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5. 結論

今回の調査研究により,中小企業における情報システムの導入と情報の活用について,

業種別に検証を行うことで,先行の調査によって明らかになっていた中小企業全体として の傾向とは異なる新たな傾向をつかむことができた。

仮説を検証する前段としては,中小企業における情報システムの活用について,導入の 目的と導入適用分野の両面から分析を実施した。導入の目的については,「1. 意思決定・経 営判断の支援ツールとして,2. 新商品の開発・新事業の展開,3. 業務の合理化・標準化・

スピード化,4. 業務に係るコストや製品価格の低減,5. 顧客の管理,分析,6. 販売チャネル の拡大,7. 取引先とのコミュニケーションの円滑化,8. 金融機関・取引先からの要請,9. 社

員の意識の向上・情報共有,10. その他」の中から,合理化としての活用ではなく,積極的 な活用と考えられる選択肢として,「1. 意思決定・経営判断の支援ツールとして,2. 新商品 の開発・新事業の展開,6. 販売チャネルの拡大,9. 社員の意識の向上・情報共有」の 4 つを 選定した。結果としては,積極的な活用とした 4 つの選択肢を全て合わせても,778 社のう ち 82 社,10.5% のみの中小企業が合理化以外の積極的な情報システムの活用を目的として いるといった結果となった。このように,全体的な傾向として,一般に考えられている通 り,中小企業においては,情報システムを積極的な目的で導入することは,あまり行われ ていないことが明らかとなった。また,従来通りの情報システムの活用目的である合理化 を目的とした選択肢を回答した結果を全て合わせると,778 社のうち 616 社,79.2% という 結果となった。その中でも,合理化を目的とした選択肢を回答した中小企業,616 社のうち

「3. 業務の合理化・標準化・スピード化」と回答した中小企業は実に 528 社,85.7% を占め ている結果となった。

次に,中小企業における情報システムの導入の適用分野について検証をした。導入の適 用分野に関しては,「①資材・部品の調達,②在庫管理・物流,③生産管理(進捗管理),④ 品質管理,⑤販売管理,⑥顧客管理,サポート,⑦経営戦略決定(企画立案),⑧管理会計,

⑨人的資源管理,⑩財務管理,⑪社内情報共有,⑫知的財産管理(特許等),⑬その他」の中 から,省力化,効率化などの合理化を目的とした情報システムの導入ではなく,より積極 的な情報システムの活用を目的とした導入と考えられる選択肢として,「⑦経営戦略決定

(企画立案),⑨人的資源管理,⑪社内情報共有,⑫知的財産管理(特許等)」の 4 つの適用分 野を選定した。

積極的な活用を目的とした情報システムの適用分野のうち,もっとも多い⑪社内情報共 有であっても,778 社のうち 403 社,51.8% と半数程度の導入といった結果となっている。

その他,企業の経営のかじ取りをする上で重要となる⑦経営戦略決定(企画立案),⑨人的 資源管理は,20% 台とあまり活用されていない結果となった。また,⑫知的財産管理(特許 等)に関しては,情報システムを導入し,情報を活用しているのが 778 社のうち 39 社,5.0%

とほとんどの中小企業が活用していないということが明らかとなった。このように,中小 企業における情報システムの積極的な活用は,半数程度の中小企業が導入,活用をしてい る⑪社内情報共有以外の適用分野では,概ね進んでいないということができる。

続いて,製造業,卸売業・小売業,サービス業について,仮説の検証を行った。製造業の 結果とアンケート回答企業全体の結果を比較したところ,対象の全ての業務の適用分野で アンケート回答企業全体よりも製造業の方が情報システムを導入し,情報活用ができてい ると回答している企業が多い結果となった。卸売業・小売業の結果とアンケート回答企業 全体の結果を比較したところ,⑪社内情報共有を除いた,②在庫管理・物流,⑤販売管理,

⑥顧客管理,サポートの業務の適用分野において,アンケート回答企業全体よりも卸売業・

小売業の方が情報システムを導入し,情報の活用ができていると回答している中小企業が 多い結果となった。サービス業の結果とアンケート回答企業全体の結果を比較したところ 製造業や卸売業・小売業のように,明確な傾向が現れてはいない。概ね,アンケート回答 企業全体と同様の傾向がサービス業の結果にも出ている。このような傾向が出た要因とし ては,情報通信業など,直接,販売を行わない業種もサービス業としてまとめたことが原 因と考えられる。

以上のように,中小企業における情報システムの導入,情報の活用について,製造業,卸 売業・小売業,サービス業と業種ごとに分類して分析を行った。

分析の結果,中小企業における情報システムの活用について,導入の目的,導入適用分 野,ともに情報システムの積極的な活用ではなく,一般に考えられている通り,省力化,効 率化といった業務を合理化するために情報システムを導入,活用しているといった実態が 明らかとなった。その後の検証により,製造業,卸売業・小売業に関しては「情報システム の導入は,自社の主要な業務に関係した分野での導入が進んでいる」という仮説は概ね実 証された。サービス業に関しては,他の業種ほど明確に傾向が現れていないが,製造業,卸 売業・小売業に関しては,自社の主要な業務に注力して,情報システムの導入が実施され ていることが明らかとなった。このことは,一般に大企業と比較して経営資源に乏しいと されている中小企業が,自社にとって IT 化することが効果的となる情報システムの適用 分野を見極めた上で導入していることを示唆している。

この傾向は,製造業とそれ以外の企業,卸売業・小売業とそれ以外の企業を比較すると より明確になっている。しかし,この傾向は,自社にとっての主要な業務に情報システム を導入することで,省力化,効率化をし,利益を上げようとしているとも考えることがで きる。

確かに,情報システムを導入することによる業務の合理化は,企業にとって重要な競争 力となり得る。だが,合理化を目的とした情報システムの導入は,同業他社が同様の情報 システムを導入することで,容易に競争力を失うことにもなり得る。容易に競争力を失う 可能性があるからこそ,情報システムを合理化だけではない競争力の源泉とするために,

積極的な活用が必要であると考えられる。

サービス業では,情報通信業,運送業・郵便業,宿泊業・飲食サービス業,生活関連サー ビス業・娯楽業,サービス業(他に分類されない)の 5 つの業種をまとめて分析したことで,

サービス業としての特徴はあまり見られない結果となった。そこで,サービス業を元の 5 つの業種に戻し,それぞれの業種について,情報システムの導入,活用の傾向を分析した。

その結果,サービス業として全体を見た場合には明らかな傾向が見られなかったが,5 つ の業種に分けて分析をすることで,製造業,卸売業・小売業と同様に,「情報システムの導 入は,自社の主要な業務に関係した分野での導入が進んでいる」という結果となり,サー ビス業においても概ね仮説を実証することとなった。

このように,中小企業における情報システムの導入は,業種により注力する分野が異な り,自社の主要な業務を考慮した上で導入されていることが分かった。

今後は,自社の主要な業務への情報システムの導入が進んでいる企業に対し,さらなる 傾向の分析を実施したいと考えている。

参考文献

[1] 中小企業庁:中小企業白書(2013 年版) 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規 模事業者,佐伯印刷,2013

[2] 中小企業庁:中小企業白書(2013 年版) 自己変革を遂げて躍動する中小企業・小規 模事業者,佐伯印刷,2013

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(2016.7.19 受稿,2016.8.4 受理)