47 実験値から、かんらん石モデルでは約 6 割程度コアに存在するということが分かった( T =
1000 K )。しかし、安定同位体比の実験値には幅があるため、その選定により、𝛾コアの値が
大きく変化する。そのため、用いた値が妥当なのかを地球化学の立場から判断したうえで慎 重に値を選ばなければならない。
また理論計算においても、採用する温度や圧力の条件により、用いるべき結晶構造が異なる 可能性がある。今回は、常温、常圧で実測された結晶のデータを基に、構造最適化を行った が、高圧高温実験で得られた結晶構造を基にした𝛾コアの理論計算を行うことが望ましい。
48
謝辞
本研究を行うにあたり、終始熱心なご指導ご鞭撻を頂いた波田雅彦教授、阿部穣里助教、
今村穣特任教授、多田宰特任教授に深く感謝の意を表します。また、本研究に対して多くの ご助言を頂きました放送大学 橋本健朗教授、パリ地球物理研究所(INSTITUT PHYSIQUE DU GLOBE DE PARIS) Frederic Moynier教授、法政大学 善甫康成教授にはこの場を借 りて厚くお礼申し上げます。本研究は、JST、CRESTの支援をお受けして行われました。加 えて、本研究は、計算科学研究センターを利用し行われました。心より感謝申し上げます。
また、論文をご精読いただきました大浦泰嗣准教授、好村滋行准教授に感謝致します。最後に、
研究の補助をしてくださった秘書の牛尾洋子様をはじめ、理論・計算化学研究室の皆様には 公私にわたり大変お世話になりましたことを深く感謝いたします。
49
付録
付録 A 結果に関するデータ
A.1 亜鉛金属結晶
A.1.1 構造最適化計算の結果と実験値からの誤差(角度)
亜鉛 4 原子結晶
表A.1 構造最適化計算の結果と実験値からの誤差(角度)
𝛼 [deg] 𝛽 [deg] 𝛾 [deg] 実験値からの誤差[%]
実験値 90.00 90.00 120.00
Siesta 90.00 90.00 119.98 - - -0.015
QE 90.00 90.00 120.00 - - -
VASP 90.00 90.00 120.00 - - -
Siestaの𝛾のみ角度が変わっている。
亜鉛 8 原子結晶
表A.2 構造最適化計算の結果と実験値からの誤差(角度)
𝛼 [deg] 𝛽 [deg] 𝛾 [deg] 実験値からの誤差[%]
実験値 90.00 90.00 120.00
Siesta 90.00 90.00 120.00 - - -
QE 90.00 90.00 120.00 - - -
VASP 90.00 90.00 120.00 - - -
計算値は、実験値と同じ結果になっている。
50
亜鉛 16 原子結晶
表A.3 構造最適化計算の結果と実験値からの誤差(角度)
𝛼 [deg] 𝛽 [deg] 𝛾 [deg] 実験値からの誤差[%]
実験値 90.00 90.00 120.00
Siesta 90.00 90.00 120.00 - - -
QE 90.00 90.00 120.00 - - -
VASP 90.00 90.00 120.00 - - -
計算値は、実験値と同じ結果になっている。
亜鉛 24 原子結晶
表A.4 構造最適化計算の結果と実験値からの誤差(角度)
𝛼 [deg] 𝛽 [deg] 𝛾 [deg] 実験値からの誤差[%]
実験値 90.00 90.00 120.00
Siesta 90.00 90.00 120.04 -0.0001 0.0001 0.0372
