したWSSに用いたモノリシック多層AWGは、導波路層数が2層であったため、1×1 ポートの WSS の実証となったが、第3章で述べた多層導波路の製造工程を繰り返すことで、今 後はより大きな層数のAWGが得られる可能性がある。11層のモノリシック多層AWGが得られ た場合、1×10ポート以上の実用的なWSSが得られることをシミュレーションにより明らかにし ている。上記、多ポート、低コスト、小型、偏光無依存、かつ高歩留まりな WSS は、次世代型

のROADMを構成するために有効である。

第6章ではスロット構造を有するMEMSミラーを用いた可変グリッド型WSSの構成を提案し た。MEMS ミラーの表面にエッチングによって形成されたスロット構造がMEMS ミラー上の分 光像のビームプロファイルを意図的に歪曲化することで光減衰を行い、ミラー全体での反射率が 均一化される。その結果、従来のMEMSミラーを用いたWSSでは問題となっていたミラー間ギ ャップにおける回折損失に由来する可変グリッド動作時のスペクトルリップルが補償され、平坦 なスペクトルが得られる。本章では実用的な可変グリッドWDMシステムで必要とされる、周波

数粒度12.5 GHzでグリッド幅が調整可能な可変グリッドWSSの実現を目指し、ミラーの構造を

最適化した。ガウシアンビーム結合理論に基づく WSS の透過特性シミュレーションにより、最 適化されたMEMSミラーを用いてWSSを構成すれば、リップル量が僅か0.004 dBという極めて 良好な性能が得られることを明らかにした。チャネルの透過帯域幅を 50 GHz と設定した際の

20-dB透過帯域幅は56.2 GHzと十分矩形なスペクトル形状を示しており、従来のMEMSミラー

を用いて WSS を構成した場合と比べて、スロット構造を導入したことによる損失ペナルティは

僅か1.05 dBであることを明らかにした。本手法を用いることで実用的な可変グリッドWSSが得

られることが示された。MEMSミラーは高速かつ偏光依存性が小さいデバイスであるため、本研 究で提案するMEMSミラーを用いてWSS構成すれば、偏波ダイバーシティ光学系が不要な小型 かつ組み立て容易な WSS が得られる可能性があり、さらにバーストスイッチングなどの高速な

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