• 検索結果がありません。

結論

ドキュメント内 Microsoft Word - 博士論文公開版.docx (ページ 67-71)

第 4 章 感情・感覚・知覚を表す状態動詞のアスペクト・テンス対立とムード

6. 結論

以上をまとめると、感情・感覚・知覚を表す動詞の MTA 体系は均質的なものではなく、〈確 認・記述〉〈表出〉のムードとの関係をベースに、次の5つのグループに分類できる。

表 7 感情・感覚・知覚を表す動詞の MTA 体系のバリエーション 形式、ムード、人称性

動詞グループ

スル シタ シ テ イ ル / シ

テイタ 確認・記述文

(人称制限無)

表出文

(1 人称)

確認・記述文

(1 人称に偏る)

表出文

(1 人称)

確認・記述文

(人称制限無)

感情動詞 1(むかつく)

感覚動詞 1(震える)

知覚動詞 1(見える)

T:未来 A: 全 一 性 / 発

生性

T:現在 A:なし

T:過去 A:全一性/発生

×

T:現在/過去 A:継続性

感情動詞 2(驚く)

感覚動詞 2(疲れる)

T:現在 A: パ ー フ ェクト性

感情動詞 3(喜ぶ)

×

× 感情動詞 4(仰天する)

感覚動詞 3(疲労する)

Ⅳ 感覚動詞 4(痛む)

T:現在 A:なし

×

知覚動詞 2

(ごわごわする) × 特性/過去の知

覚体験

64

グループⅠは、内的情態動詞の典型的な MTA 体系をもつ。これらは、〈確認・記述文〉で は外的運動動詞とほぼ同じような MTA 体系をもち、〈未来/現在〉―〈過去〉のテンス対立 と、〈全一性/発生性〉―〈継続性〉のアスペクト対立が成り立つ。また、話し手の現在の 感情・感覚・知覚の〈表出文〉では、1 人称・スル形式に限定され、アスペクト対立がなく なる。グループ1がプロトタイプだとすれば、その他のグループでは、〈確認・記述〉と〈表 出〉のムードとの関わり方が部分的にグループⅠと異なることによって、MTA 体系が分化し ている。

まず、〈表出〉との関わり方において特殊なのはグループⅡとグループⅢである。グルー プⅡでは、1 人称・スル形式だけでなく、シタ形式も〈表出〉を表す。スル形式が評価性的 なニュアンスを持ち、シタ形式が〈表出〉の中心的な表現手段であり、パーフェクト性を 持つ。そして、グループⅢでは、〈表出〉を表さず、〈確認・記述文〉のみに現れて外的運 動動詞とほぼ変わらない MTA 体系をもつ。

次に、グループⅣとグループⅤは、〈確認・記述〉との関わり方が異なる。グループⅣは、

〈確認・記述〉の形式である継続相がなく、アスペクト・テンス対立から解放される。また、

グループⅤは、スル形式が未来の知覚の確認・記述を表さず、〈確認・記述〉の形式の継続 相の意味も特殊化され、〈特性〉となる。

〈表出〉〈確認・記述〉との関わり方の違いは、グループごとの動詞の語彙的な意味の特 徴の反映である。まず、グループⅡが表すのは、その発生が捉えられる感情・感覚であり、

グループⅢの感情動詞 3 は、感情の中でも、主体の意識的な態度の側面を表すものである。

また、グループⅣは、外的現象化できない感覚を表し、グループⅤは、接触感覚と関わる 知覚を表す。つまり、感情、感覚、知覚、発生、態度、外的現象、接触感覚といったカテ ゴリカルな意味が、感情・感覚・知覚を表す動詞の MTA 体系の多様性の起因となるのであ る(ただし、グループⅢの感情動詞 4、感覚動詞 3 に関しては、これらが文章語の性質をも つ漢語動詞であることによる使用上の制限に起因する)。

以上、本研究では、感情・感覚・知覚を表す動詞の MTA 体系の実態について、その全体 像の精密な記述を試みた。

第三部

特性動詞の

アスペクト・テンス形式

66

第 5 章

特性動詞のアスペクト・テンス形式と 構文論的機能

1. 本章の目的

本章では、特性動詞のアスペクト・テンス形式の意味・機能を考察する。その際、終止 用法と連体用法の両方に注目する。また、形式の選択の問題については、終止用法では、

テクストタイプとの関係に注目し、連体用法では、発話全体に対する考察に基づいて、構 文論的機能の違いの観点から分析する。

2. 問題の提起

述語の意味的なタイプとしての《特性》とは、「特定の時間にしばられることのない、物 にコンスタントにそなわっている特徴である」(奥田 1998c)。「優れる」「馬鹿げる」「あり ふれる」「富む」などの特性動詞については、金田一(1950)の動詞分類では、時間の観念 を含まず、終止用法のときにいつもシテイル形式をとる「第四種動詞」として位置づけて いる。なお、寺村(1984)をはじめとする多くの研究によって、終止用法にくるときにシ テイル形式、連体用法にくるときにシタ形式をとるのが普通であるという特徴が指摘され ている。このような指摘は基本的には妥当であるが、筆者の調査によれば、終止用法の場 合ではスル形式(例 1)、連体用法の場合ではシテイル形式も現れる(例 2)。

(1)先生の言動は常にウィットに富む。(還暦老人ボケ日記)

(2)それは、たびたびの引越しの間に、失われてしまっていたのですが、あれだけは、

たしかに優れている絵だったような気がするのです。(人間失格)

特性動詞は恒常的な特徴を表し、終止用法のスル形式とシテイル形式、そして連体用法の シタ形式とシテイル形式はテンス・アスペクト的に対立しえないため、言語活動の中で、こ れらの形式がどのように選択されているのかが問題となる。本章は、特性動詞のアスペク ト・テンス形式の意味・機能を全面的に考察し、これらの問題を明らかにすることを目標と する。

67

ドキュメント内 Microsoft Word - 博士論文公開版.docx (ページ 67-71)