QE 90.00 90.00 119.49 - - -0.4260
VASP 90.00 90.00 119.86 - - -0.1160
Siestaは全ての角度が変化しており、
QEとVASPは、𝛾のみ角度が変わっている。
また、QEとVASPの角度の変化は、Siestaよりも大きい。
51
A.2 かんらん石結晶
表A.5 構造最適化計算の結果と実験値からの誤差(角度)
𝛼 [deg] 𝛽 [deg] 𝛾 [deg] 初期値からの誤差[%]
初期値 90.00 90.00 90.00
Siesta 90.00 90.00 90.10 ‐ ‐ 0.114
QE 90.00 90.00 89.88 0.001 0.001 -0.131
VASP 90.00 90.00 90.06 ‐ ‐ 0.063
A.3 閃亜鉛鉱結晶
表A.6 構造最適化計算の結果と実験値からの誤差(角度)
𝛼 [deg] 𝛽 [deg] 𝛾 [deg] 初期値からの誤差[%]
初期値 90.00 90.00 90.00
Siesta 90.00 90.00 90.00 ‐ ‐ ‐
QE 90.00 90.00 90.00 ‐ ‐ ‐
VASP 90.00 90.00 90.00 ‐ ‐ ‐
A.4 亜鉛スピネル結晶
表A.6 構造最適化計算の結果と実験値からの誤差(角度)
𝛼 [deg] 𝛽 [deg] 𝛾 [deg] 初期値からの誤差[%]
初期値 90.00 90.00 90.00
Siesta 90.00 90.00 90.00 ‐ ‐ ‐
QE 90.00 90.00 90.00 ‐ ‐ ‐
VASP 90.03 91.00 91.00 0.0367 1.0967 1.0967
52
A.5 換算分配関数比
4章では、亜鉛原子の重さが63.9291 [u]と65.9260 [u] (同位体質量差1.9969 [u])を取り扱 った。しかし、表3.4で示したように、63.9291 [u]と67.9248 [u]、65.9260 [u]と67.9248 [u]
の組み合わせでも計算を行うことが可能である。そこで、この章では、上記の 2種類の組み 合わせに関して議論する。
また、同じく4章では、温度を1000 Kとして計算を行ったが、その他の温度でどのよう に値が変化するかを議論する。
A.5.1 亜鉛金属結晶
亜鉛金属結晶での換算分配関数比(ln 𝛽)に関して、重さを変化させた結果と、温度を変化さ せた結果を以下に載せる。先に、表4.10の結果を下記に再度掲載する。
表4.10 亜鉛金属結晶の換算分配関数比(ln 𝛽)
Siesta QE VASP
‰ Full FCA Full FCA Full FCA
Zn4 0.129 0.130 0.108 0.104 0.097 0.050
Zn8 0.174 0.176 0.154 0.075 0.142 0.075
Zn16 0.190 0.170 ‐ ‐ 0.174 ‐
Zn24 0.172 0.173 0.118 0.068 ‐ ‐
53 まず、65.9260 [u]と67.9248 [u]の組み合わせ(同位体質量差1.9988 [u])を載せる。
表A.7 亜鉛金属結晶の換算分配関数比(ln 𝛽)
Siesta QE VASP
‰ Full FCA Full FCA Full FCA
Zn4 0.122 0.123 0.102 0.098 0.091 0.047 Zn8 0.164 0.166 0.145 0.070 0.134 0.070
Zn16 0.179 0.161 ‐ ‐ 0.163 ‐
Zn24 0.162 0.163 0.112 0.064 ‐ ‐
表 A.7の組み合わせの方が同位体質量差はわずかに大きい。その影響で、換算分配関数比は 表4.10の結果よりも全体的に小さくなっている。
次に、亜鉛原子の重さが63.9291 [u]と65.9260 [u] (同位体質量差1.9969 [u])で、温度を1000
[K]から2000 [K]に変更した結果を載せる。
表A.8 亜鉛金属結晶の換算分配関数比(ln 𝛽)
Siesta QE VASP
‰ Full FCA Full FCA Full FCA
Zn4 0.033 0.027 0.026 0.024 0.012
Zn8 0.044 0.038 0.019 0.036 0.019
Zn16 0.043 ‐ ‐ 0.043 ‐
Zn24 0.043 0.030 0.017 ‐ ‐
表4.10と比較すると、値は4分の1ほどになっている。
54
付録 B
B.1 力の定数近似の導出
平衡定数の自然対数を気体定数(𝑅)と絶対温度(𝑇)で割ったものは、反応物と生成物の標準自由 エネルギーの差と考えることができる。自由エネルギーは分配関数を用いることで、以下の ように表せる。
𝐹 = −𝑅𝑇 ln𝑄
𝑁 (B.1)
ここで、𝐹は自由エネルギー、𝑁は物質量であり、分子の分配関数(𝑄)は次式で定義される。
𝑄 = ∑ 𝑒−(𝜀𝑖−𝜀0)/𝑘𝐵𝑇
𝑖 (B.2)
ここで、𝜀0は最低エネルギー、𝜀𝑖は許されるエネルギー状態𝑖におけるエネルギー、𝑘Bはボル ツマン定数である。(B.2)式を見ると分かる通り、分配関数は、使用できる割合によって重み を付け、その結果生ずる項の総和を取ったものである。(1)式の平衡定数は、分配関数を用い て次のように表される。
𝐾 = ∏ 𝑄𝑝𝑟𝑜𝑑𝑢𝑐𝑡𝑠
∏ 𝑄𝑟𝑒𝑎𝑐𝑡𝑎𝑛𝑡𝑠 =𝑄(𝐴𝑌) ∙ 𝑄(𝐴′𝑋)
𝑄(𝐴′𝑌) ∙ 𝑄(𝐴𝑋)= (𝑄/𝑄′)𝐴𝑌/𝐴′𝑌
(𝑄/𝑄′)𝐴𝑋/𝐴′𝑋 (B.3)
古典的統計力学に基づいた場合の分配関数(𝑄𝐶𝐿)は、
ℎ𝑓𝑄𝐶𝐿=1
𝑠∫ ∫ ∫ ⋯ ∫ ∫ 𝑒−𝐻(𝑝,𝑞)/𝑘𝐵𝑇𝑑𝑝 ⋯ 𝑑𝑞 (B.4) と与えられる。ここで、ℎはプランク定数、𝑓は自由度、𝐻は分子のモーメント(𝑝)及び、位置 (𝑞)に関するハミルトニアンである。また、(B.4)式は、
𝑄 =1
s∏ (2𝜋𝑚𝑖𝑘𝐵𝑇 ℎ2 )
3
2× ∫ ∫ ∫ ⋯ ∫ 𝑒−𝑢(𝑞)/𝑘𝐵𝑇𝑑𝑞1⋯ 𝑑𝑞𝑘
𝑖
(B.5)
と表せる。ここで、𝑚𝑖は同位体質量であり、𝑢(𝑞)を含んだ積分項は、分子のポテンシャルエ ネルギーを表している。この積分項は同位体に依存しない項であることから、異なる同位体 を含む分子における分配関数比は、
𝑄 𝑄′ =s′
𝑠(𝑚𝑖 𝑚𝑖′)
3
2 (B.6)
となる。
同位体交換反応の平衡定数の計算では、古典的な比である、(𝑚𝑖/𝑚𝑖)32は良く省かれる。
これにより、二つの同位体分子の解離の平衡定数の比の計算になる。以下の式で定義する。
𝑓 = 𝑄
𝑄′∏ (𝑚𝑖′ 𝑚𝑖)
3 2 𝑖
(B.7)
55 古典力学では、(𝑠/𝑠′)𝑓は1に等しい。この意味は、同位体の解離は起こらないことである。
量子力学では、分配関数は、一次近似下で並進、回転、振動の分配関数として書かれる。並 進の分配関数はどの温度でも、古典力学の式と同じである。回転の分配関数は水素を除くす べての場合で、室温では古典である。振動の分配関数の式は、非調和を無視すると、
𝑄𝑣𝑖𝑏 = ∏ 𝑒−𝑢𝑖/2 1 − 𝑒−𝑢𝑖
𝑖
(B.8) と表される。ここで、
𝑢𝑖 = ℎ𝜈𝑖
𝑘𝐵𝑇 (B.9)
である。 高温、若しくは、𝑢𝑖が小さいとき、𝑄𝑣𝑖𝑏は∏ (1/𝑢𝑖 𝑖)になる。これは、古典的な表現 と同一である。
回転と並進部分が消去されることと同様に、限界値である量の𝑓では、対称数の比のみが残さ れる。
𝑓の値は、振動のみに従い、式は以下のようになる。
𝑠
𝑠′𝑓 = ∏ 𝑢𝑖 𝑢𝑖′
𝑒−𝑢𝑖/2/(1 − 𝑒−𝑢𝑖) 𝑒−𝑢𝑖′/2/(1 − 𝑒−𝑢𝑖′)
𝑖
(B.10) ここで、𝑢𝑖′ = 𝑢𝑖+ Δ𝑢𝑖であり、プライム付きは軽い分子である。また、Δ𝑢𝑖は常に正である。
整理すると、
𝑠
𝑠′𝑓 = ∏ 𝑢𝑖
𝑢𝑖+ Δ𝑢𝑖𝑒𝑢𝑖/2(1 − 𝑒−𝑢𝑖−Δ𝑢𝑖) (1 − 𝑒−𝑢𝑖′)
𝑖
(B.11) となる。Δ𝑢𝑖が水素の同位体を除く、全ての場合で小さいとき、(B.11)式は、Δ𝑢𝑖 = 0周りでテ イラー展開を行うと、
𝑠
𝑠′𝑓 = 1 + ∑ (1 2− 1
𝑢𝑖+ 1
𝑒𝑢𝑖− 1) Δ𝑢𝑖
𝑖 (B.12)
となる。更に、𝑢𝑖自身が小さいとき、(B.12)式は、𝑢𝑖 = 0周りでテイラー展開を行うと、
𝑠
𝑠′𝑓 = 1 + ∑ 𝑢𝑖 12Δ𝑢𝑖
𝑖 (B.13)
となる。ここで、
𝛥(𝑢𝑖2) = (𝑢𝑖+ 𝛥𝑢𝑖)2− 𝑢𝑖2= 2𝑢𝑖𝛥𝑢𝑖+ 𝛥𝑢𝑖2 (B.14) であるから、(B.13)式は、
𝑠
𝑠′𝑓 = 1 + ∑ Δ(𝑢𝑖)2
𝑖 24
(B.15) とも表すことができる。
一方、ある分子の全ての振動数の二乗(𝜈𝑖2)の和は、以下の式で表される。
56
4𝜋2∑ 𝜈𝑖2
𝑖 = ∑𝐴𝑛 𝑚𝑛
𝑁
𝑛=1
(B.16)
ここで、𝐴𝑛は原子nの力の定数の対角要素の和を表す。 (B.16)式の右辺を展開すると、
4𝜋2∑ 𝜈𝑖2
𝑖 = 𝐴1 𝑚1+ 𝐴2
𝑚2+ 𝐴3
𝑚3+ ⋯ +𝐴𝑛
𝑚𝑛 (B.17)
となる。N原子分子中のある一つの原子(ここでは原子1とする)が同位体交換反応を起こ したとすると、原子1の重さが変わり、全体の振動数が変化するため、(B.16)式は、
4𝜋2∑ (𝜈𝑖+ Δ𝜈𝑖)2
𝑖
= 𝐴1
𝑚1+ Δ𝑚+ 𝐴2 𝑚2
+𝐴3 𝑚3
+ ⋯ +𝐴𝑛 𝑚𝑛
(B.18) と書ける。ここで、(B.17)式と(B.18)式の差を取ると、
4𝜋2∑ Δ𝜈𝑖2
𝑖 = 𝐴1
𝑚1+ Δ𝑚− 𝐴1
𝑚1 (B.19)
となる。ここで、𝑚1+ Δ𝑚は重い同位体(M)、𝑚1は軽い同位体(M′)とし、式を整理すると、
4𝜋2∑ Δ𝜈𝑖2
𝑖 = ΔM
MM′A1 (B.20)
となる。ここで、A1は、原子①の力の定数の和である。
更に式を変形していく。(B.9)式より、
Δ(𝑢𝑖)2= Δ (ℎ𝜈𝑖 𝑘𝐵𝑇)
2
= ℎ2
𝑘𝐵2𝑇2Δ(𝜈𝑖)2 (B.21)
である。(B.21)式を(B.15)式に代入すると、
𝑠
𝑠′𝑓 = 1 + ∑ ℎ2
𝑘𝐵2𝑇2Δ(𝜈𝑖)2
𝑖 24
(B.22)
となる。更に(B.20)式を代入すると、
𝑠
𝑠′𝑓 = 1 + ℎ2 𝑘𝐵2𝑇2∙
ΔM MM′A
4𝜋2 24
(B.23)
となる。整理すると、
𝑠
𝑠′𝑓 = 1 + ℎ2 96π2𝑘𝐵2𝑇2
M − M′
MM′ 𝐴 (B.24)
となり、2章の(6)式と同じになる。
57
参考文献
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